光文社文庫編『私だけが知っている 第二集』


光文社文庫編『私だけが知っている 第二集』
(光文社文庫)




『私だけが知っている 第二集』 『私だけが知っている 第二集』

 光文社文庫編

 光文社文庫

 発売:1993年12月20日初版

 定価:680円(初版時 税込み)





 本書は、昭和三十二年十一月から三十八年三月まで、日曜の夜にNHKテレビで放映された、ドラマ形式による推理クイズ番組「私だけが知っている」のシナリオのアンソロジー第二集である。第一集には、第一回の「三等寝台事件」を最初に、昭和三十五年末までに放映されたなかから十二話が収録されていたが、この第二集には、昭和三十六年一月に放映された「金印」から最終回となった「奇跡ホテル」まで、後半の二年余りの間に放映された分より十二話が採られている。
(中略)
 昭和三十年代の推理小説ブームを背景にして、「私だけが知っている」は高視聴率を獲得した。しかし、どれだけ推理ドラマとして工夫がなされても、分類上はヴァラエティ番組であった。その一部でも記録し、また全容を記録に止めておこうということはなされなかったようである。同時期に放映された、江戸川乱歩氏が解説役をつとめている「この謎は私が解く」(ラジオ東京テレビ)など、戦後になって推理クイズ形式の番組はラジオやテレビで数多く製作されたが、それがどのようなものであったかを知る資料は少ない。この『私だけが知っている』も、シナリオを丁寧に保存されていた山内雅人氏によるところが大きい。
 そしてほとんどが生放送だっただけに、かつて放映されたものを今観ることはかなわないが、当時の様子は、第一週の巻末に収録した、探偵長の徳川夢声、プロデューサーの佐藤治男、そして謎解きを担当する「私」の声をつとめた山内雅人の三氏のエッセイに詳しく語られている。この第二集の巻末にも、問題を三十作以上執筆した鮎川哲也氏の書き下ろしエッセイと、推理小説専門誌「宝石」に掲載の座談会が収録されている。座談会からは、問題を作る作家やそれを解決する探偵局員が、謎解きをいかにこの番組で楽しんでいたかが窺えるだろう。シナリオとともに、実際に番組製作に携わっていた方々のこうしたエッセイで、当時の番組の雰囲気をつかんでいただきたい。

(山前譲「はじめに」より引用)


【収録作品】
第一話 戸板康二 「金印」
第二話 笹沢左保 「深夜の客」
第三話 土屋隆夫 「落とし穴」
第四話 夏樹静子 「コーヒー裁判」
第五話 新章文子 「浴室殺人事件」
第六話 藤村正太 「水」
第七話 鮎川哲也 「占魚荘の惨劇」
第八話 夏樹静子 「崖の上の家」
第九話 山村正夫 「華やかなる結婚」
第十話 山村正夫 「高原荘事件」
第十一話 藤村正太 「雪の証言」
第十二話 日影丈吉 「奇跡ホテル」

徳川夢声
池田彌三郎
杉葉子
鮎川哲也
座談会「私だけが知っている」

鮎川哲也 その頃のこと


『私だけが知っている』放映リスト



 NHKで昭和32年から約6年間放映された人気推理クイズ番組「私だけが知っている」のシナリオアンソロジー。『私だけが知っている 第一集』に続く第二集。「私だけが知っている」がどういう番組だったかは、第一集の方を読んでもらえればよいので省略する。
 今回収録されている中でベストというと、「占魚荘の惨劇」「崖の上の家」か。ただ、いずれも当時の人気作家(として現在では大御所となった人たち)が書いているのだから、読んで裏切られることはない。シナリオということで、通常の犯人当て小説よりは読みづらいところがあるが、映像で示されるヒントはイラストで表したりしているので、当時の探偵局員と一緒に推理するのも一興だろう。
 本作品には、当時の座談会を収めることによって番組収録の様子や問題担当者側の裏事情を明かしたり、鮎川哲也による当時の頃のエッセイを収録することによって、当時の番組がどうであったかという記録を残した貴重なものとも成っている。また巻末には6年間の放映リストが作者名とともに載っている。
 第一集、第二集は幻の名番組の記録を残した貴重な本となっており、同時に推理の楽しさを味わうことの出来る楽しいものとなっている。このような推理番組が、復活しないだろうか。

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