加納朋子『いちばん初めにあった海』(角川書店)

 ワンルームのアパートで一人暮らしをしていた堀井千波は、周囲の騒音に嫌気がさし、引っ越しの準備を始めた。その最中に見つけた一冊の本、『いちばん初めにあった海』。読んだ覚えのない本のページをめくると、その間から未開封の手紙が…。差出人は「YUKI」。だが、千波はこの人物に全く心あたりがない。しかも開封すると、そこには"あなたのことが好きです"とか、"私も人を殺したことがある"という謎めいた内容が書かれていた。一体、「YUKI」とは誰なのか?何故、ふと目を惹いたこの本に手紙がはさまれていたのか?千波の過去の記憶を辿る旅が始まった―。心に深い傷を負ったふたりの女性が、かけがえのない絆によって再生していく姿を描いた、胸いっぱいにひろがるぬくもりあふれたミステリー。(粗筋紹介より引用)

 個人的に好きな作家。長い作品を読むのは初めてだが、今一つ話の中身が見えなかった。この人は長編は不得手ではないかと思ってしまう。次作に期待して、★★。




馳星周『不夜城』(角川書店)

 新宿・アンダーグラウンドを克明に描いた気鋭のデビュー作!おれは誰も信じない。女も、同胞も、親さえも…。バンコク・マニラ、香港、そして新宿―。アジアの大歓楽街に成長した歌舞伎町で、迎合と裏切りを繰り返す男と女。見えない派閥と差別のなかで、アンダーグラウンドでしか生きられない人間たちを綴った衝撃のクライム・ノベル。(粗筋紹介より引用)

 新聞広告で大絶賛のクライムノベルは大当たり。歌舞伎町のリアルな描写と外国人組織の抗争の凄まじさ、そして誰も信じようとしない主人公が実にGOOD。そしてすべてを突き放すラストがまた良し。今年の新人賞はこれで決まり。作者の正体は誰なんだろうと考えつつ、★★★★★。しかし、新宿って本当に怖い街なんだね。鮫はいるし、マシンガンをぶっ放す素人はいるし。




歌野晶午『正月十一日、鏡殺し』(講談社ノベルス)。

「カチカチ鳥を飛ばせ」という謎の電話を傍受してしまった予備校生は、そこに犯罪の匂いを嗅ぐ(盗聴)。猫マニアの恋人を持つサラリーマンは、一瞬の狂気に取り付かれる(猫部屋の囚人)。不仲の祖母と母に挟まれた少女は鏡餅に願いを託す(表題作)。日常の中に紛れ込んだ謎、そして恐怖。ミステリー傑作集。(粗筋紹介より引用)
「盗聴」「逃亡者大河内清秀」「猫部屋の亡者」「記憶の囚人」「美神崩壊」「プラットホームのカオス」「正月十一日、鏡殺し」の7編を収録。

 歌野晶午の短編集。心が暗くなる話が多いのであまりのれなかった。本格に求められるのは謎解きの爽快さじゃないのかな。気持ちが重いので★★。




折原一『漂流者』(角川書店)

 復讐を誓い、荒れ狂う洋上を漂うセーラ号。そこに残された日記と録音テープ。殺意に満ちた海で最後まで残る者は誰か…。叙述トリックの名手が放つ初の長編海洋ミステリー!(粗筋紹介より引用)

 叙述ミステリのネタが尽きないものだと感心してしまうが、ここまで来るとある程度の展開は読めてしまう。上手いと思うが、あえて★★★。久々に黒星警部の長編を読みたいものだ。




倉知淳『星降り山荘の殺人』(講談社ノベルス)

 雪に閉ざされた山荘。そこは当然、交通が遮断され、電気も電話も通じていない世界。集まるのはUFO研究家など一癖も二癖もある人物達。突如、発生する殺人事件。そして、「スターウォッチャー」星園詩郎の華麗なる推理。あくまでもフェアに、真正面から「本格」に挑んだ本作、読者は犯人を指摘する事が出来るか。(粗筋紹介より引用)

 ちょっと読んでから寝ようかと思ったがはまる。各章で最初に作者が注意点をあげている(語り手は犯人ではない等)のに、私は見事に作者のねらいに騙された。推理の部分がややだれるが、これは傑作だぞ。「してやられた」ということで★★★★☆。




清涼院流水『コズミック 世紀末探偵神話』(講談社ノベルス 第二回メフィスト賞受賞作)

『今年、1200個の密室で、1200人が殺される。誰にも止めることはできない』―1994年が始まったまさにその瞬間、前代未聞の犯罪予告状が、「密室卿」を名のる正体不明の人物によって送りつけられる。1年間―365日で1200人を殺そうと思えば、一日に最低3人は殺さねばならない。だが、1200年もの間、誰にも解かれることのなかった密室の秘密を知ると豪語する「密室卿」は、それをいともたやすく敢行し、全国で不可解な密室殺人が続発する。現場はきまって密室。被害者はそこで首を斬られて殺され、その背中には、被害者自身の血で『密室』の文字が記されている…。(粗筋紹介より引用)

 これほど壮大なホラ話は初めてである。出てくる死者が60人以上、しかもほとんど密室。ここまで話が大きくなると、数多くの矛盾はどうでもよくなる。冗談がわかる人にしかお薦めしないが、好みなので★★★★。




森博嗣『笑わない数学者』

 論説的数学者、天王寺翔蔵博士の住む三ツ星館でクリスマスパーティーが行われている間に庭に立つ像が消えた。像が再び現れた時、そこには部屋の中にいたはずの女性が死んでいた…。(粗筋紹介より引用)

 犀川&萌絵のシリーズ第三作。前二作より舞台がわかりやすいせいか、幾分読みやすい。2人の仲の展開に期待して★★★。



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