山村正夫『ぼくらの探偵大学』


山村正夫 『ぼくらの探偵大学』
(朝日ソノラマ)




『ぼくらの探偵大学』  『ぼくらの探偵大学』
   キミのオツムをテストする

 著者:山村正夫

 1931年生。愛知県出身。1949年「二重密室の謎」でデビュー。以後、多くのミステリを手がける。『湯殿山麓呪い村』で角川小説賞を受賞、映画化もされた。元日本推理作家協会理事長。1999年没。
 発行:朝日ソノラマ

 発売:1971年2月22日

 定価:300円




 オッホン……
 かくいうわがはいが、学長の国際的名探偵カングリ博士じゃ。
 カンニングのことではないぞ。カングリとは、感ぐる――つまり、ものを探るという意味なんである。
 なんじゃと? そんな名まえ、聞いたことがないって。ワッハッハ……。
 まあ、ええから、ええから。……。
 うそだと思うんなら、学長室まできてみたため。わがはいが、これまでに世界をまたにかけて解決した難事件のかずは、1万3230……ええっと……あんまり多すぎて、それ以上は忘れてしまったな。
 ともかく、学長室には、各国の警察からおくられた感謝状が、かざりきれないので、マイクロ・フィルムにおさめて、保存しておるしまつじゃ。
 それに、何をかくそう。
 かの有名なるシャーロック・ホームズくんや明智小五郎くんも、わが探偵大学の卒業生でな。わがはいが、犯罪捜査の初歩や、推理学のABCを、手に取って教えた生徒なんじゃよ。
 あのふたりは、優秀じゃったぞ。
 そのしょうこは、大学を出てからの、かれらのめざましい活躍ぶりが、なによりも証明しておる。それは、きみたちがだれよりもよく知っておるんじゃないかな。アーン?……
 さて、わが探偵大学に入学した、きみたちの使命じゃが……。
 オッホン……。
 名探偵たらんとするにはじゃ、いうまでもなく、バツグンの推理力を、バッチリきたえなければならん。それには、犯人が知恵をしぼって考えぬいた巧妙なトリックを、ズバリ、パッと見やぶるだけの知識を、身につけておく必要がある。
 そこで、わが大学では、世界の名作推理小説をテキストに、わがはいドクター・カングリじきじき、トリックについての、特訓をおこない、きみたちをしごくことにした。
 いいかな。わがはいの特別コーチをぜんぶマスターしてから、最後の問題編に書かれておる難事件に挑戦してもらう。そのテストをみごとにパスできれば、きみたちも将来、りっぱな名探偵になり得るだけではないぞ。
 推理に強くなれば、それだけ頭脳の発育にも、プラスするわけじゃ。
 でっかいことはいいことだ。じゃなかった。頭のリクリエーションをミッチリやることは、いいことだ。脳ミソちゅうもんは、フル回転させればさせるほど、性能がよくなるように、できておるんじゃからな。
 おそらくきみたちの学校の成績だって、次の学期には、5がふえて、ぐんとアップすることはゆめゆめまちがいなし。
 この本を読みさえすれば、かならず優等生になることを、わがはいが責任をもって、保証するぞ。
 ならなかったら、いつでも朝日ソノラマまで、ドンドコ文句をいいにきてくれたまえ。おわびのしるしに、わがはい、いつでも頭をそって坊主になる。おっと、これはじょうだん、じょうだん……。
 ちと、コマーシャルが過ぎたようじゃな。
 ワッハッハ……。
(「探偵大学の新入生しょくん」より引用)


【もくじ】
 第1章 トリックとは
   魔術や手品のようなもの
   世界でもっとも古いトリック
   ディケンズとポーの小説
 第2章 頭の体操編
   ナゾナゾ推理
   算数上のトリック
   魔術と手品のトリック
   特撮映画のトリック
 第3章 推理小説のトリック
   うそのトリック
   錯覚のトリック
   意外な犯人トリック
   銃と弾丸のトリック
   刀と短剣のトリック
   消えた凶器のトリック
   電気のトリック
   雪のトリック
   氷のトリック
   死体移動のトリック
   密室のトリック
   かくしかたのトリック
   消失トリック
   脱獄のトリック
 第4章 挑戦編
   第1話 カナリヤの墓
   第2話 忘れた指紋
   第3話 金庫のベルが鳴る
   第4話 こわされたマリア像《懸賞つき》

 山村正夫は何冊か推理クイズ本を出しているが、本作はその最初の作品。少年少女向けの推理クイズ本としても、最初期に当たる。その意味で記憶しておきたい一冊である。
 名探偵のカングリ博士が、色々な話を通しながら、所々でクイズを提出し、トリックなどをレクチャーする形式である。紹介するトリックなどは、代表的なものというか、トリックのごく一部であり、後の推理クイズ本でよくあるような、分類などがなされているわけではない。そのため、今読むと物足りなさを感じる。山村正夫としてはクイズとしてよりも、あくまで読み物ということを重点的に置いていたと思われる。
 第1〜3章の「例題」として出されるクイズは、いずれも過去のミステリのトリックから作られた、というか抽出されたもの。後の様々な推理クイズ本に収録されているものがほとんどであり、今読むと新味は全くないが、当時としては少年少女に驚きの目で迎えられたのだろうか。
 第4章は、父親が警部である大沢明子、晴彦の姉弟が活躍する、ちょっと長めの推理クイズ。ただ、トリックはほとんど使用されておらず、問題文で大まかなヒントは示されるため、きちんと問題文を読んでいけば誰でも答えられる内容になっている。
 今読むと物足りないだろうが、その辺は大目に見ておいたほうがよいだろう。

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