加納朋子『ガラスの麒麟』(講談社)


 第48回日本推理作家協会賞受賞。「あたし殺されたの。もっと生きていたかったのに」通り魔に襲われた十七歳の女子高生が遺した童話とは…。少女たちの不安定な心をこまやかに描く待望の連作ミステリー。(粗筋紹介より引用)
 「ガラスの麒麟」「三月の兎」「ダックスフントの憂鬱」「鏡の国のペンギン」「暗闇の鴉」「お終いのネメゲトサウルス」を収録。

 加納朋子ってやっぱり短編が上手い人だと感心。タイトル通り、どこかはかなく、壊れやすくて、飾っておきたくなるような短編の数々。そして、最後に全てが一本におさまるところはもう感動。いやあ、見事としか言い様がないわ、これは。内容は単純なのに、どうして素敵なんだろう。★★★★☆。




今邑彩『ルームメイト』(中央公論社Cノベルズ)

 大学へ通うために上京してきた萩尾春海は、京都から来た西村麗子という女性に出会う。お互い下宿を探す苦労を語り合ううち、育ちの良さそうな彼女に心を許した春海は、彼女と部屋をシェアして暮らすことに。お互いを干渉しない約束で始めた生活は、都会的で快適に思えた…。が、そのルームメイトは一ヶ月も経たずに、変貌。化粧も濃くなり、食べ物の好みまでも変わり、スナックでバイトをしているようなのだ。そして遂に失踪―私は彼女の事を何も知らなかったのでは?謎の残るままに、彼女の足跡をたどる春海。すると、彼女が名を変えて、二重、三重生活をしていたという事実が明らかに。呆然とする春海の目前に、既に死体となったルームメイトが。(粗筋紹介より引用)

 どんな設定も可能だから、多重人格ものは嫌いである。今邑彩らしく料理しているし、ごちゃごちゃよけいなことを書いていないから最後まで読んだけれど、不自然さを越えることはできなかったようだ。結末も気に入らないなあ。多重人格が嫌いでない人はそこそこ楽しめると思うけれど。★★。




北村薫『ターン』(新潮社)

 車が衝突して、記憶がとだえ、真希は昨日に戻っていた。そして午後3時15分、気づくとまた同じ一日が始まる。 ターン、ターン、その繰り返し。でもいつかはリターンしたい。帰りたい…。「時と人」の謎を探る長編小説。(粗筋紹介より引用)

 途中までの二人称部分は読みづらく、楽しめないが、それ以降の展開はやはり上手い。けれども、そこに感動はない。登場人物に緊迫感がないからだろうか。それとも不感症なのかな、私って。『スキップ』には怒ったけれど、今回はあっけなさだけが残る。見たくない使われ方の登場人物もいるし。★★。




西澤保彦『仔羊たちの聖夜』(カドカワ・エンタテイメント)

 飲んでから解くか、解いてから飲むか。酩酊推理の合体パワーが炸裂するキャンパス三人組―通称タックこと匠千暁、ボアン先輩こと辺見祐輔、タカチこと高瀬千帆―が初めて顔を合わせたのは一年前のクリスマスイヴ、居酒屋コンパでのこと。その日、クリスマスプレゼントの交換をと全員コンビニへ向かい、買った品々をビニール袋に集めている最中、真上のマンション最上階から、一人の女性が飛び下りてきた。一年が経ったところで、ビニール袋の中に一つ残っている"プレゼント"が見つかり、自殺した女性のものなら遺族に返そうということに。が、女性の身元をたどるうちに、五年前の同じ日にも、同じ場所から"プレゼント"を手に飛び下り自殺した若者がいたとわかり…。そして今また…。抱腹絶倒の新探偵ミステリー。(粗筋紹介より引用)
 1997年、書き下ろしの一冊。タックシリーズ。

 本作品の原型は、第1回鮎川哲也賞最終候補作『聯殺』とのこと。多分、連鎖自殺という設定がそうなのだろう。アイディア自体は悪くないが、うまく取り扱わないと凡作で終わってしまいそうなアイディアでもある。
 読んで楽しいタックシリーズ。タックの酩酊推理も良いけれど、今回のタカチの名探偵ぶりもまた良し。もっとも今回の物語に推理はないけどね。事件というほどのものでもないし。このままのキャラクター小説でも構わないけれど、やっぱり奇想天外な謎を期待します。ところでタックが双子ってホント? ★★。




唯川恵『刹那に似てせつなく』(光文社)

 藤森産業の掃除婦並木響子(42歳)は三年前のある事件の復讐のため、当日就任式だった副社長の藤森祐介を殺害する。長年の目的を遂げた響子は放心状態であったが、そこへ同じく藤森を殺害するはずだった道田ユミ(18歳)が現れる。ユミは自分でも理由が分からないまま、響子をつれて逃亡する。ユミは翌日、フィリピンへ密航して日本を脱出するつもりだったが、密航の手配を頼んだかつての恋人に金を奪われ、響子とユミの逃避行が始まる。

 葉山君に薦められて読んだが、これが意外に面白かった。作者が書いているとおり、作品に「女のダンディズム」が流れている。「女」は傷つけられやすいものかもしれないが、けれど「女」であることに誇りを持ちたい。そんな「女」のために書かれた本といってよいかもしれない。響子もユミもそんな「女」だから、年齢差を超えていっしょに逃避行が出来たんだろうと思う。全く予想外のところから得られた佳品。★★★☆。「男」である私には、「女」というものは永遠に分からない生き物。だからこの世の中、面白いんだろうけれど。




馳星周『鎮魂歌−不夜城II』(角川書店)

 舞台は『不夜城』の二年後の歌舞伎町。新宿は北京と上海の一族が二分していたが、その二組の後ろで台湾の楊偉民が彼らを手なずけていた。そんなある日、楊偉民は子飼いの殺し屋郭秋生を使って北京のトップ崖虎の配下の四天王の一人を殺させた。崖虎は元刑事の滝沢に犯人探しを命令する。
 小説は滝沢と郭秋生の二人を中心に展開し、いつしか生き残りと金、そして歌舞伎町でのトップの争いへと発展していく。

 正直言ってこれ以上の筋は書きたくない。暴力、暗躍、裏切り、金、性、生、死……。そこにあるのは冷たいアンダーグラウンドの世界。愛した女だって敵。信じれるのは己だけ。とにかく読め、と言いたくなる傑作。『不夜城』で見せた馳星周の実力が本物であったことを認識させてくれる作品である。最後が御都合主義と言われかねないが、些細なところだしここは目をつぶって★★★★★。当然、今年のトップを取るだろう。




黒川博行『疫病神』(新潮社)

 建設コンサルタント(単なる便利屋だが)の主人公は「産業廃棄物処理場」をめぐるトラブルを解決する仕事を請け負ったが、そこはヤクザ、政治家、建設会社が巨大利権をめぐっての暗闇での争いの場であった。傷つけられた主人公はそんな連中を相手に一泡ふかそうと動き始めるが、そんな彼に金の臭いをかぎつけて勝手に相棒になった奴は疫病神だった。

 着眼点は見事といってよい。確かに今、「産業廃棄物処理」は環境問題も含めて深刻な問題となっている。処分場が少ないため、産業廃棄物の処理にかかる費用は世間一般が考えているよりずっと高い。特に建設現場では産業廃棄物が山ほど出てくる。だから、上手く立ち回れば産業廃棄物処理業はとてもおいしいのだ(だから不法投棄が多くなる)。そんなおいしい仕事を政治家やヤクザが見逃すはずもない今の状況が上手く書かれている。もっとも、政治家やヤクザがからまいない金儲け仕事なんてないけどね。
 関西弁のためか、内容が重い割にはテンポよく話が進む。本来なら暗くなりそうな話を明るく読ませる技術はさすが黒川博行。「疫病神」という設定と取材力がきっちりとかみ合った快作。建設会社の描き方とエンディングにちょっと首をひねる部分はあるが、★★★★☆。




芦辺拓『地底獣国の殺人』(講談社ノベルス)

 昭和十年、新聞社が企画した「ノアの方舟探検隊」の飛行船が故障してアララト山の火口の中へと降り立つ。そこはまさに、コナン・ドイルの『ロスト・ワールド』と同じ、恐竜たちが棲む閉ざされた空洞世界だった。そして帰り道を探す一行の間で連続殺人が起こる。弁護士森江春策は、当時の探検隊に参加していたらしい謎の老人の話を基に犯人を推理する。

正直言って、「何でこんな設定にしたの?」というぐらい訳の分からない話。少なくとも連続殺人の方はあまりにも単純(トリックなんかないしね)。「鷲尾哲太郎」の諸説は面白いけれど、その後の探険活劇はワンパターン。老人が当時の話を森江に話す理由も不鮮明。新聞記事を調べれば一発でばれてしまうよ、これじゃ。
 芦辺拓が小説中で色々と示してくれるペダントリは面白いのだけれども、それと物語を上手く融合させればもっと面白くなるはず。森江春策という探偵役は魅力無いが、芦辺拓にはもっと頑張ってほしいと思う。本格スピリッツは相当のものだと思うからね。★☆。




貫井徳郎『崩れる―結婚にまつわる八つの風景』(集英社)

 家庭内殺人。ストーカー。怪しい隣人。…家が崩れ、家族が崩れ、町が崩れ、次は、あなたが「崩れる」。「幸福の方程式」を突き崩す8つの事件。(粗筋紹介より引用)
 「崩れる」「怯える」「憑かれる」「追われる」「壊れる」「誘われる」「腐れる」「見られる」を収録。

 副題にある通り、「結婚にまつわる八つの風景」ではあるが、風景にしてはちょっと見たくないような、不幸せと恐怖ばかりを集めた短編集。とても結婚している人が書いているとは思えないぐらい、結婚や家族のイヤな部分が書かれていて、結婚に対するイメージがとことん悪くなってくる。独身者が読んだら結婚をやめたくなるような話ばかりだ。個人的には「腐れる」がいちばん好き。個々の短編はあっさりしているが、その分、逆に不快感を増すことに成功している。★★★。




蘇部健一『六枚のとんかつ』(講談社ノベルス 第三回メフィスト賞受賞作)

 大笑いか激怒かっ!?決して読む者の妥協を許さぬ超絶アホバカ・ミステリの決定版、遂に登場!流麗にしてクレバー。この“難問”を自力で解いた時には感動すら覚える表題作。思わず“ナルホド”とヒザを打つ「音の気がかり」。“ウゲッ”と絶句する「しおかぜ17号49分の壁」他、全15編+αを完全収録!(粗筋紹介より引用)
 「音の気がかり」「パンは知っていた」「桂男爵の舞踏会」「黄金」「チチカエル」「エースの誇り」「見えない証拠」「しおかぜ17号49分の壁」「解けないパズル」「丸ノ内線七十秒の壁」「欠けているもの」「張り込み」「消えた黒いドレスの女」「六枚のとんかつ」「「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」を読んだ男」を収録。

 保険調査員が遭遇した15の難事件を収録した短編集。こう書くと本格っぽいが、カバーに書かれているとおりの「アホバカ・トリック」満載のユーモアミステリ。
 森博嗣、清涼院流水ととかく物議を醸す作家を輩出してきたメフィスト賞だが、その傾向は今回も同様。至る所で賛否両論、というより否定的な意見が多い。いくつか見られたのは「こんなの俺でも書ける」という意見。つまり、ミステリとしては低レベルであるとして見ているんだろうな、彼らは。確かにバカバカしいし、時には呆れるようなトリックを使っている短編もあるけれど、はっきり言ってこれは「やったもん勝ち」。作者が分かってやっているんだから、何を言ってもしょうがない。笑いが低レベルだという人もいるけれど、‘笑い’は‘笑い’。ユーモアは、人を笑わせれば勝ち。ただ、二度使われるととても笑えないものが多いので、次作が大変だろうな、これは。ついでに言えばあまりにも下品なものが多い。いくら男でも付いていけない。ギャグは作者の歳を感じさせて、若い読者には分からないものも多い。個人的なことを言わせてもらえれば、表題のタイトルは応募時のタイトル『FILE DARK L』にしてほしかった。
 本作品の欠点のひとつは、主人公の保険調査員が時にはワトソン役になり、時にはホームズ役になっているところ。おかげで印象が散漫になってしまった。特に一部でホームズ役の小説家の印象は、後に八兵衛役(舞台を引っかき回すだけの狂言役の尊称)で登場する部下の調査員にすっかり喰われている。どちらかに統一してほしかったところだ。また、最大の欠点はあとがき。あそこまでネタばらしをする必要はないだろう。あれで2割は作品の評価が落ちている。

 正直言って評価は非常に難しい(多分“このミス”だとけちょんけちょんにけなされるだろうなあ)。今後どう書いていくのか分からないが、「しおかぜ」や「丸の内線」みたいなスマートな作品を期待しよう。いくら反則が5カウントまで許されていると言っても、毎回じゃファンも逃げてしまうからね。今回は★☆。ところで、カットされた作品のタイトル、たまたま知る機会があった(内容は知らない)けれども、載せなくて正解だと思うぐらい、男でも恥ずかしくなるタイトル……。




飯田譲治+梓河人『アナザヘヴン』(角川書店)

 ベテラン刑事、飛鷹健一郎とその部下、早瀬学の前に、不気味な殺人事件が発生。犯人は殺した人間の首を切りとっただけでなく、その脳を料理して食べるという猟奇殺人を行っていた。二人の刑事は犯人らしき存在を追いつめ、事件は解決するかに見えた。しかし、また同じ手口の殺人事件が次々発生し、捜査はますます混乱する。いったい悪意に満ちた犯人は誰なのか。
 連続猟奇殺人事件は全く終息する気配を見せなかった。犯人は次々と警察の無能さをあざけるかのように殺人を続けた。しかし、不思議なことに事件の様相は少しづつ変化を始めていた。悪意に満ちていた犯人に何かが起きたらしい。(粗筋紹介より引用)

 飯田譲治は「NIGHT HEAD」からのファン。テレビ版も映画版もビデオを買ったし、小説やシナリオ、CDに写真集まで購入(断っておくが、私はニュータイプではない)。それ以来、飯田譲治の作品は全て購入。当然の如く、『東京BABYLON1999』もビデオ、CDを購入。ついでに言えば立野真琴の『NIGHT HEAD』(白泉社)もつまらない大里幸子Version(扶桑社)も購入。しかし『沙粧妙子』は見ていない(ちなみに『Gift』も)。有名俳優AがBという人物をどんなに上手く演じていようとも、Aとしか見ることができず、物語に没頭することができないからである(凄い偏見)。よってドラマを見るときは、無名俳優や知らない俳優の時だけだ(だから「NIGHT HEAD」は好きだった。トヨエツも武田も知らない人だったしね)。

 そこでやっと購入。首が切られ、しかもその脳を料理して食べるという猟奇殺人が連続して発生。ベテラン刑事とその部下(超美男)は犯人を追いつめ、そして犯人は死んで事件は解決したかに見えた。しかし、またもや同様の猟奇殺人が発生。二人は再び捜査に付くが……。

 あらすじだけ見ると警察小説っぽいが、実は完璧なホラー。犯人が死んだのに再び同様の殺人が起きたときの恐怖感はもう絶頂。『黒い家』は人の悪意から生じる恐怖を上手く書いているが、本作品は得体の知れないものから生じる恐怖を見事に書ききっている。二人の刑事や犯人(たち)だけでなく、刑事の妻や娘、老検屍官、超美男刑事の押し掛け恋人にストーカー的犯罪マニアなど、脇役なども巧妙に配置され、そして的確に書かれている。とにかく見事の一言。過去に似たようなアイディアがあったとしても関係ないね、これだけ面白く読ませてもらえれば。とても「小説ASUKA」に連載されていたとは思えない(ちょっと偏見か、これは)。納得の★★★★★。ところで飯田譲治、『Sci-Fi HARRY』はどうなったんだ!