由利・三津木探偵小説集成1(柏書房)
『真珠郎』



【初版】2018年12月5日
【定価】2,700円+税
【編者】日下三蔵


【収録作品】

作品名
「獣人」
初 出
 『講談雑誌』(博文館)昭和10年9月号
粗 筋
 銀座の大百貨店のショーウィンドウに飾られていたのは、本物の女性の生首。青年、由利燐太郎は全身に鋭い毛が突っ立ているゴリラみたいな怪物が大木の根元で穴を掘っているのを見つける。怪物が飛び込んだのは、鵜沢白牙という有名な学者。しかし鵜沢は百合を邪険に追い払う。穴には女性の片足があった。
感 想
 由利の青年時代の事件。名前も違うので、当初は本作限りのキャラクターだったのかもしれない。通俗冒険ものであり、読者サービスに徹した作品と言える。
備 考
 “燐”太郎は初出の名前。後の単行本などに収録されたときは“麟”太郎に直されている。

作品名
『白蝋変化』
初 出
 『講談雑誌』(博文館)昭和11年4月号~12月号
粗 筋
 日本橋の大老舗、べに屋の主人諸井慎介は、妻殺しで死刑が確定する。恋人で声楽家の六条月代は、慎介を救うべくかつて助けたことのあるマドロス上がりの石黒に頼み、刑務所破りを試みる。嵐の夜、地中から見事恋人を救いだしたかに見えたが、当日監房の入れ替えがあったため、脱獄したのは白蝋三郎という犯罪者であった。
感 想
 どちらかと言えば主役は白蝋三郎であり、由利や三津木も結局は彼に翻弄される役割。事件こそ解決するも、結末はちょっと哀しい。奇怪な犯罪者たちが面白いのだが、もやもやしたものが残るのは事実。
備 考
 「蝋」は印刷標準字体の「?」が正しい。環境依存文字のため、ここでは「蝋」で記す。

作品名
「石膏美人」
初 出
 『講談倶楽部』(講談社)昭和11年5月増刊号~8月号
粗 筋
 新日報の腕利き記者、三津木俊助が見かけたトラックに積まれていた棺桶そっくりの函には、恋人・瞳にそっくりの石膏人形が乗っていた。運転手と佝僂男が函を運んだのは、恋人・瞳の父親である一柳博士の家の裏にある藤巻博士の家だった。
感 想
 作者によると、完結が早いことからこちらが由利・三津木ものの初登場作品と位置付けている。この頃の由利・三津木は事件こそ解決するものの、どちらかと言えば狂言回しの役割のほうが強い。それにしても作者は、このパターンが好きだなと思わせる通俗冒険活劇もの。
備 考
 『妖魂』改題。犯人当て懸賞小説。

作品名
「蜘蛛と百合」
初 出
 『モダン日本』(文藝春秋)昭和11年7月号~8月号
粗 筋
 瓜生朝二は友人の三津木に、君島百合絵という美女に心惹かれていることを告白する。しかし百合江に近付いた二人の青年が怪しい死に方をしており、百合江には蜘蛛が付きまとっているという。そして瓜生は殺害された。
感 想
 これも当時の横溝作品にはよく見られるパターン。
備 考
 

作品名
「猫と蝋人形」
初 出
 『キング』(講談社)昭和11年8月増刊号
粗 筋
 通子と夫の矢田貝博士は、家の近くの川で、心臓の部分に短刀が刺された蝋人形をみつける。蝋人形の胸には、矢田貝の刺青と同じような絵が描かれていた。通子は兄の三津木に相談する。もっとも三津木は、30あまりも年が違い、かつて恋人がいたことを知って冷淡になった矢田貝にいい思いを抱いていなかった。
感 想
 三津木単独物。三津木の妹が出てくるが、本作限りである。多分作者はこの設定、忘れたのであろう。それにしても横溝の短編では、意に添わぬ結婚をした若妻と年取った夫という設定が多い。結末は横溝作品では珍しいパターンではないか。
備 考
 

作品名
『真珠郎』
初 出
 『新青年』(博文館)昭和11年10月号~昭和12年2月号
粗 筋
 X大学英文科講師の椎名耕介は、この夏、同僚の乙骨三四郎に誘われ、浅間山麓N湖畔へ避暑旅行に出かけた。耕介は宿泊先の鵜藤家の美少女、由美に心を奪われる。ある日の夜、耕介と乙骨は、この世のものとも思えない美少年を見かける。一週間後、浅間が爆発し、ボートに乗っていた二人は慌てて岸辺に辿り着く。展望台で二人は、美少年が鵜藤氏を殺害するのを目撃する。由美は、彼のことを真珠郎と呼んだ。
感 想
 戦前の横溝正史の代表的長編。当時の耽美的作風と、本格ミステリ風の謎が絶妙に絡み合った傑作。
備 考
 

作品名
付録1 六人社版『真珠郎』序文ほか
初 出
 『真珠郎』(六人社)1937年4月出版
粗 筋
 「序」江戸川乱歩、「紫の弁」水谷隼、「自序」横溝正史
感 想
 「真珠郎」が初めて単行本になった時の序文、想定を担当した水谷隼の言葉を収録。
備 考
 

作品名
付録2 名作物語『真珠郎』
初 出
 『講談雑誌』(博文館)1953年5月号
粗 筋
 『真珠郎』のダイジェストに、横塚茂の絵を入れた絵物語。
感 想
 珍品と言えるだろうが、ダイジェストなので読者が満足したのか疑問である。
備 考
 

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