斎藤充功『恩赦と死刑囚』(洋泉社 新書y)


発行:2018.1.26



 本書は、天皇の退位と即位に際して実施されるであろう「恩赦」というテーマと、その恩赦と意外な関係性を有する「死刑囚」の関係に着目したものである。
 二〇一七年(平成二十九)十月現在、確定死刑囚は一二四人が拘置所に収監されている。
 そして恩赦によって、死刑から無期懲役へと減刑され、娑婆に出た死刑囚が、いわば、処刑台から生還したものが立ちが過去に存在していたのである――

(折り返しより引用)


【目次】
 はじめに――恩赦と死刑囚の知られざる世界
 第一章 天皇が司る恩赦
 第二章 恩赦はいかにして実施されてきたか
 第三章 「死刑」から「無期懲役刑」、そして娑婆へ
 第四章 死刑囚の知られざる実態
 第五章 恩赦によって救われた死刑囚
 第六章 恩赦にすがり、裏切られた死刑囚たち


 今上天皇の生前退位(譲位)が二百年ぶりに行われるに伴い、「恩赦」が実施されるだろう。では、死刑囚はどうか。明治天皇、大正天皇の崩御の際、一部死刑囚への恩赦が実施された。そして1988年9月に昭和天皇の様態が急変した際、死刑囚の間では恩赦が実施されるとの噂が流れ、日高安政・日高信子夫妻、平田光成、今井義人の各被告が恩赦を期待して控訴もしくは上告を取り下げ、1988年10月に死刑が確定した。しかし「昭和天皇大喪恩赦」に死刑囚は含まれなかった。すでに4人とも死刑が執行されている。個別恩赦ですら、1975年6月の福岡事件の元死刑囚が最後である。今回恩赦が実施されたとしても、死刑囚が対象になることはないだろう。
 本書はタイトル通り、死刑囚と恩赦についてまとめられたものである。時期としてはタイムリーであるし、いいところに目を付けたと思った。しかし内容の方だが、残念ながら今までの斎藤充功の持ちネタを改めて披露したに過ぎない。
 第一章は過去のすべての恩赦について、第二章は恩赦に伴う「減刑法」の紹介、そして明治時代、大正時代の恩赦について書かれている。村野薫編『日本の死刑』(柘植書房)の方が詳しい気もするが、まあ深くは問うまい。安い新書版で読めるからいいこともあるか。ちなみに明治から昭和戦前にかけて死刑囚が無期懲役に減刑されたケースは下記と本書では書いている。
 第三章は「和歌山一家八人殺害事件」、「福岡事件」について書かれている。
 第四章は死刑囚のコストについてまず書かれている。とはいえ、全国の刑事施設に収容されている被告、受刑者を含む全員の収容費について書かれたものであり、1日当たり以下となっている。  一人当たり1,803円/日。1年で約65万円となる。他に、火葬代20,000円、骨壺10,000円、柩代20,000円、生花代5,000円など。立ち会った刑務官へのお清め代は、特殊手当30,000円とされる。
 その後はマブチモーター社長宅殺人事件他で死刑判決を受けた小田島鐡男死刑囚について書かれている。恩赦とは何の関係もない。
 第五章は鹿児島雑貨商夫婦殺害事件で死刑判決が確定した後、少年法改正によって無期懲役に減刑されたまま、2017年末になっても収容されたままのAについてと、「小田原一家五人殺人事件」で死刑判決を受けた後、サンフランシスコ平和条約発効恩赦によって無期懲役に減刑、仮出所後、殺人未遂事件を起こし収容されたSについて書かれている。どちらも過去の著書で取り扱っているもので、できれば別の事件についても取材をしてほしかったと思う。
 第六章は昭和天皇大喪恩赦を期待して裁判を辞めて死刑囚となったものの、恩赦対象にならなかった四死刑囚について書かれている。日高夫妻については原祐司『極刑を恐れし汝の名は―昭和の生贄にされた死刑囚たち』(洋泉社)からの引用が主であり、他の二死刑囚についても新聞記事からの引用が主だ。

 先にも書いたが、斎藤の過去の取材記事からの引用がほとんどであり、目新しいものはない。「恩赦」についてまとめられた、というだけの本ではあり、初めて読む人にはそれなりにまとまっていると言えるだろうか。どうせ本を書くのなら一人か二人ぐらい、新たに取材してほしかったと思うのだが。せめて新聞記事などを調べ、恩赦になった人物をもう少し特定するとか。村野薫はもう少し調べているぞ。
 ただ、明らかな誤りもある。サンフランシスコ平和条約発効恩赦を「個別恩赦」としてはまずい。まあそれは単純な書き間違い化かもしれないが、次は大問題。1945年から2017年10月に至るまで死刑判決が言い渡され、最高裁で確定した死刑囚は832人(1980年代以前については『伝統と現代』を参考)、そのうち執行された死刑囚は718人(694人という説もある)で、124人が未執行者となる、と書かれている。死刑囚の総勢が何人かは資料によって異なるし、そもそも表に出ていない数字もあるため、異なるのは仕方がない。とはいえ、832から718を引くと114人だぞ。だいたい、死刑が確定したうちの何パーセントかは地裁、高裁で確定している死刑囚もいるから「最高裁で確定」という書き方は問題だし、執行されずに病死や自殺した死刑囚もいるし、無罪になった死刑囚が4人、本書のタイトル通り恩赦になった死刑囚も20人以上いる。これらの数字はどこに消えたんだ?
 他にも、「志和堀村両親殺害事件」の犯人が18歳未満だったとして、少年法改正によって無期懲役に減刑されたと書かれているが、犯人は当時18歳で、サンフランシスコ平和条約発効恩赦で無期懲役に減刑されたはず。だいたい、次のページで1949年1月に新少年法が交付されたと書いているのに、ここでは1951年4月に少年法の改正が行われたと書いている。すぐに気付け。ちなみに新少年法は1949年1月1日に改正されている。

 何度も書いたが、時期を見てとりあえず手持ちの取材ネタから纏めただけの本であり、新味はない。考えてみれば作者は1941年生まれなので、すでに75歳を超えている。もう新たに取材を行うのはしんどいか。もしかしたら、犯罪史に詳しくない誰か別の人物がまとめたのかもしれない。

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