NHK編『素人探偵局』


NHK編『素人探偵局』(三笠書房)




『素人探偵局』 NHK編『素人探偵局』

 三笠書房

 発売:1960年2月15日初版

 定価:240円(初版時)





 素人ラジオ探偵局が、いわゆる犯人当てのクイズ番組として登場してから六年、先日三〇〇回記念を放送しましたが、続いて人気番組の一つとして好評を戴いていますのは、この番組の成長と共に執筆に苦労していただいた作家諸先生や、舞台でのラジオドラマという演技面の誓約を克服して、協力を惜しまなかった俳優諸君のお陰です。更に忘れることの出来ないのは、素人探偵に選ばれた多くの方々が、毎回機知に富んだ解答を提出して我々番組製作者の推理の盲点に挑戦して、良き刺激を与えて下さった事です。私はこの番組が最近のラジオテレビにおいて華やかな推理番組の草分けであることを自負しています。今度、探偵作家クラブの方々と三笠書房の御厚意で、最近の一年間に放送したものの中から選んで、小説体として掲載することになりましたが、新しい観点から御一読いただければ幸いと思います。

(「序」より引用)


【目 次】

タイトル 作者
NHK芸能局長 吉川義雄
宿屋の富 日影丈吉
緑の小箱 山村正夫
アラセン王国の危機 千代有三
いのち買います 淀橋太郎
スターになりそこねた女 大河内常平
カルメン変奏曲 田中潤司
弥八の嫁っ子 木村学司
幽霊は生きている 千代有三
吹雪の山荘 山村正夫
怪盗ルンバ 田中潤司
物いう盆 日影丈吉
女優とカナリヤ 大河内常平
謎の南蛮土産(放送台本) 大倉左兎
犯人当て小説の妙味 中島河太郎
「素人ラジオ探偵局」は、1953年11月からNHK第二放送で放映されたラジオ番組である。毎週土曜日に30分間放映された。企画、演出は八田裕一、演出補佐は中島俊哉、脚色は大倉左兎、司会は佐々木敏全である。NHKでは1949年9月から「灰色の部屋」という番組でスリラーや怪談、探偵小説、捕物帳などを脚色して放送していた。同じくNHKでは「犯人は誰だ」というクイズが1951年5月から毎週日曜日に放送していた。犯人を聴取者に当てさせるものだが、百回記念に飛行館で公開録音を試みたら好評を博したため、NHK首脳部がこれに着眼し、八田を中心として企画したものである。「灰色の部屋」が1953年6月を持って終了したことから、11月に新番組が誕生した。番組は1961年4月まで続いた。
 この番組の特徴は、公開生放送で、一般視聴者が回答者になるというというものである。1959年10月に第三百回を迎えたことを記念し、近年の世評の高かったものから十数編を選び、原作執筆のレギュラーメンバーである大河内常平、田中潤司、千代有三、日影丈吉、山村正夫が小説化したものに加え、番組に協力した脚色家である淀橋太郎、木村学司、大倉左兎の会心作を収録してまとめられたものが本書である。
 内容としては、「視覚」を使うことが出来ず、「音」のみから推理をする必要があるため、視聴者にとってもよりわかりやすい(記憶を振り返りやすい)内容であることが求められる。そのためかどうかは知らないが、複雑なトリックなどは一切使用されていない。内容もその後に出版された数々の推理当てに比べると今一つの感はあるが、創世記の頃の作品集と思えば、それはそれで楽しめるだろう。


 最後に、中島河太郎の解説で興味深い一文があったので、ここに引用しておく。

 わが国で解決を募集したはじめは、大正十一年のモリスンの「十一の瓶」からであった。次の年にはドーゼの「夜の冒険」について出題されたが、殺害者は誰か、殺害は計画されたものか、共犯者があるか、殺害の場所及び時刻、殺害者と被害者との関係の六項目にわたる、もっとも詳細を究めたものだった。出題者は六問全部を完全に解決できるものが、数人もあろうとは思わなかったのに、百人にあまる当選者が慌てさせたし、その当選者の中には、横溝正史・水谷準・甲賀三郎氏らがあって、当時の作家がいかに熱烈な愛好者であったかが窺われる。

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