伊達邦彦全集9(光文社文庫)
『野獣は、死なず』



【初版】1998年2月20日
【定価】457円+税
【解説】北方謙三


【収録作品】

作品名
『野獣は、死なず』
初 出
 1995年10月、カッパ・ノベルスより書き下ろし刊行。
粗 筋
 伊達邦彦が入手した「常温核融合物質・アルファ」が世界規模の闘争を巻き起こす!――アルファ鑑定のため筑波大学を訪れた邦彦に、イスラエルの秘密組織・モサドが襲いかかったのだ。危うく難は逃れたが、モサドの殺人マシン・栗城大和(くりきやまと)が、執拗に邦彦をつけ狙う!
 伊達邦彦全集の掉尾を飾るにふさわしい傑作を、北方謙三氏の解説で贈る。初の文庫化!
(粗筋紹介より引用)
感 想
 邦彦が留守にしている間に、邦彦の持つ南洋の島を台風が襲い、仲間のヤンは死ぬ。しかしヤンは死ぬ前にある物質を発見し、曜変天目に隠す。それこそが、本来の地球では存在しない常温核融合物質であった。日本の研究所でその物質の成分を確認するが、既にその物質を狙う部隊が居た。モサドの精鋭部隊である。頭目はドクター・ソクラテス。隣にいるのは彼が育てた殺人マシン栗城大和であった。栗城はワンマン・アーミー伊達邦彦の影のような男であった。常温核融合物質を軸に邦彦とモサドの戦いが始まる。
 伊達邦彦最後の長編。常温核融合物質にバリー・トゥードと現代的な意匠をまといながらも、伊達邦彦は全く変わらない。いや、邦彦は変わった。最後の栗城の戦いと奇妙な友情のシーンなど、今までの邦彦には考えられないことだ。やはり邦彦も老いたということか。それとも「野獣王国」の建設過程において人間的感情が復活したとでもいうのだろうか。そして最後に邦彦は決意する。「野獣王国」の建設を。見果てぬ夢を追ったまま邦彦は静かに退場する。大藪春彦の死と共に。しかし邦彦は死ななかった。奇しくも最後の長編のタイトルと同様、「野獣は、死なず」。
備 考
 大藪春彦が1955年頃に描きながらも長く行方不明であり、1997年春に偶然発見された油彩画が収録されている。また解説では、処女作「野獣死すべし」が初めて掲載された早稲田大学の同人誌「青炎」や、1958年10月に講談社から刊行された『野獣死すべし』初刊本の書影が収録されている。
 収録された写真は、1991年3月に自宅ガレージで撮影された大藪春彦。

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