高裁係属中の死刑事件


氏 名
今井隼人
事件当時年齢
 23歳(2016年2月15日逮捕時)
犯行日時
 2014年11月4日〜12月31日
罪 状
 殺人
事件名
 川崎市老人ホーム連続転落死事件
事件概要
 川崎市幸区の有料老人ホームの施設職員、今井隼人被告は2014年11月4日午前1時40分ごろ、要介護3の男性(当時87)を施設4階のベランダから投げ落として殺害した。12月9日午前4時10分ごろ、要介護2の女性(当時86)を4階のベランダから投げ落として殺害した。さらに12月31日午前1時55分ごろ、要介護3の女性(当時96)を6階のベランダから投げ落として殺害した。今井被告は1件目と3件目の第1発見者で、2件目の転落発生時も施設内で当直勤務をしていた。
 今井隼人被告は神奈川県綾瀬市の医療系専門学校に進学し、救急救命士の資格を取得。2015年4月下旬、老人ホームの採用面接を受け、介護職員として働き始めた。
 事件後、今井被告は当直勤務から外された。2015年1〜4月、今井被告は入所者の居室から現金や貴金属を盗む事件を計3件起こしたとして5月に窃盗容疑で逮捕され、懲戒解雇された。裁判で19件の窃盗を繰り返したことも明らかになり、同9月、懲役2年6月、執行猶予4年の判決を言い渡された。
 事件は当初、事件か事故か判断できない「変死」として処理されていた。3件の転落死を担当した検視官はそれぞれ別だった上、管轄の幸署は同じ施設で死亡が相次いでいることを認識していたものの、3件目が発生するまで、神奈川県警本部に状況を報告していなかった。遺体は司法解剖されずに火葬された。神奈川県警が本格的に捜査に参加したのは、2015年5月だった。
 不審な転落死が続いたことは、2015年9月、表沙汰となった。厚生労働省は介護保険法に基づき、老人ホームの親会社に業務改善勧告を出した。
 神奈川県警は2016年1月下旬から今井被告を任意で事情聴取。2月13日までは関与を否定していたが、県警が翌14日の聴取への協力要請をしたところ、「気持ちを整理したい。明日は休ませてほしい」と申し出た。同15日に再び聴取に応じた今井被告は一転、「本当のことを言わないといけないと思った」と話し始め、1件目の殺害を認めた。県警は同日、殺人容疑で今井被告を逮捕した。3月4日、2件目の殺人容疑で今井被告を再逮捕。3月25日、3件目の容疑で今井被告を再逮捕した。
一 審
 2018年3月22日 横浜地裁 渡辺英敬裁判長 死刑判決
裁判焦点
 裁判員裁判。被告が3人を転落させたことを示す具体的な物証や目撃証言はない。
 2018年1月23日の初公判で今井隼人被告は、「起訴状記載の時間帯に施設にいたことについては記憶はあるが、何もやっていません」と起訴内容を否認した。
 検察側は冒頭陳述で「事件性」「犯人性」「捜査段階の自白の信用性」「責任能力の有無」の4点を争点に挙げた。「入居者は自分で飛び降りる力は無く、全事件の時間帯に勤務していた職員は今井被告だけ。今井被告以外の犯行の可能性は極めて低い」と指摘した。また、 被告が逮捕前の取り調べで「殺そうと思った」などと3人の殺害を自白した様子を録音・録画した映像などで犯人性を立証するとした。さらに量刑を決める際には、「介護職員への信頼を利用した卑劣な事件」である点や、「3人死亡という結果の重大性」「高齢化社会への不安、影響が大きいこと」などを考慮するよう求めた。
 弁護側は「警察からの圧迫でうその自白をした。転落死は(事件ではなく)事故や自殺などの可能性がある」として殺人罪の成立を争い、無罪を主張した。また、これまでに実施された精神鑑定の結果から、「発達障害がある」などとして、被告の刑事責任能力を争う姿勢も示した。
 2月8日の公判で今井被告の母親が証人として出廷し、逮捕前に今井被告から電話で、「自分が殺した」と話したと証言した。
 13日の公判における被告人質問で、今井被告は3人が転落死した時間は施設内の別の場所にいたと関与を否定し、介護のストレスも「ありません」と供述した。
 14日の公判における被告人質問で、今井被告は捜査段階で犯行を自白したことについて、「警察官から言われたヒントをもとに想像したり、推測したりして犯行の様子を話した」と説明し、改めて無罪だと訴えた。また、「録音・録画が始まる前の任意の取り調べで警察官から圧迫された」と述べた。警察官のどんなヒントをもとに自白したのかを問われると、「覚えていません」などと述べた。
 15日の公判で、横浜地裁は今井被告の自白調書を証拠採用した。調書の信用性を判断する補助証拠として、取り調べを録音・録画した映像も採用した。取調官も証人出廷し、「この事件では供述が重要になるので、自白の信用性・任意性が疑われる行為は絶対にしないという県警の方針だった」などと証言した。
 16日の公判で、2016年2月15日に神奈川県警が今井被告に任意の取り調べを行い、今井被告が殺害を認め状況を詳細に話し、動機について語った映像が流された。同18日に黙秘になった様子も流れた。
 20日の公判で、検察側は「今井被告は軽度の発達障害や知的障害があり、犯行や動機に一部影響している」と前置きした上で、「心理状態は正常だった」などと刑事責任能力が問えると主張した。
 27日の公判で被害者3人の遺族がそれぞれ意見陳述し、いずれも「極刑を望む」などと訴えた。
 3月1日、2人の被害者遺族が被害者参加制度を利用、代理人を通じて「被告は不自然な供述ばかりで真実を明らかにせず、謝罪もない」と死刑を求めた。
 同日、論告で検察側は、被害者はいずれも高齢で身体能力が低く、ベランダの柵を自力で乗り越えることは難しいと指摘。「二カ月間で3人が夜中に転落死しており、同一犯による殺人事件であるのは明らか」と主張。すべての発生日に夜勤だったのは今井被告だけであり、転落する入所者を名指しで「予告」していた。関係者の証言や被告人質問などで「被告が犯人である立証は十分」と述べた。逮捕前の取り調べでの自白は詳細で信用性が高いとし、「被告は公判前には『人を転落させた記憶がない』などと不合理な主張をしていた」と非難した。動機については「入所者を減らしたかったのと、心肺蘇生している姿を見せて評価されたかった」などと指摘した。その上で「高齢な入所者の介護職員への信頼を利用した、冷酷、卑劣で残虐な連続殺人で生命軽視の態度は著しい。反省の色もなく情状酌量の余地もない。極刑は免れない」と述べた。
 同日の最終弁論で弁護側は、3人の被害者は自力で歩行でき、同じ程度の要介護高齢者がベランダから転落死した事例が他の施設で報告されているとして、「自殺や事故の可能性がないとは言い切れない」と主張し、「事故だったという疑問は残らないか」と裁判員らに問いかけた。「予告」については「介護職員としての経験から危ないと感じる人を挙げただけだ」と訴えた。さらに、「防犯カメラの映像や目撃者の証言もなく、物的な証拠がない。事件性、犯人性を裏付ける客観的証拠は一切ない」と検察側に反論。自白については、任意の取り調べを始めた1月31日から録音・録画ができたにもかかわらず、警察がしていなかったことを指摘。撮影していない時に「お前がすべきなのは事実を認めること」「きちんと話すまで家には帰れない」などと言ったり、意に沿わないことを被告が言うと黙ったりする圧力があったために虚偽の自白や家族への告白をしたと主張した。そして「疑わしいだけでは処罰できない」と無罪を主張した。さらに、仮に犯人でも、生まれつき発達障害などがあり責任能力が限定的とした。
 今井被告は最終意見陳述で「取調官の圧力に負け、うその自白をしてしまった。今は取調官に強い怒りを覚えます」と語り、最後に「この法廷では真実しか話していない。どうか信じてください、私は何もやっていません」と訴えた。
 判決で渡辺裁判長は、主文の言い渡しを後回しにし、理由から読み上げを始めた。
 判決はまず事件性を検討し、転落死した3人のうち女性2人は「自力でベランダの柵を乗り越えることは不可能」と指摘。別の男性も「事故や自殺の可能性はほぼない」として3件とも第三者による事件と認定した。さらに、被告が3件の発生時にいずれも夜勤をしていたことや、逮捕直前に母親に電話で「自分がやった」と述べたことなどから「被告が犯人と推認できる」とした。焦点となった捜査段階の信用性については、法廷で再生された取り調べの録音・録画映像から「取調官の高圧的な態度や誘導姿勢はない。具体的、迫真的で現場の状況と一致する内容の供述で、自白の信用性は相当に高い」と述べた。被告が公判前の精神鑑定で診断された「自閉スペクトラム症」の影響も顕著ではないとして、責任能力も認めた。そして、「被害者を物でも投げ捨てるかのように転落させた人間性のかけらもうかがえない冷酷な犯行」だと厳しく指摘。「約2カ月で3回も殺害を繰り返し、入所者を守るべき立場を顧みず、施設や家族の信頼を踏みにじった。裁判での説明は全体として完全に破綻している。真実を知りたい遺族の前で犯行を否認し、反省の態度はみじんもうかがえず、更生の出発点にも立っていない。情状の余地は認められず、極刑もやむを得ない」と量刑理由を述べた。

 弁護側は即日控訴した。
 2019年12月20日の控訴審初公判で、弁護側は一審同様、無罪を主張。検察側は控訴棄却を求めた。
備 考
 事件が起きた老人ホームでは、入所者への暴力や暴言などの虐待行為も発覚した。川崎市は転落死事件が表に出た2015年9〜10月、施設へ計3回の立ち入り検査を実施。12月、神奈川県警が別の元職員3人を暴行容疑などで書類送検。川崎市は転落死や虐待に関して施設側が正確に事実関係を把握できず、十分な対策も講じなかったと結論づけ、施設からの介護報酬の請求を2015年2月から3カ月間停止させる行政処分を出した。横浜地検川崎支部は2016年2月、暴行罪で男性1人を在宅起訴、業務妨害の容疑で書類送検された別の男性2人を不起訴処分とした。2016年4月18日、男性1人に対し、懲役8月執行猶予3年(求刑懲役1年)の判決を言い渡した。
 神奈川県警は今回の反省から2015年8月、同一施設での過去の不審死などを検索できる新システムを導入した。
 川崎市は、介護施設の急増と市職員の人員不足により施設の実態把握が遅れたとして、2016年度から担当職員を4人増員し、13人態勢とした。
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氏 名
上村隆
事件当時年齢
 44歳(2011年4月、逮捕時)
犯行日時
 2009年4月〜2011年2月10日
罪 状
 殺人、逮捕監禁致死、監禁傷害、監禁他
事件名
 姫路連続監禁殺人事件
事件概要
 住所不定、無職上村(うえむら)隆被告は、兵庫県姫路市のパチンコ店運営会社の実質経営者であった、韓国籍の陳春根(しゅんこん)(日本名:中村春根(はるね))被告の指示を受け、以下の事件を引き起こした。
  • 上村隆被告は陳春根被告に指示を受け、複数人と共謀。2009年4月、東京都世田谷区の広告会社社長Mさんを、会議の席上で上村隆被告らが押し掛け連れ出した。そして2010年6月まで、兵庫県姫路市内のマンションや事務所内、倉庫などにMさんを監禁した。
     Mさんの会社は陳被告から10億円の融資を受けていたが、返済は滞っていた。
  •  上村隆被告は陳春根被告に指示を受け、複数人と共謀。2010年6月中旬頃、東京都世田谷区の広告会社社長Mさん(当時50)を兵庫県内またはその周辺で、拳銃を発射するなど何らかの方法で殺害した。遺体は発見されておらず、凶器の拳銃も見つかっていない。
  •  上村隆被告は陳春根被告に指示を受け、複数人と共謀。2010年4月13日、姫路市内に住む元暴力団組員で韓国籍の男性Tさん(当時57)を同市内のパチンコ店駐車場で乗用車に押し込んで拉致監禁し、三木市の倉庫まで走行。その間、車内でTさんの口に粘着テープを張り付けるなどして、Tさんと窒息死させた。Tさんの遺体は見つかっていない。
  •  上村隆被告は陳春根被告に指示を受け、複数人と共謀。2010年8月30日、姫路市内の路上で、陳被告の知人の30代男性を車に押し込み、手錠をかけるなどして三木市内の貸倉庫に連行。9月28日まで監禁した。同じ倉庫に監禁していたSさんが逃げ出したため、監禁の発覚を恐れた陳被告らは男性を解放した。
  •  上村隆被告は陳春根被告に指示を受け、複数人と共謀。2011年2月10日、兵庫県姫路市の元暴力団組員の作業員Sさん(当時37)の自宅マンション前でSさんを連れ去ってトラックに監禁し、首を絞めて殺害。姫路市の路上に止めた保冷車に遺棄した。
     10日午後6時過ぎ、女性の声で「『助けて』という男性の声が聞こえた」と110番があり県警が捜査。11日午後10時20分ごろ、遺体を発見した。
 2011年2月11日、Sさんへの逮捕監禁致傷の容疑で3人を逮捕。3月31日、兵庫県警は別の元会社役員(当時35)への恐喝容疑で陳春根被告や上村隆被告を全国に指名手配した。4月28日、上村被告は、宿泊先の広島市内のビジネスホテルで身柄を確保され、逮捕された。12月27日、陳被告が逮捕された。
 2013年10月23日、県警暴力団対策課などはSさんへの殺人容疑で陳春根被告と、上村隆被告を逮捕した。
 2014年3月6日、県警暴力団対策課などはTさんへの逮捕監禁致死容疑で陳春根被告と上村隆被告、その他3人を逮捕した。
 11月14日、県警暴力団対策課などはMさんへの逮捕監禁容疑で陳春根被告と上村隆被告、その他3人を逮捕した。
 2015年2月18日、県警暴力団対策課などは知人男性への逮捕監禁容疑で陳春根被告と上村隆被告、その他1人(後に起訴猶予)を逮捕した。
 6月10日、県警暴力団対策課などはMさんへの殺人容疑で上村隆被告を逮捕した。10月23日、殺人容疑で陳春根被告を逮捕した。社長の遺体や拳銃は見つかっていないが、社長の生存が長期間確認できないことなどから同課は社長が殺されたと判断した。
一 審
 2019年3月15日 神戸地裁姫路支部 藤原美弥子裁判長 死刑判決
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2018年10月1日の初公判で、上村隆被告は起訴内容を否認。陳春根被告の関与についても「共謀や指示はなかった」と全面的に否認した。
 冒頭陳述で検察側は「陳被告からもらえる金を目当てに、共謀して4人の男性を連れ去り、殺害や監禁によって3人の命を奪った」と指摘。 弁護側は2人の遺体が見つかっていないことなどから、「いずれの事件についても陳被告と共謀した事実はなく、有罪を裏付ける客観的証拠がない」と無罪を主張した。
 2019年2月7日の論告で検察側は「被害者とは面識も個人的な恨みもなく、陳被告からもらえる金目当ての犯行だった」とした上で、「肉体的にも精神的にも屈服させ、3人の命を奪った。人間の尊厳を踏みにじる冷酷で悪質な犯行。遺族に謝罪もなく、無反省な態度からは更生の意欲もみられない」と指弾した。  判決で藤原裁判長は、無罪を主張していたMさんの事件について、「拳銃で殺害し遺体を焼却した」と上村被告から打ち明けられたとする関係者の証言が信用できると認定した。他の事件についても、犯行の経緯を打ち明けられたとする知人の証言や状況証拠などを踏まえ、Mさんの事件を含む3人全員の殺害・死亡について陳被告の関与を認定し、被害者らとの間に過去の刑事事件に絡む怨恨や融資トラブルを抱えていた陳被告が主導したと判断。上村被告が陳被告の下で「裏仕事」をし、報酬目当てに陳被告の指示に従って実行したと指摘したうえで、「上村被告が果たした役割は重要かつ必要不可欠なものだった。3人の人命が犠牲となった結果は重大。不合理な弁解を繰り返し、反省していない。首謀者が他にいることをもって死刑を回避する理由にはならない。極刑をもって臨むほかない」と述べた。

 弁護側は即日控訴した。
備 考
 一連の事件で兵庫県警は陳、上村被告のほかに15人を逮捕し、14人は有罪が確定している。
 審理期間は166日間で、これは裁判員裁判で過去最長の207日となった陳春根被告に次ぐ2番目の記録である。
 主犯の陳春根被告は2018年11月8日、神戸地裁姫路支部(木山暢郎裁判長)の裁判員裁判で求刑死刑に対し、無期懲役判決。広告会社社長Mさんの殺害容疑については無罪判決が出ており、本裁判とは異なる判決となっている。検察、被告側控訴中。
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氏 名
中田充
事件当時年齢
 38歳
犯行日時
 2017年6月5日〜6月6日
罪 状
 殺人
事件名
 警官妻子3人殺害事件
事件概要
 福岡県小郡市の県警巡査部長、中田充(みつる)被告は2017年6月5日夜から6日朝の間に、自宅1階の台所またはその近くで、妻(当時38)の首を何らかの方法で圧迫し、2階の寝室で、小学4年の長男(当時9)と小学1年の長女(当時6)の首をひも状のもので絞め、それぞれ殺害した。司法解剖の結果、死亡推定時刻は妻が6日午前0〜9時、子供2人は同0〜5時とされる。
 中田被告は2002年10月に任官。警察署の交番や自動車警ら隊などを経て、2016年8月から県警通信指令課に勤務していた。
 同日午前8時40分ごろに小学校から「長男と長女が来ていない」と中田被告に電話があり、依頼されて9時20分ごろに訪ねてきた妻の姉が遺体を見つけ「妹が自殺している」と通報した。当初は母親に 目立った外傷がなかったことや、中田被告や姉が育児に悩んでいたと証言。妻の遺体の近くには練炭のようなものが置かれていたことなどから、妻による無理心中の可能性があると県警は発表したが、司法解剖の結果殺人であることが判明し、7日に捜査本部を設置。中田被告は県警に対し6日午前6時45分ごろ家を出たが、「3人は寝ていた」と話した。しかし、司法解剖の結果、子ども2人は同日午前5時までに死亡していたとみられることが判明。出勤前に子ども2人は既に死亡していたことになり、現場の状況と食い違うことから、県警は事情聴取を続けた。8日、県警は中田被告を妻の殺人容疑で逮捕した。13日、県警は中田被告を懲戒免職とした。関与を示す証拠が乏しいため捜査が長期化。家族以外に自宅に侵入した形跡がなく、妻が子どもを殺害する動機がないことなどから、2018年2月21日、2人の子供の殺人容疑で中田被告を再逮捕した。
一 審
 2019年12月13日 福岡地裁 柴田寿宏裁判長 死刑判決
裁判焦点
 裁判員裁判。
 2019年11月5日の初公判で、中田充被告は「一切身に覚えがなく事実無根。直接的な証拠や動機が見当たらないのに、理不尽な理由で起訴された。間違いなく冤罪です」と無罪を主張した。
 検察側は冒頭陳述で、2005年の結婚後、生活態度などに関して妻から繰り返し叱責されるようになり、残業と偽って家に帰らなくなるなど夫婦関係が悪化。同僚に「(妻に)死んでほしい」と話し、事件前には離婚話も出ていたと背景を説明した。事件当日には、妻から励まされていた5回目の昇任試験に落ちたとの連絡があったことも指摘した。また「被告による犯行を直接証明する証拠はない」と認めた上で(1)被告が事件当日は家にいた(2)自宅付近の防犯カメラ映像や歩数計アプリの履歴などから、被告は3人の死亡推定時刻に自宅にいて、活動していた(3)妻子の周りにライターオイルがまかれており、被告の勤務先のロッカーに使い残しのライターオイルが保管されていた(4)自宅に第三者が侵入した形跡がない(5)中田被告に新しい傷があり、妻の首から採取した微物のDNA型が被告と一致――などと指摘。こうした状況証拠を積み重ねて有罪を立証すると述べた。
 弁護側は「アプリの履歴だけで被告が起床していて、犯行までしたといえるか。防犯カメラに死角があり、第三者が侵入した可能性を否定できていない」などと、証拠に「穴」があると疑問を投げ掛けた。検察側が考える3人の死亡推定時刻は、最大9時間半も幅があるため「本当に死亡推定時刻を特定できているのか」と捜査の不十分さにも言及した。そして「夫婦関係は悪かったが、殺害の動機につながるものではない」と反論。「状況証拠を積み重ねても直接の証拠はなく、被告が犯人とは断定できない。検察側の主張では第三者が介在した可能性を否定できない」とした。
 同日、現場の鑑識に当たった福岡県警捜査員は「玄関ドアは不正な方法でこじ開けられた痕跡はない」と証言し、外部の侵入や第三者の犯行を疑わせる事情はないことを立証しようとした。
 6日の第2回公判で、検察側証人として3人の司法解剖を担当した医師が証言。3人の死後硬直の状況や直腸内の温度を基に「いずれも未明に死亡したと考えるのが自然で、午前6時半より前の死亡は確実」と述べた。中田被告は捜査段階の調べなどで、死亡推定の時間帯に在宅し午前6時50分ごろ出勤したことは認めているが、「出勤した際に3人は寝ていた」と説明している。弁護側は「気温や湿度により死亡推定時刻は変わる」と反論した。
 15日の被告人質問で中田被告は「家族のためにもう一度捜査して犯人を捕まえてほしい」と改めて無罪を主張した。被告は同6時の起床時には全員寝ていたと説明。検察側が殺害時に抵抗されてできたと指摘する左腕の傷は「前夜に風呂から出た時、妻からたたかれ付いたと思う」と述べた。また、被告のスマートフォンの記録から被告は6日未明に活動していたとする検察側の主張には「妻から定期的にスマホを点検すると言われており、妻が操作したのかと思った」と反論。「子供が一番大事で、子供のために死ぬことはあっても手をかけることは絶対にない」とも語った。
 18日の中間論告で検察側は、@殺害時刻とされる2017年6月6日未明に、被告のスマートフォンのアプリに自宅の1階と2階を上り下りした記録があるA被告の左腕に真新しい傷があるB第三者の侵入はうかがえない――などの間接証拠を列挙。さらに夫婦が長年不仲で、事件直前には警部補昇任試験に不合格となったことを妻から責められるなど「動機となり得る事情」があったと主張し、「これだけの事実が偶然に重なることはあり得ない」と結論付けた。
 弁護側は、スマホは妻が操作した可能性があり、左腕の傷も事件時のものとは限らないと反論。昇任試験の結果は妻に伝えておらず、子供との関係も良好で殺害動機はないと訴えた。
 12月2日の論告で検察側は、被告が事件後に普段通りに出勤し、他人の犯行であるかのように振る舞ったとして「無理心中とは全く異質の身勝手かつ自己中心的な犯行」と主張。また、3人が数分間にわたり首を絞められて殺害されていることから「強固な確定的殺意に基づく、冷酷かつ残忍な犯行だ」と非難した。これら事件の悪質性を踏まえ、事件に計画性が認められない点や、殺害の動機が明確になっていない点が死刑回避の理由にはならないと強調。さらに、事件後に3人の遺体をつなぐようにライターオイルをまいて燃やすなど証拠隠滅を試みたと主張、遺族の厳しい処罰感情などからも、3人が死亡した他の殺人事件と比較し死刑が相当と結論付けた。
 弁護側は同日の最終弁論で、いずれの証拠も「被告を犯人と推認するものではない」とし、第三者が殺害した可能性を指摘するなど無罪を主張した。また無罪が認められなかったとしても、量刑については「死刑の適用は回避されるべきだ」と主張。過去の判例から、殺害への計画性の有無は、死刑かそれ以外かを分ける大きな点であると主張した。その上で、事件後の証拠隠滅行為も場当たり的で計画性はなく、現職警察官が逮捕されたとはいえ「被告が権限利用した犯罪とは異なる」と指摘。被害者が3人の殺人事件の判決を挙げ、「死刑は生命を奪う究極の刑。特別な検討が必要で、特に慎重に考えるべきだ」と訴えた。
 最終意見陳述で中田被告は、「量刑に関して言うことはない。適切な判断をお願いします」と述べた。
 判決で柴田裁判長は、仮に第三者の犯行だとすると、この時間に自宅にいた被告に「気付かれることなく3人を殺害したとは考えられない」とし、周辺の防犯カメラ映像や自宅の指紋状況などからも第三者侵入の可能性を排除した。その上で、被告の左腕に妻が抵抗した際に付いたとみられる傷があり、妻の右手薬指の爪の間から採取した微物が被告のDNA型と一致したことなどは、妻を殺害した犯人と裏付けるものだと指摘。動機は「不明」としつつも、被告が妻から日常的に叱責されるなどしていたことを踏まえ、育児や県警の昇任試験などをめぐる夫婦関係の悪化を挙げ、「何らかのきっかけでこれまでの鬱憤を爆発させ、衝動的に犯行に及んだとみるのが自然」と述べた。さらに、妻が日ごろから熱心に子育てに取り組み、事件以降の子供の予定も入れていることなどから、妻が子供2人を殺害した可能性も否定。「妻を殺害した被告が冷静さを欠いた心理状態のまま衝動的に子供たちを殺害したという想定は可能」と判断した。また、3人の遺体をつなぐようにライターオイルをまいて火をつけた痕跡があることについて「証拠隠滅を図ろうとしたと推測できる」と指摘。「現職警察官が妻子3人を殺害したという衝撃的な事件で社会的影響も軽視できない。結果は重大で、とりわけ子供たちを殺害したことに酌量の余地はなく、犯行態様が非常に悪質」と指弾し、「計画性は認められないとはいえ、死刑の選択は免れない」と結論づけた。
備 考
 
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