由利・三津木探偵小説集成3(柏書房)
『仮面劇場』



【初版】2019年2月5日
【定価】2,700円+税
【編者】日下三蔵


【収録作品】

作品名
「双仮面」
初 出
 『キング』(講談社)昭和13年7月号~12月号
粗 筋
 日本一の船成金、雨宮万造が持つ黄金ダイヤの模造船を、怪盗の風流騎士が狙っているという噂が流れている。近日中に喜寿の祝いでお披露目する予定の万造は、警視庁の等々力警部に監視させていた。しかし祝い当日、万造は一緒に船を監視していたはずの孫の恭助に刺された。ところが万造は死ぬ直前、もう一人の孫の千晶と、隠れて警備をしていた由利に、画家の柚木薔薇が恭助に化けて殺害したと告げた。警察は柚木の家に向かうも、柚木は共犯の女と一緒に逃亡した。さらに恭助と千晶の周りに、事件が続く。恭助にそっくりな柚木薔薇の正体は。
感 想
 真相が二転三転する冒険活劇。三津木俊助は登場せず、代わりに等々力警部が由利と捜査に挑んでいる。もっとも派手に動くのは従兄妹の恭助と千晶、さらに柚木であり、由利の活躍はあまりない。とにかく次回への引きと活劇が中心となっている分、無理があるような展開とはなっているが、大衆誌への連載であったらこれでいいのかもしれない。
備 考
 

作品名
「猿と死美人」
初 出
 『キング』(講談社)昭和13年2月号
粗 筋
 真夜中に隅田川でボートに載っている美弥と耕作。花火の合図とともにボートを動かすが、猿が入っている箱に当たり、耕作は青ざめる。しかし美弥は気にせず先を進め、ボートはある洋館に着いた。美弥は耕作を置いて仏蘭西窓から中に入るが、美弥は何かを発見し絶叫する。一方、花火に不信を抱いた三津木俊助は、浮浪人刈りで一緒にいた等々力警部とともに川に浮いている猿の檻を見つけた。しかもその中には妖艶な女性が刺されて気を失っていた。
感 想
 三津木単独の小品。事件が起き、ちょっとした謎が三津木によって簡単に解かれて解決する。時代柄かもしれないが、あまりにもあっさりとしすぎていて、面白さに欠ける。
備 考
 

作品名
「木乃伊の花嫁」
初 出
 『富士』(講談社)昭和13年2月増刊号
粗 筋
 大学教授、鮎沢医学博士の一人娘京子と、愛弟子の鷲尾医学士が10月に結婚する予定であった。しかし結婚式当日の4時、白無垢の晴れ着の袖の糸が抜かれてボロボロになっていた。花嫁の介添えの玉城夫人が必死につくろったが、今度は串も簪も根元から真っ二つに折れていた。また鷲尾の元にはたびたび、もう一人の愛弟子かつライバルで、三か月前から行方不明である緒方医学士から、結婚はやめろとの脅迫状が届いていた。そして式当日には、唇に紅がさしてあるミイラのような紙人形が脅迫状とともに送られてきた。8時、式は始まったが、京子が盃を取り上げた時、天井から赤い血潮が滴り落ちてきた。天井には顔がつぶれた男の死体があった。
感 想
 由利先生が単独で事件を解決する小品。これまたあっさりとしているし、トリックの一部は解き明かされていないままで物足りない。
備 考
 

作品名
「白蝋少年」
初 出
 『キング』(講談社)昭和13年4月号
粗 筋
 25、6歳ぐらいの醜女が棺をこじ開け、16、7歳ぐらいの白蝋のような美少年の死体に化粧を施していた。女が取り出した手紙には、少年がどのように虐待されたかが書かれていた。女は復讐を誓う。一週間後、醜女と少年の心中死体が発見された。捜査をしている等々力警部のもとに、三津木俊助が駆け付ける。しかし、死後一週間の少年は胸に突傷があり、女は8時間前に服毒していた。そして現場にはヘリオトロープの香水の香りが残っていた。
感 想
 三津木単独作品。三津木が颯爽としているのに比べ、犯人が出てくるところを待っていてくしゃみをするなど、等々力警部はさんざんである。こちらは不審人物を追いかけるうちに、あっという間に事件が解決してしまい、物足りない。
備 考
 ろうは印刷標準字体のろう。

作品名
「悪魔の家」
初 出
 『富士』(講談社)昭和13年5月号
粗 筋
 真夜中、三津木俊助は後ろにいた21,2歳ぐらいの女性を送ることになったが、杉木立の向こうに燐のように浮かび上がった首を見つけ、女は「悪魔が」と怯える。首は消え、俊助は女の家まで送っていったが、家の中から幼子の「悪魔が来た」の声。翌日、弓枝というその女性が俊助のもとを訪れ、一週間前から弓枝の義兄の娘である5歳になる鮎子が「アクマガ来た」と泣き出すようになったという。俊助は弓枝と一緒に家へ行くが、また道の途中で悪魔の首が二人の前に現れ、そして義兄が殺害されていた。
感 想
 三津木単独もの。ちょっとしたトリックはあるものの、あとは事件が起きて解決しただけ。
備 考
 

作品名
「悪魔の設計図」
初 出
 『富士』(講談社)昭和13年6月増刊号~7月号
粗 筋
 信州の湖畔に静養に来た三津木俊助。女中に誘われ旅芝居を見に行った俊助だったが、三幕目の人殺しの場面で本当の殺人事件が発生し、俊助の隣に泊まっていた黒川弁護士が舞台を止めた。殺されたのは座頭の青柳珊瑚かと思ったら実は弟子で吹き替えをしていた花代で、若侍役の都築静馬が逃げ出した。珊瑚の旦那である眼八は静馬が犯人と騒ぐが、珊瑚は眼八が犯人だと訴えた。おまけに警察の取り調べ中、小道具部屋が火事となったため、静馬の手配が遅れてしまった。そして1か月後の東京、俊助が由利先生に呼ばれていくと、そこにいたのは黒川弁護士だった。事件には老富豪の遺言状が関わっていた。
感 想
 犯人当て小説として書かれたもの。犯人当てはわかりやすいかな。タイトルや背景の割には簡単に終わっており、物足りない。
備 考
 犯人当て懸賞小説。

作品名
「銀色の舞踏靴」
初 出
 『日の出』(新潮社)昭和14年3月号
粗 筋
 劇場で映画を見ていた三津木俊助の席に、二階から銀色の舞踏靴が落ちてきた。返そうと階段の下まで来ると、豪華な毛皮の外套を着た若い女が、二階から駆け下りてきて、一目散に自動車に乗ってしまった。何かあると思った俊助は空車を見つけ、後を追いかけた。ある屋敷の前で降りた女性に声をかける俊助だったが、女性は人違いだと訴え、しかも靴を両足に履いていた。下宿に帰った俊助は、女中から劇場で銀色の舞踏靴をはいたダンサーが二階で殺害されたと聞き、頭に血が上った。
感 想
 冒頭から三津木俊助、結構ドジを踏む。意外な展開から由利先生が登場し、あっという間に事件解決。もうちょっと長くなりそうなのに勿体ない。有名推理作家の有名なトリックが流用されているが、横溝正史はこのトリックが好きなようで、人形佐七でも使われている。
備 考
 

作品名
「黒衣の人」
初 出
 『婦人倶楽部』(講談社)昭和14年4月号
粗 筋
 四年前に殺害された、淫婦として有名だった映画女優の桑野珠実。凶器であるステッキの持ち主である緒方静馬が捕まり、無罪を訴えるも未決にいる間に病で急死。一年前に知り合った「黒衣の人」から珠実の家に呼び出された妹の由紀子だったが、そこにいた男は、珠実が身を寄せている川端老婦人の息子、慎策だった。偶然通りかかった由利先生と三津木は女の悲鳴を聞き、空き家に入ろうとすると、一人の男が逃げ出した。百合子は気絶しており、珠実の弟子だった幾代が殺害されていた。
感 想
 事件現場に偶然通りかかるという安直なパターンから由利先生と三津木が事件にかかわるが、二人はあくまでわき役。これも呆気なく終わってしまい、物足りない。
備 考
 

作品名
『仮面劇場』
初 出
 『サンデー毎日』(毎日新聞社)昭和13年10月2日号~11月27日号連載。1942年7月、『旋風劇場』と改題して八紘社杉山書店より単行本刊行。大幅に加筆・改稿のうえ、1947年8月、『暗闇劇場』と改題して一聯社より単行本刊行。1970年10月、『横溝正史全集2 仮面劇場』(講談社)でタイトルを元に戻す。
粗 筋
 観光船に乗っていた大道寺綾子と由利先生は、波間の向こうに大きなガラス箱を積んだ船を見つけた。その箱に入っていたのは、生きたままの美少年。箱の中に入っていた木片には「盲にして聾唖なる虹之助の墓」と書かれてあった。少年の身許はわからず、富裕な未亡人である綾子は、由利先生の忠告も聞かず、虹之助を引き取った。やはり虹之助の周辺で、連続殺人事件が起きる。
感 想
 三重苦の美少年が生きたまま船埋葬されているというショッキングなスタートから始まる作品。意外な展開が続く連続殺人事件だが、その真相はかなり苦しいと思う。ただ、不気味なムードが漂う作品であり、横溝の草双紙趣味があふれた作品にもなっており、由利先生物の戦前作品では代表作になるだろう(『真珠郎』は由利先生、活躍していなかったし)。最も由利先生、犯人にかなり振り回さているけれど。
備 考
 高階良子によって『真珠色の仮面』のタイトルでコミカライズされている。「旋風劇場」は『迷路荘の怪人』(出版芸術社)に収録されている。

【由利・三津木探偵小説集成(柏書房)】に戻る