作品名 | 皆川博子「朱の檻」 |
初 出 |
『小説新潮』(新潮社)1987年2月号
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収 録 |
『たまご猫』(ハヤカワ文庫)1998年1月
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粗 筋 |
次の小説の題材に参考になるだろうと、座敷牢があるという東北の旧家の取材を二つ返事で引き受けた小説家の私。そこは牢格子が黒ずんだ朱色の漆で塗りつくされた座敷牢であった。私は興味を持って、そこに泊まることにした。その夜、私は夫人から座敷牢に閉じ込められた人の話を聞くことになる。
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感 想 |
幻想小説に近い感じの話。複数回読んでも、いまひとつピンとこないところがあるのは、私の感受性が弱いからだろうか。
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備 考 |
作品名 | 連城三紀彦「選ばれた女」 |
初 出 |
『素敵な女性』(婦人生活社)1983年5月号~6月号
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底 本 |
『蛍草』(文春文庫)1991年7月
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粗 筋 |
画廊に勤めている圭子に道を尋ねてきたアメリカの青年。二日後、その青年が画廊に現れ、絵を購入する。そのまま夜、ともに宿泊していたホテルで一緒に食事をした。青年はそのまま去ったが、圭子は青年が忘れた手帳を見つける。明日フロントに預けようと思ったが、気になって部屋で中を見ると、青年と結婚していた日本人女性が一年前、マンハッタンの路地で絞殺され、顔や胸を切り刻まれた事件を知る。そこへ青年が、手帳を知りませんかと部屋を訪ねてくる。
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感 想 |
悪夢の一夜みたいなサイコサスペンス。けれどやっぱり、筆がうまいな。最後まで展開から目が離せない。
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備 考 |
作品名 | 小池真理子「囚われて」 |
初 出 |
『小説すばる』(集英社)1991年2月号
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底 本 |
『危険な食卓』(集英社文庫)1997年4月
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粗 筋 |
33回目の誕生日に夫がくれたプレゼントは、イグアナのぬいぐるみ。見合いで結婚した一回り近く年上の嫉妬深い夫は、仕事や友達との外出ですら許さなかった。三日後、夫が出張した。スーパーからの買い物からの帰り道に立ち寄った公園で、現れたチワワを家に連れ帰り、ベルと名前を付ける。そのまま夫に隠れて飼い続けることに。
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感 想 |
これは最後まで読むと、なるほどと思ってしまう。タイトルも含め、巧い作品だったな。
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備 考 |
作品名 | 宇能鴻一郎「ズロース挽歌」 |
初 出 |
『問題小説』(徳間書店)1969年10月号
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底 本 |
『切腹願望』(徳間書店)1970年11月
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粗 筋 |
作家が拘置所内病院に入院している奈良本徳也のところに行き、テープに吹き込んでもらったのは、奈良本が犯した犯罪のすべてだった。奈良本はズロース、ブルーマア、女学生に強い執着を寄せていた。
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感 想 |
1965年11月に実際に起きた「女子高生誘拐飼育事件」を題材にしている。うーん、ページ数が足りないからか、個人的には踏み込みが甘い気がする。
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備 考 |
作品名 | 式貴士「おれの人形」 |
初 出 |
『問題小説』(徳間書店)1969年10月号
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底 本 |
『怪奇日食』(角川文庫)1986年2月
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粗 筋 |
おれは物を石にする力を持っている。代償は、精力を使い果たすこと。だから滅多に使わない。東京の大学に入り、親に1DKのマンションを買ってもらった。おれはある美人女子学生に恋をし、偶然出会った彼女を食事に誘い、そして彼女の好きなレコードがあると部屋に誘った。
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感 想 |
この監禁のテーマにふさわしい作品。サディスティックで、グロテスクなのに、目が離せない何かがあるのはなぜだろうか。人が求める本能の一つなのかもしれない。
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備 考 |
作品名 | 篠田節子「柔らかい手」 |
初 出 |
『小説すばる』(集英社)1994年3月号
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底 本 |
『愛逢い月』(集英社文庫)1997年10月
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粗 筋 |
カメラマンの啓介は、沖縄で何年も追い続けていた鱶を取ることに夢中になっていたら、大人しいはずの鱶に襲われ、慌てて海上へ逃げ出した。急激な浮上により肺胞が破れ、血液が沸騰寸前となり、体を動かすことができなくなった。そんな啓介を、七年前に結婚した桐代はかいがいしく世話をする。病院ではなく、新たに購入したという部屋で。
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感 想 |
前作とは逆の作品。こちらは甘美な雰囲気がたまらない。男から女へは暴力的になるのに、女から男へはどことなく甘い香りと感じてしまうのは、自分が男だからか。「淫楽」にもいろいろあるものだと感じてしまう。最後の回収部分がうまい。
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備 考 |
本書収録に当たり、若干の加筆訂正。
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作品名 | 赤江瀑「女形の橋」 |
初 出 |
『小説推理』(双葉社)1981年1月号
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底 本 |
『舞え舞え断崖』(講談社)1981年7月
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粗 筋 |
昔は売れっ子歌舞伎女形だった私は、歌舞伎界を辞めた理由を、母にだけ話した。それは、地元に伝わる里唄が絡んでいた。
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感 想 |
田舎に伝わる唄の恐怖。ただ作者名が出てくるのは、作り物めいた話になってしまうと思うので、ちょっとマイナスだったんじゃないだろうか。最初の女形になる経緯もちょっとくどかったと思う。
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備 考 |
本書収録に当たり、若干の加筆訂正。
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作品名 | 谷崎潤一郎「 |
初 出 |
『大阪朝日新聞』1919年11月~12月
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底 本 |
『谷崎潤一郎文庫』第二巻(六興出版)1973年9月
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粗 筋 |
浙江省の杭州城のほとりの、西湖の水が葛嶺の山の裾を洗うあたりの水際に汀に臨んで建てられていたその家を見た私は、水門の扉から出ていた小舟の舳先に美しい女が腰かけていたのを見つけた。友人が言うには、その家には温秀卿という男とその寵妾が、不思議な歓楽に耽っていたという。その夜、友人はその家にいた美しい奴隷たちが陳述した言葉を書き留めた、人工楽園と耽美な日々を私に聞かせる。
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感 想 |
耽美派、谷崎が描いた妖かしのパラダイス。まさに「監禁淫楽」にふさわしい世界観、そして文章である。この退廃した耽美な美学とユートピアが、いずれ江戸川乱歩に受け継がれることとなる。これぞ谷崎の真骨頂といってもいいかもしれない。一応完結した形となっているが、実際は中絶した作品だということだ。本作品では3人の奴隷の話が語られているが、実際にはあと7人の奴隷の話が用意されていたという。いったいどんな世界が描かれていたのだろう。ぜひ完全版を読んでみたかった。
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備 考 |