求刑無期懲役、判決有期懲役 2017年度





 2017年度に地裁、高裁、最高裁で求刑無期懲役に対し、有期懲役・無罪の判決が出た事件のリストです。目的は、無期懲役判決との差を見るためですが、特に何かを考察しようというわけではありません。あくまで参考です。
 新聞記事から拾っていますので、判決を見落とす可能性があります。お気づきの点がありましたら、日記コメントでご連絡いただけると幸いです(判決から7日経っても更新されなかった場合は、見落としている可能性が高いです)。
 控訴、上告したかどうかについては、新聞に出ることはほとんどないためわかりません。わかったケースのみ、リストに付け加えていきます。
 判決の確定が判明した被告については、背景色を変えています(控訴、上告後の確定も含む)。




【2017年度の有期懲役、無罪判決】

氏 名
中尾知佐(48)
逮 捕
 2014年4月11日(窃盗容疑)
殺害人数
 3名(いずれも傷害致死)
罪 状
 傷害致死、窃盗
事件概要
 2003年8月頃から筑後市でリサイクルショップを経営していた中尾知佐被告は、夫である中尾伸也被告と共謀(1件を除く)し、以下の事件を引き起こした。
  1. 中尾知佐被告は知人男性2人と共謀。1993〜94年、福岡市東区の知人の男のアパートで、東区の別の知人男性(当時22or23)を殴る蹴るなどして、死亡させた。
  2. 2004年5月上旬〜6月上旬、中尾両被告の自宅アパートで、住み込みの元従業員男性(当時19)に殴る蹴るなどの暴行を繰り返して死亡させた。遺体を同市内にある伸也被告の実家の庭に埋めて遺棄した。
  3. 2004年6月中旬から下旬、従業員男性(当時22)を筑後市内にある中尾両被告の自宅アパートに閉じ込め、十分な食事を与えず殴る蹴るなど暴行して衰弱させた上、浴室に放置するなどして死亡させた。男性は2003年8月ごろから働き、12月ごろからは中尾両被告と同居するようになったが、日常的に暴力をうけていた。本件について、検察側は殺人罪で起訴している。なお男性が行方不明になった後、両被告から「会社に損害を与えた」と言われ、男性の両親が現金700万円を支払っている。
  4. 2006年9月上旬頃から10月下旬ごろにかけ、知佐被告の妹の夫(同34)をリサイクルショップ店内でゴルフクラブなどで殴るなどして暴行し、死亡させた。また、9月中旬ごろから10月中旬ごろにかけ、自宅アパートに引き取っていた妹の夫の長男(当時4)の顔や背中などを日常的に殴り続け、死亡させた。義弟は大手電機メーカーに勤め、研究者として米国に赴任していたが、妻(知佐被告の実妹)の体調不良で帰国し、退社。2006年3月ごろからリサイクルショップで働いていた。実妹は9月ごろ、家を逃げ出していた。
  5. 2007〜2013年、知人男性名義のキャッシュカード3通を作成し、現金自動受払機(ATM)から現金計約53万円を盗んだ。
 中尾伸也被告は1998年6月に、知佐被告は2001年11月にそれぞれ自己破産していた。中尾被告の両親と祖母も2002年に自己破産していた。中尾両被告は、複数の従業員へ日常的に暴力を加え、ミスを指摘しては消費者金融にカードを作らせ、借金を強要していた。他に逃げ出した従業員の親族にも金を要求したこともあった。
 2003年6月、元従業員(殺害された男性とは別)の男性の親族から「店の経営者から金をだまし取られている」と相談が福岡県警に寄せられたものの、県警は動かなかった。
 殺害された従業員男性については、2004年7月に家族から筑後署に捜索願が出ており、その後も3回、相談が寄せられていた。県警は伸也被告に直接事情を聴くも、「勝手に出て行った。店の金を持ち逃げされた」などと主張され事件性はないと判断し、最終的に男性は家出人として手配されただけだった。
 筑後市は2009年2月、知佐被告の義弟の長男の入学書類が出ていないことから、当時の小学校教頭が訪問し、不在を確認。住民票を移さず転居したと判断し、転居先からの市町村の連絡を待つこととし、調査をしなかった。2012年7月、逃げ出していた知佐被告の妹が筑後市教委を訪れ、長男の所在を問い合わせるも、市教委は約1週間後に「市内の小学校にはいない」と回答しただけで、県警への相談や市子育て支援課への連絡などは行わなかった。しかし子ども手当の申請が無かったことを不審に思った市子育て支援課の職員が義弟宅を訪ね、不在を確認。ちなみにそれまでの義弟一家の国民健康保険税と自宅家賃についは中尾両被告が払っていた。2012年9月、筑後市が長男の所在不明を筑後署に相談。しかし筑後署は、「親族でなければ捜索願は出せない」などと言われた。2013年10月、筑後市から再度相談を受け(住民票がありながら小中学校に通わず、行方が分からない児童、生徒については、文部科学省2013年3月、事件性がある場合は警察に相談するよう求めていた)、福岡県警は捜査を開始した。
 2014年4月11日、福岡県警捜査一課は5の窃盗容疑で中尾伸也、知佐両被告を逮捕。5月7日、別の窃盗容疑で両被告を再逮捕(これは不起訴?)。伸也被告の供述に基づき、5月中旬から筑後市内にある伸也被告の実家の庭などを捜索したところ、土中から骨片が見つかり、DNA鑑定で従業員男性のものと判明。6月16日、県警は従業員男性の殺人容疑で両被告を再逮捕した。さらに近くの川底から、他に2人の骨片が発見された。8月6日、義弟殺害の容疑で両被告を再逮捕するとともに、知佐被告の妹を傷害致死容疑で逮捕した。福岡地検は8月27日、中尾両被告を処分保留にするとともに、知佐被告の妹を処分保留で釈放した。9月7日、義弟の長男殺人容疑で中尾両被告を再逮捕。福岡地検は9月29日、死因を特定できず殺意を立証できなかったとして、中尾両被告を義弟と長男の傷害致死容疑で追起訴した。なお死体遺棄については時効が成立している。
 11月14日、福岡県警は中尾両被告に関する相談や行方不明者の捜索願が、捜査開始前に計10件寄せられていたことを明かしたが、県警の対応には問題がなかったと説明した。
 11月17日、福岡県警は中尾知佐被告と知人男性2人を1の傷害致死、死体遺棄容疑で、中尾両被告を2の傷害致死容疑で書類送検した。1の件につき、遺体は見つかっていない。2の件につき、証拠が乏しく殺意の立証に至らなかったことから殺人容疑で起訴できなかった。傷害致死罪の時効は事件当時10年で、2014年6月に成立していた。12月18日付で福岡地検は、中尾両被告らについて時効成立のため不起訴とした。
裁判所
 福岡高裁 岡田信裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2017年1月27日 懲役30年(検察・被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2016年12月2日の控訴審初公判で、検察側は従業員が死亡した事件について「継続的に暴行し、死亡する危険性が高いと認識していた」として「未必の故意」があったとして殺人罪が成立すると主張した。弁護側は、知佐被告が「しつけ」として体罰を行ったことを認める一方、死亡したのは夫の伸也被告の激しい暴行によるものだったと主張し、共謀や殺意を否認していた。裁判は即日結審した。
 判決で岡田裁判長は、「死亡直前の暴行の態様が不明で、その他の行為もただちに死亡を招くとは言えず殺意は認められない」として検察側の主張を否定した。そして、「中尾両被告の間で(被害者が)不始末を起こせば暴力を振るうという包括的な共謀関係があった」とした一審の判断を踏襲。「知佐被告が暴力を具体的に指示し、犯行に主体的に関与した」と述べ、弁護側の主張を退けた。岡田裁判長は、「(被害者との)支配服従関係を築き、日常的、継続的に暴力を加えた。3人の命を奪った結果は重大。人命尊重の基本的な資質が欠落していると言わざるを得ない」と述べた。
備 考
 中尾伸也被告は2016年8月8日、福岡地裁の裁判員裁判で懲役28年判決(求刑無期懲役)。検察・被告側控訴中。
 2016年6月24日、福岡地裁の裁判員裁判で、求刑無期懲役に対し一審懲役30年判決。上告せず確定。

氏 名
国井政夫(62)
逮 捕
 2016年5月17日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗致死、死体遺棄他
事件概要
 福島県いわき市の建設会社社員、国井政夫被告は、社長の実弟で同役員の男性、造園業の男性、無職男性2名と共謀。2015年9月5日午後8時頃から午後11時頃の間、会社事務所で同市に住む土木作業員の男性(当時46)の頭を木刀で殴るなどして死亡させ、現金約40万円やキャッシュカードなどを奪った。さらに翌6日午前7時〜正午ごろ、造園業の男性を除く3人及び建設会社社長の男性と事務所南側に重機で穴を掘り、男性の遺体をいったん遺棄。さらに国井被告と社長は12月17日午後11時半〜翌18日午前2時頃に遺体を事務所北側に埋め直した。
 この建設会社は2005年9月に設立され、翌年7月に現在の場所に移転した。住宅解体のほか、近くの山を切り開いて土砂を採取し、東京電力福島第一原発事故の除染で、表面を削った地面にかける土を供給。敷地内ではデイサービスセンターなども運営していた。男性は同社と正式な雇用契約はなかったが頻繁に出入りしていた。被告の一部と男性とは、金銭トラブルがあった。建設会社は2016年6月に破産している。
 2015年10月、男性が行方不明になったと母親が県警に相談。県警は、男性が直前まで働いていた同社の関係者らから事情を聞き、5月15日から同社敷地内で捜索を行った。遺体は、逮捕された6人の一部が説明した場所から発見された。
 2016年5月16日夜、男性の遺体が見つかり、県警は17日、建設会社の社長の男性や国井被告など6人を死体遺棄容疑で逮捕。6月17日、6人を強盗殺人容疑で再逮捕。福島地検郡山支部は6月29日、社長の男性と造園業の男性を除く4人を強盗致死、死体遺棄容疑他で起訴。「被害男性への暴行や凶器などから殺意を立証できない」として強盗致死罪を適用した。造園業の男性は死体遺棄次現場にいなかったとして、強盗致死容疑で起訴。社長の男性については1度蹴っただけで、ほかの5人との謀議はなかったとして暴行及び死体遺棄容疑で起訴した。
裁判所
 福島地裁郡山支部 井下田英樹裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2017年2月7日 懲役30年
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2017年2月1日の初公判で、国井被告は「その通りです」と起訴事実を大筋で認めた。
 3日の論告で検察側は無期懲役を求刑、弁護側は懲役25年を求め、結審した。
 判決で井下田英樹裁判長は「危険性の極めて高い暴行を加え、被害者の死亡という結果は重大。強盗致死に関して主導的な役割を果たしており、相当悪質だ。重い責任を負うべき」と指摘。しかし、「捜査に協力していることや高齢であることを考慮すると有期懲役刑が相当だ」と述べた。
備 考
 強盗致死罪などに問われた無職の男性は、2017年3月24日、福島地裁郡山支部の裁判員裁判で、一審無罪判決(求刑懲役12年)。男性について「事件前後に繰り返し暴行を受け、命令に逆らえず現場に同行した」と指摘。「共謀を認めるには合理的な疑いが残る」とした。控訴せず、確定。
 被告側は控訴した。2017年7月13日、仙台高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
山野輝之(42)
逮 捕
 2013年8月9日
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、殺人未遂、現住建造物等放火
事件概要
(以下は起訴内容)
 埼玉県志木市の会社員、山野輝之被告は2008年12月3日午前5時過ぎ、妻(当時33)と次女(当時4)、長男(当時12)の3人を殺害する目的で当時住んでいた志木市の自宅木造三階建てに放火して全焼させ、長男は逃げて無事だったが、3階で寝ていた妻と次女が一酸化炭素中毒で死亡した。長女は別居していた。
 埼玉県警は火災の再現実験を重ねるなど捜査した結果、失火の可能性が否定され、火の気のない室内に放火されたとみられることが判明。さらに、外部から人が侵入した形跡がないことも分かった。出火当時、山野被告は「外出していた」と説明していた。山野被告は火災前、別の女性と交際し、妻に離婚を求めて8月に家裁に離婚調停を申し立てていた。火災後、山野被告は再婚して志木市のマンションに暮らしていた。
 埼玉県警は燃焼実験の結果、漏電などによる失火の可能性は低いと判明したことから、放火とみて捜査。2013年8月9日、殺人他の容疑で山野被告を逮捕した。
裁判所
 最高裁第二小法廷 菅野博之裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2017年2月8日 一審破棄、地裁差し戻し(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 一審判決は、燃焼実験の結果と防犯カメラの映像などから「被告の外出後に放火された可能性がある」と無罪を宣告。二審東京高裁は、実験が当時の状況を正確に再現していたとは言えないとし、「被告を犯人と認めることに合理的な疑いがあるとした一審判決は事実認定を誤っている」と審理を差し戻した。
備 考
 2015年3月23日、さいたま地裁の裁判員裁判で、求刑無期懲役に対し、一審無罪判決。2016年7月14日、東京高裁で一審破棄、地裁差し戻し。殺人罪に対する裁判員裁判の無罪判決が破棄されるのは初めてとみられる。

氏 名
板橋雄太(32)
逮 捕
 2013年12月7日
殺害人数
 1名
罪 状
 窃盗、傷害、覚醒剤取締法違反(強盗殺人は無罪)
事件概要
 柏市の無職、板橋雄太被告は共犯M・K被告、A・Y被告と共謀し2013年2月22日午前6時50分ごろ、柏市に住む会社員の男性(当時31)の自宅アパート前駐車場から乗用車を盗んだ。そして逃走を阻止しようとと立ちふさがった男性を殺意を持ってボンネットに乗り上げさせた上、急加速後に減速して振り落とし、頭を強打させて6日後に死亡させた。そしてM・S被告とM・M被告は盗品と知りながら男性の車を袖ケ浦市内の中古車解体作業所(ヤード)に運搬した。
 現場周辺の防犯カメラに、男性の車ともう1台の車が逃げる様子が映っており、県警は自動車窃盗グループによる犯行とみて捜査。男性の車が袖ケ浦市にあるヤード(自動車解体場)に運ばれたことを突き止めたが、車は既に解体されていた。その後も千葉県や埼玉県で自動車盗が相次いだことから、捜査線上にこの自動車窃盗グループが浮上。県警は10月15日、埼玉県春日部市で9月に起きた別の自動車窃盗事件でA・Y被告を逮捕。A・Y被告は調べに対し、事件発生時に男性の車を運転していたのは板橋被告だったと説明。県警は、現場に残ったタイヤ痕などから板橋被告が約50mにわたり車の急発進と急ブレーキを繰り返し、ボンネットに乗り上げた男性さんを振り落としたとみて、強盗殺人容疑での逮捕に踏み切り12月7日、板橋被告、M・K被告、A・Y被告(二人は窃盗容疑)を逮捕した。板橋被告は事件後、松戸市から柏市に引っ越していた。同日、M・S被告を、12月8日、M・M被告を逮捕した。
 逮捕された5人のグループは計十数人で構成され、県内や周辺の都県で自動車盗を繰り返していた。
裁判所
 最高裁第三小法廷 岡部喜代子裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2017年3月8日 一審破棄、地裁差し戻し(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 
備 考
 窃盗で逮捕されたM・K被告は懲役5年が確定、A・Y被告も懲役3年6月が確定している。盗品等運搬容疑で逮捕されたM・S被告、M・M被告は不明。
 2015年7月9日、千葉地裁の裁判員裁判で、求刑無期懲役に対し、一審懲役6年判決。強盗殺人罪について“無罪”との判断を示し、車を盗んだ窃盗罪を認定した。2016年8月10日、東京高裁で一審破棄、差し戻し判決。

氏 名
石田美実(59)
逮 捕
 2014年2月26日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、窃盗、建造物侵入
事件概要
 鳥取県米子市の元ラブホテル従業員、石田美実被告は2009年9月29日午後10時ごろ、9月中旬まで働いていた米子市内のラブホテルの従業員事務所で金品を物色中、支配人の男性(当時54)に見つかり、頭を壁にぶつけたり、首をひも状のもので絞めたりして意識不明の重体に負わせ、現金約26万8千円を強奪した。
(以上は起訴罪状)
 鳥取県警は内部に詳しい人物の犯行とみたが、被害者の男性が意識を取り戻さないことから、慎重に捜査を続けた。
 その後トラック運転手をしていた石田被告は2014年9月5日、別のクレジットカード詐欺で逮捕された。鳥取県警は2014年2月26日、石田被告を強盗殺人未遂、建造物侵入の両容疑で再逮捕した。
 被害者の男性は暴行に基づく多臓器不全が基で2015年9月、60歳で死亡。鳥取地検は12月15日、石田被告について強盗殺人罪への訴因変更を地裁に請求。2016年2月15日付で認められた。
裁判所
 広島高裁松江支部 栂村明剛裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2017年3月27日 無罪(一審破棄)
裁判焦点
 2017年1月19日、控訴審初公判で、検察側は一審判決に事実誤認があったとして強盗殺人罪を適用して無期懲役を求めた。弁護側は「被告が犯人であることを裏付ける直接証拠が存在せず、(一審判決は)合理的な根拠を欠いている」として無罪を主張し、即日結審した。
 判決で栂村明剛(つがむらあきよし)裁判長は、「石田被告は直前までホテルに勤務しており、釣り銭用として大量の千円札を自分で持っている必要性を否定することはできず、被害金そのものだと裏付ける証拠もない」と指摘。他にも犯行が可能だった人物がいるなどとした。そのうえで、状況証拠による立証には、被告が犯人でないと合理的に説明できない事実関係が含まれることが必要とし、「これに至らない間接事実をいくつ積み上げても、犯人性の立証には足りない。石田被告が犯人であることを示すのは犯行の機会があったということしかなく、検察側の立証が不十分であり、推定無罪の原則に反し、到底支持することができない。一審判決は明らかに事実誤認」と述べた。
 石田被告は判決後、拘置先の松江刑務所(松江市)から釈放された。
備 考
 2016年7月20日、鳥取地裁の裁判員裁判で、求刑無期懲役に対し、一審懲役18年判決。起訴罪状である強盗殺人を否定し、殺人と窃盗を適用した。検察側は上告した。2017年3月27日、広島高裁松江支部で一審破棄、無罪判決。2018年7月13日、最高裁第二小法廷で高裁差し戻し判決。2019年1月24日、広島高裁で地裁差し戻し判決。

氏 名
中尾伸也(50)
逮 捕
 2014年4月11日(窃盗容疑)
殺害人数
 3名(いずれも傷害致死)
罪 状
 傷害致死、窃盗
事件概要
 2003年8月頃から筑後市で妻の中尾知佐被告とともにリサイクルショップを経営していた中尾伸也被告は、知佐被告と共謀し、以下の事件を引き起こした。
  1. 2004年5月上旬〜6月上旬、中尾両被告の自宅アパートで、住み込みの元従業員男性(当時19)に殴る蹴るなどの暴行を繰り返して死亡させた。遺体を同市内にある伸也被告の実家の庭に埋めて遺棄した。
  2. 2004年6月中旬から下旬、従業員男性(当時22)を筑後市内にある中尾両被告の自宅アパートに閉じ込め、十分な食事を与えず殴る蹴るなど暴行して衰弱させた上、浴室に放置するなどして死亡させた。男性は2003年8月ごろから働き、12月ごろからは中尾両被告と同居するようになったが、日常的に暴力をうけていた。本件について、検察側は殺人罪で起訴している。なお男性が行方不明になった後、両被告から「会社に損害を与えた」と言われ、男性の両親が現金700万円を支払っている。
  3. 2006年9月上旬頃から10月下旬ごろにかけ、知佐被告の妹の夫(同34)をリサイクルショップ店内でゴルフクラブなどで殴るなどして暴行し、死亡させた。また、9月中旬ごろから10月中旬ごろにかけ、自宅アパートに引き取っていた妹の夫の長男(当時4)の顔や背中などを日常的に殴り続け、死亡させた。義弟は大手電機メーカーに勤め、研究者として米国に赴任していたが、妻(知佐被告の実妹)の体調不良で帰国し、退社。2006年3月ごろからリサイクルショップで働いていた。実妹は9月ごろ、家を逃げ出していた。
  4. 2007〜2013年、知人男性名義のキャッシュカード3通を作成し、現金自動受払機(ATM)から現金計約53万円を盗んだ。
 中尾伸也被告は1998年6月に、知佐被告は2001年11月にそれぞれ自己破産していた。中尾被告の両親と祖母も2002年に自己破産していた。中尾両被告は、複数の従業員へ日常的に暴力を加え、ミスを指摘しては消費者金融にカードを作らせ、借金を強要していた。他に逃げ出した従業員の親族にも金を要求したこともあった。
 2003年6月、元従業員(殺害された男性とは別)の男性の親族から「店の経営者から金をだまし取られている」と相談が福岡県警に寄せられたものの、県警は動かなかった。
 殺害された従業員男性については、2004年7月に家族から筑後署に捜索願が出ており、その後も3回、相談が寄せられていた。県警は伸也被告に直接事情を聴くも、「勝手に出て行った。店の金を持ち逃げされた」などと主張され事件性はないと判断し、最終的に男性は家出人として手配されただけだった。
 筑後市は2009年2月、知佐被告の義弟の長男の入学書類が出ていないことから、当時の小学校教頭が訪問し、不在を確認。住民票を移さず転居したと判断し、転居先からの市町村の連絡を待つこととし、調査をしなかった。2012年7月、逃げ出していた知佐被告の妹が筑後市教委を訪れ、長男の所在を問い合わせるも、市教委は約1週間後に「市内の小学校にはいない」と回答しただけで、県警への相談や市子育て支援課への連絡などは行わなかった。しかし子ども手当の申請が無かったことを不審に思った市子育て支援課の職員が義弟宅を訪ね、不在を確認。ちなみにそれまでの義弟一家の国民健康保険税と自宅家賃についは中尾両被告が払っていた。2012年9月、筑後市が長男の所在不明を筑後署に相談。しかし筑後署は、「親族でなければ捜索願は出せない」などと言われた。2013年10月、筑後市から再度相談を受け(住民票がありながら小中学校に通わず、行方が分からない児童、生徒については、文部科学省2013年3月、事件性がある場合は警察に相談するよう求めていた)、福岡県警は捜査を開始した。
 2014年4月11日、福岡県警捜査一課は4の窃盗容疑で中尾伸也、知佐両被告を逮捕。5月7日、別の窃盗容疑で両被告を再逮捕(これは不起訴?)。伸也被告の供述に基づき、5月中旬から筑後市内にある伸也被告の実家の庭などを捜索したところ、土中から骨片が見つかり、DNA鑑定で従業員男性のものと判明。6月16日、県警は従業員男性の殺人容疑で両被告を再逮捕した。さらに近くの川底から、他に2人の骨片が発見された。8月6日、義弟殺害の容疑で両被告を再逮捕するとともに、知佐被告の妹を傷害致死容疑で逮捕した。福岡地検は8月27日、中尾両被告を処分保留にするとともに、知佐被告の妹を処分保留で釈放した。9月7日、義弟の長男殺人容疑で中尾両被告を再逮捕。福岡地検は9月29日、死因を特定できず殺意を立証できなかったとして、中尾両被告を義弟と長男の傷害致死容疑で追起訴した。なお死体遺棄については時効が成立している。
 11月14日、福岡県警は中尾両被告に関する相談や行方不明者の捜索願が、捜査開始前に計10件寄せられていたことを明かしたが、県警の対応には問題がなかったと説明した。
 11月17日、福岡県警は中尾知佐被告と知人男性2人を別件の傷害致死、死体遺棄容疑で、中尾両被告を1の傷害致死容疑で書類送検した。1の件につき、証拠が乏しく殺意の立証に至らなかったことから殺人容疑で起訴できなかった。傷害致死罪の時効は事件当時10年で、2014年6月に成立していた。12月18日付で福岡地検は、中尾両被告らについて時効成立のため不起訴とした。
裁判所
 福岡高裁 山口雅高裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2017年3月27日 懲役28年(検察・被告側控訴棄却)
裁判焦点
 2017年1月30日の控訴審初公判で、検察側は、元従業員男性への未必の故意があったとして殺人罪を適用するよう改めて主張。中尾被告の弁護側は、3人への暴行は認めたが、一審同様に義弟への傷害致死罪のみ成立すると主張し、死亡との因果関係が不明としてその他の起訴内容は認めなかった。
 2月17日の第2回公判で、山口裁判長は、検察側が提出した妻の知佐受刑者の控訴審判決書などを証拠採用し、結審した。
 判決で山口裁判長は、一審同様、殺人罪の成立を認めず、3件の事件で傷害致死罪を適用。義弟への事件について義弟は逃げ出すことも可能な状況だったなどとして、「体罰の趣旨を超えていたとは認められず、死亡してもやむを得ないとの認識があったとは言えない」と検察側の主張を退けた。そのうえで、「意に沿わない従業員らに体罰と称して暴行を繰り返し、2年あまりで3人を死に追いやった結果は重大で、犯行態様も陰惨」と述べた。
備 考
 中尾知佐被告は2016年6月24日、福岡地裁の裁判員裁判で求刑無期懲役に対し、一審懲役30年判決。2017年1月27日、福岡高裁で検察、被告側控訴棄却。上告せず、確定。
 2016年8月8日、福岡地裁の裁判員裁判で求刑無期懲役に対し、一審懲役28年判決。上告せず、確定。

氏 名
東竜二(31)
逮 捕
 2013年10月2日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、死体損壊・遺棄、暴力行為等処罰法違反(常習的傷害)
事件概要
 東(あずま)竜二被告は宮崎市のアパートに同居するK・M受刑者(事件当時23)、A・M受刑者(事件当時22)と共謀し、2013年7月下旬から8月13日頃までの間、アパートで交際相手の女性(当時27)に暴行して重傷を負わせた。そして8月15日ごろ、東被告とK・M受刑者がタオルで口や鼻を塞いで窒息死させて殺害。その後、3人で遺体を切断して遺棄した。
 また東被告は同居する女性3人に常習的に暴力をふるっていた。
 東被告は宮崎市内にあるボーイズバーのホストで、客としてやってきた被害者と交際するようになった。またK・M受刑者、A・M受刑者は被害者とともに宮崎市内のクラブで働いており、二人ともボーイズバーに来ては東被告に入れ込んでいた。
 東被告はK・M受刑者、A・M受刑者とK・M受刑者のアパートに同居。その後、被害者を2012年10月26日に連れてきて、東被告は3人と交際しながら共同生活を送った。3人の女性は給与のほぼ全額を被告に渡し、金額によって"格付け"されていた。
 女性と連絡の取れなくなった母親が9月30日に警察に相談。警察は女性と同居していたK・M受刑者を捜査し、東被告と一緒にいたところを発見。事情を聞いたところ、遺体の遺棄を認めたため、10月2日に死体遺棄容疑で逮捕。遺体をA・M受刑者の自宅においてあると供述したため捜査したところ、衣装ケースに入った被害者の遺体が発見され、3日にA・M受刑者が逮捕された。2014年1月7日、殺人容疑で3人を再逮捕。
裁判所
 福岡高裁宮崎支部 根本渉裁判長
求 刑
 懲役25年
判 決
 2017年4月27日 懲役25年(一審破棄)
裁判焦点
 福岡高裁宮崎支部は当初、控訴審初公判を2016年7月14日に指定していたが、取り消した。
 2017年2月16日の控訴審初公判で、弁護側は「犯罪行為はしていない。重大な事実誤認がある」と改めて全面無罪を主張。弁護側は公判で精神鑑定などの実施を求めたが、高裁は却下した。検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。
 判決で根本渉裁判長は、保険金殺人や性犯罪に伴う殺人など無期懲役を言い渡す事例を列挙し、「死体損壊・遺棄行為が凄惨であっても、殺人の態様が凄惨で悪質と評価されるものではない」と述べた。さらに、「原判決は長期かつ執拗な常習傷害と殺人を一連の犯行と捉え、無期懲役を選択した」と指摘。「常習傷害と殺人は別個の罪であり、評価も個別に行われるべきだ」とした。その上で、女性に対する暴力に常習性があり、殺意も強固だと認定したが、「殺人に計画性までは認められず、殺害方法が殊更に残虐性の高いものとはいえない」と有期刑とした理由を説明した。
備 考
 殺人罪などに問われたK・M被告とA・M被告に対し2015年3月30日、宮崎地裁(滝岡俊文裁判長)はK・M被告に懲役12年(求刑懲役14年)、A・M被告には「殺人の意思はなかった」として殺人ほう助罪を適用し、懲役5年(求刑懲役12年)を言い渡した。滝岡裁判長は「東被告の束縛や虐待行為により、K・M被告は心的外傷後ストレス障害(PTSD)、A・M被告は精神障害となり、従属的に犯行に加担した」と認定。特にA・M被告については、「殺害しようとする積極的な意思はなかった」と判断した。どちらも控訴せず確定。
 2016年2月29日、宮崎地裁の裁判員裁判で、求刑を超える一審無期懲役判決。被告側は上告した。2017年10月3日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
国井政夫(62)
逮 捕
 2016年5月17日
殺害人数
 1名
罪 状
 強盗致死、死体遺棄他
事件概要
 福島県いわき市の建設会社社員、国井政夫被告は、社長の実弟で同役員の男性、造園業の男性、無職男性2名と共謀。2015年9月5日午後8時頃から午後11時頃の間、会社事務所で同市に住む土木作業員の男性(当時46)の頭を木刀で殴るなどして死亡させ、現金約40万円やキャッシュカードなどを奪った。さらに翌6日午前7時〜正午ごろ、造園業の男性を除く3人及び建設会社社長の男性と事務所南側に重機で穴を掘り、男性の遺体をいったん遺棄。さらに国井被告と社長は12月17日午後11時半〜翌18日午前2時頃に遺体を事務所北側に埋め直した。
 この建設会社は2005年9月に設立され、翌年7月に現在の場所に移転した。住宅解体のほか、近くの山を切り開いて土砂を採取し、東京電力福島第一原発事故の除染で、表面を削った地面にかける土を供給。敷地内ではデイサービスセンターなども運営していた。男性は同社と正式な雇用契約はなかったが頻繁に出入りしていた。被告の一部と男性とは、金銭トラブルがあった。建設会社は2016年6月に破産している。
 2015年10月、男性が行方不明になったと母親が県警に相談。県警は、男性が直前まで働いていた同社の関係者らから事情を聞き、5月15日から同社敷地内で捜索を行った。遺体は、逮捕された6人の一部が説明した場所から発見された。
 2016年5月16日夜、男性の遺体が見つかり、県警は17日、建設会社の社長の男性や国井被告など6人を死体遺棄容疑で逮捕。6月17日、6人を強盗殺人容疑で再逮捕。福島地検郡山支部は6月29日、社長の男性と造園業の男性を除く4人を強盗致死、死体遺棄容疑他で起訴。「被害男性への暴行や凶器などから殺意を立証できない」として強盗致死罪を適用した。造園業の男性は死体遺棄次現場にいなかったとして、強盗致死容疑で起訴。社長の男性については1度蹴っただけで、ほかの5人との謀議はなかったとして暴行及び死体遺棄容疑で起訴した。
裁判所
 仙台高裁 嶋原文雄裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2017年7月13日 懲役30年(被告側控訴棄却)
裁判焦点
 被告側は刑が重すぎると主張したが、判決理由で嶋原文雄裁判長は「犯行は計画的。被告は主導的役割を果たしており、厳しい非難に値する。一審判決の量刑は相当だ」と指摘。「刑が重すぎる」との被告側主張を退けた。
備 考
 強盗致死罪などに問われた無職の男性は、2017年3月24日、福島地裁郡山支部の裁判員裁判で、一審無罪判決(求刑懲役12年)。男性について「事件前後に繰り返し暴行を受け、命令に逆らえず現場に同行した」と指摘。「共謀を認めるには合理的な疑いが残る」とした。控訴せず、確定。
 強盗致死罪などに問われた無職の男性は、2017年6月6日、福島地裁郡山支部の裁判員裁判で、一審懲役26年判決(求刑懲役30年)。井下田英樹裁判長は「倒れた被害者に殺虫剤を利用した火炎放射を行うなど、執拗に暴行を加えた。犯行に主体的に関与しており、責任は重い」と述べた。被告側控訴中。
 暴行、死体遺棄容疑に問われた社長の男性は、2017年6月26日、福島地裁郡山支部で、一審懲役5年判決(求刑懲役7年)。井下田英樹裁判長は、移し替えるなどした2度の遺棄について「死者の尊厳を軽視する悪質な行為。2回目は自己保身の意図が顕著だ」と指摘した。控訴せず。確定。
 強盗致死罪に問われた造園業の男性は、2017年7月3日、福島地裁郡山支部の裁判員裁判で、一審懲役18年判決(求刑懲役25年)。井下田英樹裁判長は「強度の暴行を執拗に加え、残忍な犯行」と指摘。ただ共犯者らを制止する発言もあったとして「従属的関与にとどまる」と述べた。  社長の実弟は7月19日、初公判。
 2017年2月7日、福島地裁郡山支部の裁判員裁判で求刑無期懲役に対し一審懲役30年判決。

氏 名
遠藤裕蔵(35)
逮 捕
 2016年5月17日
殺害人数
 1名
罪 状
 傷害致死、死体遺棄他
事件概要
(以下は起訴内容に基づく)
 福島県いわき市の建設会社社長の実弟で同役員の遠藤裕蔵被告は、社員の国井政夫被告、造園業の男性、無職男性2名と共謀。2015年9月5日午後8時頃から午後11時頃の間、会社事務所で同市に住む土木作業員の男性(当時46)の頭を木刀で殴るなどして死亡させ、現金約40万円やキャッシュカードなどを奪った。さらに翌6日午前7時〜正午ごろ、造園業の男性を除く3人及び建設会社社長の男性と事務所南側に重機で穴を掘り、男性の遺体をいったん遺棄。さらに国井被告と社長は12月17日午後11時半〜翌18日午前2時頃に遺体を事務所北側に埋め直した。
 この建設会社は2005年9月に設立され、翌年7月に現在の場所に移転した。住宅解体のほか、近くの山を切り開いて土砂を採取し、東京電力福島第一原発事故の除染で、表面を削った地面にかける土を供給。敷地内ではデイサービスセンターなども運営していた。男性は同社と正式な雇用契約はなかったが頻繁に出入りしていた。被告の一部と男性とは、金銭トラブルがあった。建設会社は2016年6月に破産している。
 2015年10月、男性が行方不明になったと母親が県警に相談。県警は、男性が直前まで働いていた同社の関係者らから事情を聞き、5月15日から同社敷地内で捜索を行った。遺体は、逮捕された6人の一部が説明した場所から発見された。
 2016年5月16日夜、男性の遺体が見つかり、県警は17日、建設会社の社長の男性や国井被告など6人を死体遺棄容疑で逮捕。6月17日、6人を強盗殺人容疑で再逮捕。福島地検郡山支部は6月29日、社長の男性と造園業の男性を除く4人を強盗致死、死体遺棄容疑他で起訴。「被害男性への暴行や凶器などから殺意を立証できない」として強盗致死罪を適用した。造園業の男性は死体遺棄時現場にいなかったとして、強盗致死容疑で起訴。社長の男性については1度蹴っただけで、ほかの5人との謀議はなかったとして暴行及び死体遺棄容疑で起訴した。
裁判所
 福島地裁郡山支部 井下田英樹裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2017年7月27日 懲役11年
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2017年7月19日の初公判で、遠藤裕蔵被告は「金品強奪の共謀には加わっていない」と起訴内容を一部否認した。
 弁護側は暴行について「(被告に)金品を奪う意思なかった」と述べ、傷害致死の成立にとどまるとして強盗罪などを否定した。死体遺棄罪は認めた。
 24日の論告求刑で検察側は、「首謀者として犯行のきっかけを作り、元同僚らを巻き込んだ」と指摘。「無抵抗の被害者に4人がかりで暴行し、安全靴を履いた足で顔面などを蹴るなど、執拗で残忍な犯行」と指摘した。
 弁護側は最終弁論で、強盗致死罪ではなく傷害致死罪の適用を求め、「大切な仕事の書類が処分されたことが分かり、激情に駆られて素足で蹴っただけ」などと主張。懲役5年を求めた。
 判決で井下田英樹裁判長は、「被告の目的は被害者との社内での地位争いだった」として金品を奪う目的があったとするには疑いが残るとして共謀を否定し、傷害致死を適用した。窃盗の罪は無罪とした。暴行については、「激しく暴行を加えていて悪質」と述べた。
備 考
 強盗致死罪などに問われた国井政夫被告は、2017年2月7日、福島地裁郡山支部の裁判員裁判で求刑無期懲役に対し一審懲役30年判決。2017年7月13日、仙台高裁で被告側控訴棄却。
 強盗致死罪などに問われた無職の男性は、2017年3月24日、福島地裁郡山支部の裁判員裁判で、一審無罪判決(求刑懲役12年)。男性について「事件前後に繰り返し暴行を受け、命令に逆らえず現場に同行した」と指摘。「共謀を認めるには合理的な疑いが残る」とした。控訴せず、確定。
 強盗致死罪などに問われた無職の男性は、2017年6月6日、福島地裁郡山支部の裁判員裁判で、一審懲役26年判決(求刑懲役30年)。井下田英樹裁判長は「倒れた被害者に殺虫剤を利用した火炎放射を行うなど、執拗に暴行を加えた。犯行に主体的に関与しており、責任は重い」と述べた。被告側控訴中。
 暴行、死体遺棄容疑に問われた社長の男性は、2017年6月26日、福島地裁郡山支部で、一審懲役5年判決(求刑懲役7年)。井下田英樹裁判長は、移し替えるなどした2度の遺棄について「死者の尊厳を軽視する悪質な行為。2回目は自己保身の意図が顕著だ」と指摘した。控訴せず。確定。
 強盗致死罪に問われた造園業の男性は、2017年7月3日、福島地裁郡山支部の裁判員裁判で、一審懲役18年判決(求刑懲役25年)。井下田英樹裁判長は「強度の暴行を執拗に加え、残忍な犯行」と指摘。ただ共犯者らを制止する発言もあったとして「従属的関与にとどまる」と述べた。

 検察・被告側は控訴した。2018年3月6日、仙台高裁で検察・被告側控訴棄却。

氏 名
東竜二(32)
逮 捕
 2013年10月2日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、死体損壊・遺棄、暴力行為等処罰法違反(常習的傷害)
事件概要
 東(あずま)竜二被告は宮崎市のアパートに同居するK・M受刑者(事件当時23)、A・M受刑者(事件当時22)と共謀し、2013年7月下旬から8月13日頃までの間、アパートで交際相手の女性(当時27)に暴行して重傷を負わせた。そして8月15日ごろ、東被告とK・M受刑者がタオルで口や鼻を塞いで窒息死させて殺害。その後、3人で遺体を切断して遺棄した。
 また東被告は同居する女性3人に常習的に暴力をふるっていた。
 東被告は宮崎市内にあるボーイズバーのホストで、客としてやってきた被害者と交際するようになった。またK・M受刑者、A・M受刑者は被害者とともに宮崎市内のクラブで働いており、二人ともボーイズバーに来ては東被告に入れ込んでいた。
 東被告はK・M受刑者、A・M受刑者とK・M受刑者のアパートに同居。その後、被害者を2012年10月26日に連れてきて、東被告は3人と交際しながら共同生活を送った。3人の女性は給与のほぼ全額を被告に渡し、金額によって"格付け"されていた。
 女性と連絡の取れなくなった母親が9月30日に警察に相談。警察は女性と同居していたK・M受刑者を捜査し、東被告と一緒にいたところを発見。事情を聞いたところ、遺体の遺棄を認めたため、10月2日に死体遺棄容疑で逮捕。遺体をA・M受刑者の自宅においてあると供述したため捜査したところ、衣装ケースに入った被害者の遺体が発見され、3日にA・M受刑者が逮捕された。2014年1月7日、殺人容疑で3人を再逮捕。
裁判所
 最高裁第一小法廷 木沢克之裁判長
求 刑
 懲役25年
判 決
 2017年10月3日 懲役25年(被告側上告棄却、確定)
裁判焦点
 被告側は一・二審で無罪を主張。被告側は事実の認定に誤りがあると訴えた。
備 考
 殺人罪などに問われたK・M被告とA・M被告に対し2015年3月30日、宮崎地裁(滝岡俊文裁判長)はK・M被告に懲役12年(求刑懲役14年)、A・M被告には「殺人の意思はなかった」として殺人ほう助罪を適用し、懲役5年(求刑懲役12年)を言い渡した。滝岡裁判長は「東被告の束縛や虐待行為により、K・M被告は心的外傷後ストレス障害(PTSD)、A・M被告は精神障害となり、従属的に犯行に加担した」と認定。特にA・M被告については、「殺害しようとする積極的な意思はなかった」と判断した。どちらも控訴せず確定。
 2016年2月29日、宮崎地裁の裁判員裁判で、求刑を超える一審無期懲役判決。2017年4月27日、福岡高裁宮崎支部で一審破棄、懲役25年判決。

氏 名
有賀健一郎(50)
逮 捕
 2015年10月8日
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、銃刀法違反(所持、発射)
事件概要
 長野家飯田市の指定暴力団山口組系組幹部、有賀健一郎被告は2015年10月6日午後0時43分ごろ、飯田市内の温泉宿泊施設玄関前の駐車場で、元同市在住で住所不定、無職の男性(当時43)に殺意を持って拳銃で弾丸1発を発射し、左前頭部に命中させて翌7日朝、頭蓋内損傷で死亡させた。有賀被告は拳銃1丁と実弾6発を持っていた。
 男性はかつて有賀被告と同じ組織に所属し、同年8月の山口組分裂以後、神戸山口組傘下の組織に加入しようとしていたとされる。ただし神戸山口側は、殺された男性とは「杯を交わしていない」と移籍を否定している。
 有賀被告は8日夜、県警飯田署に弁護士を伴って出頭し、県警は殺人容疑で逮捕した。
裁判所
 長野地裁松本支部 野澤晃一裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2017年10月5日 懲役30年
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2017年9月21日の初公判で、有賀健一郎被告は決して故意ではなく殺意を持ってやったわけでもありません」とし、起訴内容のうち殺人罪と銃刀法違反(発射)は否認、無罪を主張した。銃刀法違反(所持)は起訴内容を認めた。
 弁護側は罪状認否で、殺人罪については「男性がつかみかかってきて、引き金を引いてしまった」と述べた。検察側はその後の冒頭陳述で「犯行前に男性の家族に殺害を持ち掛けるような言動があった」として殺意があったと指摘した。
 27日の公判で被告人質問が行われ、有賀被告は「殺意を持っていたわけではない」と改めて殺人について否認した。事件当時の状況について「組を移るという被害者と話し合うつもりだったが、移籍先とされる組の関係者が一緒にいたため袋叩きに合うと感じ、脅すつもりでけん銃を車から持ち出した」と述べた。
 9月28日の論告で検察側は、「18秒というわずかな時間に被害者に詰め寄り、頭を下げた被害者に0.6mの距離から発射した」、拳銃の発射には「相当な力が必要」などとし、「始めから被害者を殺すつもりがあり、わざと引き金を引いたことは明らか」と指摘した。そして、暴力団の対立抗争を背景にした危険で冷酷な犯行などと述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、被害者に近づいたのは借金返済などを尋ねるためだったとした上で「男性を殺害してしまえば借金も返ってこない」とし、けん銃の暴発事故で被告に殺意はなかったとして、殺人の罪については無罪を主張した。
 有賀被告は最終陳述で「結果的に大変申し訳ないことをしたと反省している。ただ、意図的にやったわけではありません」と話した。
 判決で野澤晃一裁判長は、被害者と一緒にいた女性の証言などから「当初から殺意を持って逃げる被害者を追いかけ、約60cmの近距離から頭部に向けて拳銃を発射したことを強く推測させる」と指摘。被害者が被告の所属する暴力団から対立する別の暴力団に移籍しようとしていたことを知ると、周囲に危害を加えるような言葉を発しており、「事件前から射殺の意思があった」と認定した。弁護側の無罪主張については、は捜査段階では意図的に発射したとの趣旨の供述をしており、「信用できない」と退けた。量刑理由では、銃器を使用した殺人事件としては「重い方に位置する」とする一方、共犯者がいる組織的な犯行と比べると「無期懲役を選択することはためらわれる」とした。
備 考
 被告側は控訴した。2018年6月18日、東京高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
小野光(45)
逮 捕
 2017年3月31日(死体遺棄容疑)
殺害人数
 1名
罪 状
 殺人、死体遺棄
事件概要
 郡山市出身の指定暴力団稲川会系組員、小野光被告は、郡山市の無職、S被告と共謀。2015年8月13日午後4時40分ごろ、東京電力福島第1原発事故の除染廃棄物の仮置き場だった福島県西郷村の農地にて、田村市出身の知人男性(当時45)の頭を拳銃で撃って殺害。さらに建設業の男性と共謀し、重機で掘った穴に遺体を遺棄した。小野被告と知人男性の間に金銭トラブルがあった。仮置き場はその後、農地として使われていた。
 「人が殺されて埋められている」との情報が寄せられ、福島県警は2017年3月17日から現場付近を重機で捜索。24日に遺体を発見した。31日、死体遺棄容疑で小野被告、S被告、建設業の男性を逮捕した。4月22日、殺人容疑で3人を再逮捕した。
 5月12日、福島地検は殺人容疑で小野被告とS被告を追起訴した。建設業の男性は関与の程度が薄いとして、嫌疑不十分で不起訴とした。
裁判所
 福島地裁 宮田祥次裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2017年11月9日 懲役30年
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2017年10月30日の初公判で、小野光被告とS被告はともに「(間違いは)ありません」と起訴内容を認めた。
 検察側は冒頭陳述で「小野被告は男性から預かった1000万円を知人に持ち逃げされ、迷惑料を含む2000万円を男性から要求されたため、殺害を決意した」と動機を説明した。また、元暴力団員の佐藤被告について、男性が大金を持っていると知っていて、小野被告が提案した殺害計画に応じたと指摘。「暴力団の論理に基づく犯行だ」と非難した。
 11月1日の論告で検察側は、小野被告に対し「殺害に対し積極的、主体的な準備をした」と指摘する一方、S被告については「証拠隠滅などに積極的に関与したが、殺害の実行はしておらず、警察に死体の場所を話した」などと述べた。
 判決で宮田裁判長は、2人が殺傷能力の高い拳銃を準備した上、犯行現場を入念に選んだことを「確定的な殺意に基づく共謀」と認定。小野被告については、殺害を実行した上、犯行準備にも積極的に関与したとし「1人の殺人としては相当に重い事案で、刑事責任は重大」と述べた。しかし、小野被告が金銭トラブルとなった被害者から、家族に危害を加えるとほのめかされていたこと、理不尽な金額の返済を迫られたことなどを酌量した。
 S被告は懲役20年(求刑懲役23年)判決が言い渡された。拳銃の手配などに加え、被害者を呼び出すなど「犯行の遂行に重大な役割を意欲的に果たした」と指摘。一方で、S被告の遺体を埋めた場所などを供述し、事件の真相が解明された事情を酌んだ。
備 考
 建設業の男性は死体遺棄容疑で起訴され、2017年6月19日、福島地裁(宮田祥次裁判官)で懲役2年6月、執行猶予5年(求刑懲役2年6月)の判決が言い渡された。宮田祥次裁判官は判決理由で「遺体は地中深さ約190cmの場所にあり、発見を著しく困難な状態にして遺棄した」と指摘。一方で「共犯者から殺人などについて知らされることなく呼び出され、関与の程度は小さく従属的なもの」だったと執行猶予の理由を述べた。
 被告側は控訴した。2018年5月22日、仙台高裁で被告側控訴棄却。

氏 名
二場勇次(52)
逮 捕
 2015年5月25日(死体遺棄容疑)
殺害人数
 1名
罪 状
 傷害致死、死体遺棄、傷害他
事件概要
 福岡県田川市のアクセサリー販売業、二場勇次被告は2015年5月17〜21日頃、自宅で自宅で交際相手の女性(当時41)の頭に噴射したスプレーにライターで引火させて後頭部にやけどを負わせたり、福岡市のホテルで頭を電気ポットで多数回殴ったりするなどの暴行を加え、5月22日ごろ全身やけどによる肺炎と急性硬膜下血腫に伴う呼吸不全に陥らせ殺害したとされる。そして飯塚市に住む会社員の男性と共謀し、遺体を長崎市の公園に遺棄した。
 二場被告と女性はフェイスブックを通じて知り合い、内縁関係にあったが、二葉被告は女性と交際を始めた3月中旬頃から虐待を繰り返し、低栄養状態に陥らせていた。
 二場被告が前妻にドメスティックバイオレンス(DV)をしていた疑いがあるとの情報を得ていた保育所側は、二場被告の女児を送迎していた女性がマスクなどで顔を隠しているのを見て5月8日に通報。田川市の職員が女性と3回接触を試み、13日には直接会うことができたが、マスクをしていたため見抜くことができなかった。市から協力を求められた県警は、田川署員が数回訪問するも、女性に会うことができなかった。
 女性の遺体は24日朝、発見された。数時間後に会社員の男性が県警博多署に出頭。供述から二場被告の関与が浮上し、県警は24日夜に福岡市内で身柄を確保し、25日、両被告を死体遺棄容疑で逮捕した。
 8月27日、県警は殺人容疑で二場被告を再逮捕した。
 また二場被告は3月にも別の交際女性に暴力をふるっていた。女性は二場被告が逮捕後の6月下旬に警察に被害を申告し、二場被告は7月に傷害容疑で逮捕された。
裁判所
 福岡地裁 中田幹人裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2017年11月22日 懲役10年
裁判焦点
 裁判員裁判。被告は、殺人罪での起訴前だった2015年8月の公判では死体遺棄罪を認めていた。

 2017年10月3日の初公判で、二場勇次被告は「起訴内容は全く違う」と述べ、無罪を主張した。
 検察側の冒頭陳述によると、2人は2015年初めにフェイスブックで知り合い、被告は次第に日常的に暴力を振るうようになった。検察側は「事件前、女性は暴行によって著しく衰弱していた」と指摘した。
 弁護側は「被告が暴力を振るったことはない」とし、殺害への関与を否定。一方で「病院に連れて行く途中で女性が死亡し、公園に捨てた」として死体遺棄罪の成立は争わない方針を示した。
 11月2日の論告で検察側は、二場被告がライターとスプレーで女性の頭に火を吹き付けるなどの虐待を繰り返していたと指摘。「虐待で、女性は体重が減り衰弱した。被告は死亡する危険性を認識していた」と主張し、「被告の暴力におびえて逃げ出せない被害者に2カ月にわたり常軌を逸した虐待を続けた。非人間的で冷酷非情な犯行だ」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は「火の吹き付けを見たという知人の証言は虚偽だ。衰弱は違法薬物を摂取した影響だ」とし、殺人罪の成立を否定したが、死体遺棄罪は認めた。
 二場被告は最終陳述で、「衰弱していたのに病院に連れて行かなかった責任はあるが、虐待はやっていない」と述べた。
 判決で中田裁判長は、「被害者への火炎放射は広範囲にやけどを生じさせるとは言えず危険性は判然としない。電気ポットによる殴打も1回だけで、硬膜下血腫も小さく殺意は認定できない」と述べた。そして殺人罪の成立を認めず、傷害致死罪を適用した。
備 考
 1992年、当時暴力団員だった二場勇次被告はダイヤルQ2で知り合った女性3人に次々に金を要求し、断られると暴力を加えた。覚醒剤を注射することもあった。7月16日未明、そのうちの1人である女性(当時19)に借金を断られたことに腹を立て、福岡市東区のホテルで、頭や顔を殴り、突き飛ばして頭部を床に打ち付けるなどの暴行を加え、女性は5日後、死亡した。二場被告は女性の家族や運び込んだ病院の医師らに、「女性が自分で交通事故に遭った」などと説明していた。
 傷害致死などの容疑で起訴され、1992年11月19日、福岡地裁で懲役10年(求刑懲役12年)の判決が言い渡され、1993年に確定して服役した。

 死体遺棄の罪で起訴された会社員の男性は2015年8月25日、福岡地裁(井野憲司裁判官)で懲役1年6月、執行猶予4年(求刑懲役1年6月)の有罪判決を言い渡された。控訴せず確定。
 検察、被告側は控訴した。2018年9月27日、福岡高裁で一審破棄、懲役22年判決。

氏 名
篠田卓良(48)
逮 捕
 2016年7月16日(覚せい剤取締法違反容疑)
殺害人数
 2名
罪 状
 殺人、現住建造物等放火、覚せい剤取締法違反
事件概要
 千葉県印西市の建築関係会社役員の篠田卓良(たかよし)被告は2016年7月上旬〜14日ごろにかけて、県内または周辺で覚醒剤若干量を使用したほか、同日午後5時45分ごろ、木造2階建て社屋兼住宅(延べ床面積198・21m2)内で、殺意を持って、1階6畳和室の畳の上にいた会社社員の父(当時75)と会社役員の母(当時70)=にガソリンをまいて持っていたライターで火を放ち、家屋約151m2平方メートルを焼損するとともに2人を焼死させて殺害した。
 卓良被告は両親と妻、2人の子どもと2世帯で同居。母親と篠田興業を経営し、その後父親も関与したが、2015年ごろから経営が悪化。父親と意見が合わず不満や怒りを募らせ、同年3月には覚醒剤を使用し、室内で木刀や包丁を振り回すなどして逮捕。この事件が原因となり、2016年1月に妻と離婚した。7月14日当日は、父親と口論となり、暴行を加えた上、室外にあったガソリンの携行缶を持ち込んで火をつけた。
 7月16日、覚せい剤取締法違反容疑で卓良被告を逮捕。8月1日、殺人他の容疑で再逮捕。8月から11月まで卓良被告の鑑定留置を実施し、責任能力の有無などを調べ、責任能力があるとして起訴した。
裁判所
 千葉地裁 楡井英夫裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2017年11月28日 懲役27年
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2017年11月14日の初公判で、篠田卓良被告は覚醒剤の使用は認めた上で「私はガソリンはまいたが放火も殺人もしておりません。ライターを持って点火しておりません」と、殺人と現住建造物等放火について無罪を主張した。
 冒頭陳述で検察側は、「極めて危険かつ残虐。室内に火気はなくライターの燃え残りも見つかっている。警察官らに自ら火をつけたと繰り返し話しており、責任能力に問題はない」と述べた。弁護側は二重人格を題材にした小説「ジキル博士とハイド氏」を挙げ「薬の副作用で人格が全く変わる。覚醒剤には幻覚、妄想、異常な興奮状態になることがある」とし、2015年以降はうつ病と診断されて意味不明な会話をしたり、見えない何かに対して攻撃的になるなどしていたと指摘。「卓良被告は『突然火がついた』と話している」とした上で「当時は和室に何度かガソリンがまかれ、気化したガソリンにより火がつきやすい状態だった」と述べ「意図してライターで火をつけたという実行行為はなく、当時は覚醒剤による急性中毒症状で心神喪失状態にあった」と、放火殺人についての無罪を主張した。
 20日の論告で検察側は、「肋骨が折れるほどの暴行を加えた上、父親から『ガソリンだけはやめてくれ』と懇願されたのを無視して直接ガソリンをかけ、ライターで火を付けた」とし「極めて危険で残虐。短時間で室内を火の海にした悪質な犯行」と指摘。さらに「育て上げてきた息子から暴行を受け、生きながらにして火を付けられて焼死させられた。突然命を絶たれた2人の無念さは察するに余りある」と述べた。覚醒剤の犯行への影響については「会社の経営で口論となり、日ごろから怒りを強めていた。怒りの発生に一定程度の影響を及ぼしたに過ぎず、完全責任能力があった」と主張した。
 同日の最終弁論で弁護側は「和室は気化したガソリンが充満していた。卓良被告はガソリンをまき、模造刀を振り回し、暴力を振るって動き回り、ライターの試しづけもした」とした上で「一瞬火花が散れば火災になる。遠くから試しづけして発生した失火といえ、意図してライターで火を付けたことには疑問が残る」と述べた。覚醒剤の影響については「2015年以降、覚醒剤による影響で両親に対する強い被害念慮があった」とし「目的は『自分を燃やしていないか』と両親に問い詰めることで、放火行為ではない」と指摘。「覚醒剤による急性中毒症状による圧倒的な影響下で行動に及んだ」と、放火殺人についての無罪を主張した。
 最終意見陳述で卓良被告は、「私は自ら火を付けて放火殺人はしていない。それを信じてください」などと述べた。
 判決で、楡井裁判長は「意図的な着火以外の原因によりガソリンに引火した可能性は相当低い」と指摘し、弁護側の主張を否定。「私が火を付けた」と卓良被告が事件直後に発言したことや、現場の状況などから「篠田被告がライターで点火した」と指摘。その上で覚醒剤の影響は少なく「完全責任能力があった」として有罪を認定した。「何の落ち度のない両親にガソリンをかけて、点火し焼殺した残虐な犯行で、結果が極めて重大」と非難。一方で「会社経営を巡って両親と口論になったことで、突発的に殺意が生じたものの、強くはなかった」と量刑理由を述べた。
備 考
 被告側は控訴した。2018年4月19日、東京高裁で被告側控訴棄却。2018年9月25日、被告側上告棄却、確定。

氏 名
中田好信(42)
逮 捕
 2015年2月16日
殺害人数
 0名
罪 状
 組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)、銃刀法違反他
事件概要
 特定危険指定暴力団工藤会(北九州市)系組幹部の中田好信被告は、下記の事件を起こした。
  1. 2012年4月19日午前7時5分ごろ、北九州市小倉南区の路上でフルフェースのヘルメットをかぶりバイクに乗った中田被告は、すれ違いざまに福岡県警元警部に拳銃3発を撃ち、殺害しようとした。3発のうち2発が元警部の左太ももや腰に命中し、約1カ月の重傷を負った。
     元警部は30年以上、暴力団捜査を担当し工藤会対策の特別捜査班長などを務め、北九州地区暴力団犯罪捜査課の特捜班長を最後に2011年3月に退職していた。退職後は北九州市内の病院に勤務。事件当時は出勤途中だった。工藤会の野村総裁、田上会長と元警部との間には在職中から捜査をめぐる確執があった。別の幹部が自宅を見に来ているのを目撃したこともあり、「撃ち込みがあるかもしれない」と感じ、退職後に県警の保護対象に指定された。
  2. 2013年1月28日、福岡市博多区で看護師女性(当時49)の頭や胸などを刃物で刺して殺害しようとした。中田被告は実行犯の送迎を務めた。
     2012年8月、工藤会総裁の野村被告が北九州市小倉北区のクリニックで局部の増大手術と周辺の脱毛治療を受け、看護師が処置を担当した。しかし術後の状態が良くなかったため、野村被告はクリニック側に対し「(手術した部分が)腐っている」「看護師が意地悪でわざとやった」「金のために注射を増やした」などと批判していた。
  3. 2014年5月26日、北九州市小倉北区の駐車場で中田被告ら2人が歯科医師男性(当時29)が左太ももや左脇腹を刃物で刺して殺害しようとし、重傷を負わせた。
     男性の祖父は1998年2月18日夜、小倉北区で射殺された元脇之浦漁協組合長の男性で、父親も当時次期漁協組合長の有力候補と目されていた。港湾事業に介入しようとした工藤会は立候補をやめるよう警告する目的で事件を起こし、父親も2014年6月の組合長選への立候補を取りやめた。父親は現在、理事を務めている。
     射殺事件では動機について北九州市漁協が影響力を持つとされる北九州市発注の港湾工事で、工藤会が公共工事への利権介入を断られた報復と認定。実行役らの工藤会系幹部組員2人が殺人罪に問われ、無期懲役判決等が確定している。
 福岡県警は、2の事件を受け工藤会関係者の通信を傍受した。その傍受記録の中に、襲撃された看護師を尾行している組員と幹部の間で襲撃を示唆する会話があった。
 その会話をもとに看護師襲撃事件の現場周辺の監視カメラをチェックしたところ、組員らの会話に対応する組員の行動がバッチリ映っていた。福岡県警は、画像鑑定で組員を特定した。その組員らに対する検察の取り調べは録音録画のもとで行われたが、それらの証拠を示された組員は、さすがに否認しきれず、容疑を認めた。

 福岡県警は2の事件における組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)容疑で、2014年10月、工藤会トップら16人を逮捕。福岡県警は14人を起訴し、2人は処分保留とした。
 福岡県警は3の事件における組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)容疑で、2015年2月15日〜16日、中田被告ら9人を逮捕した。3月9日、福岡地検は中田被告を含む4人を起訴し、残る5人は処分保留として継続捜査とした。5月22日、県警は工藤会トップら4人を再逮捕した。うち3人が起訴され、1人は処分保留となっている。
 福岡県警は1の事件における組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)および銃刀法違反容疑で、7月6日、工藤会トップら18人を逮捕・再逮捕した。7月27日、福岡地検は11人を起訴、7人を嫌疑不十分で不起訴とした。
裁判所
 福岡地裁 丸田顕裁判長
求 刑
 無期懲役
判 決
 2017年12月15日 懲役30年
裁判焦点
 福岡地裁は2016年10月18日付で、中田好信被告の公判を、裁判員法に基づいて裁判員裁判の対象から除く決定をした。塚浩司裁判長は決定理由で「工藤会の組織的犯行か否かが重要な争点となり、構成員らが公判中や判決後に、裁判員に危害を加える具体的な恐れがある」と指摘した。

 2017年2月20日の初公判で、中田好信被告は送迎役や実行役だったことは認めたが、殺意は否認し傷害罪にとどまると主張。数人の幹部らと共謀したことも認めたが、野村被告の共謀や殺意は認めず、起訴内容を否認した。
 冒頭陳述で検察側は、看護師刺傷事件では実行役の送迎、元警部銃撃事件と歯科医師襲撃事件では実行役を務めたと指摘。いずれも野村被告の指示を受けた組員らによる組織的事件だったと強調した。看護師刺傷事件は、野村被告が看護師の勤務する北九州市内のクリニックで下腹部の美容整形手術を受け、手術の失敗を恨んで起こしたと主張した。検察側は通信傍受法に基づき携帯電話の通話を傍受した記録63件を提出。看護師刺傷事件の証拠とされる携帯電話の傍受記録には、同会系組幹部が事件前に看護師が乗る新幹線の時刻を別の組幹部に伝えたり、別の組幹部が事件直後に事件を実行したことを上層部に報告する内容があったと明らかにした。事件後に組幹部が報酬について上層部に話した内容もあった。
 弁護側は、看護師刺傷事件で実行役を送迎したことを認めた上で「暴行を加える程度だと思っていた」として傷害罪を主張。元警部銃撃事件と歯科医師襲撃事件についても「実行役を務めたが殺意はなかった」として傷害罪の成立を主張した。
 2月23日の第2回公判で、工藤会の中核組織とされる田中組の元幹部の男性が検察側証人として出廷し、同会の組織性や資金源について証言した。
 3月1日の第3回公判で、1の事件で被害に遭った元警部の証人尋問があり、元警部は野村悟被告との間でトラブルがあったことを証言した。モニターを通じて証言するビデオリンク方式で行われた。証言によると、元警部は1985年ごろに野村被告と知り合い、捜査で直接話ができる関係を築いたが、同会の取り締まりが強化されるにつれて関係は悪化。定年退職の2年前の2009年には、元同会系組員と話した際に野村被告を呼び捨てにした上で「シノギ(資金獲得活動)を独り占めして他の組長が泣いている」などと悪口を言ったことが野村被告に伝わり、後日、野村被告から「最後に悪いもん残したな」と言われた。一方、中田被告の弁護側は「元警部が工藤会関係者から金銭をもらっていた」「家宅捜索の情報を工藤会に漏らしていた」などの内容を含むとされる、元組員の供述調書に基づいて尋問。事実関係をただしたが、元警部はいずれも「ありません」と否定した。
 3月6日の第5回公判で、1の事件で共犯として起訴されたN被告が検察側証人として出廷し、事件前に組幹部の指示で元警部の行動確認をしたことを認め、「目的は聞かされていなかった」と述べた。
 3月14日の公判における被告人質問で、中田被告は工藤会幹部T被告から「絶対に殺すな。足に2発、地面に2発撃て」と指示され、元警部を銃撃したと供述した。約10日後、組事務所でT被告から「取っとけ」と言われ、50万円を渡されたとし、「報酬だと思う」と振り返った。中田被告は、工藤会ナンバー3の菊地敬吾被告の付き人で財布の管理もしていたと供述。報酬をもらった日は、直前に田口被告と菊地被告が組事務所の会議室に入っていたという。その後、中田被告が菊地被告の財布の中身を確認すると50万円が減っており、「菊地被告が田口被告に現金を渡したのではないか」との見方を話した。
 9月4日の論告で検察側は、いずれも、工藤会トップで総裁の野村悟被告の指揮命令に基づいて起きた組織的な事件で、中田被告は1と3で実行役だったと主張。「一般市民を標的とした凶悪事案を二度と発生させないため、事件に関与した組員に厳罰で臨み、犯行が全く割に合わないことを広く知らしめることが必要不可欠だ」と指摘した。
 12日の最終弁論で弁護側は、1の事件について「組幹部からの指示で殺害を避けるよう指示され足を狙っており、殺意はなかった」と指摘。3の事件でも「傷のほとんどが致命傷に至らない浅いものだ」と主張した。2の事件でも送迎役であることを認めたが、いずれの事件でも殺意は無く、傷害罪にとどまると主張した。また、これらの事件が工藤会トップの野村悟被告の指揮命令に基づく組織的犯行とする検察側の主張については「野村被告自身が積極的に関与した形跡は見当たらない」と反論した。  判決で丸田裁判長は、看護師刺傷事件の動機について「野村被告の下腹部の美容整形手術を巡るトラブルに対する制裁と見ざるを得ない」と指摘。「捜査されれば野村被告の名誉が傷つくのに、下位者の一存で計画されたとは考えがたい」として野村被告の指揮命令があったことを認めた。そのうえで実行役の行為について「頭髪をつかみ相当に強い力で刃物で攻撃し、看護師を死亡させる危険があった」として殺意も認めた。さらに3件について「綿密に計画を練り上げ、組織性の強さと計画性の高さが際立つ。一般市民を襲撃した点で暴力団犯罪の中でも特異な面があり、地域社会に与えた恐怖や不安は軽視できない」と指弾。そのうえで、中田被告は2事件で実行行為に手を染めており、格別に厳しい非難を免れないと指摘。ただ「殺意の程度は強固ではなかった。各犯行の全体像は知らされず、主体的に企てたわけではない」と判断。自供して事件解明に寄与したことや事件後に工藤会から離脱したことなどを考慮し、情状酌量して有期刑の上限の懲役30年とした。
備 考
 1と2の事件他に関与して組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)などに問われた特定危険指定暴力団工藤会系元組員W被告は、2017年3月22日、福岡地裁(松藤和博裁判長)で懲役18年8月判決。検察側はW被告の自供が事件解明につながったとして、有期刑の上限を10年下回る懲役20年を求刑していた。W被告は1と2で実行役をバイクで送迎したと認定。W被告が組織の末端にいて上位者の指示に逆らえなかったことや、自白が事件の解明に寄与したことを認めた。2017年12月18日、福岡高裁(野島秀夫裁判長)で被告側控訴棄却。2018年2月1日付で被告側上告取り下げ、確定。

 被告側は控訴した。2018年7月4日、福岡高裁で被告側控訴棄却。2019年1月4日付で上告取り下げ、確定。




※銃刀法
 正式名称は「銃砲刀剣類所持等取締法」

※麻薬特例法
 正式名称は「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」

【参考資料】
 新聞記事各種

【「犯罪の世界を漂う」に戻る】