別冊宝島編集部『プロレス 暗黒回廊』(別冊宝島2582)

 毎度おなじみプロレス暴露ものシリーズ。今回は泉田純が亡くなったこととノア(商号変更しピーアールエヌ)が破産したこともあってか、特集「ノア「破産」の後始末」と題し、泉田純が宝島編集部と接触した2011年から亡くなるまでのやり取りが一部始終書かれるとともに、当時のインタビューが復刻された。ただ内容的には泉田とのやり取りと破産に至るまでの経緯がほとんどであった。泉田と編集部とのやり取りなどどうでもいいし、破産に至るまでの経緯は今まで書かれたものをまとめただけ。内容としてはあまりにも薄っぺらいものだった。
 他には、柴田と本間が重傷となったことへの警告、元全日本プロレスオーナーだった白石伸生が新事業で財務省から業務停止命令を受けた話(よくよく考えるとプロレスとはほとんど縁のない話だが……)、アントニオ猪木が愛人ととうとう再婚した話、JWPが解散・独立した裏事情(あの『週刊ゴング』元オーナーが絡んでいたとは知らなかった)などが書かれている。猪木の再婚は週刊誌に載ったのかな。載っていなかったとしたら、この本の意義もあるのだが。JWPについては、『週刊プロレス』で触れるわけにはいかなかったのだろうなあ、と思ってしまう。こんな裏事情、表に出せないわな。あとはページ稼ぎばっかり。ただ、桜井康雄についてはもっとページが欲しかった気がする。東スポじゃ書けない裏事情、もっとあっただろうに。




セオドア・ローザック『フリッカー、あるいは映画の魔』(文春文庫)

 映画の中には魔物がいる――場末の映画館で彼の映画を観た時からジョナサンはその魔物に囚われてしまった。魔物の名はマックス・キャッスル。遺された彼の監督作品を観るにつけ説明できない何かの存在を感じるのだが……。ミステリーファンのみならず、映画ファン、文学ファンをも満足させた98年度ミステリー・ベスト1!(上巻粗筋より引用)
 大学の映画科教授となったジョナサンは幻の映画監督マックス・キャッスルの謎を追いつづける。どう観てもB級としか評価できない作品の、なにがこんなに彼を惹きつけるのだろうか。その答えはフィルムの中に隠されていた! 映画界の「闇」をめぐる虚実のあいだに、壮大な仕掛けをめぐらせた危険なゴシック・ミステリー。(下巻粗筋より引用)
 1998年6月、邦訳単行本刊行。1999年12月、文庫化。

 20年前の大作ということは知っていたが、ようやく手に取ることができた。それにしても上下巻でトータル1000ページ、しかも1ページ当たりの文字数が通常より多い。ただ、それでも夢中で読んだという感想が納得してしまう出来であった。タイトルにある“フリッカー”とは、画面にトリックを正確に仕掛ける方法のことを指す。
 ただ、1920年代から50年代くらい?までの映画の話が上巻途中まで延々と続き、映画に全く興味のない私にはちんぷんかんぷんなところが多かった。当時大学生である主人公のジョナサン・ゲイツと、古いフィルムばかりを流すクラシック座の女経営者クラリッサとの濃い関係の描写がなかったら、途中であきらめていたかもしれない。それと、流れるような邦訳がなかったら、挫折していただろう。会話よりも一人称の一人語りの方が多いこれだけの量を読ませる大きな要因の一つは、この流麗な邦訳にある。
 話は1940年代に消えた伝説の映画監督、マックス・キャッスルに焦点が移り、ジョナサンがその背後を調べていくうちにハリウッドの闇が顔を出し、さらにカタリ派とかが絡んでくるという壮大な展開。そもそもカタリ派なんて名前ぐらいしか知らないし、神経記号学とか言われてもさっぱりわからない。それでも付き合っていると驚くべきラストに流されてしまう。
 いやはや、なんともすごい内容、すごい展開。言い表せる言葉が思いつかなくて情けないが、「すごい」としか言いようがない。映画監督の謎から中世の謎まで引きずりまわされ、惑わされ、それでも読者を興奮させるのだから、すごいとしか言いようがない。
 映画ファンでもない私ですら興奮するのだから、映画ファンだったらもう震えまくるだろうなあと思ってしまう。途中で語られる映画批評(これは私は興味なかったが)、マックスの撮影手法(これは非常に楽しく読んだ)なども必見だ。
 傑作って、いつ読んでも面白いものだ。しかもこれは大傑作。映画ファンなら読まずにいられない、映画ファンでなくても読まずにいられない。




秋月涼介『月長石の魔犬』(講談社ノベルス)

 右眼に藍玉のような淡い水色、左眼に紫水晶のような濃い紫色の瞳をもつ石細工屋店主・風桜(かざくら)青紫(せいし)と、彼を慕う女子大生・鴇冬(ときとう)静流(しずる)。先生に殺されたいと願う17歳の霧嶋悠璃。境界線を彷徨う人々と、頭部を切断され犬の首を縫い付けられた屍体。異常と正常。欲望と退屈。絶望と救い。根源を射つメフィスト賞受賞作。(粗筋紹介より引用)
 2001年、第20回メフィスト賞受賞。2001年6月、講談社ノベルスより刊行。

 頭部を切断し、犬の首を縫い付ける。誰が考えてもサイコホラーものだが、読んでいても怖さは全くなく、言葉足らずな表現が物足りないだけ。何の意味もない読みにくい名前の登場人物たちが鬱陶しいし、短い章ごとに視点が切り替わるのも非常に読みづらい。物語にほとんどからまない登場人物なんて、出す意味がないだろうと言いたい。警察の捜査もいい加減というか、出鱈目。素人の犯行なのだから、もっと早く犯人に辿り着いてもよさそうなもの。犯人の設定も無理があるし、伏線も何もないから結末を聞かされて唖然とするだけ。頭部を切断し、犬の首を縫い付けた動機があまりにも安易というか、簡単に流しすぎ。一番大事なところだろう、そこ。最後の謎解き、推理も何もなくどうしてそこまで組み立てられるか、不思議で仕方がない。
 読んでいて、悪口ばかり思い浮かんでくる。駄作。




井上真偽『その可能性はすでに考えた』(講談社ノベルス)

 かつて、カルト宗教団体が首を斬り落とす集団自殺を行った。その十数年後、唯一の生き残りの少女は事件の謎を解くために、青髪の探偵・上笠(うえおろ)(じょう)と相棒のフーリンのもとを訪れる。彼女の中に眠る、不可思議な記憶。それは、ともに暮らした少年が首を斬り落とされながらも、少女の命を守るため、彼女を抱きかかえ運んだ、というものだった。首なし聖人の伝説を彷彿とさせる、その奇蹟の正体とは……!? 探偵は、奇蹟がこの世に存在することを証明するため、すべてのトリックが不成立であることを立証する!!(粗筋紹介より引用)
 2015年9月、書き下ろし刊行。

 メフィスト賞を受賞してデビューした井上真偽の長編第二作。
 新興宗教団体の信者のみが集まった閉ざされた村で、信者30人が教祖に斧で首を斬られて死亡し、最後に教祖は焼死した。集団自殺した中、唯一生き残った少女は、仲の良かった少年が首を斬り落とされながらも少女を抱きかかえて祠まで運んだとしか思えない、と語る。その謎解きを依頼された探偵の上笠丞は奇跡と認定するが、それを否定する者たちが次々に現れ、仮説を立てていく。
 多重解決ものであるものの、奇跡の存在を証明するために動いている探偵が「すべてのトリックが不成立であることを立証する」ために推理するという設定が、バカバカしいけれど面白い。特に「その可能性はすでに考えた」という決め台詞は、どこかで流行語になってもおかしくないぐらい、はまった言い回しである。ただ、肝心の中身の方だが、上笠の敵側の人間が突拍子もない、いわゆるバカミスみたいなトリックを提示し、上笠がそれを否定する、という展開の繰り返しでしかない。そんなワンパターンを避けるために、敵(?)側とのやり取りに色々工夫を凝らしているが、それがかえって推理の楽しみを削いでいる感がして仕方がない。
 とはいえ、こんなバカバカしいシチュエーションを真面目に本格ミステリとして仕上げている剛腕ぶりは面白い。結末があまりにもしょぼい終わり方だったのが非常に残念だが、途中までは楽しめた。結末であっと言わせられる解決を提示できるようであれば、傑作になる可能性があった。




早坂吝『双蛇密室』(講談社ノベルス)

 「援交探偵」上木らいちの「お客様」藍川刑事は「二匹の蛇」の夢を物心付いた時から見続けていた。一歳の頃、自宅で二匹の蛇に襲われたのが由来のようだと藍川が話したところ、らいちにそのエピソードの矛盾点を指摘される。両親が何かを隠している? 意を決して実家に向かった藍川は、両親から蛇にまつわる二つの密室事件を告白された。それが「蛇の夢」へと繋がるのか。らいちも怯む(!?)驚天動地の真相とは?(粗筋紹介より引用)
 2017年4月、書き下ろし刊行。

 4作目となる援交探偵シリーズ。今回はシリーズを通じて登場している藍川刑事の過去の話。鍵のかかったプレハブで藍川刑事の実の父親が殺害され、母が倒れていた事件と、藍川が1歳の時に高級マンションの最上階の部屋で毒蛇にかまれて殺されそうになった事件。二つの密室を、らいちが解く。
 タイトルや二匹の蛇の夢などから蛇が絡むのは見え見えだったが、二番目の事件は全く面白くない。ところが一番目の事件の真相は、誰も考え無さそうな内容。現実には有り得ないだろうが、よくこんなバカバカしいトリックを考え付いたものだと、呆れる。SFでもない限り、前代未聞な内容であることに間違いはない。通常なら苦笑するところだが、本作の場合は失笑という内容だろう。
 どうでもいいが、弁護士に見解を聞くのなら、もっと他に触れることはあるだろうとは言いたい。もっともわざと伏せたのかもしれないが。
 前代未聞のトリックではあるが、物語自体は退屈で苦痛。最後の方でアクションシーンが出てくるのも突発的であり、わざとらしい。小説としては、過去のらいちシリーズと比べて、一番つまらないだろう。それを補っているのがあのトリックだが、受け入れるかどうかは読者次第。多分、受け入れられない、と思う読者の方が多いだろう。
 まあ、こんなトリックもあるのだ、という意味では覚えていてもいい作品ではあるが、それ以上のものはない。さて、次はどの方向性に進むのだろうか。いい加減、ストレートな作品も読んでみたいところだが。いつまでもこんな作風は続かないだろうし。




東川篤哉『放課後はミステリーとともに』(実業之日本社)

 私立鯉ヶ窪学園高等部二年生で、探偵部副部長の霧ヶ峰涼が様々な事件に遭遇し、謎を解こうとする。
 高等部E館視聴覚資料室でビデオテープの盗難事件が発生。偶然遭遇した霧ヶ峰涼は、先輩や警備員と犯人を追いかけるも、曲がり角のところで犯人が消えてしまった。そこにいた用務員は、誰も通っていないといった。「霧ヶ峰涼の屈辱」。
 涼が偶然遭遇した芸能カメラマンは、人気急上昇中の若手男優が密会をしているというアパートを見張っていた。そのとき、二人の男性が現れて部屋の中に入り、脚立を担架代わりに、苦しそうにしている部屋の住人である無名舞台女優を運び出すところだった。翌日、カメラマンはまだ部屋の中に若手男優がいるはずだと思っていたが、通りがかった女優がカメラマンと涼との会話を聞きつけ、部屋の中を見せると、そこには誰もいなかった。「霧ヶ峰涼の逆襲」。
 クラスメイトの親友、高林奈緒子が居候をしている資産家宅の祖父がたびたび危ない目に合っていた。そして涼が奈緒子の部屋を訪ねたとき、祖父が毒入り珈琲を飲んで、病院に運ばれた。祖師ヶ谷警部の目の前で、息子夫婦、さらにその一人息子は互いを犯人だと罵りあう。「霧ヶ峰涼と見えない毒」。
 地学の池上冬子先生の呼びかけによる流星雨観測会。二誌の夜空に偶然見えたのは、緑色の飛行物体。UFOだと騒ぐ池上先生と、ナビゲータに選ばれてしまった涼は車に乗って飛行物体を追いかける。「霧ヶ峰涼とエックスの悲劇」。
 涼と奈緒子は体育倉庫の窓から煙草の煙が出てくるのを見かける。行ってみると、そこにいたのは隣のクラスで不良の荒木田聡史。さらにそこへ駆けつけてきたのは、武闘派の体育教師、柴田。柴田は倉庫の中を探すが、煙草もライターも出てこない。「霧ヶ峰涼の放課後」。
 涼は学園裏門から帰ろうとしたところ、隣のクラスの女生徒が落ちてきて、涼と話をしていた教育実習生に当たってしまった。屋上に女生徒の鞄はあったが、屋上への階段途中にある踊り場にいた男子生徒は、誰も見ていなかった。しかし女性とは、自殺なんかじゃないといった。「霧ヶ峰涼の屋上密室」。
 自称陸上部のスーパースターである足立が、走り幅跳びの砂場で頭を殴られて倒れていた。ところが砂場には足立の足跡しかなかった。「霧ヶ峰涼の絶叫」。
 美術部の友人に頼まれ、モデルになるためにE館を訪れた涼。ドシンという音に驚き、慌てて美術室に入ってみると、倒れたミロのビーナス像の下に荒木田がいた。さらに、学生服を着た男が、涼を突き飛ばして逃走。慌てて追いかける涼だが、曲り角でぶち当たったのは生徒会員の山浦。また犯人は消えたのか。「霧ヶ峰涼の二度目の屈辱」。
 2003〜2010年、月刊『ジェイ・ノベル』に不定期掲載。2011年2月、ソフトカバーで刊行。

 ユーモアミステリの第一人者となった東川篤哉による、鯉ヶ窪学園探偵部シリーズの番外編。探偵部副部長の霧ヶ峰涼が主人公だが、残念ながら彼女は探偵役とはなれず、基本的に狂言回しで終わることが多い。本シリーズの探偵部三人組は登場しないので、涼が彼らとどういう関係になっているのかが本書ではわからないが、本シリーズに出てくる師ヶ谷警部や烏山千歳は登場する。
 お手軽に読めて、楽しくクスリと笑え、そこそこ本格ミステリーっぽい雰囲気も味わえる、お得な一冊。お手軽すぎて物足りない、という読者もいるだろうが、そこは好みの問題。時間を潰すにはちょうどいい、作品集である。逆に言えば、それ以上は特になし。




横山秀夫『震度0』(朝日文庫)

 阪神大震災の前日、N県警本部警務課長・不破義人が姿を消した。県警の内部事情に通じ、人望も厚い不破が、なぜいなくなったのか? 本部長をはじめ、キャリア組、準キャリア組、叩き上げ、それぞれの県警幹部たちの思惑が複雑に交差する……。組織と個人の本質を鋭くえぐる本格警察サスペンス!(粗筋紹介より引用)
 2005年7月、朝日新聞社より単行本刊行。2008年4月、文庫化。

 キャリア、準キャリア、叩き上げ出身の県警幹部たちが、警務課長失踪に伴う思惑と政治ゲームを描いた一冊。阪神大震災で西の方では右往左往しているのに、こいつらはいったい何をやっているんだと言いたくなるぐらい、不愉快な登場人物群。まあ、権力を握ろうとする人たちは、だいたいが醜いところがあるものだが、ここまで露骨に描かれてもちょっとと思ってしまう。そもそも非常事態なんだから、そんなパワーゲームのことはさておき、警察官として少しは動きそうなものだが。
 なんというか、ここまで醜く書かなくてもと思うし、展開があまりにもスローモー。感情移入できる登場人物が誰もいないし、読んでいて不愉快になる。うーん、作者が何を書きたかったのか、よくわからなかった一冊。



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