『別冊宝島#1419 死刑囚最後の1時間』
(宝島社)


発行:2007.5.6



 本のタイトルとはやや異なり、過去の死刑囚50人の紹介を中心としており、特に各死刑囚の最後の1時間を書いているというわけではない。どちらかといえば「死刑囚ガイドブック」に近い作りの本である。
 ここで紹介されている50人の死刑囚は、そのほとんどが他の本でも読むことができるものばかりではある。しかし、今では入手しづらい本も多いため、新たに死刑囚について読む、という読者にとってはわかりやすい作りとなっている。この死刑囚の紹介では、事件の概要やその後など当たり前の紹介の他に、写真が多く使われていることと、犯行日から裁判・執行日時をわかる範囲で載せているのが大きな特徴である。特に古い死刑囚の犯人写真を載せているのは、他の本にはない特徴である。この本で、初めてあの有名死刑囚の顔を見た、という人も多いのではないだろうか。個人的には、よくこれだけ写真を載せたなという思いの方が強いが。ただ、複数の人物が写っていても紹介がなされていないため、どれが当の本人かわからない、という写真がいくつもあるのは残念である。
 他にも「戦後女性死刑囚列伝」や「死刑執行前53分間の肉声テープ」(これは別の本でも見ることができるが……)など、興味深いコラムも多い。再審無罪になった元死刑囚のその後をまとめて書いたのも、本書が初めてだろう。たとえ無罪になったとしても、失われた時間が帰ってこないばかりでなく、虐げられたことへの保証がほとんどなされていない、という現状(例えば、だれも年金を受け取っていないことなど)はもっと重点的に紹介してほしかった。
 名古屋拘置所で死刑執行に立ち会った元大阪高検公安部長のインタビューや、東京拘置所で獄中生活を送っている間に見掛けた死刑囚を語った外務事務官のインタビューなどは、死刑存廃論議を語るうえでも読んでおきたい文章である。
 ただ、巻末にある「戦後死刑囚一覧」はいただけない。全死刑囚の約1/3しか載っていないリストを、一覧というのはおかしい。せめてタイトルに(一部)くらいつけるべきだっただろう。
 死刑関連の本を読み続けている人から見たら、今更、という部分も多いかもしれないが、気軽に手にとることができる資料としてはそれなりの作りである。首をひねりたくなる記述(例えば勝田清孝の件について、「そのあまりの罪状に勝田の罪を2つにグループ分けし」と書いてあるが、実際は全事件の間に確定判決があったから法律上2つ分かれただけのことである。また、他にもこのような例で死刑判決を2度受けた死刑囚も存在する)もあるが、一読するだけの価値はあるだろう。
 ただ、インタビューを除けばネットや過去の文献を寄せ集めただけ、という気がしないでもないが……。まあ、死刑囚ものを扱えば、仕方のないことか。それにインターネットに載っている事件概要の多くは、過去の資料からの引用が多いし、著者に村野薫が含まれている(というか、村野だけ署名記事)ことを考えると、どっちが先かは悩むところである。
 なお、やや死刑廃止の立場よりの文章が多いため、その点は留意する必要がある。


【目 次】
「死刑」の基礎知識13
第1章 「午前9時」の足音
 ・小平事件 小平義雄
 ・帝銀事件 平沢貞道
 ・三鷹事件 竹内景助
 ・栃木雑貨商一家殺害事件 菊池正
 ・バー・メッカ事件 正田昭
 ・品川・トランク詰め殺人事件 西谷郁太郎
 ・小松川女子高生殺人事件 李珍宇
第2章 善悪の彼岸
 ・雅樹ちゃん誘拐殺人事件 本山茂久
 ・名張毒ぶどう酒事件 奥西勝
 ・吉展ちゃん誘拐殺人事件 小原保
 ・西口彰連続強盗殺人事件 西口彰
 ・少年ライフル魔事件 片桐操
 ・連続8人殺人事件 古谷惣吉
 ・袴田事件 袴田巌
 ・大久保清事件 大久保清
 ・連続射殺魔事件 永山則夫
第3章 灰色の青春
 ・正寿ちゃん誘拐殺人事件 黒岩恒雄
 ・連合赤軍事件 坂口弘、永田洋子
 ・上野消火器商一家殺害事件 徳永励一、木村繁治
 ・ピアノ騒音殺人事件 大浜松三
 ・三菱重工ビル爆破事件 大道寺将司、片岡利明
 ・北海道庁爆破事件 大森勝久
 ・富山・長野誘拐殺人事件 宮崎知子
 ・女子大生誘拐殺人事件 木村修司
 ・勝田事件 勝田清孝
 ・練馬一家5人惨殺事件 朝倉幸治郎
第4章 “生きたい”
 ・元警官強盗殺人事件 広田雅晴
 ・山中湖連続殺人事件 澤地和夫
 ・熊本・大学生誘拐殺人事件 田本竜也
 ・連続幼女殺人事件 宮崎勤
 ・坂本弁護士一家殺害事件 岡崎一明
 ・オウム真理教事件 松本智津夫
 ・大阪・小学生殺傷事件 宅間守
 ・奈良・女児誘拐殺人事件 小林薫
第5章 私が見た「死刑」の風景
 ・東京拘置所「地下刑場」のアコーディオンカーテンは音もなく開閉する 保坂展人
 ・私が見た「東京拘置所B棟8階」の死刑囚たち 佐藤優
 ・記録に残された「死刑」の情景〜ノンフィクション作品で読む「死刑」〜
コラム
 ・死刑執行前「53時間」の肉声テープ
 ・「戦後女性死刑囚列伝」9人の女
 ・「死刑囚は30分間、ロープに吊された」 三井環
 ・「再審無罪」になった4人の男たちの「それから」

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