戦後に死刑判決を受けた女性被告人





(雑記ではイニシャル表記を原則としておりますが、今回は調べればすぐに名前が出てくる人ばかりということもあり、死刑が確定した人、係属中の人は全て実名表記させていただきます。ご容赦ください)

 新聞記事を漁ってみると興味深い文章を見つけることがあるが、これもその一つ。


 戦後の裁判で女性に死刑判決が言い渡されたのは、今回の宮崎知子被告で11人目。最近では、炭鉱下請け会社の従業員ら6人が焼死した北海道夕張市の保険金殺人事件の1審判決(62年3月、札幌地裁)以来のことだ。
 最高裁の調べでは、戦後の死刑確定者は628人(62年末現在)いるが、このうち女性は3人だけ。1審で死刑判決を受けたあと現在、上級審で争っている女性被告は、連合赤軍事件の永田洋子被告ら3人。
(1988年2月9日 朝日新聞)


 では、この女性の死刑判決は誰だったのだろう、ということで調べてみる気になった。この時点で確定していたのは山本宏子死刑囚、杉村サダメ死刑囚、小林カウ死刑囚の3人。そして上級審で争っていたのは諸橋昭江死刑囚(当時被告、以下同様)、永田洋子死刑囚、日高信子死刑囚の3人である。となると残るは4人であり、一審で死刑判決を受けたが二審で無期懲役以下に減刑となったということになる。もしくは一審で死刑判決を受けた後に死亡して公訴棄却となったか。
 この時点で一審死刑判決、二審無期懲役以下減刑という判決が判明していたのは滋賀県の夫婦の妻、Y・M、S・Jの3名である。となると残り1名がいるはずなのだが、現時点では不明である。
 なお、女性被告の死刑判決が書かれた新聞記事はもう1件ある。それは林真須美被告の一審判決時(2002年12月11日)である。ところが、東京新聞や時事通信では現在の刑事訴訟法が施行された1949年以降、林真須美被告で15人目と書かれているのだが、産経新聞では14人目と書かれているのである。どちらを信用すればよいのか、困ったところである。
 産経の書いているとおり14人目だとしたら、山本、杉村、小林、日高、諸橋、永田、宮崎、坂本、石川、江藤の各死刑囚計10名に、無期懲役判決が確定したS・JとT・Y、そして林被告を足してちょうど14人となる(滋賀県の夫婦とY・Mは1949年より前なので入らない)。東京新聞の記事を信用=15人とすると、1949年以降にもう1件、一審死刑判決があったこととなる。
 なお村野薫は、戦後30年間ぐらいで一審死刑その後減刑されたのは3人と書いている。この場合、滋賀県の夫婦の妻、Y・M、S・Jの3件ということとなる。
 新聞記事が絶対というわけではないし、最高裁の統計そのものに誤りがあることもあるので、何が正しいのかはわからない。ただ、男性に比べ、女性に対する死刑判決が圧倒的に少ないということだけは間違いない。
 (その後、情報をいただき判明。下記に示す)


 戦後に死刑判決が確定した女性死刑囚は以下の16人である。確定順に記す。


 一審ないし二審で死刑判決を受け、現在上級審で争っている女性被告はいない。


 一審で死刑判決を受け、控訴中に自殺した女性被告は以下である。


 一審で死刑判決を受け、二審判決で減刑された人たちは以下である(判明分)。



 海外で死刑判決が確定した女性は以下である。


 以下は無期懲役以下に減刑された被告を含む、国内で死刑判決を受けた女性被告人の一覧表。確定順に記載。

氏  名
一 審
控訴審
上告審
その後
事件名
備 考
M・K
47. 7.28
大津地裁
47.11.22
大阪高裁
懲役15年
上告せず確定 不明 祖母殺人事件(尊属殺人)
46. 3.末
共犯の夫も懲役15年確定。戦後初の女性に対する死刑判決。
Y・M
47. 8. 1
福岡地裁
49.12. 7
福岡高裁
無期懲役
50. 7.13
最高裁
被告側上告棄却、確定
不明 老女強盗殺人放火事件
46. 3.29~ 3.30

山本宏子
49.12.26
神戸地裁姫路支部
50. 9. 4
大阪高裁
51. 7.10
最高裁
69. 9. 2
個別恩赦、無期減刑
(78. 3. 4 死亡 62歳没)
兵庫県菅野村老女殺人事件
49. 6.10
戦後初の女性死刑囚。
K・Y
52. 5.29
松山地裁
53. 9.29
高松高裁
無期懲役
上告せず確定 不明 道後温泉飲食店母子強盗殺人事件
52. 1. 20
共犯の男性も無期懲役判決。
S・S
57. 3.20
仙台地裁
58. 3.12
仙台高裁
無期懲役
上告せず確定 不明 仙台連続強盗殺傷事件
56. 9. 4他
求刑無期懲役。主犯の米兵も無期懲役確定。
杉村サダメ
61. 6.27
熊本地裁
62. 8.29
福岡高裁
63. 3.28
最高裁
70. 9.19
執行 59歳没
女性三人連続毒殺事件
60.12. 6~12.28
戦後二番目に執行された女性死刑囚。
小林カウ
63. 3.18
宇都宮地裁
65. 9.15
東京高裁
自判(夫殺害も認定)
66. 7.14
最高裁
70. 6.11
執行 61歳没
ホテル日本閣殺人事件他
52.10. 2/60. 2. 6/60.12.31
戦後初めて執行された女性死刑囚。共犯男性も同日執行。
日高信子
87. 3. 9
札幌地裁
89.10.11
控訴取り下げ、確定
(天皇陛下ご逝去に伴う恩赦を期待)

97. 8. 1
執行 51歳没
夕張保険金目当て放火殺人事件
84. 5. 5
共犯の夫も同日執行。
諸橋昭江
80. 5. 6
東京地裁
86. 6. 5
東京高裁
91. 1.31
最高裁
07. 7.17
病死 75歳没
夫殺人事件他
74. 8. 8/78. 4.24
夫殺しは無実を主張。第三次再審請求中だった。
永田洋子
82. 6.18
東京地裁
86. 9.26
東京高裁
93. 2.19
最高裁
11. 2. 6
病死 65歳没
連合赤軍事件
71~72. 2
共犯1名は超法規的措置により釈放、出国。共犯1名は死刑確定。再審請求中だった。
宮崎知子
88. 2. 9
富山地裁
92. 3.31
名古屋高裁金沢支部
98. 9. 4
最高裁
名古屋拘置所収監中 富山・長野2女性誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定111号事件)
80. 2.23~ 3. 6
共犯とされた愛人男性は無罪確定。真犯人は愛人と主張。再審請求中。
T・Y
94. 5.17
東京地裁
95.12.13
東京高裁
無期懲役
上告せず確定 服役中と思われる。 豊島区アパート経営母娘強殺事件
92.12.15
共犯の愛人男性も無期懲役確定。
坂本春野
98. 7.29
高知地裁
00. 9.28
高松高裁
04.11.19
最高裁
11. 1.27
病死 83歳没
高知連続保険金殺人事件
87. 1.17~92. 8.19
無罪を主張。確定時77歳。
Y・R
03. 1.31
長崎地裁
04. 5.21
福岡高裁
無期懲役
05.10.25
最高裁
被告側上告棄却、確定
服役中 父子連続保険金殺人事件
92. 9.11/98.10.27
主犯は死刑確定。
石川恵子
01. 6.20
宮崎地裁
03. 3.27
福岡高裁
宮崎支部
06. 9.21
最高裁
福岡拘置所収監中 宮崎2女性殺人事件
96. 8.29/97. 6.13
再審請求中。
江藤幸子
02. 5.10
福島地裁
05.11.22
仙台高裁
08. 9.16
最高裁
12. 9.27
執行 65歳没
須賀川祈祷による信者殺人事件
95. 1~ 6
再審請求準備中だったとされる。
C・S
08.10. 8
盛岡地裁
09. 1. 8
仙台高裁
公訴棄却

08.12.28
自殺 46歳没
一関住職親子強殺事件
07. 6.11

林真須美
02.12.11
和歌山地裁
05. 6.28
大阪高裁
09. 4.21
最高裁
大阪拘置所収監中 和歌山毒物カレー事件
1998. 7.25
無罪を主張。2009年7月22日、再審請求。
風間博子
01. 3.21
浦和地裁
05. 7.11
東京高裁
09. 6. 5
最高裁
東京拘置所収監中 埼玉愛犬家殺人事件
93. 4~ 8
無罪を主張。主犯の元夫も死刑確定後、病死。再審請求中。
吉田純子
04. 9.24
福岡地裁
06. 5.16
福岡高裁
10. 3.18
最高裁
16. 3.25
執行 56歳没
看護師連続保険金殺人事件
97~01
再審請求棄却。
北村真美
06.10.17
福岡地裁久留米支部
07.12.25
福岡高裁
11.10. 3
最高裁
福岡拘置所収監中 大牟田市4人連続殺害事件
04. 9.16~17
共犯の夫、息子2人も死刑が確定。
O・J
05. 9.28
福岡地裁小倉支部
07. 9.26
福岡高裁
無期懲役
11.12.12
最高裁
検察側上告棄却、確定
服役中 小倉監禁殺人事件
96. 2~98. 6
主犯は死刑が確定。
木嶋佳苗
12. 4.13
さいたま地裁
14. 3.12
東京高裁
17. 4.14
最高裁
東京拘置所収監中 首都圏連続不審死事件
08. 9~09. 9
裁判員裁判。無罪を主張。現姓井上。
上田美由紀
12.12. 4
鳥取地裁
14. 3.20
広島高裁松江支部
17. 7.27
最高裁
23. 1.15
事故死 49歳没
鳥取連続不審死事件
09. 4.23/10. 6
裁判員裁判。無罪を主張。
筧千佐子
17.11. 7
京都地裁
19. 5.24
大阪高裁
21. 6.29
最高裁
大坂拘置所収監中 青酸連続殺人事件
07.12~13.12
裁判員裁判。



K様より多数の情報をいただきました。有り難うございました。


【参考文献】
村野薫『そして死刑は執行された』(講談社文庫)
その他、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、東京新聞、北海道新聞、中日新聞、西日本新聞、高知新聞の記事から多くを参考にした。

(2008年11月13日記)
(2009年2月22日 大幅追記)
(2009年5月10日 裁判結果を追加)
(2010年1月29日 一覧表を追加)
(2010年4月9日 裁判結果を追加)
(2011年1月29日 1件追加)
(2011年10月18日 裁判結果他を追加)
(2011年10月25日 海外の裁判結果を追加)
(2011年12月14日 裁判結果を追加)
(2012年5月12日 裁判結果、情報を追加)
(2012年9月29日 執行を追加)
(2012年12月4日 裁判結果を追加)
(2014年4月19日 裁判結果を追加)
以後、判決は順次記載しています。



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