消えた宝石


【問 題】
 怪盗シオンは、宝石ばかりを狙う女怪盗だった。
 そしてこの日、シオンは宝石屋で宝石を見せてもらっていた。
「私が欲しいのはダイヤよ、ダイヤ。もっと大きなものはありませんかしら」
 ガムを噛みながら喋る姿は、美しい容姿と異なってみっともない。宝石店主も顔をしかめていた。
「まことに申し訳ありませんが、当店でもっとも大きいダイヤはこちらになります」
「けちな宝石屋ねえ。私はジャガイモぐらい大きなダイヤが欲しかったのよ、失礼しちゃう」
 そうしてシオンは帰ろうとした。
「お客様、お待ちください」
 店主はシオンを呼び止めた。勿論、彼女が怪盗シオンとは知らなかっただろうが……。
「何よ、けちな宝石屋さん」
「申し訳ありませんが、先ほどお見せいたしました宝石が一つなくなっております。よろしければ、お客様をご確認させてもらいたいのですが……」
「え、私が盗んだというの? ろくな宝石を見せなかったのに、失礼なことを言う宝石屋ね。いいわ、身体検査でも何でもしてご覧なさい」
「それでは別室へ」
 そうして女性店員が二人がかりでシオンの体や持ち物を徹底的に調べたが、宝石は見つからなかった。もちろん、店内に落ちているということもなかった。
「よろしいですわね。それでは、失礼しますわ」
 シオンは帰っていった。宝石店主たちは首をひねっていた。
 翌日、腰の曲がった老婆が宝石店に入ってきた。しかし、ウィンドウに並べられている宝石を見るだけで帰っていった。
 ただの冷やかしかと思った女性店員だったが、カウンターに載っていたカードを見てびっくりした。そこにはこう書いてあったのだ。
『ダイヤは頂きました。有り難うございました シオン』
「何だと、昨日の女性やあの老婆は怪盗シオンだったのか」
「でも、宝石が盗まれたのは昨日だったのに、なぜ今日来たのかしら」
「それに、昨日宝石はどこにあったのか」
さて、この謎の真相はいかに。


【解 答】
 シオンが噛んでいたガムが曲者。宝石を見ていたシオンが隙を見てガムで宝石をくるみ、陳列棚の下に貼り付けたのだ。だからいくら身体検査をしても見つからなかったし、店内の下にも落ちていなかったわけだ。そして翌日、腰の曲がった老婆に化け、宝石を頂いていったというわけだ。

【覚 書】

 単純だけど、面白いトリックです。国内作品かな、と思いましたが、『ロンドン警視庁 フォト・ミステリー』にも似たようなトリックがあったので、海外作品が元ネタかもしれません。
 情報を頂きました。E・S・ガードナー『レスター・リースの冒険』の「モンキー・マーダー」やヘンリイ・スレッサー『怪盗ルビイ・マーチンスン』の「ルビイ・マーチンスンの婚約」で使われているとのことです。年代的にはガードナーの方が先ということです。有り難うございました。
 その後、『推理試験』収録のクイズ「フォード教授の厄日」にもありました。他にもあるかもしれません。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
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