第1回(2000年) |
大賞 |
黒武洋『そして粛清の扉を』 |
教師側の背景が曖昧なままで終わっているのは残念だったが、隅々に至るまでの隙のない構成力、人物の書き分け、集団心理や異常事に対する行動、計画に使用する武器やハイテク機器など、細かいところまでよく調べ上げ、計算された配置を誉めるべき。一気に読ませる面白さであった。好き嫌いが別れることは認めるが。
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特別賞 |
安東能明『鬼子母神』 |
物語の真相自体は割と早めに想像つくだろうが、そこに至るまでの過程が苦痛だった。つまらないという意味とは別で、ページを重く感じたのは久しぶり。虐待ものは苦手なこともあり、精神的に耐えられなかった。逆を言うと、虐待の方を前面に押し出しすぎて、物語が単調になっている感は否めない。もう少しオブラートに包む方法はなかったのだろうか。真相に気付かない主人公にも苛立った。
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第2回(2001年) |
大賞 |
五十嵐貴久『リカ』 |
実によく出来た小説と言える。ストーリーのテンポもいいし、文章も悪くない。出会い系サイトの説明も、物語にうまく取り込まれた形で要領よく紹介されている。本間の怯えも巧く伝わってくる。ただ、“怖さ”に欠けている。文章からの怖さは伝わってくるのだが、それ以上のものがない。
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特別賞 |
春口裕子『火群の館』 |
割とストレートなホラー物という印象。被害者自身の捜査シーンが加わっている点は結構読めた。ただその異変が起こる理由はわかっても、どうやって起こすのかという部分がかなり曖昧。肝心のホラー部分の怖さが今一つ。もやもやしたまま終わってしまった。 |
第3回(2002年) |
大賞 |
佐藤ラギ『人形』 |
少年を捕まえてからは、途中途中のシーンのみを所々ピックアップする描き方になっており、そのつなぎの部分が簡単に流されている。そのため、フラッシュ写真を途切れ途切れに見せられるだけのイメージしか伝わってこない。少年の妖しさ、この世界の淫靡さなどがもっと書き込まれてもよかったと思うが。「甘い」世界で終わってしまったのは残念。
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特別賞 |
牧村泉『邪光』 |
物語が、少女の不可解さや不気味さの方向に進むのではなく、主人公である妻の内面と背景に進んでいったのはどうにも不可解。本のタイトルは「邪光」だし、教祖が殺人を繰り返したのは〈邪光〉を放つものを粛正するため。そして少女ですら〈邪光〉の話をしているのだから、そちらをメインのまま話を終わらせるべきではなかっただろうか。書き方を間違えたとしか思えない。 |
第4回(2003年) |
大賞 |
高田侑『裂けた瞳』 |
途中から話が迷走し出す。結局作者が何をやりたかったのかわからなくなってくる。ホラーなのか、サスペンスなのか、超能力SFなのか、不倫メロドラマなのか、それとも犯人探しなのか。主となるテーマが絞り切れていないため、話が迷走しているのだ。テーマが重いだけならまだしも、全ての点について重い作品は読みづらい。処女作にありがちの失敗作という気がする。 |
特別賞 |
誉田哲也『アクセス』 |
ホラーと見込んで書かれた要素をよく見てみると、恐いと言うよりは少々グロいと言った方が正しいかも知れない。ありがちな展開、ありがちなネタを使いながらも、読ませるだけのストーリー造りはなかなかのもので、新人賞なら十分受賞に値するだろう。主要登場人物のキャラクターも立っている。傑作を書けるタイプとは思えないが、読める作品を多く書ける作家だと感じた。 |
第5回(2004年) |
大賞 |
沼田まほかる『九月が永遠に続けば』 |
日常の恐怖をリアルに書いたサスペンス。前触れもなくいなくなった息子への不安、次々と明らかになる事実に怯える平凡な中年女性の姿をリアルに捉えているが、内面を書き切れてはいないのが残念。結末の着地が決まっていれば、日常に起きるサスペンスを描いた佳作になったかと思うと、非常に惜しい作品である。
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特別賞 |
道尾秀介『背の眼』 |
解説の中のインタビューにもあるけれど、「最終的に本格の仕掛けで落とすホラー長編」という趣向。そういう意味での仕掛けとしては見事に成功していると言わざるを得ない。ホラー小説ファンからしたらがっかりするところがあるかもしれないが。まだまだ怖くできる要素はあったと思う。道尾と真備の会話がやや冗長という感があることは否めない。 |
第6回(2005年) |
大賞 |
吉来駿作『キタイ』 |
死者が甦る方法としてはなるほど、ありだなとは思って読んでいたが、対象によって異なる部分があったりしてご都合主義だなと思わせる。そもそも、肝心の中身が読みにくくて辛い。もっと登場人物を減らし、もっと過去パートを減らし、主人公のあくどさを深く描写すれば、もっと面白くなったと思う。 |
特別賞 |
木宮条太郎『時は静かに戦慄く』 |
未読 |