結城惺『エデンの都市』(M’s)

 俊一たち「サイオン」が育った喫茶店兼ライブハウス「モノクローム」。最後のライブを見に行くため、必死で仕事を終わらせようとする久志。
 MIND SCREEN NO.31。本編「あの空を忘れない」の前日談。表紙は高河ゆん。1995年5月発行。

 結城惺はたいてい本編の視点を俊一に置き、同人誌ではその他の登場人物の視点で書くことが多い。本編もそんな作品の一つ。久志と同僚の由里子とのやり取りは結構好き。由里子はもっと出してほしいと想うけれどね。




結城惺『HEAVENS』(M’s)

 友藤、俊一、孝充が雑誌のインタビューを受ける。ツアータイトル、HEAVENに込められた想い。そして孝充が想う心地よい場所。
 MIND SCREEN NO.35。CDブック「MIND SCREEN〜HEAVEN〜」を記念して作られた記念本。1996年2月発行。

 HEAVENに込められた想い、それが「MIND SCREEN」という作品を表していると想う。短い作品だが、このシリーズで好きな一品。




西村寿行『安楽死』(角川文庫)

 静岡県石廊崎海岸で看護婦・佐藤道子がスキュバダイビング中に溺死した。静岡県警は事故死として処理した。が、事故から十日後、警視庁に彼女は殺されたとの密告電話がかかってきた。捜査本部は、この情報をもとに警視庁異色敏腕刑事鳴海剛に調査を命じた。内偵を命じられた鳴海は、彼女が大学病院の看護婦であり、同行者四名が病院関係者だということに、波立ちさわぐものがあった。調査開始後まもなく、鳴海は病院の存亡にかかわる重大な疑惑をつきとめた。その時、彼の刑事生命をも断ち切りかねない強大な圧力が…。(粗筋紹介より引用)

 ハードバイオレンス小説の第一人者である作者も、初期はミステリを書いていました。安楽死をテーマにした社会派本格推理小説。読み応えあります。もっと注目されてもいいと思う作品なのですが。




『年報死刑廃止2000-2001 終身刑を考える』(インパクト出版会)

 所々で死刑賛成派、死刑執行に対する蔑みの文章、表現があるのは気にかかる。死刑賛成派が反対派に対してよく罵るケース(特にHPの掲示板や匿名メール)が多いが、思想の違いを押しつけてよいというものではない。しかし、「死刑」を考えるについてもっとも新しい資料であることに間違いはない。詳細な感想は後日。




若竹七海『火天風神』(新潮ミステリー倶楽部)

 三浦半島の外れにあるリゾートマンション。管理人は避けに飲んだくれており、そのくせ自分の才能を疑わない凡人。そこへ色々な客が訪れてきた。そんなときに、最大瞬間風速88メートル、未だかつて日本が経験したことのない大型台風が三浦半島を直撃した。電話も電気も不通、陸路も遮断され、孤立した状態。釣りに出掛けたまま行方不明になった客。謎の殺人事件。強風がもたらした事故。このときとばかり客に襲いかかる管理人。立て続けに起こる事件。さらに火事までが……。

 台風の中でのリゾートホテルで起こった出来事を書いたパニックもの。場面の切り替えの早さが逆に緊迫感を生み出す効果となり、より臨場感を増している。学生など、一部の人間の書き分けが不十分であるが、だいたいの主要人物については短いながらもきっちりと書き込まれており、登場人物の多さと反比例して戸惑う部分は少ない。。パニックの同時進行に振り回されることなく、作者が全てを把握しながら物語が進むので、ページをめくる手はどんどん早くなる。一体この後はどうなるのだろうというところで場面が変わる引きも上手い。さすがと思わせる実力である。
 若竹は何を書かせても上手いし面白い。ただ、典型的な3割バッター。外れはないが、大当たりもない。そのため、作者がやや便利屋的扱いに終わっているのが残念である。若竹はリーダビリティに徹しすぎではないだろうか。ここらで一発、でかい花火を打ち上げてもよいと思う。それができる作家だと信じているし、それだけの実力は充分に持っている。

 関係ないが、新刊で買いながら、ここまで寝かしている自分に呆れる。そんな本が何十冊もあるかと思うと、余計にである。




芦辺拓『時の密室』(立風書房)

 『時の誘拐』の姉妹編としてタイトルが挙がって早数年。待望のお目見え。
 明治政府に雇われた建築技師エッセルは、川口外国人居留地で働いていたが、ある日人違いから拉致され、殺人ならびに死体消失事件に遭遇することになる。目隠しされたとはいえ、拉致され、死体を発見した場所は間違いなく居留地の中のはずだった。しかし死体は見つからず、事件は迷宮入りとなる。
 そして舞台は現代に移り、当番弁護士としてある殺人事件の容疑者のもとへ訪れた森江春策。容疑者は、自分が犯罪を犯した覚えはないという。被害者はかつて、仲間とともに学生運動に参加しており、容疑者は警察官だった。そして運動の途中で被害者たちにリンチされ、警察官をやめる羽目になった。たまたまゴルフのキャディーをしていたところ、被害者たちが現れ、思わず殴りかかったところ、返り討ちにあってボコボコにされ、しかもゴルフ場を辞めさせられることになり、二重の意味で被害者を恨んでいた。動機は充分であり、しかも目撃者までいる。だが、容疑者は無実であると信じた森江は、事件を調べることにした。川口へ訪れた森江は、ミニコミ誌に載っていた外国人居留地での消失事件に興味を持つ。さらにゴルフ場にいっしょにいた被害者の友人である医者から、ある迷宮事件の話を聞かされる。それは学園運動の末期、不可能としか思えないような殺人事件だった。

 明治の川口外国人居留地なんていったいどこから調べるのだろう。相変わらずの博識ぶりと、小説への取り込み方の上手さには感心する。取り込み方の上手さと小説の面白さは必ずしも同義語にはならない。そこが芦辺拓の欠点だったが、本作品では上手に解け合っており、面白く読むことが出来た。
 ただ首をひねるのは、“あるはずの場所にない”“行けるはずのないところに被害者がいた”と言った現場を「密室」と表現していること。閉ざされた空間でもなければ、誰もが立ち入ることの出来ない場所でもない。ただ、時間的・物理的にたまたま“動機のある”人間が立ち入ることが出来なかっただけである。これを「不可能犯罪」というのならわかるが、「密室」と呼ぶのには無理がある。そこに違和感を感じ、どうしても引っかかるためか、話に没頭することが出来なかった。
 もっとも、小骨が喉に刺さった程度でしかない用語の問題で話に没頭できなかったということは、やはり小説自体にもどこか首をひねるところがあるのだが。「本格」ミステリなのに予定調和の世界から脱却できなかったのがその原因。芦辺作品にしては珍しく淡々と話が進み、終わっている。読者が驚く箇所をどこかで作るべきだったと思うが、川の流れのようにストーリーが進むため、後口はいいのだが酔いしれることが出来ない。読後には満足しつつも、さてどんな小説だったかと聞かれると思い出すのに苦労する。前作『時の誘拐』にあった怒りのパワーが感じ取られない。もっとも、学生運動については妙な怒りのパワーを感じるが、本格ミステリとは無縁の怒りであり、逆に違和感を感じさせるだけの結果に終わっている。足跡を残さず時が流れてしまっては、残るものは何もない。
 本格に不要なパワーかも知れない。別に主義主張を唱えろというつもりはない。しかし、これだけの長編が、逆に読みやすいだけの長編に終わってしまうのは勿体ないことだと思う。過去との融和を図るために力を使い果たした感じの作品。惜しい。




結城惺『Precious Love』(M’s)

 アメリカで、祖父を狙ったテロリストの銃撃を受けた久志(「FADE AWAY」参照)。眠る久志の元に訪れた俊一のその後を書いた物語。
 MIND SCREEN NO.46。同人誌として2000年12月発行。

 俊一とフィナとのやり取り。遅れてきた香奈里・友藤と俊一・久志の会話。そして久志の祖父母と接する3人の立ち振る舞いなど、お約束なシーンが連続する作品。まあ、本編のサイドストーリーって、こんなものだよな。




結城惺『僕は君じゃない 1-1.1-2 MIND SCREEN総集編』(M’s)

 人気バンド、サイオンのギタリスト高瀬俊一。俊一の高校時代の同級生、斉木久志。二人は固い絆で結ばれていた。高校卒業時、久志の留学で別れていた二人だったが、4年後再会し、そして二人は今一緒に暮らしている。「MIND SCREEN」は俊一と久志を中心に、彼らを取り巻く人たちとの心の動きを描いた物語である。
 『僕は君じゃない』は、結城惺が同人誌に発表した「MIND SCREEN」シリーズ作品を集めた総集編を改めて二分冊にして発行したものである。作者は思いついたままに書いているため、時間軸はバラバラである。作品のタイトルは、いずれも作者が好きな歌のタイトルから取っている。

 12月24日、サイオン初のコンサートが開かれる。俊一は、年末を控え仕事が忙しい久志となかなか会うことができない。単行本『MIND SCREEN1』に発表された「I MISS YOU」の俊一バージョン(というか、こちらの発表が先)、「CHAMPAGNE NIGHT」。
 久志と俊一が休みを取って、ハワイへ行く話。「HOLYDAY」。
 友藤は久志から聞かされてしまった。久志は俊一のことが好きだと。友藤と久志が過ごした高校時代を、友藤視点にて駆け足で語られる。久志への愛情を隠したまま、親友として付き合う二人。「恋し焦がれてLOVE STORY」。
 まだ久志と俊一が出会う前。久志、友藤、香奈里の中学の卒業式を、友藤視点で見た話。「卒業」。
 クリスマスイブの一日を、香奈里、友藤、久住、俊一視点でそれぞれ書いたオムニバス。誰もが思いを抱えていた。口に出せない思いを。「センチメンタル・クリスマス」。
 以上が1-1に収録されている作品である。

 サイオン初めてのコンサートの夜。久志と俊一は互いの思いを改めて確認する。「HOLY NIGHT TEARS」。
 久志が所属していたバスケ部のOB会が開催される。久志は俊一を強引に連れていく。「EDGE OF TIME」。
 久志の留学時代の物語。付いてこなかった俊一を忘れるために、世話係のフィナと付き合う久志だったが。「DOUBLE IMAGINATION」。
 久志の祖父が、フィナとともに日本に来た。食事に誘われた夜、久志は俊一を連れていき、紹介する。二人が結ばれていることを伝えるために。「パール・ピアス」。

 本編は単行本として出ている『MIND SCREEN』シリーズに書かれいているが、同人誌の方は主に本編では書かれない脇役が中心となっていることが多い。友藤が久志に片思いしている、香奈里が俊一に片思いしている、久住と俊一の妹である千鶴美との出逢いなど、本編では出てこない設定(後に出てくるのもあるが)が書かれており、シリーズのファンには見逃せない。逆に言えば、シリーズを知らないと、読むのがちょっとしんどいところもある。
 このシリーズは大好きなので、ずっと追いかけている。いわゆるボーイズ・ラブものだが、恋愛の相手が男同士であることを除いたら、普通の恋物語と特に変わりはない。




結城惺『僕は君じゃない2 MIND SCREEN総集編2』(M’s)

 人気バンド、サイオンのギタリスト高瀬俊一。俊一の高校時代の同級生、斉木久志。二人は固い絆で結ばれていた。高校卒業時、久志の留学で別れていた二人だったが、4年後再会し、そして二人は今一緒に暮らしている。「MIND SCREEN」は俊一と久志を中心に、彼らを取り巻く人たちとの心の動きを描いた物語である。
 『僕は君じゃない』は、結城惺が同人誌に発表した「MIND SCREEN」シリーズ作品を集めた総集編を改めて二分冊にして発行したものである。作者は思いついたままに書いているため、時間軸はバラバラである。作品のタイトルは、いずれも作者が好きな歌のタイトルから取っている。
 本書は『僕は君じゃない』に続く総集編第二弾である。

 久志が俊一と再会する直前の話。俊一と会いたいと思いながらも、俊一の心がわからずに悶々とする久志と、そんな彼をそっと後押しする同僚由里子の話。そして恋人に俊一のことが一番好きなんでしょうと詰め寄られ、別れてしまった久住と佐川の友情。二つの物語を収録した「それでも恋は永遠」。
 腕を怪我して休んでいる俊一に、アイドルグループ「KISS」のコーラスの仕事がやってきた。「君から目を離せない」。
 俊一の弟寛と孝充が起こした騒動の結果、自動車事故で腕を骨折した俊一。レコーディング直前なのにと、心配しながらも呆れるサイオンメンバー一同。「ぜいたくなペイン」のインサイド・ストーリー、「逢いにいきたい」。




結城惺『HAPPY EVER AFTER』(M’s)

 ようやく4日間の休みを揃って取ることができるはずの前の日。久志はプロジェクトを終わらせるために無理をしたため風邪を引き、部屋に帰ってくるなり倒れ込んだ。あとから帰ってきた俊一は、倒れている久志を見て慌てる。そこへかかってきた香奈里からの電話。彼女に食事と薬を頼み、久志はようやく落ち着く。次の日、こんこんと眠っている久志のもとへ、サイオンのメンバーが見舞いに来る。
 MIND SCREEN NO.45。同人誌として2000年8月発行。

 風邪を引いて倒れる久志と看病する俊一。久志を心配する高校時代からの親友たち。いつまでも変わらないその友情が、読んでいてとても楽しい。年を経て、立場が変わろうとも、彼らはいつまで経っても彼らのまま。羨ましい友情関係である。
 時系列的には、今まで(自分が知っているなかで)一番新しい物語。俊一と孝充の関係の決着編はすでに書かれているけれど、香奈里の結末はまだ書かれていないな。




結城惺『世界で一番熱い夏』(M’s)

 俊と久志が揃って夏休みの3日目。俊は以前に知り合った川上規子さんと犬のクインに逢わせるため、久志を公園に連れていく。犬好きの久志はクインと楽しそうに遊ぶ。「世界で一番熱い夏」。
 大晦日の忘年会。サイオンのメンバー、元SYAYだった二人のバンドのメンバーたちが集まって、楽しく夜を過ごす。久志は年が変わる直前に現れた。「世界で一番熱い冬」。
 MIND SCREEN NO.42。同人誌として1999年12月発行。

 「世界で一番熱い夏」は、同人誌「逢いにいきたい」の続き。クインと遊ぶ久志が可愛いというか。いや、それだけの話なんだけど。
 「世界で一番熱い冬」は、俊のソロの話の伏線もと。登場人物それぞれのエピソードを書いていたら、もっと長くなっただろうにと思うと、ちょっと勿体ない。




大沢在昌『灰夜 新宿鮫VII』(カッパノベルズ)

 八作目だが、先に刊行された『新宿鮫 風化水脈』より事件発生が前なので番号はVIIとなっている。
 元同僚である宮本の七回忌法要のため、東京を発ち九州に向かった鮫島。恋人の晶とは喧嘩したままで、そのことが頭から離れない。宮本は死ぬ直前、鮫島に「爆弾」を手渡した人物であった。そのため、鮫島は“新宿鮫”として生きるようになったのだ。予想通り、公安が危険人物であった宮本の七回忌と、危険人物である鮫島を見張っていたが、特に手を出す雰囲気はない。鮫島は法要で知り合った宮本の級友であり、地元の夜の顔である古山と酒を酌み交わし、友情を持つ。ところがホテルに帰ったら、何者かに襲撃され、山の中の檻に監禁された。古山の計らいで解放されたが、今度は古山が監禁された。また、ホテルで知り合った福岡の麻薬取締官も行方不明になった。一体裏で何が動いているのか。「東京に帰らないと命の保証はない」と脅されながらも、古山を救うために鮫島は孤独な戦いを始めることになった。

 今までのレギュラー陣は一切登場しない。まさに鮫島の孤独な戦いを描いた作品である。また、鮫島が「新宿鮫」になった理由が明かされるため、ファンには応えられないだろう。
 舞台こそ鹿児島らしき場所であり、新宿とは異なるが、ストーリー展開は見事なまでのワンパターン。大沢節が冴え渡り、鮫島の友人に対する熱き思い、そしていつもながらのタフさは存分に発揮される。複雑なはずの背景を鮫島が簡単に見通してしまうため、まるで読心術者かスーパーマンに見えて仕方がないが、それも魅力の一つと割り切るべき。そう考えると、きっちりと面白く読めるから不思議なものだ。しかし、あまりにもワンパターンだとちょっと怒っていたら、同居人に「だからシリーズ物なんでしょう。そうでないと売れないよ」と言われ納得。
 このシリーズは基本的にどれから読んでもそれほど支障はない。鮫島らしさというものを知るなら、むしろこの作品を先に読んだ方がよいかも知れない。背後関係や人物関係などがごちゃごちゃしながらも、ストーリそのものは単純明快。一匹狼鮫島の魅力が溢れる作品である。




合田士郎『前科者』(恒友出版)

 元無期懲役囚で、『そして、死刑は執行された』(恒友出版)、『続・そして、死刑は執行された』(恒友出版)の作者が、仮出所後の生活を綴ったもの。天国と思った娑婆も、やはりそこは地獄だった。なにか近所で事件があればすぐに目を付けられる。履歴書に空白期間をどう埋めればよいのかわからない。事故にあっても、逆にこちらが悪いかのように取り調べられる。あげくのはてに刑事に挑発され、おもわず殴りかかろうとすると「公務執行妨害で仮釈放取り消しだぞ」と脅される。窮屈で、しかし周りの温かい目に助けられて続く生活。結婚、そして子供が。

 思ったよりハチャメチャしていたんですね、この作者。けれど、法に触れていないから別に問題ないと思う。むしろ、仮釈放だと国家資格が使えないという法律に驚き。これじゃ何のために刑務所内で資格を取らせているんだか、さっぱりわからない。出所している全員が罪を償いきったかどうかはわからないけれど、“前科者”に厳しすぎる世の中だというのは納得。作者は迎えてくれる家族があったからよかったものの、独りぼっちで放り出されていたら再び犯行に手を染めてしまうというのも何となく頷いてしまう。だからといって犯行を認めるつもりはないのだが、再び“前科者”を作り出さないように国や自治体が何らかの対処をする必要があるのは事実。「犯罪に対する罪を厳しくすべき」という声には賛成だが、「犯罪を生み出さない世の中を作る方が大事」という声にも納得。どちらの意見も両立させるべきだろうね、きっと。



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