若桜木虔『謎の殺人事件 ミステリー劇場』


若桜木虔『謎の殺人事件 ミステリー劇場』
(河出書房新社  雄鶏社 ON SELECT)




『謎の殺人事件 ミステリー劇場』 『謎の殺人事件 ミステリー劇場』
 25の斬新トリックを愉しむ推理ゲーム

 著者:若桜木虔
 (若桜木虔:1947年、静岡県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。本名義でミステリなどを発表。また霧島那智名義で歴史小説、シミュレーション小説を発表。矢島誠らと組み、推理作家点心会を結成。)

 河出書房新社  雄鶏社 ON SELECT

 発売:1993年1月20日初版

 定価:980円(税込み、初版時)





 さて、本格ミステリーの一翼をになう、密室ミステリーであるが、根幹となる密室トリックが読者を唸らせるような斬新なものでなくては、意味がないし、読者の共感も呼ばない。
 現実に世間を騒がせる知能犯も、ハイテク機器を駆使するものが増えており、当然、ミステリーの中の犯人は、それを上回ってハイテク機器に通じた天才的犯罪者でなければ面白くないし、謎を解く刑事や探偵は、さらにそれ以上に知恵の働く者でなければならない。
 本書では、近年流行のように頻繁に取り上げられるようになったDNA鑑定はもちろんのこと、新旧の様々なハイテク機器や意外な道具を利用した巧妙な犯罪トリックをあげてみた。
 全部で二五編を用意した、巧緻なトリック犯罪で、作者は読者の皆さんに挑戦したい。

(「前書き」より抜粋)


 読者は“新米刑事”として、ハイテク機器を駆使した犯罪トリックに挑む。犯人の手口がわからなかったものは、警視庁の名刑事稲村警部による解決編が待っている。

 「ハイテク機器」といった機械トリックは、時代が過ぎるといささか古ぼけてしまう。テープを用いたトリックを用いた作品が今でも名作であるように、小説ではそれほど致命傷にはならない機械トリックも、推理クイズになると途端につまらないものになってしまう。昔は電話を利用して様々なアリバイトリックを作家は考え出してきた。転送電話などもその一つだ。しかし携帯電話が普及した今、そのようなトリックは既に過去の遺物になった。必ずしも機械トリックが心理トリックより劣るとは思わない。結局は見せ方だと思うのだが、推理クイズではなかなか難しい。
 本書は1993年の作品である。いくつかのトリックは古くなってしまったが、今でも使用可能なトリックもある。この手の機械トリックは「知らないと解けない」ネタも多いが、それでもオリジナル性は高いものが多い(馬鹿馬鹿しいものもあるが)ので、クイズとしては充分楽しめるだろう。ただし、読む分には自意識過剰なところが鼻につくが。


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