伊達邦彦全集7(光文社文庫)
『マンハッタン核作戦』



【初版】1997年12月20日
【定価】648円+税
【解説】山村正夫


【収録作品】

作品名
『マンハッタン核作戦』
初 出
 『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)1965年連載(中絶)。連載時タイトルは「伊達邦彦地球を駆ける」シリーズの「ハーレムより愛をこめて」。加筆、改稿のうえ、1976年6月、カッパ・ノベルスより刊行。副題は「甦った伊達邦彦」。
粗 筋
 ロンドン発の郵便列車から五百万ポンド(約50億円)が盗まれた!――英国情報部は、アメリカの秘密結社ブラック・モスク党の仕業と睨み、破壊活動班員・伊達邦彦を送り込んだ。
 身体に染料を塗り、黒人に変装した邦彦は銀行を襲撃し、投獄された! だがそれは、秘密結社潜入への作戦だった。
 唸るエンジン。火を噴く銃器、大藪アクションの真骨頂!
(粗筋紹介より引用)
感 想
 1963年の夏、ロンドン発の郵便列車から500万ポンド(当時レートで50億円)が盗まれた。英国情報部はブラック・モスク党による犯行と突き止める。ブラック・モスク党は白人を倒し、アメリカ南部に黒人だけの独立国家を建設することを呼びかけている秘密結社であり、穏健派の全米黒人地位向上協会などに取って代わり、黒人の支持を得てきた。その黒幕は合衆国下院議員でスラム街のチャンピョン、牧師議員のダニエル・クレイトン・ポールズであった。邦彦は500万ポンドの回収とブラック・モスク党の壊滅の命を受ける。体に染料を塗り、黒人に変装した邦彦は一歩一歩ブラック・モスク党に潜入していく。
 「蘇った伊達邦彦」の副題が付く連作第二作。当時のタイトルは「ハーレムより愛をこめて」であった。「ロシアより愛をこめて」よりタイトルを借りたものであることは容易に想像が付く。しかし大藪春彦の拳銃不法所持事件により連載は中絶。10年後の1976年に書き下ろし長編として発行された。だから全集でこそ第7巻であるが、時系列としては『諜報局破壊班員』に続くものになる。
 皆が言うように低調な作品であり、時機を逸した作品である。無難に面白い作品であることは確かだが。黒人問題やベトナム戦争を取り上げるのであればもっと掘り下げて欲しかった。ページ数の割にその辺に関する記述は少ない。『傭兵たちの挽歌』で取り上げられるネイティブ・インディアンへの強制不妊手術のような叫びがこの作品からは感じ取られない。虐げられるものの苦しみを知っている大藪だからこそ、ぜひとももっと深く掘り下げて欲しかったテーマである。
備 考
 大藪春彦が1965年に拳銃不法所持で逮捕されたことが原因で、連載が中断した。
 収録された写真は、1980年2月に世田谷区の公園で撮影されたもの。

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