作品名 | 『夜光虫』 |
初 出 |
『日の出』(新潮社)昭和11年11月号~昭和12年6月号
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粗 筋 |
護送中の重大犯人が両国の花火大会で刑事を振り切り逃亡。その年若い美青年は、口の利けない美少女と老女が乗る船に逃げ込んだ。その時に偶然見えたのは、右肩の人面瘡。10月、美少年に心当たりのある老女・磯貝ぎんは由利に探してほしいと依頼する。一方三津木は、昨日逃亡した人物は強盗事件で手配中の父親を殺害した容疑で逮捕された息子の白魚鱗次郎だという。そしてクリスマス前の仮面舞踏会。人気歌手諏訪鮎子とともに歌っているのは、鱗次郎だった。
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感 想 |
醜い人面瘡を持つ美青年と、口のきけない美少女の運命を軸とした通俗長編。二人の運命をドラマティックに彩るために描かれているのだから、首をひねる点があろうともあまり考える必要はないだろう。誰が真犯人かは勘のいい人ならすぐ気づくと思うし、本作で楽しむ点は周囲に翻弄される二人の結末である。宝探しも含め、サービスてんこ盛りの作品。
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備 考 |
高階良子が『血まみれ観音』のタイトルでコミック化している。
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作品名 | 「首吊船」 |
初 出 |
『富士』(講談社)昭和11年10月増刊~11月号
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粗 筋 |
満州で事業に失敗した父を救う代わりに、絹子を妻に求めた五十嵐磬人。絹子には瀬下亮という恋人がいたが、瀬下は行方不明となり、父も河に落ちて溺死した。絹子とは五十嵐と結婚し、日本に戻ってきた。数年後、絹子のもとに送られてきたのは、左ひじから切断された人間の骨。しかも薬指には絹子が瀬下に上げた指輪がはめられていた。絹子は屋敷に三津木を呼び、瀬下を探してほしいと依頼するが、そのとき、川のほうから船がやってきた。船には首を吊られた蝋人形と、骸骨そっくりの顔をした男が乗っていた。数日後、心臓をえぐられて殺された五十嵐を吊った船が隅田川に浮かんでいた。
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感 想 |
犯人当て小説とのことだが、事件の構造が誰もが想像しそうな方向に向かっており、わかりやすい。もちろん書かれた年代を考えるべきだが。
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備 考 |
「首吊り船」改題。犯人当て懸賞小説。
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作品名 | 「薔薇と鬱金香」 |
初 出 |
『週刊朝日』(朝日新聞社)昭和11年11月1日号~11月22日号
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粗 筋 |
由利と三津木が劇場で偶然見かけたのは、鬱金香婦人、あるいはマダム・チューリップと呼ばれる社交界で有名な女性。五年前に殺害された黒柳博士の妻・弓子だった。つい最近、小説家の磯貝半三郎と再婚した。今日は開場式が行われた東都劇場で『歌時計鳴りおわるとき』という舞台が行われる予定だったが、劇場が火事になる。
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感 想 |
五年前の事件が実は、という話。横溝には実はこの手の短編がいくつかある。由利物は、過去の恋人とか運命の恋人とかが絡む事件が多いと思うのは気のせいだろうか。本作の証拠隠しトリックは後の作品でも使われている。
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備 考 |
作品名 | 「焙烙の刑」 |
初 出 |
『サンデー毎日』(毎日新聞社)昭和12年新春特別号
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粗 筋 |
映画スターの桑野貝三は、また従妹の葭枝に頼まれ、葭枝の夫で画家の瀬川直人からの手紙を読む。そこには、瀬川自身が誘拐され、三万円を犯人に渡してほしいというものだった。桑野は手紙に書かれた手順で金を渡し、瀬川のもとへ向かうが、瀬川のそばに美少年の死体があった。実は酔った瀬川が殺害したと脅されたのが三万円の口止め料だった。瀬川は自分をはめた女性を探し出す。
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感 想 |
奇妙な出だしではあるが、結末はあまりにも雑。由利と三津木は最後にしか出てこない。
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備 考 |
作品名 | 「幻の女」 |
初 出 |
『富士』(講談社)昭和12年1月号~4月号
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粗 筋 |
人を殺すことを何とも思わない殺人鬼、ファントム・ウーマン。アメリカで数年間、暗躍していたが、最近、仲間が逮捕され、しかも正体が日本人の女であることが判明した。アメリカ帰りのジャズ・シンガー、八重樫麗子がホテルの浴室で殺害され、タイルに「まぼろしの女」と血で書かれていた。発見者は、三津木俊助であった。
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感 想 |
「まぼろしの女」をめぐる中編。その意外な正体を含め、物語は二転三転するのだが、冒険活劇ものだからあまり細かい点を考えても仕方がない。「まぼろしの女」が殺人を何とも思わないという設定と、その後の本人との印象がどうもギャップがあってピンと来ないというのが本当のところ。
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備 考 |
「まぼろしの女」改題。
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作品名 | 「鸚鵡を飼う女」 |
初 出 |
『キング』(講談社)昭和12年4月増刊号
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粗 筋 |
三津木が切支丹坂を上っていると、寺小姓のような男が不審な動きをして逃げだした。三津木は後を追いかけるが逃げられる。腹が立って戻ってくる途中、通りがかりの男が頼まれ押した俥の車夫が家に入ったまま出てこないと言う。俥のなかには若い女性の死体。車夫が入った家の中に入ると、百足の入れ墨をした男が死んでいた。そして鸚鵡が鳴き叫んでいた。
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感 想 |
犯人はすぐに予想つくだろうが、事前全体の構図は意外なもの。短編で説明不足のところも多く、結局は通俗人情物で終わっている。
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備 考 |
作品名 | 「花髑髏」 |
初 出 |
『富士』(講談社)昭和12年6月増刊~7月号
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粗 筋 |
由利のもとへ花髑髏と名乗る者から、殺人計画が進められていてそれを止めることができるのは由利先生しかいないから会ってほしいという手紙が届く。待ち合わせ場所に来たのは、マスクの男から頼まれて長持を運んできた車夫。長持ちのなかには、猿轡をかまされ、赤い扱帯でぐるぐる巻きにされた断髪の美人が生きたまま入っていた。美人の名は有名な精神病学者の日下瑛造の養女・瑠璃子。長持は日下家から運んだものだった。由利先生と車夫が日下家を訪れると、鬼の形相をした息子の瑛一が逃げていった。そして家の中には瑛造の死体があった。
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感 想 |
刺激的なシーンからのスタートだが、犯人当て小説として考えてしまうと犯人は意外とわかりやすい。由利・三津木コンビが振り回されてしまうのだが、ページ数を増やせばもう少し面白い話になったかもしれない。「石膏美人」でもそうだが、箱の中に入っている美女、好きだね、作者は。
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備 考 |
犯人当て懸賞小説。
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作品名 | 「迷路の三人」 |
初 出 |
『キング』(講談社)昭和12年8月増刊号
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粗 筋 |
避暑地に来ていた美雁は退屈になり、数年前に主人が首をくくって死んだという幽霊屋敷の探検を思い立ち、腹違いの姉梨枝と、避暑地で知り合った鳥羽慎介の三人で出かけた。この邸内には縊死した主人が作った迷路があった。美雁が悪戯をして先に進んでしまい、梨枝と慎介が後を追いかけたが、美雁が悲鳴を上げた。避暑地で知り合った世界を駆け巡ったという中年男の進藤俊策は、最初こそ探検を断ったものの心配になり、同じく避暑地に来ていた由利先生を誘い屋敷に来た。ところが屋敷には、脱獄囚が隠れていた。由利先生は脱獄囚を捕まえるが、奥で美雁が殺害されていた。
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感 想 |
作者が中島河太郎に「これは翻案だよ」と語ったためか、角川文庫には収録されなかった短編。暗闇の迷路の殺人や某トリックがクイーンのある短編と同じではあるが、他については全く似ていないため、翻案というよりは、単にトリックの借用といった方がいいかもしれない。殺人トリックはすぐに思いつくだろうが、動機はさすがに無理がある。
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備 考 |
作品名 | 付録「夜光虫」(未発表版) |
初 出 |
未発表作品
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粗 筋 |
三津木俊介はある夜、子牛ほども大きい、そして全身から鬼火ような鱗光をあげている犬に遭遇する。犬が追いかけていたのは、若い女性。三津木は女性を助け、犬はどこかへ去ってしまう。
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感 想 |
未発表作品で、冒頭のみ原稿が残されていたもの。どこで発表する予定だったのかわからない。なお、少年物の『夜光怪人』と冒頭はほぼ同じである。
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備 考 |