大石直紀『テロリストが夢見た桜』(小学館文庫)

「博多発東京行きのぞみ16号を乗っ取りました」
 新幹線運行本部にかかってきた一本の電話。犯人は日本に拘留中のイラク人大物テロリストと来日中のパウエル米国務長官とのテレビ生討論を要求してきた。さらに大勢の人質の身代金としては少額の一〇〇万ドルを用意せよと。
 次々と講じてくる犯人の奇策に翻弄される警察。姿の見えない犯人に怯える乗員乗客。厳重警戒のなか、のぞみは刻一刻と“終着点”へと向かっていく。果たして犯人の目的は反米テロか金か、それとも……。テロリストが描いていた意外な「夢」とは――。第三回小学館文庫小説賞受賞作。
 2003年11月に単行本で刊行された作品を一部加筆訂正の上、2006年4月に文庫化。受賞時のタイトルは『ジャッカーズ』。

 作者の大石直紀は1999年、『パレスチナから来た少女』で第2回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞してデビュー。2003年に本作で小学館文庫小説賞を受賞。2006には『オブリビオン』で第26回横溝正史ミステリ大賞テレビ東京賞を受賞している。これだけ賞を取っていればそれなりの実力があると見るべきなのだろうが、逆を言うと賞止まりの実力しか持ち合わせていない、ということにつながるのかもしれない。三作ぐらいで出版社から切られた別の賞に応募していることは、本人もインタビューで語っている。
 本作品も設定は面白いのだが、犯人の行動にはどうしても素人くささが目立つ。逆に言えば、この程度のことで翻弄される警察も警察。そのくせ犯人の名前や背景は簡単にわかってしまうのだから、ちぐはぐだ。それにいくら人命がかかっているとはいえ、米国務長官が簡単にテロリストとのインタビューに応じるというのも不自然。これだけの事件なのに政治家サイドや官僚が全く描かれないのも奇妙。結末も中途半端すぎ。のぞみ乗っ取りというスケールの大きさのわりに、書かれていることがせせこましい。それにこのテーマなら、車掌の中途半端なエピソードや背景などは無意味。枚数制限があるのだから、車掌の話を削って、追う側のほうをもっと書き込んでほしかった。
 中途半端なサスペンス。『パレスチナから来た少女』を読んだときもたしかそう思ったはず。大きな事件を書くのなら、もっともっと書き込むだけの努力をしてほしい。行間から作者の努力がにじむくらいに。




高田郁『今朝の春 みをつくし料理帖』(ハルキ文庫)

 月に三度の『三方よしの日』、つる家では澪と助っ人の又次が作る料理が評判を呼び、繁盛していた。そんなある日、伊勢屋の美緒に大奥奉公の話が持ち上がり、澪は包丁使いの指南役を任されて――(第一話『花嫁御寮』)。戯作者清右衛門が吉原のあさひ太夫を題材に戯作を書くことになった。少しずつ明らかになってゆくあさひ太夫こと野江の過去とは――(第二話『友待つ雪』)。おりょうの旦那伊佐三に浮気の疑惑が!? つる家の面々を巻き込んだ事の真相とは――(第三話『寒紅』)。登龍楼との料理の競い合いを行うこととなったつる屋。澪が生み出す渾身の料理は――(第四話『今朝の春』)。全四話を収録した大好評シリーズ第四弾!!(粗筋紹介より引用)
 大人気シリーズ「みをつくし料理帖」第四弾。2010年9月刊行、書き下ろし。

 大ヒット中のシリーズ四作目。小松原の正体が明らかになったり、野江の過去が少しずつ明らかになったりと、現在の物語の進展と、過去に隠された過去が少しずつ明らかになっていく二つの流れがしっかりしているから、読んでいても飽きが来ない。澪が料理に対して一途に突き進むところもまたよし。運命に翻弄されつつ、定めを乗り越えようと努力するその姿が美しい。このシリーズ、どういう結末を迎えるのかわからないが、しばらくはじっくりと楽しみたい。
 それにしても、澪が作る料理は相変わらずうまそう。小説を読んで、こんなに腹が空くシリーズも珍しい。




佐々木丸美『花嫁人形』(講談社文庫)

 人格者の父、しとやかな母、何不自由ない四人の姉たち。そんな家族の中で、私はひとり愛に無縁だった。読み書きさえとりあげられ、大人たちの打算にもてあそばれるみじめな孤児の私の心にも、しかし、激しい恋はひっそりと芽生えていった……。冷酷な宿命に耐えて生きる一人の少女の愛と哀しみを描く、「雪の断章」「忘れな草」につづく長編小説。(粗筋紹介より引用)。
 1979年2月、講談社より刊行。1987年5月、文庫化。

 『雪の断章』『忘れな草』の姉妹編で、「孤児四部作」の三作目。四作目は『風花の里』。『雪の断章』の飛鳥、『忘れな草』の葵と続く本作品の主人公は昭菜。メルヘンチックで、時折詩情を挟むような文章は変わらない。また例によって禾田氏が黒幕として存在するところもいっしょ。北の街で、複雑すぎる一族の感情が絡まりあうところも変わらない。そして、物語の流れを削ぐような説明を省き、ともすれば読者を置いてきぼりにするぐらいの展開で物語が進むところも変わらない。だから、作者のことが好きな読者でないと、この作品についていけないことも事実。前作よりは読みやすかったが、それでもしんどいことには変わりない。
 ファンタジーといってしまえばそれまでなんだが、読んでいてもつらいなあ。それにしても奈津子の設定なんて、『雪の断章』の頃から頭にあったのだろうか。酷いと言ってしまえばそれまでだが。




高野和明『6時間後に君は死ぬ』(講談社文庫)

 6時間後に死ぬと予告された原田美緒。予告した山葉圭史は、未来を予言するビジョンが時々見えるという。その不思議な力を目の当たりにした美緒は、もしかしたらストーカーの沼田が犯人ではないかと疑う。美緒は圭史とともに沼田を捜すが。「6時間後に君は死ぬ」。
 29歳、プロットライターの朝岡未来は、昔遊んだ神社の裏の防空壕へ行く。そこで偶然で会うことになったのは、20年前の自分だった。未来には20年前、1日だけ行方不明になり、しかもその間の記憶が全くないという過去があった。「時の魔法使い」。
 飽きっぽくてすぐに彼氏を変えてしまう未亜は、中学の時から6年続いていた彼氏いる歴が途絶えてしまった。親友の裕美子は、よく当たるという大学院生の占い師に相談することを提案する。占い師と噂される山葉圭史は、未亜に向かって「今度の水曜日だけは、恋をしてはいけない」と告げるのであった。「恋をしてはいけない日」。
 ルームメイトの亜紗香とともにプロのダンサーを目指している美帆。しかしオーディションに受からない毎日は、少しずつ彼女の夢を削っていく。一方、菅原小夜子という作家が作った「ドールハウス・ミュージアム」は、今月末で閉鎖することが決まっていた。創設者である小夜子は20年前に亡くなる前、甥である館長に閉館する日を告げていた。しかもこの建物は、最後の日にやってくるゲストのために創られたという。「ドールハウスのダンサー」。
 大学院の博士課程に進んだ山葉圭史は、自分が招待されている知人の結婚式場で、自分が死ぬというビジョンを見た。その結婚式場で出会ったのは、5年前に会った原田美緒であった。美緒はあれから結婚式場のアテンダントとして働いていた。圭史が見た、パーティ会場で自分が焼け死ぬというビジョンのことを聞き、美緒はそれを回避すべく圭史と行動をともにする。「3時間後に僕は死ぬ」。
 乱歩賞受賞第一作短編「6時間後に君は死ぬ」を初めとする、連作短編集。2007年5月刊行単行本の文庫化。

 時々未来を予言するビジョンを見てしまうという山葉圭介を狂言回しに据えた連作短編集。サスペンス、ファンタジー、恋愛小説、青春小説と様々なジャンルを書き分けている。過去が見えるという人物を配しながら、全く違う作風の作品を書くという点については感心するが、それが面白かったかどうかといわれると微妙。未来が見えるという人物を出す必然性については、「時の魔法使い」を除けば一応あるわけなのだが、別設定でもよかったんじゃない、などと思ってしまう。しかも「時の魔法使い」では未来と圭史が付き合っているというし。
 ただ、最初と最後の作品はなかなかの仕上がり。のちにテレビドラマにもなっているが、いかにもドラマ風の盛り上がりをうまく盛り込んだサスペンスとして成功している。「3時間後に僕は死ぬ」についてはちょっとやりすぎという気もするが、脅迫状の意外な謎も含め、面白い出来である。
 久しぶりに高野和明を読んだけれど、面白いわ。この人、もっと売れてもいいと思うんだけれどね。



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