東野圭吾『新参者』(講談社)

 小伝馬町のマンションで、一人の中年女性が絞殺された。奪われたものは何もなく、周囲の人から恨まれるようなこともなかった。彼女はなぜ殺されたのか。人情の町、日本橋に住む様々な人たちの前に現れたのは、日本橋署に着任したばかりの刑事、加賀恭一郎。事件に絡む小さな謎と、その謎によって繰り広げられる人間模様。些細な出来事でも、当の本人にとっては大事件。人情の町で、人情味溢れる加賀が未知の土地である日本橋を歩き回り、事件の謎を解き明かす。
 『小説推理』2004年に1本、2005年に2本、2008年に2本、そして2009年に4本が掲載された連作短編集。2009年9月刊行。『このミステリーがすごい!2010」、『2009年度週刊文春ミステリーベスト10』においてダブル1位獲得。

 一つの殺人事件の捜査を通し、事件にごくわずかな関連があった人たちの周囲にあった事件や悩みが、一人の刑事の行動によりいつしか解消に向かっていく短編を集めた連作短編集。短編が進むに連れ、事件の骨格や被害者の心理、そして事件の謎が徐々に明らかになっていく。最初に執筆されたのが2004年、完結が2009年。帯の言葉を見ると、作者はこの構想をずっと温めていたようであるが、よくぞ完結したなと思わせる。短編毎の独立性を保ちつつ、それでいて連作ならではの関連性に気付かされるとにやっとし、そして作品が進むにつれ被害者の思いに引きずり込まれ、最後に解決を迎えて加賀の行動について全て納得いってしまう。巧みな構成には感心させられた。
 あまり東野作品を読んでいないので何ともいえないのだが、加賀恭一郎ってこんなにソフトなイメージだったっけ? もっと切れ味鋭いイメージしか抱いていなかったのだが。
 確かに面白かったのだが、ミステリとしてよりも人情もの刑事ドラマをワンクール見せられたような感が強い。それが悪いと言うつもりは更々ないが。そう思っていたら、2010年4月より連続ドラマ化されるのね。阿部寛というのは何となくこの作品のイメージに合うかも。




ディクスン・カー『カー短編全集6 ヴァンパイアの塔』(創元推理文庫)

 全員が互いの手を握り合っている降霊会の最中、縛られたままの心霊研究家が殺された!密室状況下で死んでいた男は自殺かと思われたが、死体の周囲に凶器が見当たらない…等々、不可能興味の横溢するラジオ・ドラマ集。ここにはカーの本領が遺撼なく発揮されている。そして、クリスマス・ストーリー「刑事の休日」を併載。巻末に、松田道弘の好エッセイ「新カー問答」を収める。(粗筋紹介より引用)  降霊会の最中に、縛られたままの心霊研究家が殺された。周囲にいた人物は皆手をつないでおり、まさに幽霊が殺害したかに見えたが。フェル博士が不可能犯罪の謎を解く「暗黒の一瞬」。一応不可能犯罪ものだが、謎解きはあっという間だし、それ以上にこの結末には首をひねる。
 ハンガリーの伯爵の姪に結婚を申し込むイギリス伯爵の息子。伯爵は青年を自分の館に招待する。しかしこの館には魔物が住むという噂が。そしてレディに結婚を申し込んだ人物は皆殺害されたという。「悪魔の使徒」。似たような作品が色々あった気もするし、構成もただのサスペンス作品。
 イギリス田舎の屋敷の地下にあるプール。屋敷の持ち主である実業家が刺殺されたが、肝心の凶器がなかった。「プールのなかの竜」。トリックはカーの某短編で使用したものだが、強調すべきはむしろ結末の方か。
 フェル博士の家を訪れたのは出版社の男。彼は墓に残されていた電話番号へ誘われるようにかけてしまった。電話から聞こえてきたのは、30年前に死んだはずの女性だった。「死者の眠りは浅い」。怪奇な謎をフェル博士が合理的に解き明かすものだが、そもそも電話をかけなかったらトリックが成立しないような。
 カジノで金を失った男に、ある男が薬代を受け取る仕事を申し込む。ところが男は、背中をナイフで刺されて殺された。しかし周囲には誰もいなかった。「死の四方位」。カーの短編「銀色のカーテン」をラジオドラマ化したもの。トリックそのものは聴覚よりも視覚的なものだと思えるが。このトリックは結構好き。
 婚約したばかりの青年のところへ、殺人の権威であるグリモー博士が声をかけた。婚約者は、実は毒殺魔だという。「ヴァンパイアの塔」。これはよくできていると思う。このラジオドラマ集のベスト。
 友人である怪奇作家の挑発に乗り、“ふさわしい環境”で彼の原稿を読むべく、連れと一緒にある田舎の屋敷へ入ったが。「悪魔の原稿」。アンブローズ・ビアスの短編「ふさわしい環境」をベースに脚色した作品。不可思議な怪奇現象が最後で入れ替わるのは見事だが、多分ここはカーの脚色だと思う。
 フランス国家警察の者が白虎の通路と呼ばれる狭い道で殺された。彼は切り裂き魔を追ってイギリスに来ていた。彼と最後に話した若手新聞記者は犯人を追いかけるが。「白虎の通路」。M.Dという残された手がかりで調査を続けるが、出てくる人物は同じ頭文字の人物ばかり。事件の内容と比較してテンポはユーモア調。オチは割りとよくある手法か。
 新婚夫婦が誘われてローマにある屋敷へ。ここには300年ほど前の貴族の亡霊が現れるという。窓の外は郊外住宅地があったが、屋敷を案内されて元に戻ると窓の外は原っぱになっていた。「亡者の家」。大掛かりな消失トリックを扱っているが、アッという間に解決されてしまうので、その意外性に驚きが着いていかず、呆気なさだけ残ってしまった。
 ダイヤを奪った強盗犯が電話ボックスに入り、そして消えてしまった。クリスマスストーリー「刑事の休日」。電話ボックスからの消失というとクレイトン・ロースンの「天外消失」を思い浮かべてしまうが、そちらよりは意外性に劣る解決。まあ、クリスマスをテーマにしたちょっとした小編という程度の作品だろう。

 カーのラジオドラ9編を集め、1983年に刊行されたダグラス・G・グリーン編『The Dead Sleep Lightly』に短編「刑事の休日」を収録。巻末には松田道広の「新カー問答」も収録。
 かなり以前から発売が予告されながらも、実際に発売されたのは1998年1月。待たされたという感があった作品集だが、内容としてはカーファン以外には今ひとつといったところではないだろうか。音声があれば少しは違ったのかもしれないが、これから、と言うところで解決を迎えてしまっているものばかりである。サスペンスや不可能犯罪といったカーらしさは味わえるが、物足りなさを覚えたのも事実。それでも読むことができたからよかった。




泡坂妻夫『写楽百面相』(新潮社)

 『誹風柳多留』の板元二代目・花屋二三が馴染みの女の部屋で偶然目にしたそれ(ヽヽ)は、かつて見たこともないほどの強烈な役者絵だった。しかも役者は大坂で行方の知れない菊五郎。だれが、いつ描いたのか……。
 上方と江戸を結ぶ大事件を軸に、浮世絵、芝居、黄表紙、川柳、相撲、機関等江戸の文化と粋を描ききった力作!(粗筋紹介より引用)
 1993年7月刊行。新潮書下ろし時代小説の一冊。

 写楽の謎に迫る趣向の一冊なのだが、馴染みの女である芸者卯兵衛の謎の死、行方のしれない尾上菊五郎の謎、禁裏の秘め事を描いたご禁制の本「中山物語」の秘密……と様々な謎や事件が絡み合い、いったいいつ写楽の謎に迫るのかさっぱりわからないまま物語はどんどん進んでしまう。途中で寛政の改革を指揮した松平定信なども出てくるし、浮世絵、芝居、黄表紙、川柳、相撲、機関、手妻といった江戸の文化も物語を彩る。登場人物も蔦屋重三郎、十返舎一九、葛飾北斎などといった江戸時代を代表するような人たちばかりだ。各章の題名が一から十までの文字を順番に入れたものになっているなどの遊びなども相変わらずさすがというか。なんだか色々な要素がこれでもかとばかりに詰め込まれているから、面白いのだがいったい何を言いたかったのかさっぱりわからないというへんてこりんなところもある時代小説だ。
 最後の章には、写楽の正体にかかわる出来事や諸説などが年代順に並べられている。世の中には色々な説を唱える人がいるものだと、素直に感心してしまう。




大倉崇裕『福家警部補の挨拶』(創元推理文庫)

 冒頭で犯人の視点から犯行の経緯を語り、その後捜査担当の福家警部補がいかにして事件の真相を手繰り寄せていくかを描く倒叙形式の本格ミステリ。本への愛ゆえに殺人も辞さない私設図書館長の献身「最後の一冊」、科研警主任として鳴らし退職後は大学講師に転じた“教授”が厭わしい過去を封じる「オッカムの剃刀」、二女優の長きにわたる冷戦がオーディションを機に火を噴く「愛情のシナリオ」、経営不振で大手に乗っ取られる寸前の酒造会社社長が犯す矜持の殺人「月の雫」、以上四編を収録。刑事コロンボをこよなく愛する著者が渾身の力を注ぐ第一集。(粗筋紹介より引用)
 『ミステリーズ!』Vol.12〜15に掲載された短編4本を集め、2006年6月に単行本として発売された短編集。2008年12月、文庫化。

 『刑事コロンボ』をこよなく愛し、ノベライゼーションも出している作者が、コロンボの手法を用いて執筆したシリーズ。主人公は名字と容姿以外がわからない女性警部補、福家(ふくいえ)。刑事に見えない姿や、いつの間にか犯人の側まで接近しているというのはコロンボと同じ……なんだろうなあ。実はコロンボも古畑も見たことがないので、よくわからないんだが(苦笑)。
 犯人の視点から犯行を描き、その後捜査担当者が徐々に真相に迫り、思いもよらない犯人のミスを指摘して逮捕するという姿は、スタンダードすぎるほどスタンダードな倒叙形式の本格ミステリである。本作はいずれもその形式を踏襲しているので、倒叙ファンとしては実に嬉しい。正直なことを言えば、手がかりの出し方が少々露骨すぎる気がしないでもない。推理というよりは、なんとなくだけど違和感を覚えるようなところがだいたい犯人のミスに繋がっている程度の話なんだが。
 このシリーズの欠点と言えば、本来その長所ともいうべきところ。形式がいつも同じなので、中身はどうあれ、「ああ、こうなるんだろうなあ……」と思わせてしまうところである。いってしまえばワンパターンであり、さらに福家の存在感が希薄であることから、課題はそのパターンを超えるべき犯行、もしくは登場人物を出すことができるかどうか。ということで次作に期待したい。いや、続編が単行本で出ていることは知っているんだけど。




笹本稜平『挑発 越境捜査2』(双葉社)

 警視庁捜査一課で継続捜査を担当する特別捜査一係に所属する鷺沼知也警部補は、総資産額数千億円というパチンコ・パチスロ業界の雄、飛田不二雄のオフィスを訪ねる。7年前、殺人容疑で拘留されていた玉川警察署の屋上から飛び降り自殺した身元不詳の被疑者が、飛田の従弟である川端久敏であることが偶然判明したからだ。しかも川端には事件当時のアリバイもあったことが判明。殺害された人物は主に基盤などを作る電子部品会社のオーナーだった。飛田は30年近く会っていないと話した。しかし、後から連絡を入れてきた美人秘書の深見亜津子は、鷺沼にこう告げた。「7年前の2月、飛田は川端さんと会っている」と。飛田には様々な黒い疑惑があったが、パチンコ・パチスロ業界と構造的に癒着している警察庁生活安全局から所轄の生活安全課までの組織は、飛田に手を伸ばすことを許さなかった。せっかくのチャンスと、かつて玉川警察署に所属していた三好係長は二課と手を組んで捜査に当たるが、飛田と手を結ぶ上層部は次々と妨害の手を伸ばす。鷺沼は若手刑事の井上や、かつて手を組んだことがある神奈川県警の不良刑事宮野、やくざの福富とともに、巨大な敵に立ち向かう。
 『小説推理』2008年8月号〜2009年9月号まで連載された作品を加筆・修正し、2010年2月に刊行。

 前作『越境捜査』で痛快な活躍ぶりを見せた鷺沼&宮野のコンビが帰ってきた。どちらかといえば正義の熱い心を持っている鷺沼と、ばくち好きで金儲けになることを探し回っているような宮野という正反対な性格の二人が、時には互いの欠点を補い、時には自らの長所を生かす形で事件にぶつかっていく。前作でも活躍したやくざの福富、パソコンが得意な若手刑事の井上、上司の三好係長も登場。正義に立ち向かうべく、もしくは金儲けのため、などと動機はそれぞれ異なりながらも、見事なチームワークで巨大な敵に立ち向かう姿は読んでいてスカッとするものがある。本作は前作より単純なようで実はかなり込み入っており、どこに真相があるのかを追い求める点でも十分に楽しめる。飛田、深見などの登場人物もそれぞれ魅力的に描かれいているし、意外な伏線の張り方など構成も巧みな仕上がり。帯にある「事件の謎にグイ、グイ、グイたっぷり読ませる警察小説」という惹句が珍しく的確。警察小説で、また一つ楽しみなシリーズが増えたと言ってよいのではないだろうか。愉快痛快な傑作であり、広く読まれてほしい。
 どうでもいい指摘かもしれないが、最後はいくら何でも早すぎ。作者が勘違いしている気もするが、どう頑張ったって、そんなに早い手続きは有り得ない。いくらなんでも、殺人事件の容疑なのに送検から3週間で裁判が始まるわけがない。しかも送検後に贈賄と脱税で再逮捕しているんだろう。送検の後に起訴の手続きがあることすら忘れているんじゃないか。




逢坂剛『兇弾』(文藝春秋)

 悪徳刑事ハゲタカこと禿富鷹秋が遺した神宮署の裏帳簿のコピー。これが表に出ては、警察官僚全体をも揺るがす大事件となる。ノンキャリアながらも出世した警察庁長官官房特別監察官の松国輝彦警視正は警察庁次長浪川憲正警視監に公表するよう迫るが、握りつぶされた。一方、ハゲタカの死に関わった神宮署生活安全捜査班の悪徳警部・岩動寿満子は、ハゲタカの動きで壊滅寸前まで陥りつつも、復活し始めた南米犯罪組織・マスダ日本支部と手をつなぐ暴力団伊納総業幹部の笠原龍太を操り、ハゲタカと関係の深い渋六興業の熊代彰三会長を殺害する。すでに引退同然の人物を殺害した理由は。そしてハゲタカからコピーを手渡されていた神宮署生活安全捜査班の御子柴繁警部補に、様々な接触の手が伸びてきた。
 神宮署、警察庁、マスコミ、暴力団に加え、禿富鷹秋の未亡人司津子までが裏帳簿のコピーを巡り暗躍する。禿鷹シリーズの完結?作品。『別冊文藝春秋』2008年7月号〜2009年11月号掲連載。

 悪徳刑事ハゲタカこと禿富鷹秋の活躍については前作『禿鷹狩り』で完結したが、神宮署の裏帳簿のコピーという爆弾は残されていた。本作ではそれを巡り、過去の登場人物が様々な動きを見せる。今までのシリーズで残されていた謎の完結編でもあり、総決算ともいえる。シリーズの主人公が既に死んでいるのに、総決算も何もないものだが、これもまた作者の腕なのかもしれない。
 本作で特に強烈なインパクトを残す登場人物は、目的達成のためならどんな手段でも執ろうとする女警部・岩動。その冷酷なまでの行動原理には恐れ入るし、ただ試験の結果がよかっただけで実際は甘ちゃんであるキャリア(ここでは警察庁警備企画課参事官、朝妻勝義警視正が代表格)とは何から何まで役者が違う。また、そんな岩動の攻撃や追求をひょうひょうと躱し続け、ノンキャリアならではの処世術を見せつける御子柴もたいしたものであり、そしてシリーズ初登場(一応前作最後にちょこっとだけ出ていたが)である禿富司津子の活躍にも驚きである。
 警察側の登場人物で、「正義に燃える」人が誰一人いないことには現実を見せられたような気もするが、それは仕方のないことか。マスコミの汚い部分についてはどうでもいいけれど。
 今までのシリーズで活躍していた渋六興業の野田憲次や水間英人の活躍が今ひとつだったのは残念だったが、マスコミ側も含め、今まで張られていた伏線の多くが回収された一気呵成の結末は見事。連続するアクションシーンも含め、読了感は爽快である。
 唯一といえそうな疑問点は残されているが、これに関して続編はあるのだろうか。




泡坂妻夫『恋路吟行』(集英社)

 奇術サークルを主催する作家青瀬のところへ、作品に出てくる奇術師ジャジャマネクの名前を使わせてほしいときた若者のその後。「黒の通信」。
 奇術サークルを主催する作家青瀬は友人たちとともにスイスの奇術大会へ出かけたが、そこで奇妙な仮面の話を聞いた。「仮面の恋」。
 高男は妻の美佐や子供の友仁とともにフランスから5年ぶりに日本へ帰国することになった。その飛行機に乗り合わせた怪しい客たち。「怪しい乗客簿」。
 兄嫁に横恋慕した私は思いきって誘ったところ、思いもかけず関係を結ぶことになった。ずるずると続く関係の結末は。「火遊び」。
 俳句の会による2泊3日の旅行で能登に来ためぐみ。そんな彼女に、妻との不仲に悩む景一が近づいてきた。不倫の関係に傾きつつあるめぐみ。「恋路吟行」。
 酒に酔って帰ってきた夜。男は雪に残っている足跡から妻が浮気をしていることを知った。相手と思われるのは、自分の下で働いている男3人のうちの誰か。「藤棚」。
 明治時代から続いていた旅館がホテルとして改装されることになった。これを機に引退するつもりであった女将は過去を思い出す。「勿忘草」。
 安政の大地震時、大きな荒物屋の娘であった5歳のるいは、栄吉という9歳の少年にさらわれると同時に、二人は前世が恋人同士であったと告白されると同時に求婚された。栄吉のために、るいの人生は大きく変化する。「るいの恋人」。
 展覧会に飾られた鏡子の胡蝶蘭の絵。しかし2本の胡蝶蘭はいずれも同じ処の花弁が散っていた。この絵の意味するところは。「雪帽子」。
 縫紋屋の男が語る、戦中と戦後に接した母と継母に纏わる話。「子持菱」。
 1989年〜1993年、『週刊小説』『小説すばる』に発表された短編小説をまとめ、1993年10月に刊行された短編集。

 泡坂妻夫といえば本格ミステリの名手であったと同時に恋愛小説の名手でもあったが、本短編集は恋愛小説にちょっとミステリっぽい味付けをしたものが中心に集められている。職人芸といえば聞こえがいいが、逆を言うと思いついた技巧で作品を書いているという印象。巧くできていると思うし、読んでいる分には面白いのだが、心に残る作品はなかった。
 あえて挙げるなら、江戸末期から明治時代にかけての前世も絡めた運命を描いた「るいの恋人」や、男の告白が意外な方向へと進みだす表題作「恋路吟行」が本作品中のベストか。



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