伊達邦彦全集2(光文社文庫)
『血の来訪者』



【初版】1997年4月20日
【定価】695円+税
【解説】森村誠一


【収録作品】

作品名
『血の来訪者 「野獣死すべし」第三部』
初 出
 『週刊新潮』1960年6月27日号〜同年12月5日号連載(中絶)。約200枚を加筆し、1961年2月、新潮社より刊行。
粗 筋
 伊達邦彦に魅了され、結婚をせがむ神野知佐子。この大東電気の社長令嬢を籠絡し、マンモス企業の中枢に入りこむのが邦彦の野望だった。が、知佐子はチンピラの銃弾に斃れてしまう。
 邦彦は非情な野獣の道を選んだ。知佐子の死体を隠匿したうえ、神野家に身代金要求の手紙を届けたのだ。
 (ガン)を撃ち(カー)を駆る大藪作品の醍醐味。野獣死すべし第三部!
(粗筋紹介より引用)
感 想
 伊達邦彦はマンモス・コンツェルン大東電機の長女神野佐和子と人目を忍ぶ恋仲であった。邦彦の目的はただ一つ、大東電機の乗っ取りであり、己が上流階級の一員となることであった。それがゆえに佐和子を手に入れたのだ。しかしデートの帰り道、佐和子はチンピラの放つ銃弾によって絶命する。邦彦はチンピラを殺し、拳銃を手に入れる。そして佐和子とチンピラの死体を海に処理し、神野家に身代金要求の手紙を出す。警察の裏をかいて3000万円を強奪するが、それはナンバーを控えられていたホット・マネーであった。邦彦はそのホット・マネーを麻薬に替え、クール・マネーにしようと試みるが失敗する。そこで邦彦は一度闇ドルに変え、クール・マネーに変えることに成功する。同時に邦彦は佐和子の婚約者であった三共銀行の頭取の息子沢田忠雄に近づき、忠雄を通して佐和子の妹紀代子に接近する。また頭取沢田は売春組織を密かに経営していた。邦彦は沢田の愛人で売春組織の親玉から今までの儲け5000万円を手に入れると共に、売春組織の女と忠雄を偽装心中させる。邦彦は紀代子に近づき、その野望を達成するかに見えた。しかし、探偵である津村は邦彦の犯罪を全て洗い出していた。
 前作『野獣死すべし 復讐編』ラストのあの警官隊の包囲網からどのように突破したか。指名手配されているのではないか(事実、『日銀ダイヤ作戦』では指名手配されていることを邦彦自身が語っている)。そういう野暮なことをいってはいけない。とはいえ異様であることは確かである。なぜ大藪はこの作品を書いたのか。しかもこの作品にキーワードらしきものはない。あえて言えば後の『蘇える金狼』と同様、権力階級の一員にのし上がろうとする野望である。そのせいか、『野獣死すべし』『野獣死すべし 復讐編』で見せたような圧倒的なパワーが邦彦からは感じ取れない。ホットマネーを麻薬に変える下りでも甘いし、詰めも甘すぎる。探偵である津村が邦彦の犯罪を追っていることを知っていながらも土壇場まで手を出そうとしない。通常なら何らかの書類を残しているであろう事を予測できたはずなのに、邦彦は何の処置を取ろうともしていない。そして最後は紀代子との結婚式の途中で警官隊の来訪を受ける羽目になるのだ。
 『血の来訪者』は『週刊新潮』に連載されていたが中絶。その後200枚(残り1/4)を加筆し発行。連載中絶後二ヶ月で単行本になっているのだから加筆ペースはあまりにも速い。元々結末が駆け足になってしまうのが大藪春彦の悪い癖だが、この作品にはその悪い癖が顕著である。作者は次作『諜報局破壊班員』でこの乗っ取り劇をこのように書いている。「青春のエネルギーのありったけを賭けた」と。伊達邦彦再登場の意義はあったのか。作者が死んだ今、誰も答えることはない。
備 考
 収録された写真はライフルといっしょのもの。

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