法月綸太郎『ノックス・マシン』(角川書店)

 上海大学のユアンは国家科学技術局からの呼び出しを受ける。彼の論文の内容について確認したいというのだ。その論文のテーマとは、イギリスの作家ロナルド・ノックスが発表した探偵小説のルール、「ノックスの十戒」だった。科学技術局に出頭したユアンは、想像を絶する任務を投げかけられる……。発表直後からSF&ミステリ界で絶賛された表題作「ノックス・マシン」、空前絶後の脱獄小説「バベルの牢獄」を含む、珠玉の中篇集。(「BOOK」データベースより引用)
 2013年3月、角川書店より単行本刊行。

 収録作品は「ノックス・マシン」、「引き立て役倶楽部の陰謀」、「バベルの牢獄」、「論理蒸発−ノックス・マシン2」の4編。
「ノックス・マシン」は2058年の未来を舞台に、なぜノックスの十戒の第五項は「探偵小説には、中国人を登場させてはならない」なのかという謎を追いかける話。主人公はタイムマシンで過去にまで行くのだが、その前段までの話が長い、長い。SFと本格ミステリを融合させようとした……というのではなく、SFの材料と本格ミステリの材料を混ぜ合わせたという作品。数理文学解析という創作した研究テーマが主題となっているのだが、これが読んでいて退屈。好きな人には面白いんだろうなあとしか言い様がない。オチについては脱力感しかなかった。
「引き立て役倶楽部の陰謀」 は、本格ミステリのワトソン役たちを集めた「引き立て役倶楽部」が舞台。といってもこれには元ネタがある。W・ハイデンフェルトの「「引立て役倶楽部」の不快な事件」という短編で、『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』に収録されている。名探偵たちがたまたま不在で、ワトソン役が仕方なく事件の謎に当たる。アイディアとしては面白かったが、さすがにこれ1作で終わった模様。個人的には「脇役クラブ」の名前で覚えていたんだが。それはともかく本作は、クラブの緊急理事会でワトソン役の立場を揺るがす『そして誰もいなくなった』を書いたクリスティーをどうすべきか、という議論がなされ、一部の陰謀をヘイスティング大尉が阻止しようとする話。クリスティー失踪事件も絡めて上手く仕上がっているが、どちらかといえば作者のクリスティー論を小説に混ぜ込んだような短編である。『そして誰もいなくなった』『アクロイド殺し』『カーテン』は、事前に読んでおいた方がよい。
「バベルの牢獄」 は、緊張状態にあるサイクロプス人の惑星に工作員として潜入してとらわれの身となった私が、相棒からの意味不明なメッセージを元に脱獄しようとする話。SF設定を軸にして以下に脱出するかという脱獄ミステリとはなっているが、この設定を理解するのが正直面倒くさい。読んでいて苛立ってくる。生理的に受けつけない。読み終わっても、つまらなかったという言葉しか残らなかった。
「論理蒸発――ノックス・マシン2」 は「ノックス・マシン」の続編。あらゆる情報を収集・管理しているデータセンターのテキストが炎上する。その火元は『シャム双子の謎』だった。結局は法月による『シャム双子の謎』論で、それにSF設定を交えて小説化しているに過ぎない。テクニックは認めるが、面白いかと聞かれたら面白くないと答えるしかない。
 黄金時代の本格ミステリの知識が必要とされる作品集であり、さらにSF要素を交えて評論を小説化したような作品集でしかないから、好きな人にしか受け入れられないことを覚悟に書いた作品としか思えない。マニアのごく一部に受け入れられればそれでいい、という作品なのだろう。今まで読んだ法月作品の中で、一番つまらなかった。
 これが『このミス』1位か。本屋に並んでいるのを見て何となく買った読者は、ポカーンとしたことだろう。



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