ハイ・コンラッド『名探偵はきみだ 有罪?無罪?』


ハイ・コンラッド『名探偵はきみだ 有罪?無罪?』
(早川書房 ハヤカワ・ミステリ文庫)




『名探偵はきみだ 有罪?無罪?』 『名探偵はきみだ 有罪?無罪?』

 作者:ハイ・コンラッド
 (アメリカの脚本家、クイズ作家。推理クイズの著書多数。テレビドラマ・シリーズ「名探偵モンク」の脚本で2003年、エドガー賞最優秀テレビ賞ノミネート。)

 訳:武藤崇恵

 発行:早川書房 ハヤカワ・ミステリ文庫

 発売:2004年10月15日初版

 定価:514円(初版時 税抜き)





 わたしは先の予想がつかないミステリ――密室、不可能犯罪、あるいはきわめて重要と思われた証拠が、実はなんの意味もないと判明するようなミステリが大好きだ。読者は作家に翻弄されるが、それでも手がかりだけはフェアに提示してあるミステリが好きだ。いつのまにかストーリーが反転し、最後には鮮やかなどんでん返しが待っていて、「これには歯がたたないだろう」と作家が高らかに笑いながら書いていたと思わせるミステリが好きだ。
 昔の本格推理小説(フーダニット)を楽しむために、警察の最先端技術や雑多な知識など必要なかった。それどこか純粋な論理すら必要としないものもあった。必要とされるのは想像力だけ。しかし残念なことに、当節では本物のフーダニットにはほとんどお目にかかれない。フーダニットの巨匠アーサー・コナン・ドイル、アガサ・クリスティー、そしてエラリー・クイーンの作品はいつも期待を上回るすばらしさで、それでいながら複雑すぎてうんざりすることもなかった。
 本書ではわたしなりにその伝統的な味わいを再現しようと試みた。法廷で明らかになる十二件の殺人事件の前提はすべて同じだある人物が殺人罪で起訴されている。そして証拠物件を吟味し、被告が有罪か無罪かを決めるのは陪審員――きみたち読者だ。読んでもらえればわかるだろうが、もちろんことはそう単純ではない。かならずどんでん返しが待っている。殺人の濡れ衣を着せられたのか? 事故なのか? 殺人に見せかけた自殺なのか? それともそれさえも巧妙な偽装工作なのか?
 まず最初に“訴訟事件簿”を読んで欲しい。それからそのあとに続く“裁判の証人および証拠物件”を検討する。妥当な評決にたどりつくためには最低いくつの手がかりが必要かも書いてある。いつつある手がかりのどれから始めるかはきみ次第だ。そしてひとつ手がかりを選んだらよく吟味し、きちんと頭のなかで整理してから次の手がかりに進むようにして欲しい。
 提示した必要最低限の数の手がかりで事件を解決し、評決へとたどりつける読者はほとんどいないと思う。たいていは五つの手がかりすべてに苦労しいしい取り組んだあとで、審議へと進むことになるだろう。“陪審審議”では、陪審員の一員であるきみは証拠をよく検討し、その意味するところを理解しなくてはならない。思いついた推理が陪審審議で討議される問題と矛盾している可能性もある。その場合はもう一度事件簿と証拠に戻って考えてみてくれ。ゆっくりと時間をかけて事件を検討し、もつれた糸を解きほぐしてから、最後の最後に“評決”の真相を見て欲しい。
 古典的なフーダニットは謎の一番純粋な形といえるだろう。一件矛盾している謎を解き明かすには卓越した頭脳が要求される。だからリラックスして謎解きを楽しんで欲しい。この難問奇問に取り組んでいると、髪をかきむしったり、大笑いしたりの連続だろう。願わくば、わたしが問題をひねり出したときと同じくらい読者も楽しんでくれんことを。

(「冒頭陳述」より)


 原題はWhodunit-You Decide!で1996年発行。whodunitはミステリファンならいわずもがなであるが、who done it?を語源とした名詞で、推理小説を意味する。ただここであえて訳すなら、「誰が犯人か? 決定するのはあなた!」ぐらいになるだろう。
 『名探偵はきみだ 証拠をつかめ』に続く翻訳2作目。今回は裁判所が舞台。検察側はある人物を犯人としてあげている。検察側や弁護側の証人尋問から得られた証拠より、陪審員であるあなたは審議の結果、被告が有罪か無罪かを決定しなければならない。舞台が裁判所であるということを除けば、問題の形式は前作『名探偵はきみだ 証拠をつかめ』と全く変わらない。謎のレベルが高いのも同様である。ただまえがきの「冒頭陳述」にもあるとおり、想像力をちょっと必要とするだろう。
 読み応えのある推理クイズ集である。

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