藤原宰太郎『密室トリック大全集 おもしろ推理パズルPART.5』


藤原宰太郎 『密室トリック大全集 おもしろ推理パズルPART.5』
(光文社文庫)




『密室トリック大全集 おもしろ推理パズルPART.5』


 『密室トリック大全集 おもしろ推理パズルPART.5』

 著者:藤原宰太郎
 (藤原宰太郎:推理クイズ作家として数々の著書を執筆)

 発行:光文社文庫

 発売:1990年10月20日

 定価:420円(初版時 税込)




 密室トリックは、ミステリーの原点だといわれている。その理由の一つは、世界で最初の推理小説が密室殺人ものだったからである。アメリカの詩人E・A・ポーが一八四一年に発表した短編『モルグ街の殺人』が、それである。
 中から鍵のかかった室内に、殺されたと思われる死体があって、その脱出不可能な現場から、なぜか犯人は立ち去っている。この不可能犯罪こそが、ミステリーの最大の謎である。『モルグ街の殺人』以来、世界じゅうのミステリー作家がこの謎に挑戦して、さまざまな華麗なトリックを生み出して、ミステリーの隆盛につくしてきたのである。
 密室のトリックの分類と解説については、密室派の巨匠ディクスン・カーが一九三五年に発表した『三つの棺』の中で、名探偵フェル博士の口をかりて、有名な<密室講義>をおこなっている。また江戸川乱歩も昭和二十八年に発表した『類別トリック集成』の中で、密室トリックを分類し、整理している。だが、正直いって、これらは箇条書きに、ごく簡単にトリックが列挙してあるだけで、よほどの推理小説マニアでないと、ちょっと理解しがたい点がある。しかも、両方とも、すでに半世紀近い昔の収集であるから、それ以後の新しいトリックがもれている。
 そこで、私は初心者にもわかりやすいように、代表的なトリックを五十ほどクイズ形式にして紹介した。クイズにすれば、読者もその謎をとく興味がわいて、推理力のテストにもなるからである。
 密室トリックの分類法には、いろんなパターンがあるが、本書では、あまりこまかく分類すると、それだけでクイズの答えがわかってしまうので、ごく大ざっぱに分けた。その中には、いわゆる<開かれた密室>もある。これは、ドアがロックされていなかったり、窓があいていて、文字通りの密室ではないが、出入りを厳重に監視されていたり、あるいは雪がふりつもって、もし犯人が出入りしたのなら、必ず足跡が残るはずなのに、そんな足跡は一つもなかったといった場合である。
 なお<名作トリック紹介>は、トリックだけを抜き出して、わかりやすく紹介するために、原作のストーリーを私なりに要約したので、ぜひ一度、原作も読んでいただきたい。たとえトリックが先にわかっても、ミステリーの面白さが十分に味わえる名作ぞろいである。
 もちろん、この五十例のほかにも、それぞれの作品の密室現場の特殊な構造によって、いろんな複雑なバリエーションがあるが、それらをいちいち紹介していたら、それこそきりがないので、本書では、できるだけ普遍性のあるものだけを選んだ。いわば密室トリックの最大公約数だと思っていただければ幸いである。
 では、密室トリックの迷路の花園へ、どうぞ!

(「まえがき」より)


 最近は、密室ミステリーに悲観論がひろまっている。密室トリックはもはや出つくしたというのである。
 現に、評論家のH・ヘイクラフトは、これから推理小説を書こうとする新人に、「密室殺人は避けること。いまでは、それに新鮮さと面白味をつけ加えるのは、ただ天才だけである」と忠告している。また同じ評論家の紀田順一郎も、『密室論』の中で、「密室に夕暮れが訪れた。カンヌキのかかった厚い扉をこじあけようとする者は、すでにいない」といっている。つまり、いまさら新しい密室トリックを考案するのは無駄な骨折りだと極言しているのだ。
 たしかに、この言葉には一理あって、最近の外国ミステリーでは、密室ものはほとんど影をひそめて、副次的な謎としてしか使われていない。ところが、なぜか国産ミステリーでは、いまもなお密室トリックは、アリバイ崩しのトリックとともに、本格的ミステリーの二大テーマになって、手を変え品を変えて、新作がつぎつぎに書きつがれている。
 では、なぜこれほどまでに日本人は密室ものが好きなのだろうか? ミステリーの鬼を自称する一部の有識者は、それを国産ミステリーの後進性のせいだというが、しかし、それだけではあるまい。日本の読者には、ミステリーの原点がある密使トリックに根づよい愛着と、不可能犯罪への尽きない好奇心があるのだ。この二つがあるからこそ、今日のミステリー界の隆盛を招いたのである。
 はたして密室ミステリーは落日を迎えたのか。それとも、西にかたむく夕日ではあっても、地平線に沈むことなく、白夜のごとく輝きつづけるのか。それを見きわめるためにも、ここらで一度、密室トリックを整理して、総括してみるのも意義があるのではなかろうか。本書を読みおえて、密室トリックには、まだまだ新しく開拓できる余地があると思われたら、おおいに挑戦して、密室悲観論など吹きとばしていただきたい。
 五十問の中には、これまで私が書いてきた推理クイズ本にあるトリックと重複するものが数点あるが、<密室トリック大全集>として一冊にまとめるためには欠かせないので、あえてここに再録した。それらについては、できるだけ<推理メモ>をつけて、類似のトリックを参考までに併記しておいた。
(「あとがき」より)


【目 次】
 第一章 密室の中の死体
 第二章 密室の鍵
 第三章 開かれた密室
 第四章 異次元の密室

 密室トリックを扱ったクイズが50問。クイズや推理メモで紹介されている作品は119編(数え間違いがあるかも)である。藤原宰太郎は類別トリック集成をやりたかったのだろうから、このようなテーマ別の推理クイズ集を出せて満足だろう。
 密室トリックをとりあえず知りたいという方には手ごろな本である。しかし、密室トリックを扱った有名な作品のほとんどがネタばらしされていることを覚悟しなければならない。いくらまえがきで「たとえトリックが先にわかっても、ミステリーの面白さが十分に味わえる名作ぞろいである」と言われてもね。やっぱりトリックを知らないで読んで、驚いてくれた方がいいから。まあ、怒り出すようなトリックもあるが。
 また本書では珍しく「これまで私が書いてきた推理クイズ本にあるトリックと重複するものが数点ある」とあとがきで書いているが、“数点”じゃなく“半数以上”でしょう(笑)。言葉は正しく使いましょう。
 まえがきに色々と書かれているけれど、あまり気にしないように。密室トリックを楽しむためのクイズ集である。

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