『私だけが知っている』
徳川夢声編
早川書房
発売:1961年3月31日初版
定価:210円(初版時)
本書に収録されたものは、ご承知の如く毎週日曜日の夜、NHKTVから放送された「私だけが知っている」という推理番組の台本である。もっともテレビで御覧に入れるべきものを、活字に直したのであるから、それぞれの作者が、それに応じて台本に多少筆を加えてある。
探偵局長の手記であるが、これは実をいうとテープにでもとっておかないと、私のような老人の記憶では、とてもダメであるが、ダメはダメなりに出来るだけ、当夜の記憶を呼び戻して簡単に認めた。
探偵局員は、江川宇礼雄、有吉佐和子、池田弥三郎の三氏が常任であったが、途中から有吉、池田両探偵は辞して、杉葉子氏が常任となった。今や、戸板康二、岡本太郎の両探偵がセミ・レギラー格となっている。
ゲスト探偵は現在までに、作家あり、俳優あり、本職の私立探偵あり、その名前を並べると数十名に及ぶから略します。
さて、本書に収められた事件は、探偵局が酷い目にあったものが多い。まったくヒドイものである。しかし、探偵局の面々が、モニターのテレビ影像を見て、その直後、僅々十分間ぐらいで解明できるような事件は、活字にしてご覧に入れたら、読者は片っ端しからご明察と相成る。
それでは全然、面白味がないわけだから、ここはひとつ探偵局がギセイとなり、さもさも私たちが凡クラ揃いであるように、編集した次第であります。
【収録作品】
徳川夢声
「序」
鮎川哲也
「茜荘事件」
土屋隆夫
「魔笛」
渡辺剣次
「死の契約」
佐野洋
「探偵局員の死」
鮎川哲也
「悪魔の灰」
渡辺剣次
「非常階段」
藤村正太
「新月」
渡辺剣次
「″ブルー・スカイ″事件」
鮎川哲也
「おかめ・ひょっとこ・般若の面」
NHKで昭和32年11月から38年3月まで約6年間放映された人気推理クイズ番組「私だけが知っている」のシナリオアンソロジー。番組は、まず問題編が演じられ、徳川夢声氏を探偵長とする探偵局員の面々がいろいろと推理し、山内雅人氏がつとめる「私」によって謎解きがなされるという構成である。
本書はドラマと同様、事件依頼者の探偵局への訴えに始まり、事件のストーリーと解決を切り離して、読者に推理の場所を提供している。また「序」に記されているように、一編ごとに「探偵局は推理する」と題した徳川探偵長の名推理が挟まっている。
当時はばりばりの若手、そして後に大御所となる作家が執筆しているのだから、面白くないわけがない。当時の本格推理小説が好きだという方へ、当時のクイズ番組を知りたいという方へ、そして推理クイズが好きな方へ、ぜひとも読んでもらいたい一冊である。
なお1993年には光文社文庫より『私だけが知っている 第一集』『私だけが知っている 第二集』という2冊のシナリオアンソロジーが編まれている。本巻とまったく別の作品が収録されており、プロデューサーらのエッセイも収録されている。
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