坂本敏夫『元刑務官が明かす 死刑のすべて』(文春文庫)


発行:2006.5.10


 起案書に30以上もの印鑑が押され、最後に法務大臣が執行命令をくだす日本の"死刑制度"。「人殺し!」の声の中で、死刑執行の任務を命じられた刑務官が、共に過ごした人間の命を奪う悲しさ、惨めさは筆舌に尽くしがたい。死刑囚の素顔、知られざる日常生活、執行の瞬間など、元刑務官だからこそ明かすことのできる衝撃の一冊。(粗筋紹介より引用)
 2003年2月、日本文芸社より刊行。2006年5月、文春文庫化。


【目次】
はじめに
第一章 二〇〇一年 死刑執行はかくなされた
  実録・死刑囚が処刑されるまで
第二章 これが現在の処刑だ
  超極秘事項としての死刑執行
  劇画・死刑執行
第三章 拘置所の日常と死刑囚の生活
  刑務官と死刑囚、その知られざる日常
  図解・死刑囚の生活
第四章 初めて明かされる死刑囚監房の真実
  死刑囚VS拘置所
  ドキュメントノベル 死刑囚監房物語
第五章 殺人犯、その裁きの現場
  極悪人たちの素顔
  女の殺人事件は時代を映す鏡
  確かにあった死刑廃止の動き
  死刑廃止と終身刑をめぐって
第六章 死刑を執行するということ
  刑務官という職業
  死刑囚・島秋人
あとがき 
文庫版あとがき


 元刑務官である坂本敏夫が書いた死刑本。目次をみればわかる通り、現在の死刑についてランダムに書かれた一冊である。どこまでが真実なのか、そしてどこまでが過去のもので現在とは違うものなのかはわからない。とはいえ、死刑というものがどういうものなのかは参考になる。
 第四章のドキュメントノベルなど、似たようなことがあったのだろうなと思わせてしまう。さすがにやりすぎな内容のような気もするが、事なかれ主義、自分がいるあいだは何も見ず、何もせず、というトップ連中は多いだろう。
 第五章の「極悪人たちの素顔」もどこまで本当かわからない。しかし、このようなことがあってもおかしくはない、と思わせる内容だ。
 それなのに、作者は「私が死刑を語り、つまるところ「死刑制度は存続させ、処刑の反対」を訴えるのは、朝日新聞の社説にあったように、国家が殺人を犯す戦争には、いかなる事情があろうとも絶対反対の立場をとるからである」と語っている。人を人と思っていないような凶悪犯にどう対応するか、それを語らなければ、何の意味もない言葉である。作者はこう述べる。「最も分かりやすい償いは、他人の命を奪った罪悪感に苦しみながら刑務作業に励み、労働によって得た金銭をもって賠償することだと私には思えた。生きて働いてこそ償えるものだと今も思っている」。しかし、被害者遺族はそれを望んでいるだろうか。同じ空気すら吸いたくない、そう語る遺族もいるわけである。被害者遺族への賠償は必要だろうが、天寿を全うするまで生かす必要はあるのだろうか。
 それにしても「一人あたり年間約六十万円の予算を使い、逮捕から処刑までの十数年、刑務官らは腫れ物に触る思いでご機嫌をうかがいながら付き合っていた」というのも、何とかならないだろうか。
 また、自称人権活動家や死刑反対の市民団体が官舎に向かって「人殺し!」と叫ぶのも、呆れ果てるばかりである。凶悪な犯罪者たちに対応し、苦労をしている看守が報われるような制度になってほしい。


 作者の坂本敏夫は、昭和22年生まれ。法政大学法学部中退。昭和42年、大阪刑務所看守を拝命し、以後、神戸刑務所、大阪刑務所、東京矯正管区、長野刑務所、東京拘置所、甲府刑務所、黒羽刑務所、広島拘置所等に勤務。平成6年3月まで法律事務官として奉職。映画「13怪談」のアドバイザーも務める。著書に、『元刑務官が明かす刑務所のすべて』『死刑執行人の記録』『刑務官』など。(執筆当時のデータ)


<リストに戻る>