中村光至『刑事─唐津・虹ノ松原殺人事件』(トクマノベルス)




 昭和五十六年一月二十二日の真夜中、唐津警察署に「星賀港であて逃げ事件」との一一〇番が入り、交通課長の森川義人が現場へ急行した。すでに車は海中から引き上げられ、運転していた男は顔が潰れ人相不明だが、名刺から小倉の水産会社社長・坂田隆志と判明し、駆けつけた妻の弓子と従業員の絹子が確認した。が、刑事一課長の今井一男は何故か疑問を持った。一方、小倉北警察署で事情聴取のために呼んだ弓子と絹子の口から、さすが百戦錬磨の刑事たちも、仰天するような事実が語られるに及んで……。<警官小説(ロマン・ポリシェ)>第二弾!

 前作『捜査─北九州病院長バラバラ殺人事件』に続き、1984年10月に書き下ろされた警官小説第二弾。あくまで警察という組織を取り上げている小説ということもあってか、前作と共通する登場人物はいない……と思う。厳密に調べていないけれど。
 本作では、1981年1月22日に発生した、替え玉保険金殺人事件を取り上げている。個人的には警察側の動きより、犯人側の心情を取り上げた方がより面白くなる事件だったのではないかと思う。本妻と愛人がともに犯人に協力した心情にスポットを当てたら、興味深い作品に仕上がったのではないかと思うのだが、九州で発生した有名事件を取り上げようという意図が多分あったのだろうから、仕方のないことか。
 それにしてもこれだったら、たちばな出版から出ていた実録捜査シリーズの方が面白いんじゃないだろうか。そう思えるぐらい、警察の動きばかりを書いている。実際の動きをそのまま書いたって、当然ドラマティックになるわけでもないから、面白くも何ともない。まあ、それだからこそ有名事件を題材に取り上げているのだろうが、それだったら事件そのものを創作した方がより面白く書けると思うのだが。

 実際の事件については、本書とほとんど変わらない。主犯は列車に飛び込み自殺。妻には懲役4年、愛人には懲役7年の実刑判決が言い渡されている。


【参考資料】
「替え玉殺人事件―『S・妻と愛人を犯行の道連れに』」(岡田晃房『TRUE CRIME JAPANシリーズ3 営利殺人事件』(同朋社出版,1996)所収)

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