作品名 | 「狂気の征服者」 |
初 出 |
1971年12月刊行の『不屈の野獣』(秋田書店、サンデーノベルス)所収。原題「不屈の野獣」。
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粗 筋 |
完全にフリーとなり、酒、女、車、船などの自由を謳歌している邦彦に、内務省保安局の鶴岡から依頼が入る。蔓延するLSD中毒者を追い密売組織を破壊する仕事だ。簡単な仕事のように思われたが、背後には意外な大物が居た。第二次大戦前から戦中にかけて満州ハルビン郊外に秘密裏に存在し、満州人やソ連人などの生体を細菌戦の実験材料として使った、戦略細菌研究所である関東軍七三一部隊防疾給水部隊、通称石井部隊の副班長であり、自殺したはずの藤田義一であった。
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感 想 |
既に従う理由も何もないのに、たとえ報酬があるとはいえ任務に就く伊達邦彦。邦彦は何故戦いの場へ戻ろうとするのか。それが「野獣」の本能なのか。答えの出せないまま続く伊達邦彦シリーズ。そんなときに書かれた中編である。 事件のバックに右翼や元軍人の大物がいるという設定は、大藪の作品ではよく出てくるもの。自身はないが、必ず地下洋裁から脱出する、といって終わるパターンも「連隊旗奪還作戦」で見られるもの。前半の設定部分に筆を費やし、最後のアクションが駆け足になり、しかも途中で終わってしまうというのは、気が向いたらそこで伊達邦彦を終わらせようとする意図があったのかも知れない。 |
備 考 |
作品名 | 「謀略の果て」 |
初 出 |
1971年12月刊行の『不屈の野獣』(秋田書店、サンデーノベルス)所収。
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粗 筋 |
大雪山系でヒグマを撃ちに来ていた邦彦は、自衛隊ジェット戦闘機を襲撃した高射機関砲エリコンからのそれ弾の破片を浴びて意識を失い、陸上自衛隊の警務部隊員からスパイ容疑による拷問を受ける。内務局の鶴岡に連絡をすることによってその容疑は晴れたが、逆に内務局から日本にエリコンを運んだ組織を突き止める依頼を受ける。
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感 想 |
邦彦が自衛隊の拷問を受けるという珍しいシーンがあると共に、その拷問から逃れるために内務局という権力に頼る。今までの邦彦からは考えられないシーンから始まるが、その後はいつものシリーズに戻る。フリーとなりながらもスパイとしての任務を果たす邦彦の姿だ。最後に邦彦はつぶやく。「新亜細亜が太っても、その後には日本が戦争で全滅する運命が迫っていたことを知らなかった俺たちの間抜けさ加減が気にくわんだけだ」。それは平和ボケした日本人に対する警鐘ではないのだろうか。
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備 考 |
作品名 | 「スパイ狩り」 |
初 出 |
1973年6月刊行の『不屈の野獣』(徳間オーヤブ・ホットノベル・シリーズ)所収。
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粗 筋 |
邦彦は日本における兵器産業ビッグ・スリーの一つである新極東重工の会長の孫である新城恵子と付き合っていた。そんなある日、邦彦と恵子は襲われる。運良く逆襲することができたが、恵子は入院する。数日後、いつも依頼を頼む内務局の鶴岡が邦彦の前に現れる。内務局から保安部の職員名簿、そして邦彦を含むフリーの秘密捜査員の名簿が三週間前に盗まれた。そして内務局の情報提供者や秘密捜査員やフリーの捜査員が次々消されていた。邦彦が襲われたのも同じ組織の手であった。しかも組織は退院した恵子を誘拐していた。組織は、防衛庁と新極東重工が共同開発した最新式対戦魚雷の設計図と現物を要求した。邦彦は事件を解決するために立ち上がる。それも新極東のためにではない。恵子のためだ。愛とか恋とかいった理由ではなく、邦彦の持つ騎士道がこれ以上舐められたのでは黙っておけなかった。
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感 想 |
「みな殺しの銃弾」とほぼ同一テーマの作品。結末のパターンまで同じであり、はっきり言ってつまらない。この作品を最後に、邦彦は再び姿を消す。
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備 考 |