失敗した完全犯罪


【問 題】
 ひょんなことからA子に2000万円の遺産が転がり込んだ。
 A子はほかに身寄りがいない。A子の夫Bは、株の失敗で多額の借金があった。夫婦仲の悪い二人だから、金を借りることなど不可能だ。となると、別れる前にA子を殺すしかない。Bは完全犯罪を計画し、実行した。
 Bは宿直の日にこっそり家に戻り、A子を殺害し、金庫を破った。金は駅のコインロッカーに隠し、何喰わぬ顔で宿直室に戻った。
(指紋は全部拭いたし、金庫のドアも強盗の仕業に見せるためにわざと破ったし、証拠は何もない……)
 翌日、仕事が終わって会社から帰ると、“妻が殺された!”と、慌てて警察へ連絡した。
 金庫のドアが破られ、中身がなくなっている。これは強盗殺人か? と警察は思った。
 現場を調べていた鑑識員が、捜査指揮を執っていた警部にこう呟いた。
「警部、部屋のどこを探しても、指紋がありません」
「全くないのか?」
「はい、全くありません」
(そりゃそうだ。全部拭いたから、指紋が残っているわけがない。証拠は全くない……)
「すみませんが、Bさん。署に来てもらえますか」
「はい。私でわかることでしたらなんでも……。今ここでも結構です」
「そうですか。では、なぜあなたが奥さんを殺したのか、その理由をお聞かせ願えますか?」
 Bは驚いた。完璧なはずの完全犯罪が、なぜ呆気なく見破られたのだろうか?


【解 答】
 普通の強盗なら、金庫のドアなど、自分が触れたところだけの指紋を吹き消すはず。ところがBは、全ての指紋を拭いてしまった。本来、住んでいるはずのBやA子の指紋が部屋のどこかにはあるはずだ。その指紋がどこにもないことから、かえって疑われることとなったのだ。
 用心深くしたために、完全犯罪も失敗する羽目になったのだ。

【覚 書】

 なぜ失敗したのか、という類の推理クイズ。短いながらも、すっきりとまとまっています。
 元ネタは、結城昌治「慎重な男」です。もしかしたら、海外の倒叙ものあたりにも、このネタが載っているかもしれません。

 ※解答部分は、反転させて見てください。
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