一本木透『だから殺せなかった』(東京創元社)

「おれは首都圏連続殺人事件の真犯人だ」大手新聞社の社会部記者に宛てて届いた一通の手紙。そこには、首都圏全域を震撼させる無差別連続殺人に関して、犯人しか知り得ないであろう犯行の様子が詳述されていた。送り主は「ワクチン」と名乗ったうえで、記者に対して紙上での公開討論を要求する。「おれの殺人を言葉で止めてみろ」。連続殺人犯と記者の対話は、始まるや否や苛烈な報道の波に呑み込まれていく。果たして、絶対の自信を持つ犯人の目的は――
 劇場型犯罪と報道の行方を圧倒的なディテールで描出した、第27回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。(粗筋紹介より引用)
 2017年、第27回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。2019年1月、単行本刊行。

 『屍人荘の殺人』と受賞を争った本作。読み終えてみると、劇場型犯罪を舞台にした社会派ミステリ。うーん、なぜ鮎川賞に応募した?
 かつて汚職事件を追いかけ、スクープしたのは恋人の父親の逮捕。父親は自殺し、そして恋人も姿を消して亡くなった。そんな過去を持つ太陽新聞の社会部記者、一本木透。「シリーズ犯罪報道・家族」で自分の二十数年前の苦い記憶を記事に書き、高い評価を得た。一方、無差別連続殺人犯から一本木宛てに手紙が届き、殺人を巡って紙上公開討論が始まる。そしてもう一つ語られるのは、江原陽一郎という青年の今までだった。
 作者が新聞記者だったのかどうかはわからないが、新聞社という会社自体の存在も含め、新聞記者や新聞紙の発行の部分にリアリティがある。公器を謳いつつ、ちゃっかりと営業に使って、じり貧だった購読数の回復につなげる展開には思わずうなってしまった(なんか、似たような展開がどこかであったような記憶もあるけれど、思い出せない)。
 紙上を使ってやり取りするという展開自体は面白いし、最後まで読ませる力はあったと思う。ただ、リアリティがある作品なだけに、不自然を感じてしまうところがあったのは残念。最後の自滅からドタバタするくだりはまだ許せるのだが、やはり犯行に手を染める動機については納得がいかない。これ以上書くとネタバレになってしまうから止めるのだが、どうしても不自然なのだ。それは自分だけかな。一応読者を納得させるような書き方にはなっているのだけれども。もしかしたら選評の指摘を受けて、書き直したのかもしれない。
 名探偵の出てくる本格ミステリならファンタジーで逃げれるのだろうが(暴言)、やはり社会派ミステリだと、読者が首をひねってしまうところがあるのはやはり原点だろう。今回は優秀作止まりだったが、多分『屍人荘の殺人』が無くても優秀作止まりだったと思う。そもそも、本格の味、全然ないよね。



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