西山明編『少年事件 暴力の深層』(筑摩書房 ちくま文庫)


発行:2003.5.7



【目次】
第1章 果てない殺人願望 主婦襲撃事件
第2章 失敗からの助走 警官襲撃事件・浮浪者襲撃事件
第3章 父に砕かれたいのち 金属バット殺人事件
第4章 死にたいくらい悲しいのに もう一つの家庭内暴力
第5章 家族の罠 少年事件への視角

「人でも殺しに行くか」と、通りがかりの主婦をめった刺しにした少年。拳銃欲しさに警官をバタフライナイフで襲い、「お巡りさんは拳銃の付録のようだった」と言う少年。そして、家庭内暴力の果てに父親に“金属バット”で殴り殺されたあの少年。家庭内から「外へ」向き始めた少年の暴力の裏側には何があるのか。丁寧な取材によって少年の心に肉薄する。(粗筋紹介より引用)

 1997年5月14日、中部地方にある城下町のショッピングセンターで、少年(16)が主婦(37)をアイスピックや斧で襲い、3週間のけがを負わせた。少年は取り調べで「首を切り刻みたかった」「血を飲んでみたかった」と供述した。神戸連続児童殺傷事件で少年が逮捕される1ヶ月半前の事件である。少年は特別少年院に送致された。

 1998年2月2日午前0時15分頃、中学3年生の男子(15)は東京都江東区の公園前の路上で、警邏中の警察官をバタフライナイフで襲った。その場で格闘になり、警察官は3週間の重傷を負った。少年は殺人未遂の現行犯で取り押さえられた。拳銃強奪が目的だった。男子は少年院に送致された。

 1996年11月6日、会社員の男性(52)は眠っていた長男(14)の頭を金属バットで数回殴りつけ、さらに紐を首に巻き付けて殺害した。長男は2年前から家庭内暴力を繰り返していた。父親はあるクリニックから無抵抗主義をすすめられたため、長男の言うとおりにやってきたが、限界点を越えてしまったものだった。男性はそのまま自首。1998年4月17日、東京地裁は男性に懲役3年の実刑判決を言い渡した。男性は控訴せず、判決は確定した。


 少年事件について考えるのは難しい。なぜこんな事件を、というぐらい残酷な事件を引き起こすことがある。なんでこんな子が、と周囲から思われるぐらいの少年が事件を引き起こすこともある。こうやって今回、3つの事件を並べてみたが、10年近く経った今でも、似たような事件が引き起こされている。少年法は改正されたが、少年事件が抱える問題は何一つ解決されていないだろう。
 家族が悪いのか。学校が悪いのか。友人が悪いのか。社会が悪いのか。それとも他に悪いことがあるのか。少年事件は加害者が少年ということもあり、事件の全体像を把握する前に少年法のベールに覆い隠されてしまう。事件の動機は、背景は。何も知らされず、何も知ることができないまま、ただ少年が引き起こした衝撃のみをマスコミは書き散らし、捨て去っていく。いつまで経っても問題は解決されないままだ。
 本書はいくつかの少年事件を追いかけ、事件の背景、真相を追いかけようとしたものである。徹底した取材により、少年の内面に迫ろうとする努力は買うのだが、残念ながら解決策が見つかっていない。また、少年の方ばかりを追い続けているため、被害者遺族の方への取材はおざなりだ(これは、被害者が浮浪者や少年の家族など、遺族を追いかけようがないという事情もあるのだろうが)。
 取材だけでは、いつまで経っても少年事件の真相に迫ることはできないと思う。少年の言葉をもっと汲み取ることのできるシステム造りが大切だろう。そしてもう一つ、少年事件の被害者を救済するシステムを作り出すべきである。少年事件問題で肝心の被害者や遺族たちの言葉は全く届かない今の状況は改善されるべきである。
 本書は共同通信社の記者である西山明、藤原聡、田村文、伊東豪によって執筆され、1998年12月、共同通信社から『少年漂流記』として刊行された作品の文庫化である。



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