日本ホラー小説大賞



【日本ホラー小説大賞】
 公募による長編推理小説新人賞。角川書店とフジテレビ主催。賞金は、大賞500万円、長編賞300万円、短編賞200万円。受賞作、優秀作は、角川書店より出版、フジテレビによりテレビドラマ化、映画化・ビデオ化される。長編賞、短編賞は第18回で終了し、代わりに読者賞が設けられた。
(Wikipediaより一部引用)
 2018年2月、KADOKAWAは「横溝正史ミステリ大賞」と「日本ホラー小説大賞」と統合し、「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」を創設した。横溝正史ミステリ大賞の続きとして、第39回としてカウントされる。



第1回(1994年)
大賞 受賞作なし
長編賞 受賞作なし
長編賞佳作 坂東眞砂子『蟲』  日本の土着信仰を題材としたあたりは、初期の作者ならではのジャパネスクホラー作品である。ただ蟲が体内に入りこむという設定はありきたりであるから、そこにもう一つか二つアイディアを盛り込んでほしかったところ。主人公の独り相撲に近い形で終わっており、読んでいても面白くない。ただ小説技術はあるものだから、それなりに読ませることはできる作品に仕上がっていることが、最後の苛立ちに拍車をかけている。失敗作といっていいだろう。
長編賞佳作 カシュウ・タツミ『混成種―HYBRID』  金属イオンで蔦が成長するアイディアは始めて見たが、もしかしたら過去作品にあったのかもしれない。そこから代用神経につなげる発想も面白い。しかし、蔦が人間を乗っ取るというのは、手段はどうあれよくある展開。ここでもう少し面白いアイディアがあれば、と思ったのだが、最後はなぜか漫画チックなバトルの展開になってしまい、興醒め。
長編賞佳作 芹澤準『郵便屋』  うーん、ここまでストレートというか、単純な作りのホラーも珍しいのではないか。子供のころにいじめられた被害者が復讐に来るという展開は、特にひねりが感じられない。郵便屋というアイディアにしても、執筆当時でも新しいものではないだろう。これでまだホラーならではの描写に工夫があればよかったのだが、それも特になし。丁寧に書いていることは認めるけれど。よく佳作に拾われたものだと、別の意味で感心してしまった。
短編賞 受賞作なし
第2回(1995年)
大賞 瀬名秀明『パラサイト・イヴ』  まったく新しい……かどうかは知らないが、日本のホラー小説でここまで完成度の高い作品は初めてではないだろうか。医学・科学知識をふんだんに盛り込み、専門用語が飛び交う世界なれど、読者に読みづらさをおぼえさせない文章は特筆もの。知識にストーリーが負けない作品も珍しい。物語そのものも非常によく考えられており、少しずつ蓄積された恐怖が最後で一気に飛び散るあたりは、まさに圧巻。傑作を超えた傑作である。
長編賞 受賞作なし  
短編賞 小林泰三「玩具修理者」  背景の説明もないまま男女2人の会話で始まり、続いては女の独白が続く。驚愕の展開に驚きのラスト。少々グロい描写があって苦手な作風ではあるが、ストーリーの奇抜さとラストの驚きは読む価値があった。絶賛されたのも頷ける。
第3回(1996年)
大賞 受賞作なし
長編賞 受賞作なし
長編賞佳作 貴志祐介『十三番目の人格(ペルソナ) ISOLA』  主人公がエンパスという設定はちょっと安易かと思ったが、もう一人の主人公である多重人格の少女を理解するためには一番わかりやすい設定である。ただ、震災が原因で生まれた「ISOLA」は、謎としては面白かったけれど、ホラーとしてはちょっと反則な真相ではなかったか。ISOLAと「吉備津の釜」の絡みが面白かっただけに、ちょっと残念である。精神科学との融合が上手くできていただけになおさら。ただ、鬼ごっこの展開は少々エンタメを意識しすぎている。
短編賞 受賞作なし
短編賞佳作 櫻沢順「ブルキナ・ファソの夜」  ホラーというよりファンタジーと言った方が正しい内容であるが、読みごたえはある。ただ、前半の説明調が惜しい。オチも弱い。特殊なツアーの内容をいくつも並べるより、不思議譚の方をもうちょっと詳しく書けなかっただろうか。内容が散漫になっている。佳作も仕方がないところか。
第4回(1997年)
大賞 貴志祐介『黒い家』  保険会社の請求査定という分野からの切り口も面白いし、サイコパスという手法をとりながら、後半に入るまでその人物の恐ろしさを出すことを控え、事件と主人公の心情のみに視点を置くという手法も上手い。そのため、後半からの怒濤のような攻撃がより一段と怖さを増している。傑作。
長編賞 中井拓志『レフトハンド』  感染者の左腕を捕獲し、脱皮して左腕単独で動き出すという未知のウィルスが題材となっているのだが、左腕だけが動き回るという恐怖感があまり伝わってこないのは自分の想像力が低いからなのだろうが、それを取り巻く人たちからも怖さがほとんど伝わってこないというのは描写力不足だと思う。
短編賞 沙藤一樹「D−ブリッジ・テープ」  ホラーの部分は、動物や虫を食ったり、身体がが虫に食われたりするところのグロテスクな描写が該当するのかな。うーん、まあ、生き延びようとする描写に妙な迫力があるのは事実。それだけに、背景が今一つわからず、すっきりしない作品になっているのが非常に残念だったりする。テープを聴かせる相原の動機もあやふやだし。もやもやが残る作品でしかなかった。
第5回(1998年)
大賞 受賞作なし
長編賞 受賞作なし
短編賞 受賞作なし
第6回(1999年)
大賞 岩井志麻子「ぼっけえ、きょうてえ」  ホラーや怪談を読んだという恐ろしさよりも、貧乏な人たちの悲哀さだけが浮き彫りとなり、それも作り物めいていてリアルさがあまり伝わってこない(ホラーだから当たり前のことかもしれないが)ので、退屈としか思えなかったというのが正直なところ。自分は感受性が低いのか?
長編賞 受賞作なし
長編賞佳作 牧野修『スイート・リトル・ベイビー』  興味深い問題を読者にわかりやすく描く腕はさすがにプロの作家ならでは。現実の問題かと思われているうちに、徐々にホラー化していく手法は非常にわかりやすい。登場人物の内面も過不足なく描かれている。これはと思いながら結末まで来たのだが……。結末を読んでがっかりした。一言で言えば、落ちが弱すぎる。結局面白くなる場面をつなぎ合わせ、一つのストーリーに仕立て上げただけの作品だった。
短編賞 受賞作なし
短編賞佳作 瀬川ことび「お葬式」  よくよく考えると怖い内容を、女子高生のライトな視線で描いているものだから、どことなくピントの外れたやり取りが笑いを醸し出す。もっともこれは、小説だから成り立つ世界かもしれない。映像にすると、そのギャップが激しくて納得できなくなる気がする。怖くないけれど、面白い作品。もっともホラー大賞がそれでいいのだろうか。
第7回(2000年)
大賞 受賞作なし
長編賞 受賞作なし
短編賞 受賞作なし
第8回(2001年)
大賞 伊島りすと『ジュリエット』  文章や描写はうまいと思うのだが、肝心の物語が今ひとつ。ころころ変わる3人の視点によって話の流れが掴み辛いし、さらにその一人一人の語り口がモノローグ風で、抽象的というか、霧の中にあるような不透明さがあるため、いったい何を言いたいのかさっぱりわからない。
長編賞 桐生祐狩『夏の滴』  前半は大人びた小学生たちが動き回るだけでホラーの要素は全然無く、読んでいて退屈だったが、後半を過ぎたあたりから物語は一気にヒートアップする。エピローグの展開はひどい。ひどすぎる(褒め言葉)。よくぞここまで世界を堕としたものだと言いたくなるぐらいひどい。もっともこれはこれで結構面白かったが。結末の話が広がりすぎたため、小学生たちのいじめの話がぼけてしまった感があるのは否めない。
短編賞 吉永達彦「古川」  「ノスタルジックなイメージに満ちた、「癒し系」ホラー小説」と帯にある。思わず懐かしいと言いたくなるような風景が描写されていると、確かにノスタルジックなイメージに浸ってしまうのは事実。しかも小学生を主人公にした日常が描かれていることが、余計に郷愁を誘う。その点は認めるのだが、「癒し系」といわれてしまうと、どこを指しているのかよくわからない。展開も急すぎて、説得力に欠ける。今一つだった。
第9回(2002年)
大賞 受賞作なし
長編賞 受賞作なし
短編賞 受賞作なし
第10回(2003年)
大賞 遠藤徹『姉飼』  蚊吸豚とか脂祭りなどという設定も異様だが、なんといってもおぞましいのは「姉」の設定。祭りの出店で、串刺しにされてぎゃあぎゃあ泣き喚いている売り物というのだから、いったいどんな設定なのかと聞きたくなる。私自身は見たくもないのだが、中毒性があるのもわからないではない。映像でも漫画でも見たくない。文章から想像される姿を楽しむのが、この作品なんだろうと思う。
長編賞 保科昌彦『相続人』  過去に殺された幽霊が、加害者に復讐するために子供を狙うというのはよくある話。復讐する側、される側にちょっとした捻りを入れているのが、本書の特徴だが、犯人捜しに重点が置かれてしまった分はホラーとしてはマイナスになっている。また、復讐する側の規則性がないので、後味が悪い物になっている。ご都合主義な部分も多く、小説力だけで長編賞を受賞している気がする。
短編賞 朱川湊人「白い部屋で月の歌を」  除霊を題材にしたホラー。語り手であるジュンの正体など読んでいるうちに予想はつくのだが、切なさあふれる文体が作品世界にマッチしていて面白い。どこかメルヘンチックなところもあり、独特の世界観が繰り広げられる。作者の美学がすでに組みあがっている、完成度の高い作品である。この回に「姉飼」がなかったら、大賞に選ばれていてもおかしくはないだろう。ただ、オチは少々弱かったか。
第11回(2004年)
大賞 受賞作なし
長編賞 受賞作なし
長編賞佳作 早瀬乱『レテの支流』  記憶を無くす装置という設定自体は割に見られるものだが、記憶を無くした主人公が高校時代に自殺したはずの人物を見掛け、そこから過去を探るうちに高校時代の同級生たちが次々と変死を遂げ、そして話がトンデモな世界(ここでは褒め言葉)に進んでいくのは逆に凄いし、このアプローチは、確かに斬新なアイデアかも知れない。ただ正直なところを言うと、いくらでも突っ込みが可能と思われるような「理論」になっているのが残念。
短編賞 森山東「お見世出し」  京都を舞台とし、語り手が体験した話を語る形式となっている。京都弁と古都という舞台が怪しい雰囲気を醸し出すことに成功している。実力はあるのだろうけれど、気のせいか書ける世界が狭いのではないかと思ってしまう。普通の題材を使った時、どれぐらい書けるかが勝負だろう。
短編賞佳作 福島サトル「とくさ」  ホラーと言うよりは幻想小説に近い作風。解説で内田百閧ノ触れられているのだが、さすがにそこまでの文学性はない(文学性って何と言われても困るけれど)。言いたいことはわからないでもないが。独特の世界観があることは認めるが、物語として楽しめるかとなると別問題。なんかもやもやとしたまま読み終わってしまった。
第12回(2005年)
大賞 恒川光太郎「夜市」  舞台設定から、ホラーというよりも幻想小説という言葉がしっくり来る展開が続く。これだけならよくある物語という言葉で終わってしまうのだが、老紳士とともに人攫いの店に行ってからの展開は完全な予想外。こんな哀しい物語を、この舞台と融合させた、というだけで凄い。情景描写や登場人物描写も含め、見事というしかないね、これは。
長編賞 大山尚利『チューイングボーン』  同じパターンの内容が繰り返されるだけで、読んでいても退屈。心理描写や生活風景がやけに細かく書き込まれており、苛立ちだけが募ってくる。もうちょっとテンポよく描けなかったかな。描写だけはうまいと思ったけれど、ホラーとは思えなかった。
短編賞 あせごのまん「余は如何にして服部ヒロシとなりしか」  奇妙と言ったら奇妙だし、異様と言ったら異様。バカバカしいと言ってしまえばそれまでだが、その一言で捨て去るには惜しい作品。“如何にして”ではなく“なぜ”の部分がもっと欲しかったかな。あまり好きにはなれない作品ではあったが。
第13回(2006年)
大賞 受賞作なし
長編賞 矢部嵩『紗央里ちゃんの家』  この作品にストーリーを求めちゃいけないし、内容に突っ込みを入れても無意味である。登場人物が皆異常なのだから。ただ、世界観を全く作れないまま物語が終わってしまうのでは小説として問題。ただグロテスクなだけで、恐怖感は全く伝わってこない。文章もダメ、世界観もダメ。内容は全く理解できない。なぜこれが受賞できたのか、選評を読んでもさっぱりわからない。
短編賞 吉岡暁「サンマイ崩れ」  精神科に入院している学生が主人公。筆致がいやに落ち着いているので、何とか最後まで読み終わることができた。病状について語られるところなどははっきり言って迷惑でしかないのだが、それを除けばありきたりな部分があるとはいえ、旨く構成されていると思う。独りよがりにならず、大人の鑑賞に耐えうる作品といったところだろうか。
第14回(2007年)
大賞 受賞作なし
長編賞 受賞作なし
短編賞 曽根圭介「鼻」  テングとブタに二分されている社会が描かれ、ああ、また異常な設定が舞台かと思いきや、自己臭症に悩む刑事によるモノローグが随所で挟まれる。なんだこれはと思いながらも読み進めていくと、最後でその仕掛けがわかる仕組みになっている。状況を把握しづらいという欠点を感じたが、そのトリッキーな仕掛けに気付いた時の恐怖感は相当なもの。これは解説を読んでからもう1度読んでみると、別の面白さを見つけることができるかも知れない。個人的には大賞でもよかったと思った。
第15回(2008年)
大賞 真藤順丈『庵堂三兄弟の聖職』  トンデモ人物ばかりのキャラクター設定は際立っており、「遺工師」という設定もなかなかの物。ただ、これをホラーとして読んだら期待外れに終わるだろう。グロテスクな表現こそあるものの、ホラーとしての恐ろしさは皆無といっていい。しかし、林真理子の言う「さわやかな読後感」というのは納得する選評だ。
長編賞 飴村行『粘膜人間』  戦時中の世界観に民話や妖怪の世界が混じり合う不思議な空間。登場人物は皆身勝手でおかしなところがあるし、繰り広げられる物語は異様だし、ある意味支離滅裂でもあるのだが、圧倒的なパワーは本物。グロやスプラッタが好きな人にはたまらないでしょうね。正直言ってこの手の描写は苦手なのだが、それでも読むのを止められない、麻薬みたいな妖しさがある長編。
短編賞 田辺青蛙「生き屏風」  内容としては、いずれも妖の者が登場するとはいえ、ほのぼのとする「昔話」である。その短さも含め、お伽噺に近い味わいがある。はっきり言ってしまえば、全く怖くない。それでも短編賞を受賞させてしまうのだから、選ぶ方も懐が深いというか。ただ、ホラー小説大賞というくくりを外してみてみる分には、結構おもしろい作品である。
短編賞 雀野日名子「トンコ」  主人公は豚。養豚場で育ち、食肉加工場に連れて行かれる途中で事故に遭い、トラックから逃げ出して兄弟たちを探し回る冒険短編小説。こんな設定の小説を考え出したものだと、素直に感心した。これのどこがホラーなのかわからないが、よくぞ受賞させた。一部しつこい描写には辟易したが。
第16回(2009年)
大賞 宮ノ川顕『化身』  ホラーではなく、変態ものファンタジー。密林の池に落ちて外に出られなくなった男が、環境に合わせて徐々に変態していく姿は、実に面白い。カフカ『変身』とは全く別の面白さだ。こんなストーリー、よく考え出したものだと感心。徐々に変態するだけでなく、その後もあるところが秀逸。オチの弱さが若干残念だが、それは些細なキズだろう。これは傑作だと思った。
長編賞 三田村志郎『嘘神』  結末までの展開も含めよくある小説、と言ってしまえばそれまで。だが、テンポよく書けているし、大学生という若さのせいか、何とも言えないパワーが感じられる。はっきり言ってしまえば、勢いだけで書いた小説。それでも、悪くは無いなと思った一冊。一応は楽しめた。
短編賞 朱雀門出「今昔奇怪録」  ホラーというより怪談という言葉がふさわしい短編。じわじわと恐怖にまきこまれていく筆致が美しい。ただ、結末の弱さを感じた。ここでスパッと切れれば、大賞も可能性があった。作者には可能性を感じさせる何かがある。まだまだ隠し玉がありそうだ。
第17回(2010年)
大賞 一路晃司『お初の繭』  粗筋を読むと『あゝ野麦峠』に篠田節子『絹の変容』を混ぜたような内容。少しは新しい要素があるかと思ったら、全くなし。読者が思い浮かべたような内容がそのまま小説上で展開されていき、結末まで流される。おまけに「淫靡」じゃなく、「悪趣味」な展開も足されているし。展開も内容も古くさい、つまらない小説。なぜこれを大賞に選んだのかが理解できない。褒めるところは、読みやすい文章ということぐらいか。
長編賞 法条遥『バイロケーション』  もう一人の自分が、自分とは違う行動を身近で取っている。ドッペルゲンガーとは異なるという点で、設定が巧いとは思った。ただ、それを生かし切る筆力があったかと言われたら疑問。何より、場面の切り替えが下手でわかりにくい。細かいところを突っ込んだら、いくらでも疑問が出てくる。ストーリーもご都合主義なところが多い。リーダビリティはそこそこあると思ったが、設定にしろ人物にしろ、もっと中身を練ってほしい。あと半年は推敲すべきだった。
短編賞 伴名練「少女禁区」  世界観の説明がほとんどないので、作品背景を把握するのに手間がかかる。雰囲気自体は悪くないのにもったいない。それでも、異世界に行った少女とのやり取りというのは結構良いアイディアだと思った。キャラクター設定もよい。二人のつながりもよく描けている。「ホラー」を期待すると思い切りすかされるが、呪術の世界を舞台にした恋愛小説だと思うと悪くない。
第18回(2011年)
大賞 受賞作なし
長編賞 堀井拓馬『なまづま』  死んだ愛妻を甦らせるというのは、それこそ神話の時代からあった話でありきたり。それを「ヌメリヒトモドキ」というグロテスクな生物から生み出そうという発想は結構凄い。ヌメリヒトモドキに恐怖感はないけれど、文体から滲み出てくる不快感は相当なものである。ただ、主人公と妻の距離感が今一つわかりにくい。一人語りだから仕方がないが、それでも後半の展開は違和感が残るし、結末のドンデン返しが今一つ盛り上がらない理由にもなっている。執筆時23歳という若さには驚いた。
短編賞 国広正人「穴らしきものに入る」  馬鹿馬鹿しいけれど、発想は面白い。ナンセンスSFの作品で、なぜホラー小説大賞に送ったのかはわからない。ただ、選評でも指摘されているとおり、オチが弱すぎる。結局、アイディア一発だけである。小説も着地が悪いと、すべてが台無しになってしまう。もっと精進しないとだめだろう。
第19回(2012年)
大賞 小杉英了『先導者』  死者の世界に入り込むまでの描写が何ともリアルで、作者自身が本当に経験したのではないかと思わせるほど優れている。ただ、本書の良いところはここまで。背景が全くわからないまま事が進んでいくので何とも物足りない。読める作品には仕上がっているけれど、もっと書き込みがほしかった。
読者賞 櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス』  大学の研究会が中心で、主人公は情けない草食系。片想いの相手は同じ研究会で、しかも美少女。ライトノベルの設定と言われても仕方が無い。今までのホラー大賞とは全く傾向の違う作品。ホラー要素はほとんど無いし、ミステリ要素もあまりない。結局、キャンパスライフにおける草食系男子の片想いが成立するかどうか、というライトノベル風味恋愛小説であり、ホラーはあくまで味付けに過ぎない。嫌いじゃないが、これはイラストの勝利。
第20回(2013年)
大賞 受賞作なし
優秀賞 倉狩聡『かにみそ』  タイトルがタイトルなので、一体どういう話かと思ったら、意外と友情物語だった。「泣ける」かと聞かれればやや微妙だが。正直言ってホラー要素はあまりない。いや、蟹が喋るだけでも不気味だし、死体を食べるようになるところも不気味なのだが、ユーモアのある文体と、蟹が喋ったり死体を食べたりすることに大した違和感を抱かない主人公のおかげで、本来そこにあるはずの恐怖感が全くないところが、逆に面白い。大賞でもよかったと思う。
読者賞 佐島佑『ウラミズ』  霊を水入りのペットボトルに詰めて売り出すというアイディアは面白かったが、評判になる前にヤクザが出てくる展開は安易すぎて残念。除霊の部分などもっとふくらませてもよかったと思う。やや軽めながらも読みやすい文章やテンポは良かったが、誰が中心人物かわからず、安っぽいメロドラマで終わってしまったのが勿体ない。題材はよかったので、料理の腕さえよければもっと面白くなっただろう。
第21回(2014年)
大賞 雪富千晶紀『死と呪いの島で、僕らは』  最初に出てくる「顔取り」は結構恐ろしい。これはよく書けていると思った。ところが、その後はお約束な展開がてんこ盛りとなって続くので興醒め。題材は悪くないし、見た目もきれいだが、レトルト食品のようで、さらに食べられるものの味付けが今ひとつ。そんな印象を受ける作品。青春ホラーにするのなら、もう少し舞台をシンプルにしても、十分成り立っただろう。
佳作 岩城裕明『牛家』(角川ホラー文庫)  前半はゴミ邸をうまく使ったホラーで、それからループ現象が起きるSF設定が加わり面白くなるかと思ったら、最後は纏りつかなくなって放棄した印象を受ける結末。迷宮に入るなら屋敷の部分に絞り、妻の部分はいらなかっただろう。結局何をやりたかったのか、わからない。描写のグロさはまだしも。
読者賞 内藤了『ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』  猟奇的な殺人方法などはホラーっぽさがあるものの、連続テレビドラマで取り上げそうな捜査物のミステリ。読みやすいこと自体は確か。凄惨な内容の割に怖さが伝わらない描写不足は、広範囲に読者を獲得するための作戦と好意的に解釈しよう。どうしたらシリーズ物として売れるのか、という模範的な作品である。
第22回(2015年)
大賞 澤村伊智『ぼぎわんが、来る』 未読
佳作 名梁和泉『二階の王』  ひきこもりとそれに悩む家族の姿はよく書けていると思うけれど、「悪因」の設定描写が今一つでわかりにくい。また「悪因研」のメンバーの描写が少なすぎて、毎回こいつ誰だっけとページを戻る羽目に。結局まどろっこしいまま、最後まで行ってしまった。消化不良感が残るばかり。
読者賞 織守きょうや『記憶屋』  ジャンルとしてはセンチメタル系ホラーか。文章は読みやすいが、内容は記憶を消すことの是非を問うた結構重い作品。表紙のイラストがいかにも今時の売れ線を真似ているが、読み終わってみるとこれが正解だったと納得。哀しく、切なくなる結末は、続編を期待したくなる出来。ヒットして続編が作られるのもわかる。
第23回(2016年)
大賞 受賞作なし
優秀賞 坊木椎哉『きみといたい、朽ち果てるまで 〜絶望の街イタギリにて』 未読
読者賞 最東対地『夜葬』  「どんぶりさん」という存在自体は新しいものかもしれないが、それ以外を除くと、古い設定。反発しあいながら事件の謎を追いかける主人公たちというのもよくある話だし、終わり方も今一つ。警察はほとんど動いていないし、どうにかならないのか、と思ってしまった。もう少し設定に新味を加えないと、次はきつい。
第24回(2017年)
大賞 受賞作なし
優秀賞 木犀あこ『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』  売れない新人ホラー作家と編集者のやり取りはまあ楽しめるのだが、そのせいでホラーっぽさが消えてしまっている。もう少し描き方を考えれば、少しはホラーになるだろうとは思った。ライトノベルっぽさを目指して書いたのかどうかは不明だが、無理に売れ線を目指した印象があって、不可解。
優秀賞 霞澄晴吽『迷い家』 未刊
読者賞 野城亮『ハラサキ』 未読


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