土屋隆夫推理小説集成第1巻(創元推理文庫)
『天狗の面/天国は遠すぎる』



【初版】2001年3月16日
【定価】1100円+税(当時)
【カバー画】桶本康文
【巻末エッセイ】「歳末、消えた楽しみ へそくり」(『信濃毎日新聞』1964年12月15日)、「古典に学ぶ 乱歩の「随筆・探偵小説」 激しい情熱に衝撃 芭蕉の偉業もたたえる」(『信濃毎日新聞』1970年4月1日夕刊)、「佐久と推理小説 底辺持たぬ文化は困る」(『信濃毎日新聞』1972年3月26日)
【土屋隆夫論】「エロティックな船出」飛鳥部勝則


【概 要】
 江戸川乱歩の「一人の芭蕉の問題」を呼んで感動した著者が、「文学精神と謎の面白さの全き合一を求めよう」と、推理小説の創作に取り組みだした最初期の二長編。山間の寒村を舞台に、不可能犯罪と鮮烈なトリックが印象的なデビュー作『天狗の面』と、第二長編でアリバイ破りの傑作『天国は遠すぎる』。本格ファン必読の一冊である。
(裏表紙より引用)


【収録作品】

作品名
天狗の面
初 出
1957年、『お天狗様の歌』のタイトルで第3回江戸川乱歩賞に応募し、最終選考まで残るものの落選。1958年、改稿、解題の上浪速書房より刊行。
粗 筋
 山間の寒村で、にわかに起こった天狗講騒動。選挙にこれを利用しようと画策する村会議員。彼はある夜、出されたお茶を飲んで、衆人環視の中、絶命した。誰がどのような方法で毒を投与したのだろう? そして第二、第三の殺人が起こり、平和な村の様相は一変する。
(粗筋紹介より引用)
感 想
 処女長編と言うこともあってか、それとも後の作品からするイメージなのかはわからないが、土屋作品に似合わないと言うか、無理をしているというか。山間での連続殺人、天狗講というギミック、ユーモア調の文体、弁護士というよりも素人探偵による解決、読者への呼びかけなどといったあたりも書き方がぎこちない。農村における新興宗教の浸透という点については、作者のあとがきにもあるとおり、当時凄まじいものがあったという点については納得できるのだが、この作品ではそんな現実味が感じられないのも、今一つで終わっているところかも知れない。それでも、「探偵小説とは割り算の文学である。事件÷推理=解決」という土屋の探偵小説論がこの作品からも垣間見えるのは嬉しいことである。
備 考
 処女長編。

作品名
天国は遠すぎる
初 出
1959年、書き下ろし刊行。
粗 筋
 死を誘う歌として話題の「天国は遠すぎる」を遺書代わりに、死体となって発見された十代の娘。捜査本部は自殺と断定するが、その死に疑問を抱く長野県警の刑事の粘り強い捜査により、土木疑獄の中心にいると目される県庁職員の失踪と結びついていく……。
(粗筋紹介より引用)
感 想
 粗筋だけを見ると、当時流行の社会派推理小説みたいに見えるが、内容はがちがちのアリバイトリックに密室トリックなどが重なり合った本格推理小説(別に社会派が本格であってもおかしくはないのだが)。後の作品群と比べると事件の動機などに社会派の要素が入っているものの、本格推理小説として一級の作品であることに代わりはない。
備 考
 1959年、第41回直木賞候補作。

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