『頭の特訓』


矢野健太郎 森村誠一 山村正夫 M・トケイヤー 『発想力クイズ 頭の特訓』
(実業之日本社)




『発想力クイズ 頭の特訓』


 『発想力クイズ 頭の特訓』

 著者:矢野健太郎 森村誠一 山村正夫 M・トケイヤー
  矢野健太郎:東大数学科卒。東工大名誉教授。
  森村誠一:推理作家。
  山村正夫:推理作家。
  M・トケイヤー:1936年、ニューヨーク生まれ。1962年にラビの資格を取得。1968年来日。

 発行:実業之日本社

 発売:1972年11月10日

 定価:400円(初版時)




 世にいう“頭のいいヤツ”ってのはどんな人間のことかな――ある日、編集部でこんな話題に花が咲いた。計算が早くできるヤツでもないだろう、そんならソロバン二級をもつ女の子の方がよっぽど早いはずだ。となると、そうだ、機転のきくヤツだ――と編集部では意見が一致した。
 A君がある問題で窮地に追い込まれる。そのとき、彼はトッサに、いやしばらく時間をかけてもいい、機転をきかして、そこを脱出する――ビジネスマンなら一度は描く夢である。
 はたして、こういう機転は訓練でもって身につくものだろうか―編集部はまた疑問にぶつかった。しかし、考えてみれば、それが不可能ということはありえない。どこかに道はあるはずだ。
 そんな淡い期待をもって、編集部はまず数学の大御所矢野健太郎先生の門をたたいた。こちらの説明にうなずいておられた先生は、ある計算式を紙に書いた。これが本書四三ページの問題である。小学生だったガウスは、これをあっという間に解いた。これは暗算の力ではない。機転であり、知恵である。編集部はさっそく矢野先生に特訓コーチをお願いした。
 と同時に、機転をきかすためになんといっても重要なのは推理力であると結論した。そこで、このところ一連の殺人事件ものの推理小説を書いて、いまや完全にスターダムにのし上がった森村誠一さんに、矢野先生と全く同じようなことをお願いした。森村さんは現在、週刊誌二本、月刊誌三本、それに飛び込みがあって、平均して毎月五〇〇枚の原稿をものにしている。とても時間がないといわれた。だが、編集部にしてみれば、あのように奇抜な推理力を読者の前に展開してみせる森村さんの頭脳構造を分析し、その上で読者を特訓していただこうと、ねばりにねばった。ついに陥落。同時に推理小説界では奇才とうたわれる山村正夫さんにも、森村さんとは違ったアングルから特訓をお願いし、推理力の養成を徹底的にやることにした。
 だが、編集部はさらに貪欲だった。機転の才をみがき、推理力を養成しただけではまだ不十分だ、知恵をつけよう――ということでご登場願ったのが、ベストセラー「ユダヤ五〇〇〇年の知恵」「ユダヤ発想の驚異」(ともに実業之日本社刊)の著者マービン・トケイヤー氏だった。氏の「M・トケイヤー教室」は珠玉のように光りながら読者の知恵をみがきあげてくれるだろう。
 こうして想を練って以来二年余り、いまようやく一冊としてまとまった。どうやら所期の目的は達成できたようである。読者諸兄姉のご奮闘を祈りたい。

(「はじめに」より)

【目 次】
 第一部 着眼力検定コース 矢野健太郎
 第二部 推理力養成コース 山村正夫
 第三部 発想力完成コース 森村誠一
     M・トケイヤー教室
     ゲームコーナー▲M・アカビア▲


 第一部は数学パズル、計算パズル、図形パズル、確率など。推理クイズではないので、ここで述べることはない。
 第二部は山村正夫の推理クイズ。自分のミステリや過去のクイズからの転用はあるものの、概ねオリジナルの問題を用意している。クイズものは手慣れているだけあってか、推理力を養うには十分な、手堅いクイズを用意している。
 第三部は森村誠一の推理クイズ。「はじめに」では“奇抜な推理力”などと書かれているのだが、クイズの方は残念ながら他の作家のミステリやクイズからトリックを引用したものがほとんどである。編集部の意気込みとは裏腹に、手を抜いているなという印象しか伝わってこない。これでは発想力を完成させることなど難しいと思われる。
 第一〜三部とも、コーチと称しているわりにはただのクイズしか準備していない。せっかくだったら、頭を特訓するためのコツなどを書いてくれるとよかったのだが。
 一番面白いのはM・トケイヤー教室だった。いわゆるユダヤの愉快話、知恵話、クイズを紹介している。発想もさることながら、この問題はユダヤが発祥の地だったのか(違うかもしれないが)という発見の方が大きかった。

 結局名前だけ借りた、普通のクイズ本という印象しか与えてくれない。そんな一冊ではあるが、森村誠一がクイズ本(犯人あて小説ではなく)に参加しているという点だけは貴重かもしれない。

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