伊達邦彦全集8(光文社文庫)
『野獣は甦える』



【初版】1997年2月20日
【定価】540円+税
【解説】平岡正明


【収録作品】

作品名
『野獣は甦える』
初 出
 1992年12月、カッパ・ノベルスより書き下ろし刊行。
粗 筋
 アメリカに潜伏していた伊達邦彦が日本に帰ってきた!
 国家安全保障局(NSA)の罠に陥ち、その指揮下に置かれた邦彦は、組織の情報提供者として日本に滞在する。だが、変換までに日本に拠点を築こうとする香港マフィア「珠江(チュージアン)」が、なぜか邦彦に接触を図ってきた!?
 宿敵の総会屋・秋月との対決、香港返還の謀略劇……。非情の野獣が甦る傑作、初の文庫化!
(粗筋紹介より引用)
感 想
 NSA(アメリカ国家安全保障局)に捕らえられた邦彦は特殊な薬を打たれ、その解毒剤を条件に日本に戻ってくる。そしてNSAの指示に従い、ある私大の助教授の職に就く。邦彦は怠惰な日々を過ごす。
 そんな邦彦の前に一人の女が接触してくる。張梅花、香港マフィアの女だった。秘密結社「珠江」は、数年後に迫った本土併合を前に一族二万人を日本へ移住させる計画を持っていた。そのために、ワンマン・アーミー伊達邦彦の力を借りようとしたのだ。邦彦は再び戦いの場に足を踏み入れることとなる。邦彦は戦いの場に戻るための己の力を試そうと、卒業試験としてかつての宿敵である総会屋秋月の美術館から、世界で三つしか存在しない「曜変天目」を盗み出す。一方、「珠江」は北海道独立を企み、米軍三沢基地を襲い、核弾頭を盗み出す。
 伊達邦彦十数年ぶりに復活の一編。しかし邦彦にまたも自由はなかった。今度はNSAの傀儡としての登場である。作品の設定としては、『日銀ダイヤ作戦』後に名前を変えてカナダへ密入国し、各組織の追跡を逃れるため、ロッキー山脈に近い町で過ごしている。その後トロントで簡単な整形手術を受け、モントリオールで数ヶ月バーテンとして様子を見る。脱出から1年後、アメリカのシアトルに入国する。ところがNSAはトロントにいた時点ですでに身許を突き止めており、邦彦を捕らえた。そして特殊な毒薬を体内に注入し、解毒薬を定期的に注射しないといけない身体にしてしまう。邦彦は三ヶ月後にヴァージニア州私立大学に送り込まれ、授業と研究だけの退屈な日々を約1年過ごす。そしてNSAの命令により、日本へ送り込まれ、東京にある私立大学の英文科助教授として過ごす。
 邦彦は「日銀ダイヤ作戦」後に逃亡したこととなっており、第5〜6巻に収録された中短編はなかったことになっている。英国情報部との関係がどうなっているかはわからない。ただし、帳消しにされたはずの数々の犯罪は、今も指名手配中のままらしい。研究室に飾っている、グレース王妃から直接手渡された絵のみが、当時の活動を思い起こさせるものであろうか。もっとも、一体いつから「一人だけの軍隊(ワンマン・アーミー)」と呼ばれるようになったのかは疑問なのだが。
 自由を得たはずの邦彦が、いつの間にか縛られた存在となっている。そんな邦彦にいらだちを感じながらも、事件のスケールの大きさに我々は巻き込まれてゆく。今回の邦彦の虐殺は今までで最大規模のものであり、いくら小説でもいいのだろうかと考えさせられる一編である。逆に言えば、日本の危機管理の甘さと平和ボケに対して警鐘を鳴らしたのだとも言えるかもしれないが。むしろ面白いのは、「曜変天目」を盗み出すところである。盗み出すこと自体は邦彦にとってそれほど難しいことではない。邦彦が金や宝石、武器に女といったもの以外に執着心を示したことが面白いのだ。邦彦は「曜変天目」に一体何を見たのか。邦彦の変貌を語る上で外せないエピソードと言える。
 最後、邦彦は核弾頭と引き替えにNSAから恒久的な解毒剤を打ってもらい、日本から大金を強奪して南洋の島を買い取る。梅花の弟秀夫と朝鮮系ロシア人のヤンという仲間を作り、島を運営していく。一匹狼である邦彦の変貌である。そして邦彦は永らくの夢である「野獣王国」の建設の第一歩を記す。この「野獣王国」のようなアイランドユートピア構想は、『唇に微笑 心に拳銃』などに出てくるものとそう変わらない。そのあたりは残念なところである。
 なお、かつて宿敵であるとして書かれている総会屋秋月であるが、今までの作品では一度も出てきたことがない。蛇足ながらここに記す。
備 考
 約16年ぶりの伊達邦彦復活作品となる。
 収録された写真は1984年のもの。

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