密室の毒針


【問 題】
 ある冬の日、新聞記者の神谷は大学時代の恩師、中川教授に呼ばれて大学の研究所に行った。赤煉瓦造りの古い建物である。
 教授は研究室の隣にある応接室に招いて、石油ストーブに点火してからこう言った。
「じつはきみに個人的な捜査をお願いしたい」
「どういったことでしょうか」
「最近、わしの研究データが誰かにコピーされているようなんだ。それできみに犯人を突き止めて……」
 その時、助手が二人のコーヒーを運んできたので、教授は口をつぐんだ。
 助手は大きな薬缶も持ってきて、ストーブの上に置くと、部屋から出ていった。
 教授は椅子から立ち上がり、用心深くドアに鍵を掛けた。
「さあ、これで邪魔は入らないだろう。いまは自分の助手さえ信用できないのでね」
 椅子に戻ると、コーヒーを飲みながら、研究データが盗写された経過を詳しく話した。神谷もコーヒーを飲みながら熱心に聞いていたが、急に頭がポーッとして眠くなった。
「しまった! 眠り薬をもられた」
 そう気付いたときはもう遅かった。全身が痺れて、深い眠りに落ちたのである。

 何分、いや、何時間ぐらい眠っただろうか。ふと目が覚めると、中川教授が椅子の背にもたれたまま死んでいた。長さ4センチぐらいの小さな矢が、教授の首に突き刺さっていた。どうやら毒矢らしい。びっくりした神谷は、さっきの助手に知らせるため、部屋から出ようとしたが、ドアは中から鍵がかかっていた。その鍵は、さっき教授が掛けたままの状態で、鍵穴に差し込んであるのだ。窓も錠がかかっていたので、応接室は完全な密室だった。
「このままでは、ぼくが犯人にされてしまう」
 慌てた神谷だったが、毒矢に小さなコルクの栓がついていたこと、そして薬缶の湯がまだ沸騰していたことからすぐにこの密室殺人事件の謎を解いたのである。さて、どのようなトリックだろう。




【解 答】
 犯人は助手である。大きな薬缶の口の中に、コルク栓のついた毒矢をきつく差し込んでおいた。そして、薬缶をストーブに置くとき、薬缶の口を中川教授の方に向けてから部屋を出た。しかもその薬缶は、ふたがハンダ付けされており、小さい穴もふさいであった。
 中川教授と神谷が眠っている間に、薬缶の湯が沸騰し、膨張する蒸気の圧力でコルク付きの毒矢が勢いよく飛び出して、教授の首に命中したのである。もちろん、薬缶を置く位置などは前もって実験しておいたのだ。

【覚 書】

 藤原宰太郎のクイズ本には結構載っている問題だと思います。しかし、コルク栓のついた毒針という時点で、トリックが見え見えですね。多分警察が調べたら、簡単に犯人が分かってしまうでしょう。証拠はいっぱいありますから。トリックのためのトリックといった感じがします。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
 ※お手数ですが、ブラウザの「戻る」ボタンで戻ってください。