作品名 | 「盲目の犬」 |
初 出 |
『キング』(講談社)昭和14年4月増刊号
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粗 筋 |
由利と三津木がホテルで食事中、狼のような唇をした酔っぱらいの男が現れ、今晩人殺しが行われると告げ、そのまま去っていく。気になって後を追いかける由利と三津木。男は藤間家の屋敷に忍び込んだが、仔牛ほどもある大きさの犬に追いかけられ、慌てて逃げていった。犬の全身は血を浴びて真っ赤。由利と三津木が慌てて屋敷に入ると、喉を噛み殺された主人の姿があった。犬は藤間家の飼い犬だったが、以前から主人は苛めており、ある時は焼火箸で両目を突き刺して盲目にしたこともあった。訪れていた友人は、主人が奇妙な自殺方法を考えたという手紙をもらい、慌てて来たのだが、これがその自殺方法だったのだろうか。
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感 想 |
盲目の犬による自殺もしくは事故と思われたが、実は殺人事件で、という展開。例によって家族間というか、屋敷中での揉め事が事件の背景にあるのだが、事件のトリックは既知のものとはいえ、想像すると恐ろしい。
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備 考 |
作品名 | 「血蝙蝠」 |
初 出 |
『現代』(講談社)昭和14年4月号
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粗 筋 |
鎌倉に集まった若い男女のグループ。空き家となって長く、蝙蝠が多いことから蝙蝠屋敷と呼ばれる屋敷で肝試しをすることとなった。一人目の通代が入っていくと、壁に血で書かれた蝙蝠の絵。さらに部屋の隅には血を流した女の死体があり、陰気な笑い声が聞こえてきて通代は意識を失った。死体は映画女優の葛城倭文子だった。1か月後、電車の中で若い女性に窓を開けてほしいと頼まれた三津木は、君の悪い人がつけてきているので一緒にいてほしいという紙切れを渡される。その男は、黒マントを羽織った傴僂男。三津木は女性を家まで送っていくが、着いた途端、自動車のヘッドライトに蝙蝠が浮かんでいた。その女性は、通代だった。
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感 想 |
殺人事件の謎を由利先生が解く短編。枚数が短すぎて、盛り上がりに欠けたまま終わってしまう。
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備 考 |
作品名 | 「嵐の道化師」 |
初 出 |
『富士』(講談社)昭和14年10月増刊号
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粗 筋 |
サーカスの花形である環と、資産家の息子藤代辰弥は、いつしか恋仲になっていた。しかし辰弥の父親は、かつて環の父親の財産を横領した敵同士だった。二人が心中しようとしたその瞬間、環が可愛がっている犬のクロが入ってきた。しかしクロは、人間の小指を咥えていた。嵐の中、クロが誘う方向に二人は走ったが、行先は辰弥の家。座敷は血が飛んでいて、サーカスで使う両刃ナイフが転がっていた。しかし死体はなかった。その嵐の中、一人の道化師が死体を引きずっていた。偶然通りかかった三津木が追いかけるも、道化師はモーターボートに乗って逃亡した。
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感 想 |
こちらも通俗短編。奇怪な事件の謎を由利先生が解き明かすが、あっという間に終わってしまって物足りない。
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備 考 |
作品名 | 「菊花大会事件」 |
初 出 |
『譚海』(博文館)昭和17年1月号
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粗 筋 |
霧の夜、二台の車が追いかけっこをしていた。前の車が事故を起こし炎上。近くにいた新聞記者の宇津木俊助は、顔が焼けただれた客のポケットから、国技館で開かれている菊花大会の入場券をみつけるが、裏に赤と白が複数ある奇妙な暗号が書かれていた。
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感 想 |
由利先生は登場せず、登場人物も宇津木俊助となっているが、三津木俊助の表記揺れとして由利・三津木ものに含まれるのが通例のため、本書でもそれに従ったとある。ただ宇津木は関西弁をしゃべっているので、三津木の表記揺れかどうか疑問なところもある。 戦時中ということもあり、国策に沿った短編。暗号にちょっとした工夫を凝らしているが、中身は大したことはない。 |
備 考 |
作品名 | 「三行広告事件」 |
初 出 |
『 |
粗 筋 |
由利先生は三津木に、この頃新聞記事におかしな三行広告が載っていると話す。依頼主はほぼ同じだが、借家の場所は違うところばかり。しかも依頼主はすでにその場所にいなかった。そこへ60歳過ぎの依頼主が現れるも、事前に毒を飲まされたためか、死んでしまった。
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感 想 |
戦時中に満州国で発行されていた雑誌とのこと。内容は戦時中という時代を色濃く反映している。
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備 考 |
作品名 | 「憑かれた女」 |
初 出 |
『大衆倶楽部』(大衆倶楽部発行所)昭和8年10月号~12月号に連載されたノンシリーズ作品を、戦後由利・三津木ものに書き改め、昭和23年1月、龍生社より『憑かれた女』のタイトルで刊行。
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粗 筋 |
混血児で17歳の西条エマ子は、夏ごろから怪しい幻想に取り憑かれるようになった。バラバラの手や首、足など怖い幻が浮かぶ恐怖症で酒浸り。鎌倉へ遊びに行ったら、不良仲間のみさ子の血みどろの姿を幻で見た。世話になっている酒場である日、ある外人がエマ子を気に入ったとして手付で大金を置いていった。外人が用意した車に乗り、目隠しをしたままある屋敷に連れられるも、浴槽に死体が横たわっていたため、外人の目の前で気を失う。目を覚ますと、野原に寝ていた彼女を、同じアパートに住む自称探偵小説家の井出江南に介抱されているところだった。数日後、エマ子の話を聞いて屋敷を見つけたという井出とともに屋敷を訪れると、浴室にみさ子が殺されていた。
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感 想 |
恐怖の幻ばかりを見て精神的におかしくなりそうになった女が、実際の殺人事件に遭遇する話。その幻は予言だったのか、それとも……といったところだが、そのトリックはちょっと残念。動機も含め、乱歩らしさが漂うのだが、もしかしたら乱歩の未完作品「二人の探偵小説家」に対するアンサーのような気がする。勝手な想像だが。
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備 考 |
作品名 | 『蝶々殺人事件』 |
初 出 |
『ロック』(筑波書林)昭和21年5、8、10、12月号、昭和22年1月号~4月号
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粗 筋 | |
感 想 |
元々は小栗虫太郎が『ロック』創刊号から長編を連載する予定だったが、急逝。かつて横溝が急病で『新青年』に原稿が載せられなかったとき、代わりに小栗虫太郎が『完全犯罪』を掲載して助けられたということがあったため、恩返しのつもりで連載を引き受けた。しかし『本陣殺人事件』を『宝石』で連載し始めたばかりであったため、創刊号からではなく第3号からの連載となった。初出の月号は飛び飛びとなっているが、戦後の紙不足によって出版ペースが飛び飛びとなっていたためであり、休載は一度もない。 戦後の本格ミステリを代表する作品であり、結果的に横溝作品の探偵役を金田一耕助にバトンを渡し、由利・三津木の引退作品にもなってしまった。最も作者はそんなつもりはなかったと思うが。 クロフツ『樽』に影響された作品であり、コントラバスのケースを利用した死体移動トリックが印象深いが、それ以外にも数々のトリックが散りばめられており、単純な犯人当てで見れば横溝作品で一番出来の良い作品である。ゲーム小説の好きな坂口安吾が大絶賛したのもわかる。もっと評価されてもいいと思うのだが、やはり日本人は因習とかのキーワードのほうが好きなのかな。 |
備 考 |
作品名 | 「カルメンの死」 |
初 出 |
『講談倶楽部』(講談社)昭和25年1、3月号
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粗 筋 |
間宮豊彦と吉岡早苗は結婚式を挙げていたが、峯八千代が姿を現さないことに恐怖を抱いていた。有名なカルメン歌手であり、豊彦をテナー歌手として一流に育て上げ、さらに愛人でもあった八千代。ソプラノ歌手の早苗を交えた三人三様の苦闘は、誰も知らない者はいない。結婚式上へ、八千代から豊彦宛てに大きな木箱が贈られてきた。しかし隙間から血が流れてきている。開けてみると、ウェディングドレス姿の八千代が入っていた。胸には短刀が刺さっていた。結婚式に参加していた由利が謎を解く。
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感 想 |
結局由利・三津木ものとしては最後となってしまった短編。三津木は出ていない。謎としてはそれほど難しくないが、人の執念というものを感じさせる短編。ここでもう少しトリックが強めの本格ミステリを書いていれば、由利シリーズは続いていたかもしれない。
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備 考 |
原題「迷路の花嫁」。春陽文庫では「カルメン殺人事件」のタイトルとなっている。犯人当て懸賞小説。
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作品名 | 「神の矢」 |
初 出 |
『ロック』(筑波書林)昭和24年1+2、5月号
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粗 筋 |
終戦から1か月、T高原のかつての別荘地帯に、三津木俊助は親友で小説家の佐竹淳吉に招待されてやってきた。駅から降りた三津木は、別荘に疎開中の八剣清人子爵の招待客のために差し向けた馬車に同乗。心霊学研究の宇賀神通泰、霊媒の阿知波薬子、さらに同じ列車に乗っていた女優の白鳥蓉子が一緒だった。さらに家族を疎開させている銀行員の小堀宗吉も歩いていたので馬車に乗った。佐竹の話を聞くと、神の矢と名乗る者から悪意に満ちた中傷の手紙が、各家に放り込まれているという。矢の根神社の神官のところにも手紙が来たが、神官の妻は本当に姦通していた。神官は妻を折檻するも妻は逃げ出し、淵で死体となって浮かんだ。神官は怒り狂い、御神体の矢を何本も本当に研いでいた。姦通相手はわからないが疎開者ということでパニックになっていた。
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感 想 |
残念ながら2回で中絶になった作品。作者によると由利・三津木は戦後も活躍するが、本事件は戦後初めて活躍した事件とのこと。金田一の岡山ものらしい因習めいた作風が見られ、由利物との融合がどうなるか非常に興味がある。中編物を書き改める時間があったなら、作者には中絶作品を完成させてほしかったなあ。
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備 考 |
中絶作品。
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作品名 | 「模造殺人事件」 |
初 出 |
『スタイル読物版』昭和24年10、昭和25年1、4月号
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粗 筋 |
昭和電工事件と並び称されたオーロラ化学工業事件で逮捕状が出たオーロラ化学工業株式会社社長・堀口省吾は、逮捕直前、下山事件と同じ手口で失踪。2日後、東京湾で死体となって発見された。殺人に至るまでの経路を下山事件から模倣したことから、イミテーション殺人事件、すなわち模造殺人事件と後に呼ばれることとなる。三津木が由利のもとを訪れ、堀口が他殺であることと事件の背景を説明していると、賀川春代という若い美人が訪れる。彼女は半年前から矢部慎吉という男の世話になっていたが、新聞を見ると実はそれが堀口省吾であったという。そして矢部が春代に預けたスーツケースには、200万円の札束と、無数のダイヤモンドが入った革袋があった。
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感 想 |
掲載誌が休刊となったため、中絶した。号数が飛んでいるのは、出版ペースが一定しなかったため。掲載された3回分と、校正ゲラが残されていた第4回が収録されている。 二重生活をしていた男の真の姿がどうか、気になるところである。こちらも中絶が残念。 |
備 考 |
中絶作品。
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作品名 | 付録1「神の矢」(「むつび」版) |
初 出 |
『むつび』(睦社)昭和21年12月号
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粗 筋 |
「神の矢」第一話と同じ。中絶。
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感 想 |
「神の矢」は、『ロック』に掲載される前、長野県の睦社から出ていた結核療養雑誌「むつび」第二号(昭和21年12月号)に第一話だけ載って中絶していた。
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備 考 |
中絶作品。
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作品名 | 付録2『蝶々殺人事件』あとがき(月書房版) |
初 出 |
『新探偵小説』昭和22年7月号に掲載されたエッセイ「蝶々殺人事件覚書」に冒頭の三段と末尾の一段を加筆したもの。1948年1月、月書房より単行本刊行。
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粗 筋 |
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感 想 |
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備 考 |