| 氏 名 | 青木政憲 |
| 事件当時年齢 | 31歳 |
| 犯行日時 | 2023年5月25日~26日 |
| 罪 状 | 殺人、銃刀法違反 |
| 事件名 | 中野市4人殺害事件 |
| 事件概要 |
長野県中野市の農業、青木政憲被告は自宅の庭で除草剤をまいていた2023年5月25日午後4時過ぎ、以前から自分のことを「(ひとり)ぼっち、ぼっち、きもい」と話していると妄想を抱いていた近所の女性2人(当時70)(当時66)が自宅前を散歩しているのを目撃して激昂。物入からボウイナイフを取り出し、午後4時18~26分ごろ、2人を刺して殺害。女性(当時70)の遺体を自宅敷地内に移動した。午後4時37分ごろ、目撃者の通報で駆け付けた県警中野署地域課の男性警部補(当時46 死後警視に2階級特進)と男性巡査部長(当時61 死後警部に2階級特進)が乗っていたパトカーの窓越しに狩猟用ハーフライフル銃を発砲し、男性巡査部長を殺害。さらに助手席にいた男性警部補をナイフで殺害した。刃物で刺されたとの通報であったため、2人とも防弾チョッキは装着していなかった。その後、青木被告は同居している伯母を連れて立てこもった。 青木被告は2015年1月~19年2月、「狩猟」と「標的射撃」で散弾銃など猟銃3丁、空気銃1丁の所持許可を受けていた。 青木被告の父親は中野市議の傍ら農業支援の会社を経営し、市内に果樹園も持っている。同県軽井沢町では、自前のフルーツを使ったジェラート店を経営。昨年には地元・中野市内に2店舗目をオープンしていた。青木被告も農作業や店舗を手伝っていた。 午後5時31分ごろ、外出から帰ってきた母親が自宅に入り、青木被告に自首するよう説得するも拒否した。 午後7時過ぎ 中野署は現場から半径約300メートルの住民に避難呼びかけた。中学校体育館に避難所を開設した。88人が避難した。 長野県公安委員会の要請を受け、警視庁は25日夜、捜査1課特殊犯捜査係(SIT)を派遣した。さらに神奈川県警の特殊急襲部隊(SAT)も投入された。 青木被告は猟銃で自殺しようとするも果たせず、午後8時35分ごろ、母親に猟銃で自分を撃ってほしいと依頼するも、母親は猟銃を持ってそのまま脱出した。 26日午前0時10分ごろ、青木被告に促された伯母が脱出し、警察に保護された。 午前4時ごろ、青木被告は父親に電話をして警察に投降することを伝えた。午前4時37分、青木被告は自宅を出て、警察に身柄を確保された。 26日午前7時過ぎ、避難所から全員が帰宅した。 26日午前8時21分、県警は男性巡査部長への殺人容疑で青木被告を逮捕した。 同日、中野市議会議長であった青木被告の父親は、議員を辞職した。また経営するジェラート店から、市のふるさと納税の返礼品としてジェラートのセットやシャインマスカットなど3品を出品していたが、市はふるさと納税サイトへの同園の返礼品の掲載を取りやめた。 6月16日、男性警部補の殺人容疑で青木被告を再逮捕。7月7日、女性(当時66)の殺人容疑で青木被告を再逮捕。28日、女性(当時70)の殺人容疑で青木被告を再逮捕。 長野地検は8月9日から11月8日、鑑定留置を実施。長野地検は11月16日、青木政憲被告を4件の殺人罪と銃刀法違反で起訴した。 |
| 一審 | 2025年10月14日 長野地裁 坂田正史裁判長 死刑判決 |
| 裁判焦点 |
裁判員裁判。 2025年9月4日の初公判で、青木政憲被告は罪状認否で「黙秘します」と述べた。 冒頭陳述で検察側は、青木被告が事件の約1年前である2022年頃から、自宅前を散歩中の被害者の女性2人から「(ひとり)ぼっち、ぼっち、きもい」と言われていると妄想を抱いたと指摘。好きだった果樹園経営ができなくなるため思いとどまっていたが、事件当日も2人を見かけ激高して殺害した上、駆け付けたパトカー車内に発砲するなど警察官2人を殺害したとした。 事件前の暮らしぶりについて、検察は、進学した2013年に都内の大学の学生寮内で「ぼっち」「きもい」と周囲から言われていると思うようになったと指摘。精神鑑定の結果、この頃から妄想症の精神障害を患っていたとした。 しかし検察側は、青木被告が凶器の大型ナイフを2023年4月にインターネットで購入し、事件2日前に鋭利に研いで両刃にしたと明らかにした。さらに弟とのLINEのやり取りの中で、「ごっつええナイフ買ったった」「今年はこれで人をいっぱい殺すで」と送信していたことを明らかにした。被告の部屋には「人殺し大百科」という本もあり、その中に警察官が身に着ける防刃ベストについての記述があったと指摘した。そして犯行を隠そうと、ナイフで刺して動けなくなった被害女性を台車で自宅近くに運び込んでいることなどから、「被告には当時妄想症状があったが、事件前後の行動に直接的な影響はみられず、合理的な行動がとれていて、完全責任能力があった」と主張した。 弁護側は、青木被告は小~中学校の頃から人の目を見て話せず、高校入学後の1か月は電車通学をしていたが、その後は片道13キロの道のりを自転車で通学するようになった。大学入学後、寮に入ったが、寮生や同級生からの「ぼっち」「キモい」という声が聞こえるようになったことから、寮を出てアパート暮らしを始めた。電車の乗客からも「ぼっち」「キモい」という声が聞こえるため、声を避けるために、実家への帰省の際は公共交通機関を使わず、自転車を使っていた。その頃、一人暮らしのアパートの部屋にカメラや盗聴器の存在を確信しており、携帯電話は持っているが電源を入れていなかった。そして大学3年生の夏、連絡が取れなくなったため両親がアパートを訪れると、青木被告は青白く痩せこけており「監視カメラや盗聴器」のことを知らされた。青木被告は初めて両親に『自分の部屋での様子が世界に拡散されるネットいじめ』の被害を報告。これを受けて両親は探偵にコンタクトを取り、青木被告の住んでいたアパート居室の監視カメラや盗聴器を探してもらうように依頼したが、発見には至らず、探偵からは「統合失調症かもしれない」と言われたという。 中退後に実家に戻ったが、症状は治まらず、「2016年ごろ、青木さんの携帯電話の電源が入っていないので尋ねると『盗聴、盗撮されている。皆が自分を"ぼっち、ぼっち"と笑っている』と答えた。パーカーを着るとフードをかぶり、パソコンの内蔵カメラには目張りをしていた」、そして父親が経営していた軽井沢のジェラート店において製造を担当するようになってからも「客が見えないように製造エリアを段ボールで目隠し」し、中野市にオープンした二号店で働くようになってからも、同じように目隠しを施し「店舗のトイレは使わずに用便の際は必ず実家に戻っていた」「2022年8月には店舗で撮影していた人に『出てってくれ』と髪を引っ張ろうとした。『ニヤニヤして俺のこと見下していた』と話し、9月にはアルバイトに殴りかかり『ぼっちとバカにしただろ、殺すぞ』と怒鳴った」(同)という。 そして毎日、被害女性2人から「ぼっち」「きもい」と言われていると思い込み、「犯行時は我慢の限界で、突発的な犯行だった」「統合失調症の症状が再燃増悪状態にあった」と主張。「妄想が動機に影響を与え、善悪を判断する能力が著しく低下していた」として心神耗弱の状態だったと主張した。 その後の証人尋問で、事件直後に現場に駆け付けた警察官が出廷。被告の家の敷地内で倒れていた人のもとに向かったところ、猟銃を持った被告に追いかけられたと証言した。また、その時の被告の様子については、「冷静に対応しているように見えた。通常の受け答えだった」などと話した。 公判後、弁護側の今村義幸弁護士は取材に応じ、青木被告は当初は黙秘しない考えだったが、初公判の前日になって黙秘する意向を示したと述べた。 5日の第2回公判で、青木被告の母親が出廷した。検察側の質問に対し、母親は仕事先で事件の連絡を受け、すぐに帰宅したと述べた後、 「周辺をうろうろ、銃撃戦をする構えだった。ショックを受けて、息子を守りたい、自分がいれば相手も撃ってこないから、息子のそばに寄り添っていたいと思い、一緒に移動した」と述べた。そして 被告は興奮状態で、女性2人については「俺のことを『ぼっちぼっち』とばかにしているからやったんだ」と答え、警察官2人については、「撃たれると思って、撃たれる前に撃ったんだ」と答えたと述べた。母親は自首を勧めたが、「長い裁判の末、絞首刑になる。長くつらく苦しい、そんな死に方は嫌だ」と話し、銃を首にあてて自殺を試みた。母親は、「『私が撃とうか』と言いました。うつ伏せに倒れ、『心臓がここにあるので背中を撃ってくれ』と言われました。とても息子を撃つことはできませんでした」と述べ、被告から銃を受け取ると、そのままその場を離れて警察に渡した。 弁護側からの質問に対し、母親は被告が大学生2年生のころ、周囲から「ぼっち」、「きもい」などと悪口を言われていると聞かされたと話した。被告はアパートに盗聴器や隠しカメラが設置されていると訴えたことから探偵に依頼したが、盗聴器などは発見されず、統合失調症を疑われたと述べた。また「様子から心の病と思ったが、頑張っていたし、信じて疑わなかった」「親の愛情で治ると思った」として、医療機関の受診や治療は受けなかったと述べた。猟銃の所持については、「最初は不安があったが、精神科医の診断をパスして息子は問題ないと安心した」などと話した。 続いて青木被告の父親が出廷した。事件発生翌日午前4時ごろの被告との電話の内容を明かした。「『もうやめるわ』と言ったのを覚えている。人を傷つけることなく出て来いよと言った。『温かいものを飲んで行くわ』と話したので「すぐか」と聞いたら、被告は「もう少ししたら家を出る」こ答えた。政憲被告が大切にしていた『犬のことを頼む』と言われた」と証言した。 10日の第3回公判で、青木被告の父親が出廷。2014年から青木被告に猟銃を持たせていたことについて問われ、「自分からこうしたいと言ってこなかった政憲が自ら申し出たことを認めたかった」と答えた。猟友会の参加については「入るよな?」と父親から入会を勧めたということです。猟銃の所持に必要な医師の診断結果については、「(青木被告から)問題ないと報告を受けて大丈夫だと感じた」と話した。統合失調症を指摘されながら医療機関を受診しなかったことについては、「一過性の心の病と理解して、家族の愛情で元に戻るだろうという素人の考えだった。政憲に申し訳ない、親の責任だと感じた」と述べた。 午後からは被告人質問があり、青木被告は証言台の前に座ったが、弁護側から「これからする質問に答えられますか」と問われ、「すべての質問に黙秘します」と述べた。「話しておきたいことはあるか」との問いかけに「何もありません」とした。検察側から黙秘の理由を尋ねられると「理由についても黙秘します」。捜査段階で警察官や検察官に対しては「あなたの口で事件を説明しましたよね」などと指摘されると、沈黙の後、「黙秘します」と述べた。 その後の検察側の質問にも「黙秘します」と答え、そのまま閉廷した。 11日の第4回公判で、被告人質問が行われた。青木被告は検察側からの80問以上の質問に「黙秘します」のみ答えた。 検察側は証拠として、 「私に悪口を言うバカが多い。この世の中に愛想が尽きた」「私が殺害したおばさん2人は、いい年こいて悪口を言うろくでもない人間。殺してやりたいと思っていた」 「怒りの感情で攻撃しました」「(目撃した人は)恨みも怒りもないので攻撃しませんでした」「警察から射殺されるのは嫌なので、射殺される前に撃とうと思い、引き金を引きました。この時、(警察官2人が)死ぬかもしれないと思いましたが、それでも構わないと思いました」 「私は世間から悪口を言われ、排斥され死刑になる宿命だった。この日に事件を起こしていなくても、別の日に他の場所で殺していた可能性も極めて高かった」「これまでの怒りの積み重ね。逮捕・拘留されたのは仕方ないと思うが、少し後悔もしている」 などという青木被告の供述調書を法廷で約1時間読み上げた。 16日の第5回公判で、青木被告と2度面談するなどして、精神鑑定をした弁護側の医師が証言した。医師は、青木被告は中学から高校時代、他人が自分をどう見ているかを強く意識するようになり、自分を守ろうと、友人関係を持たず自分の中に閉じこもり始めた。都内の大学に進学後、学生寮で周囲から「ぼっち」「きもい」と言われる妄想に近い症状が表れ、統合失調症を発症したとした。寮を出てアパートで一人暮らしを始めると、周囲との関わりが一層遮断され「自分の暮らしが盗聴や盗撮され、ネットに上げられている」という「了解困難な妄想を確信」するほどに至ったと指摘した。その後、実家に戻って農業をしていた時期は、周囲と関りがない生活環境で症状は安定していたとした。しかし2020年ごろから散歩する女性を見かけるたびにさらに精神状態が不安定になったとした。そしてジェラート店で働くようになった2022年ごろに環境が一変。第三者との関わりが増えたことでバランスが崩れ、周囲からの刺激などで症状が再発したとした。犯行時の被告の精神状態については、「自分は世の中から排除されている」というこれまでの生活の中で構築された妄想と、「自分をバカにする象徴」と妄想していた散歩の女性2人が現れたことが重なったと主張。「正気と異常な状態を本人が認識できていない統合失調症の特有の症状」「行動を起こす火が付きやすく、妄想に支配されている中で女性2人を見て、何かが引き金となり犯行にいたった」などと証言した。通報で駆けつけた警察官2人を猟銃などで殺害したことに関しては「警察が自分を殺しに来る」という妄想でパニックになっていたとした。また「見るもの聞くものすべてが妄想のうちに取り込まれてしまう状況にあり、事件が起きてしまった」とも述べた。 検察側は、被告が猟銃を取りに行く際、猟銃用ジャケットを着込み、そこに弾を入れるなど、入念に準備している点を挙げ、「これでもパニック状態だったのか」と質問。医師は「広い意味でのパニック状態にあった」と答えた。 17日の第6回公判で、検察側の依頼で青木被告の精神鑑定を行った男性医師に対する証人尋問が行われた。医師は9回、計29時間40分面接したほか、脳波などの検査を実施。被告は大学入学以来、ほぼ全員が自分のことを「(ひとり)ぼっち」と言っているということを、現実のこととして確信し、周囲の人が否定しても訂正されることはなかった。一方で、大学中退後、実家の農作業で新品種の栽培を検討したり、ジェラート店で新商品を考えたりしていることなどから、「能動性や活動性は保たれており、妄想以外の精神障害は認められない」とした。妄想の程度については、「四六時中、『ぼっち』と言われることに悩むなどしており重度だった」と判断した。その上で、妄想症が犯行にどのような影響を及ぼしたのか検討。面談で、被告が女性2人をナイフで刺した理由について「ばあさん2人が散歩しているとき、『ぼっち』『きもい』と言ってましたので、頭にきまして、我慢できませんでしたので」と述べたとして、妄想が、犯行の動機となる怒りの原因になったと指摘。怒りの感情が、殺害という行為にまで至った原因について、被告は面談で「我慢することをやめたというか、私のうんざりですね」と述べたといい、妄想の影響はなかったとした。警察官2人を殺害した点については、被告が「駆けつけた警察官から撃たれると思った」と述べていることから、女性殺害時のような動機の要因にもなっておらず、妄想症の直接的な影響はなかったと説明した。 同日、弁護側の請求で、心理に関する専門の国家資格を持つ公認心理師が出廷した。公認心理師は青木被告に2日間で4時間半の面談をしていて、「状況によっては、行動を抑制できる」とした上で、犯行時のような困難な状況では話し合いなどで解決は難しかったと説明した。「統合失調症の影響で『ぼっち』や『きもい』という幻聴が聞こえ、心理的に自身を守るための行動として殺害に至った」と精神疾患の影響を主張した。また「適切な治療を受けていれば、ほかの人を傷つける行動の抑制につながった可能性が高かった」とした。 19日の第7回公判で、検察側の依頼で青木被告の精神鑑定を行った男性医師が再び出廷。弁護側は、妄想が殺害行為に影響しなかった理由を尋ねた。医師は「腹を立てた後、ナイフを取りに家に戻り、女性の正面に回って殺害行為に及んでいるなど、被告は目的に沿った行動を取っている」。また取り調べ調書でも「殺害時の自分の行為を納得し、理路整然と話している」として、妄想の影響を否定。「妄想の影響は、動機の形成段階と、その後の殺害行為と分けて考えるべきだ」と改めて主張した。また、被告の知能は「理解、知識、記憶能力は優れているが、処理速度についてはずいぶんゆっくりしている」と証言した。 22日の第8回公判で、情状について取り扱われた。弁護側の請求で青木被告の父親が出廷。遺族に対する心境を問われると、「大変申し訳ありませんでした」と述べ、遺族の方を向き、数秒間、深々と頭を下げた。また、法廷で「政憲が子どもの頃から出ていた(特性などの)サインに向き合ってあげられなかったことを悔やんでいます」などと語った。遺族の代理人は被告のいまの被告人の態度について反省してると感じるかどうか質問。父親は、病気のせいであり、裁判に興味がないと思うと答えた。 続いて行われた被告人質問で、弁護側、検察側からの質問に対し、青木被告はこれまでと同様、「黙秘します」とだけ答えた。さらに検察官の申し出で殺害された女性の息子が遺族を代表して質問したが、青木被告は「黙秘します」とだけ答えた。 24日の第9回公判で、被害者参加人として裁判に参加している被害者4人の遺族計11人の意見陳述が行われ、「気持ちは今も怒りと悲しみでぐちゃぐちゃです」「何も語らないのはただの逃げです」「どれだけ攻撃されて傷ついたか、どんな恐怖だったか想像もできない」「4人の命を奪っておきながらこの先も生き延びるなんてあり得ない」「絶対に許しません。死刑しか望みません」「極刑以上の刑があるならそれで裁いてほしい」などと涙ながらに訴えた。 同日の論告で検察側は、争点となった刑事責任能力の程度について、起訴前の精神鑑定の結果を踏まえ、被害女性2人から「(ひとり)ぼっち」「きもい」と言われていると思い込むなど妄想症が動機の形成に影響を与えたものの、犯行時は善悪を判断することができたと指摘。青木被告は被害者の女性の遺体の隠蔽を図り、ナイフで2人を殺害するのを目撃した近所の人に通報されると考えたことや駆けつけた警察官を殺害しようと猟銃を準備、母親に自首を勧められた際には「絞首刑になる。それは嫌だ」と話していたと指摘。善悪の判断や行動を制御する能力は十分保たれており、完全責任能力があったのは明らかだと主張した。その上で、被害者から悪口を言われているという妄想があったにせよ、殺害に及んだことは極めて短絡的で身勝手だと非難。何の落ち度もない女性2人だけでなく、公務中の警察官2人も殺害した結果は重大で、凶器に殺傷能力が高い刃物や銃を使っていることから殺意は強固で、残虐さや冷酷さも際立っていると述べた。被告が公判で一貫して黙秘している点については「遺族に一切謝罪をせず反省の情もうかがえない」とした。そして「いずれの犯行も確定的な殺意に基づく冷酷なもの。被告の生命軽視は顕著」「4人を殺害した結果は誠に重大、ほかに類をみない悪質、刑事責任は極めて重大。妄想症を考慮しても死刑を回避すべき事情がない、死刑を選択することはやむを得ない」などと指摘した。 26日の第10回公判における最終弁論で弁護側は、青木被告は「犯行は妄想の強い影響の下で行われた。本来犯行は1個の行為であり、動機とそれ以外に分けて考えることはできない」と主張した。さらに、女性殺害後に警察官が来ることを想定した被告が銃や猟銃ベストなどで武装し、パトカーを待ち構えていたとして、検察側が判断能力などはあったと主張している点について、弁護側は「いずれも常識を超えた行動であり、妄想の支配下に置かれた証拠だ」とした。被告は妄想の症状が出てから犯行までの約10年間、精神疾患の治療を受けていない。弁護側は「両親だけでなく猟銃免許の診断に当たった医師からも精神障害を気づいてもらえず、一度も立ち直りの機会を与えられていない」と主張。青木被告は心神耗弱の状態にあったして、犯行に計画性はなく、被告に前科前歴もないなどとして「死刑は回避されるべきだ」と訴えた。 最終意見陳述で裁判長に「最後に何かありますか?」と聞かれると、青木被告は「私は異次元の存在から迫害を受け、人を殺して死刑になるために来た。もう二度とプレイしない。被害を受けた人には埋め合わせがあるだろう。中の人たちを傷つけて申し訳ない。ここは私にとって仮想空間なので、プレイという表現になった」と述べた。最後に「もういいですか?」と聞かれるとうなずいた。 判決で坂田正史裁判長は刑事責任能力について、「女性2人の殺害は妄想症が動機形成の要因になったが、怒って攻撃するかは妄想が影響していない」とする検察側の精神鑑定結果を支持。青木被告は「善悪を判断し行動をコントロールする完全責任能力を有していた」と認定した。 そして量刑について「被告が妄想症に罹患したのは責めに帰すべき問題ではないが、残虐な行為に及んだのは被告の意思によるもの」「4名もの人々の尊い命を奪ったのであり、強固な殺意に基づく残虐極まりない犯行である。殺人行為を重ねてもなお淡々とし、人の生命を軽視してはばからない様子には、戦慄を覚えずにはいられない」「女性2人は日課の散歩を楽しみ、警察官2人は使命を果たそうとした。落ち度などあるはずもないのに理不尽な犯行の犠牲になった」などと指摘。「酌量の余地など皆無であり、極めて厳しい非難に値する」「被告人の刑事責任はあまりにも重大といわざるを得ないのであって、死刑の選択を回避すべき事情は見出すことができなかったものである。被告人に対しては、死刑をもって臨む以外にない」と述べた。 |
| 青木政憲被告は当初、弁護人の接見に対し「控訴したくない」と話していた。しかし弁護人との接見を重ね、控訴することに同意。弁護人は控訴期限の前日である10月27日、東京高裁に控訴した。 | |
| 備考 |
青木政憲被告が立てこもっていた2023年5月26日未明、朝日新聞東京本社映像報道部の写真記者だった同社社員の男性(当時53)が許可なく立ち入ったため、住居侵入罪で略式起訴された。2024年4月16日付で飯山簡裁は、罰金10万円の略式命令を出した。 青木政憲被告被告は猟銃や空気銃の所持許可を得ており、長期間使用されていなかった猟銃の一種「ハーフライフル銃」が凶器となった。事件などを機に銃刀法が改正され、ハーフライフル銃の所持許可の基準が厳格化され、猟銃の所持許可を取り消せる不使用期間が短縮された。 長野県警は2025年、110番通報の現場周辺に猟銃所持の許可者がいるかどうかの情報を把握する新たな仕組みを導入した。付近に該当者がいれば現場へ向かう警官に伝え、拳銃携帯や防弾チョッキ着用を促す。 |