作田明監修『あなたは犯罪心理捜査官』


作田明監修『あなたは犯罪心理捜査官』
(二見書房 WAi-WAi文庫)




『あなたは犯罪心理捜査官』 『あなたは犯罪心理捜査官』

 監修:作田明
 (作田明:1950年千葉県生まれ。聖マリアンヌ医科大学医学部卒。東大精神医学教室、ロンドン大学付属精神医学研究所、八王子医療刑務所、市原学園(少年院)医務課長を経て、現在医療法人明雄会北所沢病院理事長、日本病跡学会理事。犯罪精神医学、病跡学、臨床精神医学を専攻)

 story:写楽麿、葉室波平
 column:松尾英広

 二見書房 WAi-WAi文庫

 発売:1996年10月25日初版

 定価:485円(初版時 税抜き)





 犯罪心理学は、犯罪にかかわる人間心理の分析を目的として、近年急速に脚光を浴びるようになった学問領域である。じつは、犯罪学自体は比較的古くからあった学問であったが、時代とともに分化し専門化していった結果、今日では犯罪心理学、犯罪社会学、犯罪生物学など、多くの分野に別れるようになってきたという経緯がある。
 犯罪心理学は、二十世紀になって急速に発達した心理学や精神分析学を基盤として、今日の隆盛をみている。かつては、一部の文学者や哲学者の専売特許であった人間心理への洞察に、科学の光があてられるようになり、ごく普通の人々にとってもわかりやすい形で呈示されるようになってきたところから、ひいては犯罪者の心理分析についても理解が進んできたのである。
 こうして、犯罪者が平均的な一般人とまったく異質な存在ではなく、じつは私たちとおなじ人間であった人々が、たまたま誤った教育や劣等な環境、あるいは不幸なめぐりあわせによって犯罪行動にいたったということ、見かたをかえれば、彼らはやむをえずして犯罪にまきこまれた人たちであったという認識は、少しずつではあるが、広まりつつあると思われるのである。
 大衆化社会における犯罪心理学の発展は、アメリカ合衆国において、プロファイリングという手法を生みだすこととなった。これは犯罪現場や被害者、その他の証拠をくわしく分析することによって、犯罪者の動機や行動パターンを推理し、犯人像を割り出す方法である。
 それは、きわめて広大な国土における犯罪の激増、独立した地方政府の存在と中央政府の限られた捜査権限のいっぽうで、コンピュータに代表される情報処理技術の発達というアメリカの特殊な事情によるところが大きかったが、やがて『FBI心理分析官』や映画『羊たちの沈黙』の成功により、一気に全世界に知られるようになったのである。
 わが国においては、プロファイリングと、それは犯罪捜査に大規模に活用しようとすることについては、捜査当局と犯罪学者のいずれにおいても異論が多いことは否定できない。
 しかし、私はつぎの三つの観点から、プロファイリングの意義を認めたいと思っている。
 第一に、プロファイリングは犯罪についての知見の蓄積に大いに貢献するだろう。今日の日本では、凶悪犯罪のパターンと犯罪者の生育歴、性格等について、そのすべてを分類、整理している機関はひとつもないが、それが可能となれば、凶悪犯罪(特に広域犯罪)の迅速な摘発に、大いに役立つであろうことは疑いないだろう。
 第二に、プロファイリングシステムの確立は、これまでの法務、警察当局の硬直化しつつある犯罪捜査態勢を一変することができるかもしれない。オウム真理教にみられるような危機管理能力の低下と、日本の安全神話の崩壊を少なからず防止できるかもしれないのである。
 第三に、プロファイリングには犯罪学研究に大きな転機をもたらす可能性があるだろうということである。私は、将来第一線の犯罪学者の英知を集約し、かつ犯罪捜査の前線と有機的に統合した犯罪研究組織の確立が必要となるであろうと考えているが、そうした機構が設立され、そのなかでプロファイリングの技法についても、さらに向上が図られれば、犯罪学が国民的な広がりをもった学問となりうると思われるのである。
 私は、この書が、犯罪学とプロファイリングの理解を深めるうえで役立つことになれば、たいへん意義深いことであると思っている。

(「はじめに――プロファイリングは犯罪知見の蓄積に貢献する!」より)


【目 次】
 第1章 犯罪心理捜査官 橘櫻子のミステリー・ファイル
 第2章 犯罪心理捜査官 神崎蔵人ミステリー・ファイル
 第3章 古道具屋探偵 コックリさんのミステリー・ファイル


 流行に敏感な二見WAi-WAi文庫。プロファイリングの流行を背景に、プロファイリングを用いた推理クイズ集を出版したのである。中身の出来はともかく、こうした姿勢に対しては感心する。
 通常の推理クイズにプロファイリングという手法を持ち込もうとしているが、そもそもプロファイリングはさまざまなデータを元に行われるものであるので、そういった知識を持ち合わせていない読者がプロファイリングを行おうとしても所詮無理な話なのである。それを防ごうとトリックを用いてクイズとしての形を整えてはいるのだが、すべての手がかりが与えられているわけではないので、読者がすべてを解決するのは不可能なものばかりである。
 本書は、クイズという形を通してプロファイリングがどういうものなのかを世に知らしめようという意図の方が強い。

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