シャーロット・アームストロング『ノックは無用』(小学館文庫)

 ささいなことから恋人リンと喧嘩別れをしたジェド。投宿中のホテルで向かいの部屋の見知らぬ女に興味を惹かれた彼は、女の誘いにのり、その部屋を訪問した。豪華なドレスを着てルームサーヴィスを頼む女。だが隣室から見知らぬ少女が現れ、女のドレスが彼女のものでないといいだす。泣き出した少女を隣室に閉じこめる女。どうも様子が変だと彼が気づいた時、ジェドは女の微笑の裏に隠された恐ろしい事実を発見するが…。M.モンローとR.ウィドマーク主演で映画化されたサスペンス小説の古典。待望の本邦初訳登場。(粗筋紹介より引用)

 映画を見た記憶もないし、退屈でしたね。すみません。一応最後まで読んだんですが、それ以外の印象無かったんです。★。




山田風太郎『太陽黒点』(廣済堂文庫)

 約20年ぶりに復刊された幻の長編ミステリ。期待して読んだんですけれどねえ。なんか今ひとつだったなあ。これは当時だからこそ傑作だったんでしょうね。時代と共に色あせるタイプ。普通だったら時代背景の古さって気にしないんだけど、本作だけは別。当時の若者や時代が身近にあったからこそ納得できる作品だったような気がする。多分今の若い人が読んでも全くぴんとこないだろうなあ。
 今ひとつ、あらすじの紹介しにくい作品だが、これから読まれる方に一言。

絶対裏表紙のあらすじと帯を見ないように!

 先月の葉山君も書いていたが、とにかく書いちゃいけないことを書いているのだ。誰だ、あれを書いたのは。問題だぞ、あれは。去年の長谷部問題と同じくらい問題だ。これを読むだけでこの作品の面白さは5割減るぞ。「結末」が判っていても面白いのが本当の推理小説だなんて佐野洋が宣っていたけれど、冗談じゃない。「結末」を知って読むミステリと、知らないで読むミステリは面白さが全然違う。面白さの質が違うのだ。本来ミステリはそんなに種類の面白さが味わえてこそ傑作だと思うけれど、評論家が勝手にその面白さの一つを奪ってはいけない。

 正直言って評価しにくいけれど、あえて評価するなら★★★かな。




青山融『岡山弁JAGA!』(株式会社アス)

 まあ、岡山弁の紹介並びに岡山弁を通した岡山の観光案内本。付録にはCD付きの岡山弁会話入門講座が付く豪華本です(笑)。作者はホームズ・クラブ、SR、浅見光彦倶楽部に、創元推理倶楽部(おお!)に所属しているミステリファンですので、当然横溝ミステリのことも触れられています。ちなみに、タイトルは「岡山ミステリの重箱の隅?」。ということで、「本陣殺人事件」「獄門島」に岡山らしいつっこみを入れておられます。おまけに載っている写真が創元推理倶楽部岡山例会の写真(北村薫先生以外にミステリを出された方が二人います。さーて、だれだ?)と獄門島のモデル。さて、獄門島のモデルはどこでしょう? それは読んでのお楽しみです。おまけに岡山弁探偵コームズの四季と題した4本の短編(ちゃんと本格ミステリだぞ)が載っているのだから、お買い得。さあ、早速注文しましょう(岡山以外で簡単に手に入るんだろうか)。




霞流一『赤き死の炎馬』(ハルキ・ノベルス)

 古からの伝統を引き継ぐ由緒ある寺社が共同で設けた「大社調査室」は詐欺まがいの霊感商法や悪質なカルト教団の横行など、神仏に関わるトラブルや違法行為を調査し、被害を阻止する調査機関である。魚間岳士はそこの第4セクション部員(といっても一人しかいない)であり、主に奇蹟や怪異現象などの特殊ケースを取り扱っている。そして今回の依頼内容は、旅館のある部屋から、廊下に沿って歩いて別の部屋に行ったつもりが元の部屋に戻ってしまったので、そのテレポーテーションの原因を調べてほしいということだった。早速その旅館がある岡山県備前市羅馬田町という田舎町へ出かけた。ちなみにこの村、「はぐれ平家と首のない馬」という伝説が残っている。そこでの調査結果(大して無かったが)を元に、魚間は「奇蹟鑑定人」天倉真喜郎を訪れ、調査結果を報告する。翌日、天倉と魚間は羅馬田町へ調査(というより、上手い酒と魚を目当てに)に行くが、待っていたのは旅館の娘の死体だった。

 アホバカミステリの家元、霞流一の新作。しかし私、この人のは全然笑えないんだよなあ。蘇部健一のは笑えるのに。笑わせようと思った箇所で素直に笑うタイプの私にしては珍しい。よっぽど波長が合わないに違いない。まあ、それを抜きにしても今回の事件、偶然ばかりが続くのであまりいい出来とも思えないんだが。トリックかミラクルかって言われても、作中のテンポが今ひとつなので付いていく気分にもなれない。主人公とワトソン役の設定は悪くないので、残りはもっと「奇蹟」らしい事件を想定してくれないと、今回の作品みたいに設定だけが浮くことになってしまう。「奇蹟鑑定人ファイル」とあるから続くんでしょうね。もっとミラクルな事件、期待します。★。




有栖川有栖『有栖の乱読』(ダ・ヴィンチブックス)

 有栖川有栖のミステリエッセイ。有栖川有栖の作家になるまでの読書遍歴、有栖川有栖が選ぶミステリセレクト100、有栖川有栖による自作解説が収録されている。
 創元推理倶楽部の広島例会のゲストが北村薫と有栖川有栖だった。北村薫は新作を買っているから問題ないが、有栖川有栖は最近全然買っていない(火村シリーズには興味起きないからな)。そこで慌てて買ったのがこの本だったのだが、これが面白かった。「私の読書体験は、平凡です」なんて帯に書かれているけれども、こんな読書遍歴をする人のどこが平凡なの(笑)。ミステリファンならダブる部分が多いでしょうね。ああ、自分もこうだったななんて思ったりして。もっとも、「じゃあ、自分もミステリ書けるなあ」なんて大それたことは思いませんが(笑)。セレクト100が何とも言えませんね。ベストじゃないところが嬉しい。有栖川有栖の偏愛度が見えます。自作解説も作者の製作過程が見られて楽しい。どこまで手の内さらしているかは判りませんが(笑)。
 作家の書くエッセイってなんか回りくどかったり、自己弁護に終始するところがあるけれども、本作品は肩の力を抜いて読める。作者も肩の力を抜いて書いているから逆に楽しい。久方ぶりに楽しめたエッセイ。お薦めします。★★★★☆。




森博嗣『数奇にして模型』(講談社ノベルス)

 鍵のかかった大学の実験室で女子大学院生上倉裕子が扼殺されていた。発見者は上倉の所属する研究室の助教授河嶋。鍵を持っていたのは河嶋と上倉とそして社会人大学院生寺林高司。事件当日、寺林と上倉は実験室で会う約束をしていた。しかも寺林と上倉は白紙の関係とは言えなかった。そんな寺林は模型交換会が行われた会場の、鍵のかかった一室で殴られて意識を失っていた。横にはモデルの首無し死体が。当然寺林に容疑がかかるが……。

 飛びきりとは言わないが、なかなか魅力的な謎の提出。しかし、解決はつまらないなあ。異常な出来事を※※(「異常」じゃないよ)で片づけてしまったり。それ以上に言いたいことは、とにかく長い。はっきり言って長すぎる。やけにくどいぞ。言いたいことは判らないでもないが、その説明がとにかく遠回りでくどいのだ。そのくせ解決にはそれほど役に立っていないし。大体、理系のレポートは簡潔明瞭が基本だろうが(笑)。多分次作『有限と微笑のパン』が犀川&西之園シリーズ最終作だと思うのだが、今回の九作目にはそれに対する予兆、もしくは関係進展という物は見られない。本作はとにかく喜多と初登場の大御坊大暴れという印象しかない。しかもその大暴れが事件解決とはほとんど無関係だからなあ(一応関係するところもあったけれど)。
 今回笑えたのはp138〜139の萌絵の気持ちだろう。殺人事件に嬉々と乗り込む萌絵への批判に対する森博嗣流の回答なのだろう。私から見ればただの利己主義にしか見えないのだが……。
 とにかく次作待ちでしょう。それで森博嗣の評価は決定されるのじゃないでしょうか。全作品上に伏線が這ってあれば感動するぞ。今回の作品については★☆が妥当か。

 昔の本格とここ数年の本格を比べると、どうしても昔の本格の方が面白い。その最大の理由はやはり、「くどさ」にあるのじゃないか。やけに説明っぽい。やけに回りくどい。妙に議論を闘わせる。作者が何をしたいのか私には判らない。いつから本格は、そんなに言葉を必要とするようになったんだろう。推理小説はゲームだと言い切った坂口安吾が妙に懐かしい。




真保裕一『密告』(講談社)

 川崎中央署生活安全総務係に勤める萱野貴之は課長の矢木沢稔にいきなり罵倒される。「おまえ以外に誰がいる。こんな浅ましい真似をするやつが、他にいるか!」 翌日、矢木沢が関係業者から過剰接待を受けていた記事が新聞に載る。誰かから密告があったらしい。かつて射撃選手のライバルでもあり、八年前にある不祥事を新聞社に密告して矢木沢のオリンピック代表選考の大会出場権を失わせた過去が萱野にあった。だからこそ矢木沢は、そして署内全体も萱野が密告者であると考えた。しかも事実、萱野はとある事情で矢木沢を尾行していた。しかし、密告者は萱野ではない。けれどもその事実を知るのは萱野だけであった。この濡れ衣をはらすため、萱野は密告者を自分の手で捜し出そうと決意する。そんな萱野に様々な妨害工作が。一体、この事件にどんな裏があるのだろうか。

 真保裕一、久々の小役人シリーズ。今回の肩書きは川崎中央署生活安全総務係。やっぱり目の付け所はいいよなあと感心する。一応警察だから「警察手帳」を使っての強引な捜査はできるし、しかし捜査課に勤める刑事たちとは違ってどことなく素人の尋問に推理。いままでの警察物とは確かにひと味もふた味も違う。けれどなあ……。今回の主人公、滅茶苦茶にウェットな奴なのだ。おまけに女々しい。過去に振られた女にこれほどしつこくつきまとう姿を見るとさすがにいい加減にしろと突っ込みたくなる。濡れ衣をはらしたい理由も結局、その女に訴えたいだけだからなあ。過去の小役人シリーズに比べると、硬質さが格段に落ちる。あのころの真保裕一はどこへ行ったのと思わず言ってしまいたくなった。
 ただ、そういう過去の作品の幻影に捕らえられなければ、そして主人公の女々しさに付き合いさえできれば、作品の出来自体は良い。「密告者」の正体も意外だったし、事件の展開も意外の連続で読者を飽きさせることなく、テンポよく読むことができる。もっとも先に挙げた点以外にも不満がある。それはこの事件、犯人側が勝手に転んだとしか思えないのだ。何も犯人側がこれほど過剰に反応しなければ、多分主人公は真相をつかむことができなかったに違いない。
 個人的には昔の硬質な小役人シリーズの復活を望みたい。いつからなんだろうなあ。真保裕一がこれほど「泣き」を見せるようになったのは。★★★☆。