『名刑事のミステリー事件簿』
アリバイを崩し、トリックを見抜け!
著者:推理作家点心会
(さまざまな試みに挑戦しようという意欲的な若手作家の会。メンバーは現在十余名。“点心”は、中国料理では小さなつまみものを指し、そういうものでも彩り豊かに並べれば立派な料理になることから、この世界で新鋭と呼ばれている自分たちも、力を合わせれば、新しい何かを生み出せるのではないか……、そんな自負と願いを込めて命名。それぞれの個性を生かして、今後、さらに活動分野を広げていく予定である。)
KKベストセラーズ ワニ文庫
発売:1993年11月5日初版
定価:480円(税込み 初版時)
一人でひねり出すトリックには限界がある。でも、二人、三人……と寄れば、きっと、バラエティに富んだ優れたものができるのではないか。そんな発想から生まれたクイズ、トリック集が、この『名刑事のミステリー事件簿』です。
わたし個人のことをお話しすれば、けっしてトリッキーな作家ではなかったのですが、秋月さん、矢島さん、若桜木さんの初代・点心会メンバーに誘われ、不安な思いでスタートしたところ、これが結構、楽しいですね。
長編ミステリーではさまざまな制約から思いもつかなかったトリックが、ふわっと浮かんでくるのです。
腹筋を鍛えれば強くなるように、頭も鍛えれば柔軟になるというのは本当です。
読者のみなさんも頭を柔軟にして、森欧凱刑事・樋口銀杏・夏目創世紀警部とともに、一問でも多く謎を解いてみて下さい。
執筆陣に女性が何人か加わっているのも、この本のウリです。ちょっとオシャレなショート・ミステリを読むつもりでお楽しみください。
執筆者は秋月達郎、藍木訓、飯野文彦、創田仁、新津きよみ、牧南恭子、夏野百合、矢島誠、若桜木虔の9名。問題数は全部で28問。
まえがきにもあるとおり、最初は秋月、矢島、若桜木の3人で始まった推理作家点心会であるが、いつの間にか十余名も加わっていた。個人では本にすらならないだろうが、人数さえ集めて一つのグループを作ってしまえば本になりやすいだろうという思惑が見え見えである。言葉は悪いが。リストにあるように何冊かの推理クイズ本を出した後、この名前は消滅してしまう。
クイズのほうであるが、既存のトリックから引用したものが半数、科学知識などのあまり知られていない知識を必要とするクイズや、クイズの名前に値しないようなクイズも含まれている。
理科の化学式を必要とするような推理クイズなんて、普通の人に解けるわけがないだろうと思うし(こういうクイズは多分若桜木だろう)、サマータイムを導入している日本の村なんてあるはずがない。推理クイズは誰を対象としているかを、もう少し考えるべきだろう。突飛なトリックを考えてばかりいたって、世の中に通用するはずもない。
このあと何冊も本を出す点心会であるが、この程度のできでしかないのだから、自然消滅するのも当然だろう。ただ、この頃の実用本文庫化ブームにのったために出版することができたに過ぎない。
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