作品名 | 『諜報局破壊班員』 |
初 出 |
『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)1964年6月14日号~11月29日号連載。1965年1月、徳間書店より刊行。連載時タイトルは「伊達邦彦地球を駆ける」シリーズの「モナコ王国の危機一発」。単行本副題は「伊達邦彦 地球を駆ける」。
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粗 筋 |
紺碧の地中海が輝くモナコ。F1グランプリで起きた大事故の混乱に紛れて、王子と王女が誘拐された! そして身代金五億フランの要求が……。 人質救出の任務を帯び、英国から送り込まれた男は、諜報局破壊班員YZ-九……日本から脱出し、国籍を変えていたはずの伊達邦彦であった。 舞台は日本から世界へ。野獣の復活を描いた記念碑的傑作! (粗筋紹介より引用)
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感 想 |
邦彦は国外に脱出していた。ドルに替えて持ち出した金の一部でリヒテンシュタインの国籍を買い、イギリスに入国してレーンフォードのハドリー卿の別荘を手に入れていた。そんな彼の前に現れたのは英国外務省情報部であった。邦彦は日本へ強制送還しないことを引き替えに、英国のスパイとなることを承知する。今の邦彦の肩書きは、外務省情報部諜報課破壊活動斑であった。認識番号はYZ-9号。YZの班員は、やむを得ないときには殺人を許されている。あえて非常勤となり、ザ・タイムズの海外通信部編集顧問というのが表の顔であった。 今回の任務はモナコ王国の王子・王女誘拐事件の解決と王子・王女の奪還だ。身代金は5億フラン。日本円で約365億だ(当時のレート)。相手は船舶王アントン・アナシス。邦彦は元カルパチア王国の第三王子という触れ込みでモナコに乗り込む。 「伊達邦彦 地球を駆ける」の副題が付いている伊達邦彦復活編。邦彦の活躍の場は日本から世界に移ったものの、それはスパイとしてであった。大藪春彦のエージェント・ヒーローものの幕開けでもある。『週刊アサヒ芸能』に連載されていたときは「伊達邦彦 地球を駆ける」シリーズの第一作「モナコ王国の危機一発」というタイトルだった。 『血の来訪者』の不本意な結末があったからこそ、作者は伊達邦彦を復活させたに違いない。もはや日本で復活するのは前歴からいってあまりにも不可能だった。だからこそ舞台を海外に移す。しかし、単純な野望では邦彦を、そしてファンを納得させることができない(イングランド銀行の地下倉庫に眠っている一億ポンド相当の金の延べ棒強奪の計画が語られているが、この程度が野獣の野望を満たすとは思えない)。そのためには、邦彦の自由を奪うしかなかった。そして誕生したのが英国スパイとしての邦彦である。そこに初期の頃の邦彦の面影を見ることはできない。確かに「彫ったような形のいい唇には、女を夢中にさせずにはいられぬほどの甘美さが消えていない」かも知れないが、内面は変わった。かつてのマグマのような「野望」はなくなり、そこにあるのは優雅にスポーツ感覚で事件を解決していく姿だ。フェラリ250GTベルリネッタやアストンマーチンDB4ヴァンテージなどの豪華車、料理・酒・煙草の美食、世界の美女とのセックスといった舞台はかつての「野獣」に似合わない。伊達邦彦は確実に変貌していったのだ。己の過去と破壊欲を捨てて。 ただ、伊達邦彦が主人公であることを忘れれれば、ヨーロッパを舞台にした優雅なスパイによる華麗なるアクション小説という見方はできるだろう。娯楽作品としては、それなりの仕上がりである。 |
備 考 |
収録された写真は1970年代初頭、愛車スカイライン2000GT-Rとともに撮影されたもの。
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