連城三紀彦『人間動物園』(双葉文庫)

 記録的な大雪にあらゆる都市機能が麻痺するなか、汚職疑惑の渦中にある大物政治家の孫娘が誘拐された。被害者宅の至る所に仕掛けられた盗聴器に、一歩も身動きのとれない警察。追いつめられていく母親。そして前日から流される動物たちの血……。二転、三転の誘拐劇の果てにあるものとは!? 連城マジック炸裂の驚愕ミステリー。「このミステリーがすごい!」2003年版・第7位。(粗筋紹介より引用)
 2002年4月、双葉社より単行本刊行。2005年11月、文庫化。

 誘拐事件なのに、誘拐された被害者の家に行くことができず、隣の家から情報を仕入れる捜査陣。何か腹に一物ありそうな登場人物群。なぜか殺される動物たち。いたるところに仕掛けられている、怪しそうな文章と伏線。意味深なタイトル。意外な結末。まあ、確かに一言で言い表すのなら連城マジックだな。これだけの仕掛けを成立させたその腕には脱帽するのだが、それが面白かったかどうかと言われれば話は全く別。ぶっちゃけて言ってしまえば、結末、これでいいの、と言いたくなる作品。被害者の言動や行動にも首をひねるところが多いし、警察の動きも今一つ。警察に駆け込んでいれば終わったんじゃないの、という疑問については作者の回答もかなり苦しいと感じる。そしてこれは好みの問題だろうが、犯人の動機や行動が勝手すぎ。他の登場人物も含め、イライラする人たちばかり。読んでいる自分も含め、そういう自分勝手な世情を表している作品なんじゃないかと、邪推するぐらい。
 読者を選ぶ作品であることには間違いない。人間心理にこだわらない人だったら、この仕掛けを喜ぶんじゃないだろうか(とかなり偏見な見方をしてみる)。




高木彬光『神津恭介、犯罪の蔭に女あり』(光文社文庫 神津恭介傑作セレクション2)

 台風の影響で強い風が吹く街中を歩いていた恭介は、美人劇場というストリップ劇場のポスターに「死」という文字が付け加えられていたのを見つけた。気になった恭介は、そのポスターが貼られていた廃墟の映画館に入ると、女性の絞殺死体を発見する。それは美人劇場の踊り子であるストリッパーだった。「死美人劇場」。
 東洋新聞社会部記者の真鍋雄吉は、殺人事件があったという電話を受け取り、実際に死体を発見する。数日後、犯人を見たという女性の証言を記事にしたまではよかったが、それは数日前、東洋新聞の人生相談に投稿した嘘ばかりつく女性であった。「嘘つき娘」。
 戦前に起きた三つの未解決殺人事件で、同一人物と思われる男性が姿を現していた。その風貌から、捜査当局は彼を青髭と呼んでいた。そのことを雑誌に書いた松下研三は、浅草のレビュー劇団から上演したいという依頼を受ける。その上演初日、劇団の主演女優が舞台で斬殺された。「青髭の妻」。
 渋谷の酒場で飲んでいた松下研三は、追いかけられていると飛び込んできた女性をアパートまで送っていく。その帰り道、持っていたカバンの中に拳銃が入っていたことに気付く。次の日、兄である捜査一課長の要請で恭介と研三は女優殺人事件の捜査に加わる。その帰り道、昨日の出来事を研三から聞いた恭介は興味を示し、アパートを訪れるが、そんな女性は住んでいなかった。「女の手」。
 定期演奏会の帰りに喫茶店でコーヒーを飲んでいた恭介の前に、見知らぬ女性が座る。女性は恭介が夕刊を読んでいるのを見ると、自分のコーヒーカップにダイヤの指環を落とし、恭介のカップと入れ替えて出て行った。恭介は追いかけて女性を問い詰めるが、後ろからクロロホルムを嗅がされ眠りこける。目が覚めたところは、女性がつぶやいた銀杏屋敷で、そこでは4年前に持ち主の女性とその恋人がゆくえ不明になっていた。「ヴィナスの棺」。
 恭介は名古屋駅から研三がいるホテルまで行こうとタクシーに乗ったが、そこへ女性が駈け込んで助けてほしいと訴える。一緒にタクシーに乗り、自分だけ先にホテルで降りたが、間違えて女性のボストンバックを持っていった。そのバックには血痕が残っていた。「血ぬられた薔薇」。
 1949年から1955年に発表された作品をまとめたオリジナル短編集。2013年5月刊行。

 神津恭介作品の中から、女性にまつわる短編6作品を収録した傑作セレクション……と謳っているのだが、うーん、これのどこが「傑作」なんだ? なんでまた、通俗作品ばかり集めたのだろう。神津作品なら、「わが一高時代の犯罪」みたいな名作が残されているじゃないですか。「挽歌」みたいな神津の過去話みたいな作品も残っている。この辺は、神津恭介の過去編あたりをまとめるつもりなのかな。まあ、早く次を出してほしいもの。
 収録された6編は、いずれも神津の推理を楽しむというよりも、通俗的な作品展開や事件動機を楽しむ作品。本格推理小説を楽しみたい、という人には向かないセレクションである。それにしても、山前譲の草食系男子を絡めた解説はやめてほしかった。だいたい、神津恭介は草食系男子でもなんでもないだろう。



【元に戻る】