藤原宰太郎『探偵ゲーム』


藤原宰太郎 『探偵ゲーム 怪盗Xより七つの挑戦状』
(KKベストセラーズ)




『探偵ゲーム』


 『探偵ゲーム 怪盗Xより七つの挑戦状

 著者:藤原宰太郎
 (藤原宰太郎:推理クイズ作家として数々の著書を執筆)

 発行:KKベストセラーズ ワニの本

 発売:1968年11月15日初版

 定価:260円(初版時)




 私は、本格的ミステリーは、ほとんど全部読破してきた。おそらく三千冊にはなっているだろう。
 いま、推理小説が、多くの人々に愛読されているのは、謎ときの快感にある。これは、疲れきった現代人のストレス解消に役立ち、疲労回復剤の役目をはたしているからだ。つまり、“謎とき”こそ、人間に与えられた最高級の知的なゲームなのである。
 さて、そこで、私はこの『探偵ゲーム』をひっさげて、百万人の読者諸君の脳ミソに挑戦しようというのだ。はたして、あなたは、冷静、沈着、頭脳明晰なる名探偵になり得るか! さあ! 日頃のうっぷんを一挙にはらすなら、この本を読もう!(「著者自身の広告」より) 
 章立ては以下。読者の挑戦状も合わせて明記する。

part1 アリバイ崩し・ゲーム
   読者への挑戦状
  これは時間の習性を利用した自慢の犯行だ。そう簡単にはシッポを出さないぜ
   姿なき怪盗より
part2 密室トリック・ゲーム
   読者への挑戦状
  オレの殺しの手口は、一級品の芸術だ。オレの自慢の“芸”が見破られてたまるか!
   恐るべき知能犯より
part3 犯人探し・ゲーム
   読者への挑戦状
  真犯人は私だ。まったく世の中はトンマな奴ばかりだ。だれひとりこの私を怪しまないんだから…。
   孤独な真犯人より
part4 殺人計画・ゲーム
   読者への挑戦状
  ウヒヒヒヒ…またうまくいったぞ。オレのことだ、手ぬかりはない。いい気持ちだ。ウヒヒヒヒ……
   冷酷な殺人鬼より
part5 奇抜なミステリー・ゲーム
   読者への挑戦状
  事実は小説より奇なりというが、犯罪の手口にも、奇想天外なトリックがいろいろあるぜ
   悪の奇術師より
part6 凶器の発見・ゲーム
   読者への挑戦状
  証拠は残してきた。そんなことは本人のオレが百も承知さ。だが、バレないぜ。絶対にな……
   不適な悪漢より
part7 偽装工作・ゲーム
   読者への挑戦状
  オレは失敗したことのない人間だ。オレの仕事は必ず迷宮入りだ。いつもだれかがヌレギヌさ……
   悪魔の天才より

 折り返しにある推賞は佐野洋、戸川昌子、生島治郎。

 元々はKK河出ベストセラーズより『カラー版 探偵ゲーム』のタイトルで出版されていたが、刊行直後に親元の河出書房が倒産。KK河出ベストセラーズは独立し、KKベストセラーズとして生まれ変わった。独立したものの出版する本がないこと、岩瀬順三社長が藤原宰太郎と中学校時代の友人であったことから、KKベストセラーズからの申し入れにより再刊された。
 1968年初版、1990年代まで版を重ねたベストセラー。藤原宰太郎の名を決定づけた名作といってよい。
 出版当時、推理小説が愛読されていたかも知れないが、必ずしも謎ときの快感から読まれていたとは思えない。ただ、この時期から推理クイズに限らず、クイズ本が全盛となる。この本は、そちらの影響からベストセラーになったと思われる。この本出版後、大人向け、少年少女向け問わず、数多くの本を藤原宰太郎は書くことになる。
 クイズそのものは、過去の本格ミステリから引き写したと思われるトリックがほとんどである。トリックを推理するための説明が足りないクイズも多い。それでも、推理クイズの方向性を決定づけた本といえる。この本が成功したからこそ、様々なクイズ作家により数多くの推理クイズ本が似たような形式で出版された。そういう意味でこの本は罪作りな本であるとも言える。
 どちらにしても、この本がベストセラーになったからこそ、藤原宰太郎が誕生した。2000年代でもKKベストセラーズから後を引き継いだワニ文庫から、推理クイズ本が出版されている。それは、推理クイズ本が一定の部数を売ることができる本だからだ。

 再刊の経緯については『藤原宰太郎探偵小説選』(論創ミステリ叢書113)よりより引用ならびにご提供いただきました。有難うございました。

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