宮部みゆき『楽園』上下(文春文庫)

 未曾有の連続誘拐殺人事件(「模倣犯」事件)から9年。取材者として肉薄した前畑滋子は、未だ事件のダメージから立ち直れずにいた。そこに舞い込んだ、女性からの奇妙な依頼。12歳で亡くした息子、(ひとし)が“超能力”を有していたのか、真実を知りたい、というのだ。かくして滋子の眼前に、16年前の少女殺人事件の光景が立ち現れた。(上巻粗筋より引用)  16年前、土井崎夫妻はなぜ娘を手にかけねばならなかったのか。(ひとし)はなぜその光景を、絵に残したのか? 滋子は二組の親子の愛と憎、鎮魂の情をたぐっていく。その果てにたどり着いた、驚愕の結末。それは人が求めた「楽園」だったのだろうか――。進化し続ける作家、宮部みゆきの最高到達点がここにある!(下巻粗筋より引用)
 『産経新聞』2005年7月1日〜2006年8月13日連載。2007年8月、加筆・改稿の上単行本化。2010年2月、文庫化。

 宮部みゆきの代表作の一つである『模倣犯』から9年後を舞台とし、真犯人の正体を暴いたフリーライター・前畑滋子を主人公とするスピンオフ作品。 冒頭から、誰もが知らない秘密を絵に描くという「予知能力」を持つ少年の話が登場するため、これは宮部お得意の超能力ものかと思わせた。上巻は、母親からの依頼を受けた滋子が延々と取材を続ける。取材と言っても、発表するつもりはないのだから、捜査といってよいかも知れない。16年前に発生し、既に時効となった娘殺人事件の謎を追うようになる。
 それにしても長い。滋子が等の超能力を信じるまでに丸々上巻分を使っているぐらいである。底の部分を丁寧と見るべきか、冗長と見るべきかによって、本作品の評価は少し変わるかもしれない。ちなみに私の評価は後者である。それは、下巻もだらだら続いているから思ったことなのかもしれない。
 なんというか、本来は等の超能力について調べていたはずなのに、いつの間にか土井垣夫婦による娘殺人事件の方に主題が移ってしまい、さらにこの娘とかかわっていた三和明夫の話に流れ、最後はすべてが一つに集約する。その流れがまどろっこしい。遠回りしているわけではないのだろうが、読み終わってみればもっと短くできたんじゃないかと思わせる部分も多い。
 それもこれも、結局は主人公が前畑滋子という点にあるのではないだろうか。このストーリーなら、主人公がで滋子ある必然性はなく、単純に著名な女性ジャーナリストというだけでよかったはず。そうすれば、もっと早くゴールをむかえていただろう。滋子が『模倣犯』の過去に囚われるシーンが、この作品でははっきり言って余計である。多分この作品を読む人で、『模倣犯』を読んでいない人はいないだろうと思うけれど、読んでいない人から見たらわけのわからない部分が多く、読んだ人から見たら結局はファンサービスでしかなかった。そこがなければ、このラストで書かれた「楽園」の意味も、もう少し明確に浮かび上がったに違いない。
 個人的な評価としては微妙。読んでいて退屈はしない作品ではあるが、それ以上ではなかった。




網本善光・南一平『岡山ぶらりスケッチ紀行』(日本文教出版岡山 岡山文庫)

 ともに笠岡市に住む二人が、笠岡や井原線、そして金田一耕助の舞台となった場所を文章とイラストで紹介。
 中国新聞で連載されたみちくさ紀行シリーズ、「鴨方往来笠岡路」(平成11年5月〜11月)、「井原線各駅停車」(平成12年8月〜12月)、「金田一耕助の影を追って」(平成15年8月〜平成16年5月)のシリーズ3本をまとめ、2011年6月に刊行。

 網本さんは岡山で行われる横溝正史関連のイベントに金田一耕助のコスプレで登場し、その軽妙な語り口で楽しい案内を行っている。トークショーなどでも、現役の作家とともに横溝ワールドを語る、四十年以上の横溝ファンである。新聞や雑誌、テレビなどにもコスプレ姿で登場しているので、そちらの方で見られた方がいるかも知れない。『横溝正史研究』などにも執筆されているので、知っている方もいるだろう。
 本書はそんな網本さんの暖かく優しい視線の文章と、同じく岡山に在住する漫画家の南一平さんによる柔らかいタッチのイラストで綴られる紀行文である。
 新聞連載ということもあり、それぞれの文章がちょっと短いことは残念なのだが、お二人の人柄がそのまま伝わってくる素敵な文とイラストが、読者の心を優しく包み込んでくれる素敵な一冊である。
 横溝ファンなら、「金田一耕助の影を追って」を是非読んでもらいたい。岡山県を舞台とした金田一作品のすべてが描かれている。あのとき読んだ、金田一耕助の姿が、現場の風景が、再びあなたの脳裏に浮かんでくるはずである。



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