イニシャルの謎


【問 題】
 風の吹く夜。ロンドン大学のムーア教授が自宅の書斎で殺害された。
 死体を発見したのは、ムーア教授に用があったレスト警部と検察医のワトス博士だった。
 教授は窓際の机にうつぶして死んでいた。背中をナイフで刺されていた。背中を向けたところを刺されたのだから、顔見知りの犯行と思われる。
 ワトス博士は、机の下に一枚のメモ用紙を見つけた。どうやら、ダイイングメッセージのようだった。メモ用紙には<yy>と筆記体で書かれていた。
「教授は死ぬ直前に、犯人の手がかりを残そうとしたに違いない。教授は右手にペンを握ったまま死んでいる。きっと、犯人のイニシャルだよ」とレスト警部は言った。
「しかし、イニシャルなら<Y・Y>と大文字で書くはずなんだが……」
「死ぬ直前で意識が薄れていたから、書きやすい小文字の筆記体で書いたんだろう。犯人もよほど慌てていたのか、教授が死んだことを確認せずに出ていったようだ。そうでなければ、メモ用紙に気付いて、処分していただろう」
 捜査の結果、三人の容疑者が浮かんだ。いずれも日本からの留学生で、ムーア教授の下に付いていた。
 山本洋<やまもとひろし>
 吉田宏子<よしだひろこ>
 花田久雄<はなだひさお>
「しかしへんだな。三人とも、イニシャルはY・Yではないよ」
 レスト警部は不思議がったが、ワトス博士は辞書を持ちながら、自分の推理を話した。
「山本洋の“洋”はヒロシだけではなく“ヨウ”とも読む。“ヨウ”ならイニシャルはY・Yになるよ」
「だけど山本のパスポートにはちゃんと“ヒロシ”と書かれている。自分の名前を勝手に変えることはできないだろう」
と、レスト警部はワトス博士の推理を否定した。
「だけど、もしかしたら山本は自分のことをヨウと呼んでくれ、と言っていたかもしれない。ヒロシという名前は喋りにくいからね」と博士は自分の推理を力説する。
「そこまで言うなら、調べてみよう」
 捜査の結果、教授は山本のことを“ヒロ”と呼んでおり、“ヨウ”とは呼んでいないことが判明した。
「うーん、ぼくの推理は完璧だと思ったんだが」
 ワトス博士は悔しがりながら、自分の推理にこだわっていた。
「だが、ヨウという名前はどこにも出てこないんだ。あ、そういえば、あの部屋は窓が開いていたな。なんだ、犯人が分かったよ」
 レスト警部はある事実に気付くと、犯人が分かったのである。さて、犯人は誰か。なお、メモ用紙に書かれていたイニシャルは、間違いなくムーア教授が犯人のイニシャルを記したものであり、犯人の偽装ではない。


【解 答】
 犯人は花田久雄である。実は教授は<hh>と書いたのだ。ところがメモ用紙が風に吹かれて机の下に落ちてしまい、しかもワトス博士は逆さまに拾ってしまったので、<yy>と読み間違えたのである。
 <hh>の筆記体は、逆さまにすると、<yy>と見えてしまう。

【覚 書】

 単純だけど、面白い謎です。日本では、絶対に作ることのできないトリックですね。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
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