『3分間傑作ミステリー』
著者:芦川淳一、庄村敦子、夏野百合、松崎昇、矢島誠
芦川淳一:1953年東京都生まれ。早稲田大学卒業。出版社勤務後、ジュニア小説、ホラーおよびミステリー漫画原作、児童図書などを執筆。
庄村敦子:1960年大阪市生まれ。青山学院大学卒業。ショートミステリ集の他、旅行、法律、医学、教育関係の書籍等にも執筆。
夏野百合:栃木県生まれ。杏林短期大学卒業。臨床検査技師のかたわら執筆活動をスタートし、主に短編推理の世界で活躍している。1995年、TBS主催トリック公募で最優秀賞を受賞。
松崎昇:1957年福島県生まれ。ジャンル不問のフリーライターとして活動。近年は小説にも手を染める。
矢島誠:1954年東京都生まれ。出版社勤務を経て1988年デビュー。第29回江戸川乱歩賞候補、第8回横溝正史賞候補。ノベルスミステリーを中心に執筆。
永岡書店 コスモ文庫
発売:2003年11月10日初版
定価:486円(初版時)
ミステリーは、犯人が残した謎を探偵(刑事)が解明していく、いわば犯人と探偵の戦いの記録といえるでしょう。
また、同時にそれは、作者と読者の戦いでもあります。作者が作品の中に張り巡らせた手がかりを読者が読み解き、いかに早く犯人やトリックを見破るか……。
犯人と探偵の闘い。そして、作者と読者の闘い――この二面性こそが、ミステリーの面白さを作りだしているといってもいいかもしれません。
とはいえ、作品中では常に探偵が推理を進めるものであり、読者はあくまでも、それをなぞっていく立場にあります。ですから、ときには読者の気持ちと探偵の推理が乖離し、読者がもどかしい思いをしてしまうこともあります。逆に、探偵の推理のテンポに読者がついていけなかったりすることもあります。これらが甚だしいと、作品の面白さがそがれてしまうことになりかねません。
そこで本書では、謎解きのイニシアチブを読者に委ねることにより、推理の面白さをじかに味わっていただけるよう、工夫してみました。
作者が提示した謎を、読者自身が推理していただく――つまり、私たち作者と読者が、本書の中で競い合うのです。
まずは問題編を読み、作品中にちりばめられた手がかりをじっくりと分析して、謎解きに挑戦してみてください。
それぞれの解答編は、次の問題編の後ろにあります。そこに書かれている作者の意図を見破ることができれば、読者の勝ちです。一方、間違っていた場合や、謎が解けなかった場合は、私たち作者の勝ちです。
戦いを挑む作者は五人。いずれも謎作りの名手を自認するものばかりです。それぞれが、簡単なものから難しいものまで、3分程度で気軽に読める超短編を八作品ずつ、合計四十話用意しました。冒頭にある★(黒星)の数が多いほど、難度が高くなっています(P8「難易度について」参照)。ダイイング・メッセージ、密室、犯人探し、暗号等、どの問題にも謎をたっぷりと詰め込んであります。
最初にひとつだけヒントを提示しておくと――普段、使い慣れているものに、意外な面が隠されているかもしれません。ちょっと角度を変えたら、見えなかったものが浮かび上がってくるかもしれません。こうしたところに、犯罪を成立させるトリックの付け入る隙が産まれるのです。
どうぞ、推理の醍醐味を楽しみながら、お読み下さい。
【CONTENTS】
PARTI 矢島 誠
PARTII 芦川淳一
PARTIII 庄村敦子
PARTIV 夏野百合
PARTV 松崎 昇
ケン・ウェバーの『5分間ミステリー』シリーズがヒットしたからか、「○分間ミステリー」という推理クイズ集が立て続けに出版された。本書はその一つ。機を見るに敏というべきか、便乗甚だしいと見るべきか、商魂逞しいと考えるべきか。今まで出版してきたクイズ集と違い、わざわざ解答編を次の問題編の後ろに配するという形も『5分間ミステリー』と揃えているのから大したものだ。
毎回毎回「はじめに」の文章を色々考えるのもご苦労様といいたい。「本書では、謎解きのイニシアチブを読者に委ねることにより、推理の面白さをじかに味わっていただけるよう、工夫してみました」と書いてあるが、やっていることは今までの推理クイズ集と変わらない。変わった点といえば、難易度がついたぐらいか。これも今までの推理クイズ集で多く見られている試みなので、本書が目新しいというわけではない。ただ、難易度最高の★★★★★で「高度な推理力や特別な知識が要求されるもの」とあるのは頂けない。作者と読者が謎解きを競い合うのなら、やはり“特別な知識”は不要であるべきだというのが私の考えである。
本書はPARTごとに作者がまとめられているので、比較がしやすい。
矢島誠は、相変わらず他のミステリからトリックを引用している。最後の方はオリジナルかと思われるが、Q7は試してみれば実現不可能ということがわかるし、Q8はあまりにも計画性に乏しい。
芦川淳一は、難易度の付け方に疑問なところがあるが、まだまともな方か。ただ、Q9や15、16のように独善的な推理を繰り広げるところに問題がある。
庄村敦子は簡単なもの、他のクイズで使われているトリックを使用したものが多い。クイズといえないものもある。
夏野百合は特殊な知識を必要とするトリックが多いので、クイズを解くという醍醐味に欠ける。
松崎昇も他のクイズで使われているトリックを使用したものが多い。推理クイズ慣れした人ならすぐに解けるだろう。
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