日本推理作家協会賞受賞作全集第47巻
『金属バット殺人事件』佐瀬稔



【初版】1998年11月15日
【定価】524円+税(当時)
【解説】山前譲
【底本】『金属バット殺人事件』(草思社)

【収録作品】
作 者
佐瀬稔(させ・みのる)
 1932年、横浜生まれ。報知新聞社で運動部長、文化部長などを歴任。昭和48年にフリーとなり、スポーツ、教育、犯罪(特に重大の)などの幅広い分野で、緻密な取材に基づくノンフィクションを手掛ける。1998年没。
(作者紹介より引用)
作品名
『金属バット殺人事件』
初 出
 1984年11月、草思社より書き下ろし刊行。
粗 筋
 昭和55年、川崎市の新興住宅地に住む一家を突然襲った惨劇。それは、浪人中の次男が両親を金属バットで殴り殺すという、震撼すべき出来事だった。恵まれた家庭に育った青年が心に宿していたものは何か。丹念な取材と、緻密な構成で事件の全容に迫った力作ノンフィクション。(粗筋紹介より引用)
目 次
 第一章 発覚
 第二章 私刑(リンチ)
 第三章 時代
 第四章 家出
 第五章 浪人
 第六章 殺意
 第七章 凶行
 エピローグ
感 想
 1980年11月29日未明、神奈川県川崎市の会社員宅で、浪人中の二男(20)が、睡眠中の両親(ともに46)の頭を金属バットで殴って殺害した。父は東大出の一流企業支店長、兄も早大理工卒業後一流企業に就職したエリート家族で、二男だけは二浪中だった。しかも受験勉強は全然せず、劣等感はたまる一方。そんなとき、父親の財布からキャッシュカードと金が紛失。28日深夜、父は二男が犯人と決めつけた。確かにカードは二男が盗んだものであったが、金については覚えがなかった。しかし反抗すると父は激怒。母も同調した。二男は両親に怒りと反発を感じる。さらに二男が二階の自室で酒を飲んでいたとき、父親が入ってきて説教。そして「明日出て行け」と言われる。二男は不安と怒りに駆られ、バットを手に取った。1984年4月25日、横浜地裁で一審懲役13年(求刑懲役18年)の判決。控訴せず、そのまま確定。

 当時世間を騒がせた「金属バット殺人事件」のノンフィクションである。丹念な取材によって事件の全貌に迫った良著であることは間違いない。しかし、評論その他部門とはいえ、これが日本推理作家協会賞に値するかどうかとなると話は別である。今までこの部門は、あくまで評論が受賞してきた。ノンフィクションが受賞するのは初めてである。この作品は推理小説とは無関係であるし、事件の全貌へ迫るために推理手法を用いるわけでもない。選考委員は生島治郎、井上ひさし、仁木悦子、西村京太郎、眉村卓であった。井上ひさしの選評「事件が発生した家庭は果たして特異な家庭であったのか、という謎を究明しながら、現代の家庭の変質をあきらかにしていきます。そして結末は、最良の推理小説よりもさらに衝撃的です」とある。しかし推理小説よりも衝撃的な結末とは思えない。私としては、これが協会賞を受賞したことが、今もって最大の謎なのである。
 どうでもいいが、当時の『ミステリマガジン』で新保博久が、「この作品が受賞するなら、今まで似たようなものを書いてきた佐木隆三、福田洋、西村望などはどうするのか」みたいなことを書いていた記憶があるが、はっきり言って佐木らとこの作品を比較するのは間違っている。佐木らが書いているのはあくまでノンフィクション・ノベルであり、本書はノンフィクションである。似て非なるものである。
備 考
 第38回(1985年)評論その他の部門。

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